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4話 エクス・マキナとパパ

光りの奔流である。


チョロ火であった焚き火から朝日が昇るがの如く、真っ白な光の洪水が俺を包み込んだ。

この禍々しいまでの、暴力的な光はエウリ・デウスのものとは明らかに違う。

目が痛い。

優しくない。


俺は目を瞑った。


「よう。僕を呼んだかい?人間。」


子供の声が聞こえる。少年だ、多分。

こら、ちょっと照度を落とせ。眩しすぎるわ。

目を閉じてても、まだ眩しい。


「あ、マキナ様。でございますか?」


俺は注意深く尋ねた。


「そうだよ。僕は、エクス・マキナだ。何の用だ?」


ははーん、こいつが張本人だなぁ、この悪ガキめ。光の加減も分からんバカタレとみた。

正体を暴いてやる。


しかし要注意だぞ、ガキンチョの声だとしても、どんな力を持っているのか分かりゃしない。

しかも基本的に話が通じないと考えたほうがいいだろう。


「エクス・マキナ様。私は、ヨシュアと申すものでございます。しがない自由人でございますが、先ほど、真っ暗な闇から女性のお声で、『お前はマキナ(様)に随分と肩入れされているようだから、少々懲らしめておく。ついては、マキナ(様)にあまり事を急くなと伝えよ』と授かりまして、御名を唱えさせていただきました。」


自分でも何を言っているのかよくわからんが、多分これで大筋は正しいはずだ。


「く、暗闇の女だと。デメテルか。ぼ、僕は何も知らないぞ。そもそもお前、なんで僕を呼び出せるんだ?」


お、新鮮な反応だな。


何より話が通じている。しかも神様的な方が焦っているぞ。なんか嬉しい。


ふふーん、まだまだ坊やみたいだな。


「まさか私が呼び出すなどと畏れ多い。私はただ、デメテル様ですか?そのお方から授かりました御名を御唱えしたまででございます。できますれば、私めの置かれております状況などを教えていただけると何よりの御神託。」


そういえば、エウリ・デウスもデメテルという名に若干びびってたな。


だんだんわかってきたぞ。

デメテルは怖い。

エウリ・デウスは色々やらかす。

エクス・マキナは坊や。


「知らない!お前なんか全然知らないよ。勝手に僕のせいにしないでよ。」


坊やが喚き散らしている。

ふふふ、見苦しい。


もう少しいじめるか。

てか、眩しいな。このバカ、そろそろ照度を下げてくれないかな?

視力が低下したらどうすんだ、メガネとかあるのかね?


「しかし、エクス・マキナ様。デメテル様はそのようにお考えになっているご様子。どうでしょう、ここはひとつ一緒に対策を考えませんか?」


「えー。なんで僕がそんなことをしなくちゃならないのさ。お前が本当のことを言えばいいじゃないか。」


「もちろんその通りですが、デメテル様は私ごときの言葉なぞ、一言もお聞き入れになりません。突然お姿を現され、問答無用、一方的にお決めつけになられ、有無を言わさずご処罰をお与えくださいました。そして恐らくですが、今も若干ご立腹のご様子。このままご放置なさってよろしいのですか?」


どうだ、俺のこの切羽詰まった状況は。


悔しいからこの小僧のせいにしてやるわ。


「ご、ご処罰?  うーん。・・・わかったわかったよ。じゃあどうすればいいの?」


お、小僧め、白旗をあげたな。

よほどデメテルが怖いとみえる。


まずはこの小僧にどんな力があるのか洗いざらい丸裸にしてやるわ、ひっひっひー。


この世界に来て初めて主導権を握った気がする。

楽しい。


運命に逆らってやるぜ。


「エクス・マキナ様はどのようなご神力をお持ちなのですか?おそろしいまでご威光をお放ちになられ、恐縮するばかりでございますが、失礼ながらその片鱗でもご教示いただけないでしょうか?」


「うーん。僕は神様じゃないから神力というほどのものはないけど、人間の運命を弄るのは得意かな?」


このクソガキ。

とんでもない悪戯小僧じゃないか。


ん?あれ?エウリ・デウスも運命だなんだ言ってたな。同じ穴のムジナか。くっそー。なんとかしやがれ。


「おお!運命を司るのでありますか。畏れ多いことでございます。そう致しますと、エクス・マキナ様にかかれば、この私のようなものの運命なぞ一溜まりもないわけですな?」


「いやいや、そんな簡単には手出しできないよ。それこそ(ウラノス)に引っかかったらとんでもないもんね。基本的にはパパの依頼があったらちょこっと弄るって感じだよ。」


パパだぁ?

またなんか新しいのが出てきたな。

誰なんだ?怖いのか。やばいのか?

気をつけよう。


あと、ウラノスってなんだ?

まあいいか。


とりあえずパパが要注意みたいだな。


「お父様、でございますか?お父様にご相談できれば、デメテル様の誤解も解いていただけるのでしょうか!?」


ガキには荷が重いわ、責任者()出せ。


「パパに相談!?いやいや、それは無理だよ。僕も会ったことないもん。」


ズコーッ。


多少会話が通じるかと思ったら、なんなんだよ。

会ったこともないのにパパだぁ?

つかえねーコゾーだな、こいつ。


じゃあ、せめてヒントくらい出せや。


「エクス・マキナ様。ご事情承知致しました。では、この不詳ヨシュアが、お父様よりご神託を賜わるためにはどうしたらよいかお導きいただけませんでしょうか?」


「うーん。。。じゃあ今度、声が聞こえたら君のこと伝えておくよ。それでいい?」


なんとも頼りない。

ガキの使いじゃあるまいし。


こんなんで手を打つわけにはいかないね。


「デメテル様の誤解を解く上でも、一つ取り引きをしては下さいませんか?」


俺は賭けに出た。


「取り引き!?いいよ!」


やっぱりな。


運命系の奴らは基本取り引きが好きと。


「私にはなんの取り柄もございません。このままでは街に入れても行き倒れか、飢え死にでしょう。何かしらの職が欲しいのです。」


俺、なんでガキんちょ相手に必死で就活してんだろ?


しかもなんで俺の就活とデメテルの誤解が関係あるんだ?

ちょっと考えればおかしな話しだって分かる、バカなのか俺は?


しかしまあ、俺にとってはとってそれが死活問題であることも事実だ。

はっきり言って、デメテルがどうのとかは、どうでもいい。


でも多分、コイツは、取り引きが大好きだから乗ってくるかな?


「職かぁ。まあいいよ。お願いしてあげても。で、何を賭ける!?」


やっぱりな。


なんかウキウキしてんなこのガキ。


しかしこっちにすれば、ここが勝負だ。


「私は我慢比べが得意でございます。にらめっ」

「うん!いいね。我慢比べ。すぐやろう!!」



ガキんちょってのは、話を最後まで聞かないね。


にらめっこのルールや勝利条件についての合意がまだじゃないのよ。

全く、落ち着きがないね。


しかしまあこの業界の人たちは、誰も彼も、ろくに話が通じませんな。

嘆かわしいぜ、本当。


俺は、やれやれと肩をすくめ、首を振った。


ん?

おや?


暴力的な光が消えている。

瞼を通して、うっすらと光を感じる。


俺は恐る恐る目を開けた。


辺りは一面の荒野になっていた。


あれ?ここどこ?

じいさんは?



「おい!おい、ヨシュア」


おや?乱暴な口をきき方をするのがいるな。

俺は、そっちをみてみた。


「・・・・」


まあ、ガッカリだ。

そのまんまの悪魔がいる。


あのバカガキ(エクス・マキナ)のやつ、こんなんで俺が驚くとでも思ったのか?

小学生でも呆れるぜ。

決定だ、バカガキ(エクス・マキナ)は幼稚園児レベル。


虫歯のイラストに出てくるような、まんま下っ端悪魔然としたのが、こっちをみてニヤニヤしている。

阿呆らしい。

付き合うのも面倒くさい。


「おいヨシュア。俺様と取引しないか?」


ははは。さすがバカガキ(エクス・マキナ)のお使いだな。

また取引か。

虫歯でも治してくれんのか?

無視無視。


「お前、仕事が欲しいんだってな。俺様のいうことを聞けば、この国の王にしてやるぜ。」


みんなそうゆうんだよ。

FXの時もそうだ。必ず儲かる、誰でもできる。みんな幸せ。


ちょっと冷静になればわかるよね?

儲ける人がいれば、損をする人がいる。

じゃあお前がやれよ。なんで俺を優先してくれんだ?おかしいだろ?


王様だって一人しかなれないんだぞ?俺がなったら、今の王様はどうなる?

え?戦争すんのか?

そもそも王様は仕事か?どっかで求人でもしてんのかってんだ。

そんなんで食いつくバカいないだろ。


ふー馬鹿馬鹿しい。笑わすんじゃないよ。



お?

なるほどな。

こんな馬鹿馬鹿しい話で、俺を笑わそうとしてんのか。


ふん。

相手にもできないね。

もうちょっと勉強してこい、この低俗悪魔め。


「おいヨシュア。お前、俺様のいうことを信じていないな?いいか、俺は確かに悪魔だ。お前の思っている通りだ。でもな、お前の味方だし、嘘はつかないんだぞ。それでも取引しないのか?」


詐欺師ってのはさ、確かに嘘はつかないんだよな。

嘘をつかずに騙すのが詐欺師なんだよ。

いいか、悪魔的ってのはそうゆうことだ。

味方だなんだ言って、嘘はつかず、そして信頼できない、これが悪魔だ。


こんなところで油売ってないで、バカガキ(エクス・マキナ)とおままごとでもしてろ。


「ふん。そうか、じゃあ一つだけ見せてやる。これをみても気が変わらないかな?」


恥ずかしい悪魔は、持っているどでかいフォークを振りかざした。

パンである。

荒野にゴロゴロ転がっていた石なり岩なりが、パンに変わったのだ。


なるほどなるほど。

石みたいだ石みたいだと思っていたパンは、本当に石からできてたわけね。

どおりで硬くてまずいわけだ。


「ふん。」


俺はつい、鼻で笑ってしまった。

やばい。

自分のツッコミが軽くツボにはまってしまった。

これでにらめっこ負けか。

クッソー。


「ばば、バカな! 俺様の力をみて、鼻で笑うだと!貴様、本当に後悔しても知らないからな!!」


あれ?

いいの?

てっきり俺の負けかと思ってたら、笑ったら負けじゃないのね。

じゃあ、いいや。

この恥ずかしい悪魔に、はっきりと言ってやろう。


「消えろ!この悪魔め!!」


俺は結構大きめの声で、悪魔(笑)に言ってやった。



また、光の奔流である。

いい加減にして欲しい。

目が悪くなるわ。


どうせ半ベソかいたバカガキ(エクス・マキナ)が、負け惜しみ言ってくるんだろ。

姿は見えないけど、ゲンコツでもしてやろうかな。



ゴゴゴゴゴ・・・・

あれ?

光の奔流がさらに厚みを増しているぞ。

やばい。

よくわからんが、押しつぶされそうだ。


硬く閉じている目どころか、脳みそも心も何もかもが真っ白な光に塗りつぶされていく。

意識を保てない。




「・・・退けたか。」



遠くで声が聞こえる、気がする。



だめだ。



光の洪水が俺の全てを飲み込もうとしてくる。




思考も記憶も次々に白く塗りつぶされて、



何もわからない。



俺という存在自体が薄れていく、  気が、 する。







突然、頭の中心からはっきりとした「声」が鳴り響いた。




「讃えよ」




がん!っと、意識が断たれた。







焚き火はすっかり消えている。

遠くの地平線がうっすらと白くなってきている。

どうやら朝日のようだ。


うまく思い出せない。


あれ、パパか?

怖いとかじゃなく、存在ごと塗りつぶされそうになったね。

もしくは吸収?ダイソンの前のチリのごとし。


バカガキ(エクス・マキナ)の光もキツかったが、そんなもんじゃなかった。

内も外も、みーんな溶けてなくる感じ。

あれはマジもんだわ。


エウリ・デウスなんか、ペンライトみたいなもんだね。

優しいもんだ。


デメテルも凄かったが、桁が違う。


いや〜、とんでもないものを引っ張り出してしまいました。

バカガキ(エクス・マキナ)、いやエクス・マキナ様もご成長されたら、あんなんになっちゃうのかな?


俺は死んだね、今日。

確実に肉体から精神から、完全に塗りつぶされちゃった。


オッケーオッケー

()()パパのお言葉だ、了解です。

「讃え」ましょう。

どうやらそれが俺のお仕事らしい。


エウリ・デウスがちょっと恋しいな。

俺、こんなになっちゃったけど、大丈夫?

光分解してない?



あーあ。

じいさんが起きたら、街かぁ。


俺の心のメモに一行足しておこう。


パパは、やばい。


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