35話 金の話
〜ヨシュア〜
俺は知らなかった。
え?何の話かって?
金だよ金。
お金の話だ。
俺は、お金ってのは努力とか才能とか、そうゆう七面倒臭いものとの交換で手に入るもんだと思ってたね。
実際は全然違った。
いや真逆と言っていい。
面倒臭いことばっかする人からは、逆にお金が逃げていくみたい。
じゃあ、お金はどこに逃げんの?ってことになる。
簡単だ。お金はお金のあるところへ逃げていく・・・
そりゃ、俺のとこにはこねーはずだ。
無一文だもん
俺たちは、御者wメフォストの先導の下、ジュナイブという商業都市を訪れた。
目的は、もちろん俺たちの護衛者(傭兵)を募るためだ。
この頃俺は、多少調子には乗っていた。
誰が呼んだかウル・メシア。
そう、ヨシュア・ウル・メシアの名は巷に轟いていたのだ。
この幌馬車だって、寄付だ。
もちろんカイロンの親父の努力の賜物であることを忘れてはならない。
表敬訪問、俺らの事情説明、交渉、運搬、料理、お金の管理・・・
バカのメフォストを荷物持ちに、全部お一人でこなしちゃうわけ
メフォストは馬鹿面下げて、へいへいと貧乏ったらしく、くっついているだけだ。
情けないね、本当。
いや、よく考えたらさ
俺、元ホームレスじゃん? メフォスト、元詐欺師じゃん? カイロンだけだね、ちゃんと自営業やってたの。
しかも、バ・アル王国の下請けだもん。
そりゃすごいよ。
そんな凸凹トリオだが、一応リーダーは俺だ。
何せウル・メシアだかんな。
だいたいどこの街に行っても、歓迎を受けるわけ。
硬ったいパンが懐かしいわw、まったく。
カイロンがスゴイのは、訪れる街の予備調査もだね。
いろいろ情報を集めて、あの街はヤバイ(旧教が狙ってる)とか、ここは大丈夫とか、ビタッと判断しちゃうわけ。
いや〜、参った!
そんなこんなで、ジュナイブというおっきな都市に参りましょうなんつってきたわけだ。
結論から言おう、歓迎はされた。
ただね、びっくりしたね。その活気にさ。
俺は質問責めにあった。
「ウル・メシア。私はこの街の商工会会長を務めております、ジャンと申します。ご高名はかねがね賜っておりますが、どうかお導きください」
ま、もちろんハイどうぞってなもんだ。
「ジャン様。ヨシュアでございます。温かく迎えてくださっていただき感謝しております」
んで、テキトーなこと言って終わりかなと思った。
「ヨシュア様、新教の真髄についてお聞かせください。神の救済とは一体なんなのでしょう? いや、信仰とは? 教義とは? 教会の権威とは? 天命とは?」
じゃんじゃん聞いてくるわけw
まあ、事情を聞けば、このジュナイブは西と東の中継都市で商業がとても盛んだと。
東側のザラム教徒は喜捨と呼ばれる神への寄付で済むが、西の教会の教徒たちは、面倒なお祈りと非常に高い重税に苦しんでいたわけ。
そんな中、最近唱えられているという新教によれば、ガンガン稼いでもいい、教会への税金など信仰に当たらないという。
みんな、飛びつきたいわけだ。
ところが怖いのは、そんなことして大丈夫か?ということ。
簡単に言えば、地獄に落ちるのではないかということを聞きたいそうなだ。
なるほどね。
とても真っ当な疑問です。
「ジャン様。主は万能だと思いますか?」
「もちろんです。疑ったことなどありません。ですから、恐ろしいのです。主の怒りを買えば・・・」
「果たして万能である主が、われわれに疑問や不満という感情を持たせるような行為を求めているのでしょうか?」
「え? それが我々に課せられた試練だからでは?」
「主がそのような賭けに出ると思いますか?」
「か、賭け?」
「そうです。人間に結果を委ねるなどと、あやふやな賭けを主がなさるとお思いですか?」
「で、では主は、我々に何を求めているのですか?」
「少し不遜な例えですが、あなたが子に求めるものはなんですか? 仕送りですか、敬意ですか、従順さですか?」
「そ、それも必要かと思いますが・・・」
「あなたが万能なのであれば、そのようなものは必要ないでしょう?」
「!」
「ただ生み出したものとして求めるのは、その子が人としてその生をまっとうし、謳歌すること、ではないでしょうか?」
「し、主は何を見返りに・・・」
「主は、見返りなど求めません。主にすれば、人のそれは芥のごときもの」
「で、では、救済はどうなるのですか?」
「主は、救済を検討などなされません。すべては予定されているのですから。当然です、主は万能なのですよ」
「そ、そうか。で、でも、じゃあ怠惰な行動も許されている、ということなのですか?」
「そのようにしたいのであれば、それもまた主のお計らいでしょう。その怠惰や堕落に打ち勝つのもまた同じ。我々の意思や感情のすべてが、主のお計らいなのです。私やあなたが税金を滞納したなどという些末ことで、主の計画に影響できるとでも?」
「じゃ、じゃあ、神の名の下に横暴を働く教会に抵抗をしても許されるのですか?」
「ふ。教会もまた人の業に過ぎません」
ジャンの目が爛々と輝いた。
なんか焚き付けてしまったようだ。
「ヨシュア様。たった今より、私どもジュナイブの民は新教徒となり、真の信仰を実践しますぞ」
そう言って、俺たちに街を案内してくれた。
表も裏も全部。
凄い、凄い蓄財だよ、これ。
商品はもちろんのこと、財と呼べるものがまさに山積みだ。
小麦や米、羊毛、木材から鉄でもなんでも・・・
工業も盛んだから、どんどん商品が生産され売られていく。
俺は、活気あるマーケットを2・3日暇だからずーっと眺めていたのだ。
(俺たちの真の目的については、もちろんカイロンがやってくれている。)
それで気がついた、お金ってのはさ、渦になって、あるところに集まっていくんだね。
ジュナイブのマーケットは活気がある。
商品がお金を介して、どんどん人から人へと渡っていく。
その渡る回数が多ければ多い商品ほど、高額で取引される。
東の外国人風の商人もやってくるが、彼らの商品は珍しいし、高スペックだから高い、ということもあるだろう。
でも、それを後生大事に抱えている人はいないね。
どんどん回すんだ。
そうするとどんどん金と商品が集まり、同じくらい人も集まる。
そしてさらにお金が集まっていく・・・
その流れの端っこで俺みたいのも(ホームレス)いるが、ありゃダメだ。
流れが見えていない。
小銭を拾ったところで、あっという間に消えて無くなる。
流れの一部になるんだ。
そうすれば使った以上に入ってくる。その流れの速度はどんどん上がるぞ。
努力とか才能とかいうは、この流れに乗るための一歩にすぎんね。
俺には無理だなぁ。
ま、今はこの渦の中心にいるみたいな位置付けになってるけどさ。俺だけ完全に無風。
ともあれ、この街では、これまで教会を中心に回っていた金の流れが止まるようだ。
一波乱あるだろうね。
生物の死と同じ。暴れるでしょうね。
どうもジュナイブは、戦う準備までするみたい。
キナ臭い会話が飛び交ってるもん。
いや〜おっかないね。
どうしてみんな平和に暮らせないの?




