34話 ガルバ=エルとローラン、そしてラグジュアリー馬車
〜前域〜
「バ・アル殿。お待ちなさい。この暴食は、特異点に達しました。もうあなたではどうにもなりませんよ」
「ふ、情けないものだな。小賢しい女悪魔には逃げられ、今度は女天使に諭されるなどとはな」
「貴方が、私たちを侮蔑するのは構いません。ただ飲み込まれるのであれば、“憤怒”は置いていきなさい」
「・・・そうか、お前、ラグナロクの調停人がこれを欲しがるとは・・・・そういうことか・・・」
「貴方が、どう考えようとも結構です。ただ“流れ”は起きたのです。ウラノスはもうすぐ神の御意志の通りに書き換えられはじめるでしょう」
「お前が本当に神と対峙するというのであれば、これは喜んでくれてやる。わしの肉体は消滅しようとも、本質はそれだからな。しかし、その覚悟はあるのか?」
バ・アルは、暴食の蒼き炎に飛び込み、その紅蓮の炎で掻き消さんとした。
「わしには、わしのやり方がある。お前たちは所詮神の身内。独善では人間は絶望しかもたん」
「・・・貴方には関係のないこと・・では、納得されないのでしょうね。いいでしょう、時間も限られていますから、お話ししましょう」
「神もまた罪。その大罪がおこるとき、人間にラグナロクの調停を預けなければなりません」
ガルバ=エルは、暴食の火に焼かれつつあるバ・アルに語りかけた。
「貴方の怒りは、ただただ神へとむけられたもの。それは歪められたエートスなのです」
「心優しい、“古きエートスの管理人”であった貴方であれば、それも仕方がないことなのでしょう。しかし、それではそのエートスは、ただ飲み込まれ、力として勃つことができない。必要なのは覚悟ではない、受け皿なのです」
もはやバ・アルは暴食の蒼き炎に完全に包まれ、その身を焼かれている。
「大罪という究極のエートスは“人”による選択なのです。そうでなければ、ただ散りゆくエートスに過ぎないのですよ・・・・・貴方のように・・・・」
焼き尽くされ影となったバ・アルから、紅色の炎が上がった。
憤怒の名とはそぐわない、弱々しい優しい火であった。
ガルバ=エルは、それを自身の双翼で包み込み、即座にその場を離れた。
ラグナロク、すなわち“終末の日”にむけた新しい宗教、カルアーンが預言者ローランによって興された。
預言者ローランは、大天使ガルバ=エルから憤怒をもって“道”を説かれた。
その教えは強烈なものであった。
主を形づける全ての偶像を禁ずる
主を語った全ての金品の授受を禁ずる
主の信徒は全て平等である。差別は禁ずる
主への祈りのみが救いの道である。怠惰を禁ずる
己の祈りを妨げるものへの報復はこれを許す
明確な“教会”批判である。
とくに明確な主張は、“教会”が指名した勇者の否定である。
煌びやかな数々の偶像や装飾、税金や寄付などの全てがガルバ=エルの勅令をもって否定されたのである。
そして“禁止と報復”を5か条に掲げ、圧倒的な愚直さでその信徒数を増やしていくこととなる。
預言者ローランは、終末の大天使ガルバ=エルの神託を聞くものとして、“カルアーン”の始祖となったのだ。
主人のいない元前域暴食の地獄は、その蒼き炎をより強くし、一帯を渦状に取り込み、蒼炎の深淵を形成していくのであった。
〜ヨシュア〜
ピクニックって楽しいな。
いや〜出世したなぁ、俺。
今度の幌馬車は、なんとサスペンション装備!
さすがは、東の国の新型だぜ。
ケツが痛くない。
勇者との行軍の時は、はっきり言って座ってられなかったね。だから寝てたね。
今度はすごい、乗りながら話せるもん。
まあ、もちろん弊害もある。
メフォストがうるさい。
舌噛み切って死ねばいいんだよ。
「なあ旦那ぁ。旦那はさ、戦えんの?つえーの?俺っちよりつえー?」
俺は、なんだっていつもこいつを焼き殺さずにいるのかね?
誰に言われたっていいさ、俺弱いよ?
でもさ、少なくともこのバカだけはちゃんと焼き殺せる、と思う。
じゃあなんでやらないかって? 優しいんだよね!結局ね!!
「バッキャロ〜!!テメぇ、何くだらんことをいつまでも言ってやがんだ!!オメェも何の役にも立たん癖に、ベラベラくっちゃべってんじゃねえ。そんな暇があるなら、御者台代われ! 方向はわかるな!?」
?あれ??「オメェも」って言った??
もって言ったよね?
もは重いなぁ〜
100パー俺が含まれてんじゃん。
ただね。そのとーりなのよ。悲しいことにさ
俺さ、つくづく思うよ、カイロンの親父が付いてきてくれて本当に嬉しい。
さもなきゃさ、俺、殺悪魔者になってたもん。
しかもかなり残虐なやつね。もちろん火炙り。
イライラに任せてさ
「兄さんな。今のところは、襲撃のようなもんはねぇです。だが、ナザロに近づけばこのままではいけねえや。どうだろう、どこかの街で護衛を探しませんか?」
カイロンよ、俺っちに異論があると思うかい?
もちろんない。
「カイロン殿。おっしゃる通りです。どこかで旅を共にしてくれる方を探しましょう」
「よっしゃ、わかりました。 おい!メフォスト!! 町によるぞ。あたりを注意しろよ」
「へ、へい。」
ふむふむ、よろしい。
その貧乏ったらしい返事が実に良い。
あとさ、鞭かなんかでしばいてくれるとよりいいね。
カイロンの親父が上半身半裸でさ、オラァオラァ、ビシッビシッってな感じでバカを打ち据えてさ、バカがギャッギャッ!と騒ぐわけ。
ふふふ、いい気味だ。
なーんて、牧歌的な妄想も可能なラグジュラリー馬車。
みなさんオススメですよ。




