54話 素手による投擲とコスト
〜正面城門守備隊〜
ドゴン!!
成人男性の頭骨大の岩が、直線的に飛んでくる。
そのほぼ全ての弾岩が、正面門を狙っている。
ドゴン!!ドゴン!!ドゴン!!
頑丈な正面門が大きく揺れる。
完全な異常事態である。
投石機を使用した場合、石は放物線を描いて投擲されるものなのだ。
そしてその狙いは、守備兵である。
ごく最近登場した東の国の最新兵器である大砲を使用した場合、その狙いは直接城門となるが、大量の火薬の使用による爆音はもちろんのこと、そもそもこのような歪な形状の岩を正確に目的に発射することは不可能である。
つまり、連投で、正確に打ち込むことはできない。
「て、敵兵であります。 敵歩兵隊による攻城が始まりました!!投石機は確認されませんでした。敵歩兵の投擲による攻撃です。」
物見兵からの報告が知らされる。
その正体は、歩兵。
すなわち、投石機を使わない素手の投擲による城門攻略ということになる。
全く馬鹿馬鹿しい。
攻城兵器というのは、投石機か梯子、あれば破城槌と相場が決まっている。
東の国の最新兵器の中には、火薬を使用した大砲があるが、非常に貴重だし、その使用例はごく稀だ。
素手による投擲? そんなもので、オークと鉄で補強された城門が破壊されるはずがないのだ。
ガガン!!バキン!!
オークのみで鉄の補強が十分でない城門の一部に亀裂が入った。
〜カイロン〜
ふ〜、やれやれ、素手による登壁の次は、素手による投擲ときたか。
いよいよ人間離れも極まれりといったところか。
この威力は、筋力云々の問題じゃねー。
骨と関節の耐久力を無視してる。
人間としてのリミッターが完全に外れている証拠だな。
昨日のバケモンどもは、タフっちゃータフだったが、そこまでつえーわけじゃあなかった。
しかし、今度のありゃなんだ?
赤黒い肌に、金色の双眸。
そして鋼のような肉体。
まるで鬼だぜ。
数こそ10体そこらだが、威圧感が昨日の比じゃない。
城門が破られたら虐殺が起こるな、こりゃ。
「おい!! 城門の防備だ!!! 破損部分は直ぐに補修しろ!! 残りは、敵の登壁に備えろ!」
厳しい表情のままカイロンは、城壁防備隊に指示を下した。
さて、この異常事態に無口な援軍様はどう動いてくれるのかね?
タダでは乗り切れん事態だぜ、まったく。
〜マステマ 〜
コストがかかるわね。
この蠱毒部隊を維持するのに、かなりの血が必要になる。
少しでも血が足りないと、暴走して命令を聞かなくなっちゃう。
実際、夜明け前に暴走しかけたけど、キャラバン隊がキャンプをしてくれていて助かったわ。
あの食い意地は、悪魔のわたしでも引くけどね。
とにかく、エートスの混在は、肉体の持つ潜在能力を完全に引き出すことは実証された。けど、理性の維持に大きな課題を残すわね。そもそも、能力を引き出される肉体側の問題も大きいし。
しかも、戦い方もあんまりお利口とは言えないわ。
知性的で、かつ、野性的、それが理想ね。
まあ、今回の実験でわかったことも少なくない。
勇者強化へのいい足がかりになったわ。
この子たちを、あの城門の中に入れたら今回のミッションは完了ね。
あのヴァンピールと、上手く相殺してくれれば面白いわ。
どっちも結局手に負えないのよ。
肉体に依存し、弄ぶ種に未来はないわ。
所詮、魂の器に過ぎないのだから。
まあもがれた右手も、さっきので新しいやつを拾えたけどね。
さて、どうやって門を開けてもらおうかしら?




