44話 クルファ軍と西賢エシェット
〜クルファのヴァルマ導師〜
私の左腕には、金色に輝く蛇の痣が刻み込まれていた。
もちろんこれは、あの魔人ケルファとの契りの証に違いない。
雄弁な魔人であった。
魔人の言のすべてを納得したわけでも、説き伏せられたわけでもない。
ないが、クルファの民がもう一度誇りを持って立ち上がるためには、今しかない。そう思ったのだ。
教会の軍隊がナザロに侵攻していることは、随分前に分かっていた。
教会は我々を異端と蔑み、略奪の限りを尽くしてきた。
彼らの行いは戦闘ではない。虐殺である。
非武装の女子供でも容赦はなく、残虐の限りを尽くす。
我ら誇り高き山の民は、このような光景に耐性がない。
どうしても傷ついた弱者を救わんとしてしまうのだ、それが敵であっても。
心底、彼らのやり方には軽蔑しかない。
しかし、だ。
文明とは、そのような残虐な人間性にこそ宿る、のかも知れない。
魔人ケルファは言った。
目を逸らすなと。
我々は、まず学ばねばならんのかも知れない。あの徹底したやり方を。
長老どもは大反対をするだろうな。
しかし、このままではジリ貧。
我らクルファ軍は、教会の勇者ダヴィドに加勢し、その戦闘を学ぶ。
この一歩が、文明への一歩であり、その道がいかに荊に閉ざされていようとも、これを切り拓かん!
導師ヴァルマは、その側近らを招集し、強靱なる勇士50名を完全武装させた。
山岳機動隊は、歩兵に過ぎないが、その山中における機動力の高さ、サバイバル能力、ステルス能力、そして個々の能力の高さから“山中のテロル”と恐れられている。
しかし他方で、スタンドプレーになりやすく、孤立化する傾向が高い。つまり、集団戦術には不慣れであった。
また、搦手や罠と言った兵法にも弱く、戦争には不向きな軍隊である。
そんな彼らに対し、ヴァルマは今回の作戦を滔々と説いた。
曰く、この度は宿敵である教会につくことになる。
曰く、この戦は試練である。
曰く、冷徹な作戦の遂行こそが勇士に求められる資質であり、弱者への配慮はその一切を捨てよ。
普段は優柔不断とも評されるヴァルマ導師であったが、今回は違った。
その妖しく光る左腕の痣を隠しもせず、高らかに、はっきりと明言した。
「よいか。我々は、この度の戦を経て、虐げられる者から脱却する。勝たねばならんのだ!」
「「「おおー!!」」」
〜ザラム教団 西賢エシェット〜
いや〜、まさかのぅ。
あの船頭カイロンが新教軍の副長だと?
わしも長く生きてきたが、このようなことは初耳じゃ。
あの呪われし、古代の王が?
一つや二つの封印では済まんはずじゃ。
お伽話にすぎぬと、その実在を信じぬものすらおるのにな。
しかし、これが事実だとすれば、冥府におけるパワーバランスは崩れる。大混乱じゃろうな。
まさか、我らが守護神モレ・ク様のお計らいなのか?
いやしかし、モレ・ク様がそのような些事に手を出されるだろうか?
わからん。
しかし面白いのー。
ともかく、わしの諜報部隊がいい加減な情報を掴んでくるはずもなし、次の手じゃ。
要点は3つ。
カイロンの力の評価。
カイロンの封印を解きし力の正体。
冥府のパワーバランスの今後。
これを調べねばなるまいの。
しかし、冥府については、モレ・ク様にお伺いを立てねばならん。気が重いのぉ〜。
贄がいくつあっても足らんて。
ところで、ロトのやつはどうでるか?
やつの無口っぷりにはいつもながら呆れるが、嗅覚だけは鋭いからの。
船頭カイロンと接触するかも知れん。
少し手伝ってやるか。
「ソドム、ゴモラをここへ。特務である」




