42話 死兵と東賢ロト
〜ナザロ〜
斥候の情報では、教会の勇者軍200が今まさに迫らんとしていた。
先の遠征では、精鋭500とのことであったが、今回はその半分にも満たない。
我々は当初、事態を軽くみていた。
ナザロは比較的平凡な小都市ではあるが、城壁もあり、都市内農業もしているし、井戸もある。
いわば、籠城が可能なのだ。
200程度の騎馬で陥落するほどやわではない。
事実、クルファの山岳機動隊も歩兵としてはかなり強かったが、我々は守りきった。
しかしだ。
その後のニュースに我々は耳を疑った。そして同時に戦慄した。
今回の勇者軍は、まさに死兵。
戦い方もへったくれもなく、何かに取り憑かれたかのような戦い方とするという。
塀があれば騎馬を乗り捨てよじ登り、怪我を厭わず飛び掛かる。
泥水だろうと屍肉であろうとむさぼり喰い、その邪悪な力をさらに強化させている。
これでは、まるで御伽噺にある魔物だ。
とくに勇者ダヴィドは、ただ強いだけではなく、顔面に蛇の如く這いずる恐ろしい傷を隠しもせず、悪鬼たらんと自らが常に先陣を切って相対するものすべてを皆殺しにするという。
また、その従者マステマ は怪しい術を使い、勇者ダヴィドのみならず、200の死兵に力を与えているとも噂されている。
何より、それらの虐殺は肩慣らしで、本命はこのナザロだというではないか。
勇者ダヴィドは、何の恨みがあるのか、呪詛を吐き出すが如く、ナザロ殲滅をつぶやき、日に日に尋常ではないほどの殺気を溜め込んでいるという。
ナザロ“新教”の指導者ヨハン様とマルコ様は、この情報に大変なショックを受けられた。
もちろんだ。
教会最強の勇者が、狂戦士となって攻め込むというのだから。
我々は、防備を整えたものの、不安を拭うことはできなかった。
そして、いよいよ敵軍がナザロへの行軍を定めたとの報告が入ると同時に、あのヨシュア様率いる新教軍およそ1000が援軍に向かっているとの吉報が入った。
そして、今日。
血に飢えた旧教軍が目前に迫るなか、新兵器と最新鋭の装備に身を固めた神々しいまでの新教軍が、このナザロに入城したのである。
我々はまたも奇跡を見たのだ。
いや、まだ何も起きてはいないのかもしれない。それでも、1000騎に上る援軍の姿は、奇跡そのものだ。
そして、その総大将であるヨシュア様のお姿。
なんと左の腕を失われている。
噂によれば、あの東の魔王、いや魔神とも恐れられるモレ・クと単騎で会戦し、見事聖獣L-vthnを解放。ただし、その際に名誉の負傷をなされたとのこと。
ただの人間が、魔神と相対する? もちろんありえない。だからこそ、聖者なのだ。
我々はすでに目撃しているが、さらにその伝説にエピソードが加わった。
あの腕は、ヨシュア様がウル・メシアであることの紛れもない聖痕。
さらには、あの聖ペテロ始祖とも邂逅を果たされ、洗礼を受けたともいわれている。
その聖者が援軍に来てくれたのだ。
我々の選択は間違っていなかった。
ナザロ都市民が一丸となり、ヨシュア様を筆頭にこの街、そしてこの新しい教えを守り抜く。
〜ザラム教軍遠征隊 東賢ロト〜
「ロト様。ナザロまで、あと2日。ジュナイブを立った新教軍は、入城を果たしたそうです」
「・・・・」
「ナザロの守護は、ヨハン司教。しかし、これは元司教ですな。そして新教軍の総大将は、ヨシュア。この者は、新教の始祖ということです。その副長は素性の知れん男です。もっと情報を集めましょう。もう一人が兵站を率いるジュナイブの元商工会会長ジャンです。」
「・・・・」
「どうやらナザロの領主は、事態をみて街を捨てたのでしょう。教会はもとより、あの帝国は離反者を許しませんからな。しかし、それでもなお反旗を翻すとは。 何かあったことは間違いありませんな」
「・・・・」
「さて、ロト様。賢王からの見極めよとの勅令。どこから接触しますかな?ヨハンか、ヨシュアか。または、副長か、ジャンか・・・」
「・・・・」
「・・・・」
ロトは、どこまでも無口である。
だが、一度口にしたことは必ず実行する。
そんな男であり、彼に対する賢王の信頼も厚い。
部下たちもそのことを重々承知しており、彼らのリーダーが重い口を開く瞬間を、期待と戦慄がまぜこぜになったかのような感情で待つのだ。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・アブラム」
「! は!!」
「副長に会う。」
「ははぁ!! 早速、手のものを接触させ、ロト様との面談を取り付けます。2日後に」
「・・・・」
「オルテガを呼べ!! 早馬だ!! わしも先行するぞ!!」
ザラム教団最強の武人ロト率いる精鋭軍は、新教軍の副長、その素性の知れない男こそをキーパーソンと定めた。
そして、情報のさらなる収集と面談に向けた接触を図ることにした。
東の大国ザラム教団と新教軍、援軍か対立か、その見極めはこの無口な男、東賢ロトの判断にかかっている。




