45話 ハリネズミと名もなき女の子
〜ナザロ攻防戦〜
「敵襲ぅ〜敵襲ぅ〜敵襲ぅ〜!!」
物見の怒号が街に響く。
本来なら正午前の、人々が活気付いてマーケットを往来する時間だ。
もちろん、市中をウロウロしているものはいない。皆、家の中に閉じこもっている。
「敵は城壁をよじ登る。手筈通り、岩を落とすぞ!」
ナザロの城壁は、一番低いところでも15mはある。こんなもん命綱も付けずに登ってくるなど、自殺行為だ。
しかもこっちは岩を落とすのだ。アホな敵兵である。
ガリッガリ、ゴリッゴリと城壁をよじ登る不気味な音が響く。
「落とせぇー!!」
ヒューー ガン ドン
当たったり、外れたりしているようだ。
当たれば痛いじゃすまんだろうに・・・
「おい!!! 早い! 早いぞ!! 侵入に備えろ!!」
え?
信じられないが、落石の雨をくぐり抜け、よじ登った奴がいるらしい。
しかも沢山。
「飛び降りるぞ! 来るぞ!! 狙え〜〜!!」
雨あられと弓矢が飛ぶ。
へ?
無数の矢に射抜かれ、ハリネズミのようになった敵兵が城門の閂を押し上げる。
「矢ではとまらん!! 槍隊! いけー!!」
閂に群がる10数名の敵兵を串刺しにする。
しかし、それでもついに城門の閂は開けられてしまった。
串刺しにされた敵兵は、攻めをやめず、剣で自らに刺さった槍をへし折り、向かってくる。
そして、城門から敵の増援がなだれ込んでくる。
ちょ、ちょっと…まじか
「兄さん。あれは普通じゃねー。下手すっと、とんでもない被害が出るかもな、下がっててくだせぇ」
「ジャーン!! 盾隊だぁ!! 敵を城門で釘付けにするぞぉ!! 弓隊は手を休めるなぁぁ!!」
カイロンの指示が飛ぶ。
屈強な男たちが大きな盾を構え、城門に侵入する敵兵を取り囲んだ。
敵兵の眼差しは尋常ではない。
見たことがある。
あの迷宮や地下洞窟で見た魔物だ。
てことは、え?
人間じゃないの??
でもおかしいぞ、魔物は敵味方お構いなしだ。
俺はそこら辺詳しい、とても。
こんなに指揮命令系統が整った魔物の大軍なんて反則だ。
「弓隊!!! 火矢だぁ!! 火矢を放て!! 多少、延焼しても構わん!!」
なるほど、物理の火は効くのか。
しかし、盾隊の人、どうなるの??
火傷するよ?
無数の火矢が放たれた。
準備していたのだろう。
うっ。
この匂いはきつい。
人の焼ける匂いだ。
盾隊は大きな盾で、火の延焼を防いでいるが、敵の暴れ方がひどい。
「がああああ。 この背信者どもメェぇぇぇ!!!」
一際でかい怒号が放たれる。
ダヴィドである。
大剣を小枝のごとく振り回し、自らの尖兵隊もろとも盾隊をなぎ倒した。
なぎ倒された敵兵は、それでも立ち上がる。
どんだけしぶといの?
「ダヴィドだ!! 狙え〜〜!!!」
火矢の集中砲火である。
「マステェマァァァ!!!」
ダヴィドが叫ぶと、全長3mはあろうか大盾がダヴィドを守った。
ガンガンガンガンガンガン!!
防ぎきった。
火矢が尽きると、ダヴィド、そしてその旧教兵が一斉に飛び出してきた。
「がががががあああああ!!!」
言葉にならない怒号、そして自らの負傷を一切厭わないその猛攻に新教軍は怯んだ。
「怯むなぁ!! 隊列を崩すな、槍隊!!並ベェ!!」
カイロンの指示で、一部隊列を取り戻したが、盾隊はほぼ全滅だった。
これはヤバイ。
新教軍は、明らかに狼狽えている。
当たり前だ。
あんな戦い方はない。とても人間には思えない。獣だ。
もちろん俺には何もできない。
こんな前線でぼうっとしてていいのかな?
「ヨシュア様!! こちらに!!!」
誰かが、俺を引っ張る。
誰かと思えば、身の回りの世話をしてくれる女の子だ。
「ここは危険です!!」
強い口調で俺を教会の方へと引っ張った。
情けない。
この子は確かまだ18歳位なのに。
しっかりしてる。よく状況を見ているようだ。
俺は、頷き一緒に教会へと退避した。
城門では、カイロン隊がなんとか持ちこたえているが、盾部隊に続き、弓矢隊も蹂躙されている。
しかし、あいつらはどうやったら死ぬんだ??
あれ、出るかな?
「暫し、よいか?」
俺は、ちょっと試すことにした。
この子の名前なんだっけ?忘れた。
「そなた、離れていなさい」
メフォストみたいに焼けたら可哀想だからな。
「火よ!」
俺にしては、結構な音量で叫んだ。
ガウッ!!
火の玉が、弓矢隊を蹂躙していた敵兵を襲った。
「ググギャギャギャーーーー〜〜〜!!!」
お、効いたぞ。メ・ラミくらいかな?
おし、もういっちょ行くか。
「火よ!!」
ゴウッ!!!
今度はデカめのが出た。
よし当たれ!!
バ〜〜ン!
敵兵に当たるかと思った寸前、またあの大盾だ。
マステマか、クソ。
ヤバイ。かなり警戒されたな。
どうする?逃げるか。
あの大盾の後ろには、マステマ がいる。
どうする??
「ちょっとあなた、手を出さないでくれる?」
俺の背後から女の声がした。
へ?マステマ??
「ヨシュア様!!!」
さっきの女の子が俺に覆い被さる。
「邪魔ね。」
女の子の背中から血飛沫があがる。
「うっ!!」
え!?
女の子のしがみつく力が弱まり、崩れ落ちる。
マステマが、冷たい目で俺に歩み寄って来た。
「あなた、邪魔よ」
ヤバイ。
「だ、旦那ぁ!!」
「!! な、悪魔!?」
「んなろ〜! てめぇもだろうが!!」
メフォストが割って入った。
俺は、状況が飲み込めず、血まみれの女の子の体を抱いた。
なんだ?何が起こった?
この子が、俺を庇ってくれたの?
女の子の体が、みるみる冷たくなる。
血が流れすぎる。ヤバイ。なんとかしないと。
カイロンの親父は最前線で戦ってる。
マステマ がメフォストに気を取られている、治療するなら今しかない。
ああ〜〜どうしよ〜〜
「うるさい小悪魔ね。神を裏切った分際で」
「うるせー。 俺っちは、旦那に寝返ったんだ!!文句あっか!!!」
メフォストのどうしようもない啖呵が飛ぶ。
今は突っ込む気にもなれない。
この子、左腕のない俺の世話をしてくれたのに、命をかけて庇ってくれたのに、俺、名前も思い出せない。
俺は、なんて情けないんだ。
勝手に勝てる気がしてた。
相手はたったの200だと。
カイロンは、気が抜けないなんて言ったけど。どうせ大丈夫だろうと思って、気にしてなかった。
本当に申し訳ない。
・・・・・・・・
「許して欲しい。どうか目を開けてくれ。その傷を癒したい。私にできることならなんでもさし出そう」
俺は思いのままを、ただ言葉にした。




