47話 カルミラと右手
「ヨシュア様・・・ヨシュア様・・・ヨシュア様・・・ヨシュア様・・・ヨシュア様・・・ヨシュア様・・・」
遠くから声が聞こえる、気がする。
まぶたが重すぎて目があかない。
「深くお休みのご様子。 さぞお疲れでしょうね。 カルミラ、転生いたしました。」
カルミラ??だれ?
「ふふふ。少しいただき過ぎました。あんまりにも美味しくって、うふふ。 この身、生涯ヨシュア様に捧げますわ。」
え?告白??
「さて、一仕事終わらせますね」
カルミラと名乗る謎の美女は、そういうと優雅に敵軍に向き返った。
なになに?
全然わかってないよ、俺。
俺、随分長いこと気絶してたの?
ヤバイ、全然話についていけていない。
「旦那ぁ!! 頭大丈夫かい!? あんなとんでもねーのをこんな戦乱の最中にぶちかまして。まったく正気の沙汰じゃあねえぜ」
カッチーン! お前のその戯けたコスプレに比べれば、こちとらかなりのシリアス路線だわ…
し、しかし、体中の力がなく、元気に突っ込むこともできない。
「とにかく、前線はカイロンの親父と、あれに任せて、俺っちたちは逃げたほうがいい」
もとよりそのつもりよ。ハナっから戦う気などない
ただし、お前はもちっと頑張るべきだがな。
「ヨ、ヨシュア殿!! ご無事でしたか。 早く教会に退避を!! 裏手から敵軍です。クルファが攻めてきました!! まさか、搦め手で来るとは。 事前の情報にも全くなく、申し訳ない。」
ジャン君が血相を変えて、近寄ってきた。
え?
クルファ?
俺が戦った(とされる)軍かぁ、なんで?
やばいぞ、マジで混乱だ。
訳がわからん。
混乱し、ぼーっとする俺は、ジャンに引きずられるようにして、教会に連れ込まれた。
そしてこの戦乱にも関わらず静寂を守る大聖堂を見回し、もう一度確かめるように、気絶した。
〜カイロン〜
ま、まじかよ。
兄さん。ただモンじゃあねーとは思ったが、まさか人魔融合の転生の秘儀をあんなにあっさりとやってのけるとは・・・
しかも、カルミラを引っ張ってきただと?
始祖ヴァンピールが転生しちまったのか?
不死者の女王じゃねーか。てかアンデッドの比じゃねーぞ。その親玉だ
んなもん転生させて、兄さん何をしでかそーてんだよ、まったく。
あれが暴走したら、抑え込める自信はねー。
とりあえず、あれが味方であることを祈るばかりか・・・やれやれだな
〜ナザロ前線〜
「ふふふ、ふふふ、ふふふ、あはははははは〜 皆さん、ご機嫌よう。お初にお目にかかります。カルミラでございます。以後、お見知り置きくださいまし」
輝く金髪にこの世のものとは思えないほどの美貌と完璧なスタイルを備えた(ただし、ちっぱい)、妖しい美女カルミラ。
戦闘も忘れ、ただ見惚れるばかりの敵味方の兵士たち、そしてマステマ 。
彼らに走った戦慄はただ事ではなかった。
目の前で、神の敵対者ヴァンピールの始祖カルミラを名乗る美女が、実際に受肉・転生をして誕生したのだ。
マステマ に倒された娘のものとは、その髪、肌、顔つきからスタイルまで、全てが容れ変わっていたのだ。
その事実だけでも驚愕ものだが、彼女が放つ圧倒的な威力は問答無用、完全な一方通行、かの暗闇の大悪魔(?)を彷彿とさせる。並みの人間が立ち向かえるようなものではない。
しかし、流石は中位悪魔のマステマ である。
いち早く、正気を取り戻し、カルミラに立ち向かった。
「邪魔よ。消えなさい!!!」
この隙をつく素早い一撃に対し、カルミラは、優雅に振り向き、鋭く突き出されたマステマ の貫手をそっと掴んだ。
「あら。マステマ ね。お久しぶり。 そうか ふふふ、ごめんなさい、カルミラで会うのは初めてかしらね?」
「くっ!」
マステマ は、掴まれた手を振りほどき、後ろに飛び退いた。
「づっ!!」
激痛が走るその右手を見ると、そこにあるはずの手首から先がなくなっていた。
「ごめんなさい。 随分と脆いわね。しかも・・・ 死臭がきついわ。あら? 痛いの?」
カルミラは、掴んでいた手首を足元に転がし、ハンカチで優雅に返り血を拭った。
「カイロン様。そちらにいらっしゃるのですね。ここはいいので、裏手にお回りください。 どうかヨシュア様に些かの間違いがないようお願い致します。」
言葉遣いは至って丁寧だが、聞くものを圧倒する絶対的な威力が込められていた。
旧教軍は、ようやくマステマ の負傷に気がつき、彼女を取り囲むように陣形を変化させた。
「おい!! 小娘!! き、き、ぎざま、ゆるさんぞ!!」
ダヴィドが、口角泡を飛ばし、叫んだ。
「ん? 随分と汚らしいゴミですわね。 エートスも濁り、歪んでいる・・・」
「お前たぢぃ!! あのぐそ女を捉えろ!! 捕まえで、八つ裂きにじでぇ、犯せぇぇ!!!」
「あはははは 順番がおかしいのではないのですか? 結構ですわ。お相手致します」
このやり取りの間に、カイロン隊は速やかに前線より撤退し、ナザロ裏手で膠着しているクルファ軍との交戦に加担しに行った。
「・・・さてと どうやら味方軍はいなくなったようですわね」
カルミラはそういうと、その姿を消した。
カルミラの姿が消えた。
そこにいる誰もが、そう認識した。
しかし、それは、カルミラにとってただ移動したに過ぎない。
そして、近くにいた旧教兵の一人に近づき、その血を吸った。
チューチューチュー
この間、1秒にも満たない刹那に、カルミラ第一の従者アンデッドが誕生した。
枯れ木のように骨と皮だけになった旧教兵は、虚ろな目でカルミラに傅いた。
「貴方。仲間を増やしましょう。お一人では寂しいでしょう?」
このカルミラの声を聞いた旧教軍は、我に返り、戦慄とともに一斉にカルミラに襲いかかった。
「うふふ いらっしゃいまし」
〜マステマ 〜
くそっ
だめだ。あれは本物だ。
お久しぶりだと?
私の知っている霊体がバイパスになったのか?
そいつが私と敵対関係にあったのだとすれば、厄介だ。
明らかに記憶が残っている。
これは間違いなく転生だし、とんでもない敵が出てきたということになる。
しかもそれが、ヴァンピールの始祖カルミラだと?
本当なのであれば、肉を持つ霊体としては、最高位にあたる。
私のような仮初の受肉体でどうこうなる相手ではない。くそっ
・・・・しかし、どうするのだ?
あんなものが生まれてしまって、収集はつくのだろうか?
あの圧倒的な力を維持するためには、尋常ではない量の贄が必要となる。
所詮自滅する一族だ。
・・・・・
ふ、そうよね。まともに相手をする必要はないわね。この街は死んだも同然。
最低限、ダヴィドだけでも保護して撤退するかしら?
でも、また敗戦ということでは、いよいよ立場がないわ。
戦うだけ戦って、今日のところは一時撤退としましょう。
どうせ、兵隊は消耗品ですものね




