30話 魔人とカイロン
「神とセイの二元対立が崩れようとしている。どうあれ大罪は熾るだろうな」
ペテロが話し始めた。
「わしの大罪の火もまた天命なのか・・・」
何やらひどく思い詰めている様だ。
「ヨシュアよ。わしは、お主らを門外に送り届けるのを最後に、門番をおりるぞ。この動乱の最中、これまで通りの均衡は望めん。ならば、わしはわしの悲願を遂げるまで」
何が起きるんです?
「人間は、主の意思の器。ときにはその中身ですら変質させることが可能。であれば、嫉妬をもって傲慢に立ち向かうことにも意味があるのだろうな。そして、それが今なのだ。」
なんだか、大変なことになりそうな感じですな。
「そのために、わしは魔人と化す事になるだろう」
え?
ペテロは魔人になるの?
神に立ち向かうってことは、かなりのこえー存在になるってことか・・・
やべぇことはやべぇが、俺一応お友達ってことでいいのか、な?
「ペテロ様ぁ。最後に聞かせてくだせえ。俺っちは、もう天使には戻れねぇんで?」
そうだった。
こいつ、バ・アルの叔父貴だ、セイの兄貴だとほざきながら、ウジウジと天使に戻りたいだなんて裏切りを続けているんだったな。
しっかし最低なやつだ、まったく。
「メフォストよ。煉獄の道は厳しいのだ。神に何を言われたかは知らんが、一度堕落すれば天国はおろか《山頂》への道を辿ることもできん。それがルールだ」
「そ、そんなぁ」
メフォストがしょんぼりしてやがる。
そんなことちょっと考えればすぐわかるだろうに。神が一度切ったものを戻すと思うか? ない。
甘ったれるな、このバカタレ。
「そのように落ち込むことはないぞ。たった今より、この地獄は乱世を迎える。お前が誰につくかは知らんが、少なくとも傲慢、怠惰に加え、暴食、嫉妬が熾る。そうなれば、モレ・クも黙ってはおらんだろうな。神などはそれらの一柱に過ぎんことになるぞ」
「・・・でも、わからねーです。俺っちは一体誰についたらいいんで?」
最低なやつだな。
それを聞くか?
卑怯者の称号も授けよう。
「ふははは。分からん。だが、それはお前のよく知る人間たちを見ればよいだろう。どの大罪に人間が魅せられるのか、そしてそれこそが主のご意思というものぞ」
群雄割拠の戦国時代ってわけか。
俺っち、 間違えた。 俺も、どうやら肢体欠損のハンデを抱えながら生き延びねばならんらしいな。
やれやれだぜ。
「・・・ペテロ様ぁ〜」
かーっ。
情けない!
まだ愚図ってるよ、このグズ!!
男なら漢らしく、腹をくくらんかい!
「もはやこれまでじゃ。ヨシュア。お主には天命を見たぞ。礼をいう」
そう言って、ペテロは俺の左肩に手を載せた。
オレンジ色の光が辺りを包んだ。
気がつけば、俺たちは「川」にいた。
いや川岸か。
そこには、あのカイロンの親父がいた。




