11話 怒れる勇者と戸惑うメフォスト
勇者ダヴィドは、苛立っていた。
彼の任務は、建前的には伝説上の聖獣リヴァイア=サンの奪回である。
しかし、実質的には教会組織の権威回復である。
近年の教会は、内部の腐敗が進行し、賄賂や搾取、政治的駆け引きといった権謀術数が横行していた。
そうした中、人びとの教会に対する信頼は低下し、免罪符の購入拒否、(すべての信者に課せられる)人頭税の支払遅延などが目に見えて増加していた。
教会はこの現状を憂慮し、1000年に一度の奇跡である勇者生誕を行い、人民の教会に対する求心力を回復させることにした。
こうして結成された勇者軍およそ500騎は、教会の持つ巨万の富と皇帝をも凌駕する地位だけが成せる最強の部隊と言えた。
ダヴィド自体、教会最強の兵士であり、神の忠実なる下僕である。
また、その従者マステマは、頭脳明晰にして怪しいまでの絶世の美女であり、すべての男を虜にする最高の参謀である。
そして、彼らにつき従う勇者軍の兵士達は、それぞれが一騎当千、帝国各地の選りすぐりの将軍達である。
まさに無敵神軍の体現である。
行軍の道中、ダヴィドは、辺境の都市ナザロにて目撃された奇跡の噂を耳にした。
その内容は、彼には到底受け入れらるものではなかった。
「教皇様ですらなされない天使召喚だと?悪魔祓いだと?? こんなにも異端者どもの妄言が蔓延っているのか! クズに神のご加護などいらん!!」
彼は、苛立ちを隠すこともせず、従者マステマに当り散らした。
そもそもいるかいないかも分からない聖獣探しにも辟易している上に、異端者の分際で教会を愚弄するなど、あってはならないことであった。
彼はその血に飢えた暴力性を隠しもしなかった。
「ダヴィド様。恐ろしいことです。人民の心は闇に冒され、救いを求めているのです。」
マステマは、怪しい笑みをたたえながらダヴィドにしな垂れかかった。
まさに妖艶な物腰で、ダヴィドの滾りを煽り、彼を明日の聖戦に掻き立てるのであった。
そして夜伽もまた、この従者の重要な任務である。
彼らによる異端者への対応は、凄惨を極めた。
勇者軍は、地方都市を次々と遠征し、教会への忠誠が低いと見るや異端者認定を行っていった。
神の名の下に行われる異端者の粛清において、身分、男女、大人や子供の区別はない。
ダヴィドと従者マステマによる一方的な異端者認定をもって、その誰であっても一切の抗弁を許されずに粛清=処刑される。
処刑の実行者は、組織化された一国の軍隊でさえも歯が立たない最強の神軍である。
人びとは逃げ惑うのみである。
この無敵神軍にとって、唯一といえる敵は、勇者軍人の心の迷いである。
彼らは、一方的な虐殺行為など経験のない、誇り高き百戦錬磨の猛者たちである。
蛮族や異教徒の勇敢なる兵士が相手であれば、その力を遺憾なく発揮できるが、相手が逃げ惑う無抵抗な女子供となると戦意が萎えてしまうのだ。
そのような迷いを吹き飛ばすべく、マステマは、あらん限りの声で兵士達を鼓舞する。
「迷うな! 異端者を処刑せよ! 神のご加護があらん限り!!」
軍人たちは、その声に不安や迷いを掻き消され、ただひたすら神の御心のままに任務を遂行していった。
まさにその様相は殲滅戦、この世の地獄であった。
勇者軍の恐怖は噂となり、瞬く間に各地に広まった。
〜ヨシュア〜
俺たちは海か?というくらい巨大な河辺にたどり着いた。
白く冷たい霧が立ち込め、対岸が全く見えない。
なるほど〜、これが三途の川なのね。
生きたまま見れるとは思わんかった。え?渡るのこれ。
「あれ〜? う〜ん? おかしいなぁ??」
俺の残念な従者が、みすぼらしくキョロキョロしている。
なんて恥ずかしいやつ。
おかしいのはお前だよ。
「なあ、ヨシュア。」
お前みたいな恥ずかしいバカタレに、呼び捨てにされる筋合いはないが、躾けを間違えたのは俺だ。
「渡し舟がいないんだよ。カイロンの親父がいないぜ。」
知らんよ。
事前にアポぐらい取っておけよ。
お前、腐っても元天使wだろ?
「カイロンの親父がいないということは、多分戦争かなぁ?」
渡し舟で戦争行くのか?
そりゃ恐ろしいな(笑)。
「あんまり亡者が多いと、俺らみたいのは後回しにされんだよな」
俺ら?
一緒にすんじゃねーよ!
どうやら戦争が起こっていると、船頭のカイロンとかいう親父は亡者の運搬に忙しくなり、しばらくは戻ってこれない(?)らしい。
そして対岸へは、カイロンの親父が案内してくれなければ、絶対に行けないとのことだ。
カイロンの親父も大変だな。
しかしまあ、この役立たずはいいとして、俺は食いもんとか寝床とかが必要である。
いつまでもこの寂しい河辺で、ぼんやりしているわけにはいかない。
「メフォストよ。近くの町を探すのだ」
と言ってから、気がついた。
俺たち一文無しじゃね?これは困ったぞ。
俺たちは、とぼとぼと町を探して歩き始めた。
どーしよーかなーと、思案に暮れていると、金魚のフンみたいについてきたバカが、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「おい、ヨシュア。お前、金が欲しいのか?」
だからさぁ、なんでお前、タメ語なの?
殴るよ。
「俺のいうことを聞けよ。金やるぜ」
あ。
今気がついた。
こいつ仕事のことの思い出したのか。
そうかそうか、可哀想だからのってやろう、暇だし。
「メフォストよ。お前は、なにが言いたいのだ」
「なあ、よく聞けよ。確かに俺の力は微々たるもんだ。でもな、ちっちゃい奇跡くらいなら起こせるんだぜ。例えば、ニワトリに金の卵を産ませたり、前にも見せたが、石をパンに変えたりとかな。」
ははは。巨人が追っかけてくるぞ。
本当にこいつは残念なやつだな。
もはや可愛いわw。
かと言って、いつまでもこうやって調子に乗せておくわけにもいくまい。
俺は、仕方がないのでメフォストを躾けることにした。
「浄化せよ」
俺の唯一の隠し芸を見せてやるぜ。
あたり一面が青白い焔で包まれた。
「あ”、あ”づ!!」
お。
思った(前回)より、さらにデカイ。
わりわり。
俺は、焔を消した。
「な、な、な、神罰か? 俺なんかやったか??」
まあ、色々やらかしてはいるな。
「え? あ、こ、これヨシュア、お前がやったのか??」
道化の身体のあちこちが焦げていた。
「お、お前、悪魔を焼く炎出せんのか? そ、それ能天使以上の力だぞ。」
ここまで驚くとは、俺の今の力は、この雑魚が天使だった頃を凌駕したらしい。
能天使だか、能天気だか知らんが、いよいよこの駄目元天使に恐れることは何もないようだな。
「お前、人間じゃないのか?嘘ついたのか?汚いぞ。」
そうだよな、お前、アホの上に嘘つけないんだったな。
いや、アホだから嘘つけないのかな?
まあ、ともかくこれは躾だよ。悔い改めよw。
「メフォストよ。邪な行いは許さん。正しくあれ」
金の卵は悪くないけど、所詮悪魔の施しだもんな。ろくなことにならない事は分かりきってる。
アホはアホなりに、一生懸命俺を笑わせろ。
「す、すまん。許してくれ。分かった。力は使わないよ。でも、金がいるんだろ?どうするんだ?」
反省はしてるみたいだが、言葉遣い、とくに俺への敬語はできないみたいだな?もう少し炙るか?
あれ、なんか三蔵法師と孫悟空の関係みたいになってる?
「私は、使徒だ。人びとのために祈ることが任務なのだ。迷い人を探して来なさい」
アホみたいな顔してないで、ちゃんと金蔓引っ張ってこい!
「わ、分かった。困った人間だな。 探してくる!」
俺は、大きな木の根元に腰を下ろし、営業活動は馬鹿に任せ、静かに目を瞑じた。
ん?
あのバカ、あの格好で営業行くの?
それこそ取っ捕まって、火あぶりにされんじゃね?
まあいいか。




