64話 ナザロ復興と御者のおっさん
〜ヨシュア〜
「ヨシュア様。ナザロの復興もひと段落、区切りがつきましたね」
ジャン君が嬉しそうに報告をしてくれた。
あれから早1か月が経過してしまったが、(俺がぼんやりしている間に)ナザロは着々と復興を遂げたようだ。
それもこれも、ジュナイブの凄腕商人軍団に加え、ヨハン社長の金融能力がすごかった。
結構溜め込んでたんだろうね。
流通が一切滞ることなく、必要なもんがどんどん入ってきた。
商隊を警備するカイロン隊も大活躍だったようだ。
あれからなのかどうなのか知らんが、(帝国)国内の治安がかなり悪化しているらしい。
とくに魔女の脅威が叫ばれ、怪しげな術を使う女は“教会”魔女裁判にかけられるらしい。
そこで魔女判定が出れば、火炙りということだ。
ジャン君の調査によれば、有罪率100%。
日本の検察も真っ青、ゴーンも逃亡するっていうほどの脅威的な数字だ。
これがどうして治安悪化につながるのかというと、犯罪し放題になるってことなのよ。
強盗しても、強姦しても、殺人しても、魔女のせいですって言えばいいわけ。
人間ってのは綺麗事をいくら言っても浅はかなもんだね。
魔女として挙げられるのは、見かけが醜いとか、性格が悪いとか、振られたとかそうゆう理由で火炙りよ?
最近じゃ、外を歩いている女性を探す方が難しくなってきているらしい。
その点じゃ、このナザロは平和なもんだ。
旧教の影響は一切及んでいないのだ。
その守護神(?)こそ、それこそ魔女じゃね?っていうカルミラ女史と、その軍団である。
我々、というかナザロは、この10人にも満たない警備隊に完全に守られている。
実際に、幾たびか“教会”から脅しがあり、帝国からも警告めいた嫌がらせがあり、山賊だの愚連隊だのの、その辺の無法者が襲ってきたりもした。
しかし、カルミラ軍は微動だにもせず、その一切を完全に排除してしまった。文字通り、跡形もなく。
(当然、恐る恐るではあるが)食べていないかどうかの確認もした。
食べてはいないそうだ。
ただし、使えるものは使いたいとのことで、それらは回収しているらしい。
はっきり言おう、魔女がいるとすれば、間違いなくこのカルミラさんである(警察の人〜この人ですよー)。
もちろん怖すぎて、その先については知らん。
知らんのだが、この教会の地下でゴソゴソと禁断の実験(?)をしているらしい。
さすがは、ヴァンピールの始祖だね。知らんけど。
ジャン君に言わせれば、恐ろしい量のヤギ乳を消費しているので、多分、嘘はなさそうだとのこと(知らんけど)。
カイロンに言わせれば、屍肉を食べれば、強い腐敗臭を撒き散らすことになるので、多分、大丈夫とのことだ(知らんけど)。
うん、みんな関わり合いになりたくないのね。
真相などというものは、別に知らなくてもいいのだ。
今が、そして自分さえ良ければね、ハレルヤ。
ただ、ともかくだ、このナザロは、ジュナイブに次ぐほどの大都市へと発展を遂げつつある。
ジュナイブが大商業都市だとすれば、ナザロは新教の総本山であり、鉄壁の大要塞として。
そして続々と新教を信じる人々がナザロを訪れる、商売も含めて。
その中には、旧教だったり、帝国だったり、山賊だったりが混じり込んでくる。
普通であれば、このような破壊工作にやられ、なかなか大都市への発展は難しい。
しかし、ナザロ警備隊の嗅覚は人知を超えている。
おざなりの入国審査は変わらないから、怪しい来客はどしどし入り込んでいることは事実のようだ。
しかし、彼らはなす術もなく消えてしまう。
俺は把握していないが、どうやらナザロのあちこちにカルミラの手のものが隈なく配置されているのだろう。
10人にも満たないなどと言ってしまったが、使えるものをモッタイナイ精神で活用した結果、(人ならざるものの力による)鉄壁のセキュリティ体制が敷かれたのだろう。
と、とにかく祝福された大都市ナザロの誕生である。
人々は自由に活動し、犯罪はほとんど起こらず(軽犯罪は多い)、誰も攻めてこない(実際は攻め込む前に駆除されている、らしい)。
周りの都市では、魔女狩りのようなきな臭い状況になっている中、ナザロの躍進は目覚ましい。
よかったよかった、メデタシメデタシと言いたいところだが、俺には自分に課した任務があるのだ。
何かって?
あれだよあれ。
俺はこの世界の知識をしっかり集めないといけないのだ。
どう考えてもおかしい。
魔法だ、精霊だと派手なエフェクトはないが、間違いなく聖魔神はいらっしゃるようだ。
俺っちも奇跡の一端を出すことができる。
前世じゃ、こんなもんインチキ認定か、FBIに永久に飼い殺しにされるかどっちかだ。
ところがここじゃ、「おおーすげー」ってなレベルで受け入れてくれる。
てか、カイロンも人間ではあるが、ただの人間ではないみたい(当たり前といえば当たり前だ)。
でも、スルッと馴染んじゃって、カルミラこえーって一緒になって言ってるくらいだ。
そもそもナザロの連中は、アズラ=イルの兄さんの降臨やクソババアの出現も目撃している。
ま、そんな心の準備があるから、カルミラ軍団を受け入れることもできたって見てもいいだろう。
とにかく、この世界の仕組みは俺の常識とは違う形で自律していることは間違いないだろう。
それを知る必要がある。
カイロンからは色々と聞いたし、エウリ・デウスからも色々聞いた。ペテロのおっさんも色々言ってた。メフォストのバカもなんか言ってた。
問題は、得られた情報が繋がらないのだ。もちろん忘れちまったことも多い。
この悩みについて、確かな筋に打ち明けたところ、東の国で情報を集めるといいらしい。
東の国というのは、あのラグジュアリーな馬車を開発したザラムである。
ザラムは技術大国であるばかりではなく、諜報大国でもあるらしい。
俺っちの思いつきの情報収集など、およびのつかないほどの諜報のシステムと歴史があるらしい。
カイロンに言わせれば、ここの事もほぼ把握されているとみていい、とのことだった。
え?あのカルミラのことも?って思ったが、その通りだそうだ。
ただ、ザラムという大国が何を企んでいるのかがさっぱりわからないということらしい。
ザラムがその気になれば、帝国なんてあっという間に滅ぼすことができる。
“教会”が邪魔なのならば、制圧することもできる。
我々新教についても、俺の知らない間に接触があったらしい、カイロンに。
ふ。目の付け所がいいな。俺に接触されても、気絶しているか、何にもわかんねーかどっちかだぜ。
だが甘いな。
カイロンに言わせれば、ザラムの奴ら、俺を総大将と誤認しているらしい。
自分で言うのも悲しいが、俺っちは何もしてねーぜ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺っちは、ザラムに赴く必要があるだろう。
俺っちを、新教の総大将などと誤解してくれているうちにだ。
なんなら、迷宮の一件もうやむやにしてくれるかもしれねー。
左腕を失うなんていう、トラウマもんの経験をした国だが、情報を集めるには避けられないルートだろう。
なんだっけ、エウリ・デウスがブツブツ言ってたゲーノス?だっけ。俺は、それに至るのだ!
俺様のよくわからんエートスをもってすれば、不可能ではなーい、 はず。
てゆうか、ここには、俺様の居場所がない。
ついでに言えば、あの怖いカルミラとも離れることができる。
そういった色々な大人の事情を含めて、俺はザラムに旅立つ。
問題は、お供がいない!
カイロンが一番欲しい、が、ナザロにとって一番必要な人材でもある。
ジャンも同じだ。これからもっと必要になるだろう。
カルミラは、怖いんだから、離れたいんだから本末転倒である。もちろん、置いていこう!!
さーどーしよーと考えていたら、最悪の方向に話が進んでしまった。
「ヨシュア様ヨシュア様ヨシュア様ヨシュア様ヨシュア様ヨシュア様ぁ〜。お噂を聞きましたわ。単身ザラムに乗り込むんですって?いけませんわいけませんわいけませんわ、絶対。私がお供します。ご安心ください。」
え?・・・・・えーーーーー。
てか、ダメダメダメ。お前仕事あんじゃん。
「カルミラ。申し出はありがたいが、お前はこのナザロを守らねば・・・・」
「ヨシュア様。問題はありませんわ。私の可愛い子たちをちゃーん躾けましたから。それに・・・・」
それに?
「それに、私の場合、ヨシュア様が直接聖別した乳でないと保てませんの」
セイベツ?保てない??
よ、よくわからんが、これは完全な脅しですよ。
しなだれてくる超絶美貌のカルミラが、こ、怖い。
ど、どーテーナメンナヨ。
「・・・・そ、そうか」
や、やべ。
受諾してしまった?
「ああああ〜〜ヨシュア様。ご安心ください。このカルミラがいれば、他に従者など必要ありません。私が完全にお守りいたしますわ、ふたりっきりで。ジュル」
チョロ。
あ、漏れたかな?
てか、ジュルってなに?ジュルって?
俺っちはちょい漏れ注意報だっつーの。
カルミラの俺を見る目が、どうみても食欲なんだよなー。
しかし、カルミラの決定を覆すことは誰にもできず。
俺とカルミラと10数頭のヤギは、ザラムを目指すことになった。
隻腕の俺の介護やヤギの搾乳作業とかもあるから、御者のおっさんも一人つけることは許してもらった。
いざって時は頼むよ、御者のおっさん。




