7話 営業100日
俺は売った。
街じゅうを歩き回り、気持ち的にすべてのお宅(貧しいところ優先)を訪ねてまわり、懇切丁寧に話を聞き、そして売った。
そう俺は今や、ナザロ教会のトップセールスマンなのである。
何を売っているのかって?
ふふふ、俺は「赦し」の小売り販売業者なのだ。
具体的には免罪符という、ありがたーい紙切れを売っているのだ。
え?
怪しい?胡散臭い?インチキ?詐欺師?
ははは、やかましいわw!
いや、確かに前世の俺なら同じこと言うね。
人の弱みにつけ込んだクソ商売と罵ることでしょう。
だがしかし!
今の俺は違う!
詐欺ではない、断じてない!
なぜなら、俺は神様にびびりまくってるのだ。
何しろ、赦しを心底求めているのが、俺自身なのだ。
そりゃみんな買ってくれるよ。
真剣さが違うもん。
朝から晩まで、食うのも寝るのも惜しんで、人びとのパパに対する罪を確認し、その重さに応じた金額で免罪符を売るのだ。
しかーし!基本、金額がいくらとか、俺にとってはどうでもいいのだ。
なぜかって?
俺は祈らねばならんのだ。讃えなければならんのだ。神様が怖いのだ!
早く祈らせろ!
そして(咎人と)祈る。
俺のお祈りは、結構人気がある。
とにかく一生懸命だからね。
自分のために、こんなに一生懸命祈ってくれるなら、そらリピーターも増えるでしょうな。
ふふふ、愚か者どもめ、お前らのためではない!断じてなーい!!
俺のためだ!
びびっているのだ、神様に。
あと俺のやり方は、金額の提示をこっちからしない。
俺はただ、その人の罪の深さと神様の恐ろしさを懇々と話し、その救済に必要な金額を自分で決めさせるのだ。
俺が決めるなんてとんでもない。
巻き込むな。
そっちでやってくれ。
俺は金袋を差し出すだけだ。
お金には触りもしないし、見もしない。
関わりたくないからね。
神様が金を欲しいと言うのなら、そうすればいい。
チャリチャリーンと、音がしたら静かに祈り始める。
しっかりと、ちゃんと届くように。
俺、ちゃんと讃えてますよ。見てる?
ポイントは、神様は全てお見通しであることを、とにかく分かってもらう事。
誤魔化しは一切きかない、神様に。
俺が一番よく知っているあの事実だ。
フルパワーモードのダイソンを前に、埃の俺に何ができる?
神様の前では、俺たちは全員芥子粒なのだ。
その意味では平等だ。
しみったれた有り金はたく位で、少しでも赦しが得られるならこんないいことはない。むしろ安すぎる。
神様の気が変わる前に、さあ皆さん!早いもの勝ちだよってなもんだ。
そうしてたっぷり祈ったら、免罪符を渡す。
正直、こんなもんに価値はない。
ただお務めしましたよ、お金受け取りましたよ、という領収書がわりだ。
誰にも言いませんよ。うふ
パパ、ご覧くださっていますか。
俺、新しい街で元気にやってます。
できればもう2度と俺の前に現れないでください。
免罪符の売り子は、もちろん俺以外にもいる。4ー5人いる。
マルコの兄さんは、現場のトップ。
免罪符印刷機だ。
一日中免罪符を書いてる。
手書きの領収書だね。不正の温床。
何書かれているのか、俺は知らない。
興味もない。
マルコ兄さんには悪いが。
回収したお金は、ヨハン様に丸ごと渡す。
あのような恐ろしい金の処理は、徳の高いヨハン様にお任せするのだ。くわばらくわばら。
ありがたい。
俺以外の兄弟たちは、俺ほど売れない。
いや、売らない。
なぜか。
忙しいのだ。
マルコ兄さんは助祭だが、その上に司祭がある。その上が我らが社長ヨハン司教だ。
そのさらに上に、大司教とか、枢機卿とかある。そこら辺の雲上のご身分は、選挙で決まる。
兄弟たちは、助祭になるためのお勉強(試験)に忙しい。
兄さんは、印刷機しながら司祭になるためのお勉強だ。
社長は、金勘定(決して嫌らしい意味じゃない。重要なお務めなのだ)しながら、枢機卿になるため選挙運動に忙しい。
俺?
忙しいよ。
祈るのに。
神様をなだめるのが俺の仕事だ。
そりゃトップセールスマンになるわな。
ちなみに俺はトップセールスマンだが、それは人数(枚数)では、という意味でだ。
金額で言うと多分違う。だから教会の中で、威張れるかといえばとんでもない。
大口の顧客がいるんだね。
いわゆるお金持ちへ大量赦しですな。
ほら彼らの悪事もスケールがデカいからね。
どかっと赦しちゃうわけ。金額の桁は違うでしょうな。
この窓口は社長だ。つまり本当のトップセールスですな。
俺は、そっちの方に興味ない。
俺はとにかく、多く、長く祈りたいだけなのだ。
俺の営業日数は、あっというまに100日を超えた。