27話 ペテロと嫉妬と小刀
「ペテロ様ぁ、ペテロ様ぁ。お客様をお連れしましたぁ」
何だろな〜。こいつは本当に脱力させるよな。
ペテロってのは偉いんだろ?偉いんだよな。何だよこの寂れた旅館感は。
おやおやお客様ですか〜なんっつって出てくんの? こねーよ。
もう少しシリアスな感じを出せないわけ?ったく。
ズズズズッと黒い影を纏い、ペテロが現われた。迫力が凄い。
なんか怒ってる?
「客、であるか・・・。」
こ、こわ。ごめんごめん、シリアスとかいって。コミカル路線で大丈夫です。
「ペテロ様でございますか。私、ヨシュアと申します。」
ペテロは、白髭面でジロリと俺を一瞥すると、油断ない態度を崩さず敵意を向けてきた。
「ふむ。・・・・・・お主、嫉妬を擁しているのか。わしと事を構えにきたというわけか」
へ?
何で?
俺、なんか擁したの?
事を構えるって何?物騒なことはいや。仲良くして。
「メフォスト。お前、よもやこの私に楯突くという気構えであるか」
「へ? え? とんでもねーです。 あれ? ヨシュアの旦那はペテロ様と敵対してんの?」
は?
何いってんのコイツ。どー考えても初対面ですわ。
「メフォスト、このものは只者ではないぞ。嫉妬の大罪を擁しておる。まだ飲み込まれてはいないようだが。」
「ひっ、た、大罪ですか。だ、旦那ぁ。どうしちまったんですかい? まさか、そんな」
何だこの茶番は。
何が始まろうとしてるんだ、これ?
アフォストが絡むことで、より一層カオスだぜ。
「ペテロ様。何か誤解をされているご様子。私には一切の企みはございません。まさかペテロ様に楯突こうなどと露ほども考えたことはございません。」
「そのように答えるか。しかしな、お主は人間じゃ。おいそれとその言を信じるわけにもいくまいて」
「では証拠をお示しいたします。何なりとお申し付けください。恭順致します。」
「ほう・・・であるか。では、お主の嫉妬をわしに差し出せるか?」
ま、何のことかさっぱりわからんが、前のデメテルやエウリ・デウスがこだわってたエートスみたいなもんだろ、好きすればいい。
「如何様にも」
俺は、両手を広げた。よくわからんが、なんか差し出したっぽいポーズだ。
「なるほどな。では、本当にやらせてもらうぞ。覚悟はよいな」
ペテロが懐より小刀を出し、やおら抜身にし、俺の左腕を切り落とした。
へ?
思ったより痛くはない。が、痛い。
少しづつズキズキし出した。これ、どんどん痛くなるやつだぞ。
てか、なんつー事をすんだ、このおっさん。
当のおっさんは平然な顔で、切り落とされた俺の左腕を拾っている。
くっ、どうやら普通のことなのか?
でも、思ったより酷くはないが、血も垂れ始めてるぞ。
右手で傷を掴むが、出血が進む。
あのベ・ホマだせんのかな?
とにかくヤバイ。
「ぺ、ペテロ様ぁ。」
この惨状を見たメフォストが、泣きそうな声を出した。
アホか泣きたいのは俺だ。
ペテロが、事もなげに声をかけてきた。
「ヨシュアよ。案ずるな。お主の恭順の心は受け取った。言を発っせ」
なんか言えってこと?
「あ、ありがとうございます。ペテロ様、どうかお救いください。」
発した言葉と同時に、柔らかい虹色の光が傷口を包み込んだ。
あれ、どっかでみたな、この光。
痛みと出血が和らぐ。
ペテロがその傷口をジロリと睨んだ。
あれ?また怒ってるの??
こ、怖い。
「モレ・クを知っておるな。」
光について含みがあるみたいだったが、それには触れず、ペテロは話を続けた。
モレ・クか、あの猛牛の魔神のことだな。思い出しただけで、汗が出るわ。
「は。恐ろしい経験でございました。」
「このように簡単に手放すということは、お主、レヴィアタンを押し付けられたのだな?」
よくわからんが、その通りだ。
「よくわかりませんが、その通りだと思います。」
「ふむ。この力は、扱い方を間違えると途方もない魔獣になる。あのビヒーモスのようにな」
ビヒーモス?どっかで聞いたような音だな。
「ひっひぃ。そ、そんな恐ろしいものなのですかい? だ、旦那ぁ。なんてもんを連れてくるんですかい!」
このヤロー、なんか調子乗って俺を責める側につきやがったなぁ。あとで炙ってやる。
俺が射殺さんばかりにアホを睨みつけていると、ペテロが割って入った。
「ヨシュアよ。そう怒るでない。悪魔らは、嘘をつけないのと同時に聖物の真名を発する事もできんのだ。その本質は存在の揺らぎにある。真名に怯えるのも致し方ないといえよう。まあ、人間どもの中にも、それを真似て母音の消失をする習慣があるようだがな。とにかく、どうやらモレ・クは相手を間違えたらしいの」
よく分からんが、ペテロはかなりよくわかっている人らしい。これまでで一番ヤバイ奴だが、聞き出せることは聞き出そう。何しろ腕を切り落とされたのだ、ただではすませたくない。
「ペテロ様。正直、私は状況が分かっておりません。教えていただけませんか」
俺はとりあえず片っ端から疑問をぶつけることにした。




