102話 悪の根源・・・税金の話
〜ヨハン新市長@ナザロ〜
ま、まさか・・・(またもや、ヨシュア様か…)
この新教発祥の地ナザロにおいて、徴税のシステムについて議論が交わされている。
選挙戦が終了するまでは、それまでの人頭税(従来の税率は高かすぎたため、半分にまで軽減させているが)を暫定的に続けており、新体制になってからはそれまでとは異なる税制を取り入れることになっていた。
ナザロは、戦争の危機に瀕している。
避難民も多く流れてきている上に、常時破壊工作への警戒も不可欠である。
その備え、そして経費として税金は欠くことのできないものなのだ。
しかし、人頭税の最大の問題は、富める者も、貧しき者も同じ金額を徴収されるため、貧富の格差を助長することだ。もちろん金持ちは免罪符の購入という形で追徴されるのだが、これは結果的には貧しいものにも求められるため、あまり意味はない。
そして、新教においては免罪符は完全に廃止されている。
つまり、貧しい者にとって最も厳しい税制が人頭税という仕組みなのだ。
今、多くの避難民を受け入れるナザロにおいて、このような仕組みは長くは続かない。
すなわち、この旧教を基盤とした古い仕組みは、新ナザロにおいて相応しくないため、新税制の導入が求められているわけだ。
議論は喧々諤々、多様な意見が出たが、決め手に欠けていた。
大まかな税の枠組みはこうだ。
土地税:所有する土地の大きさ、または期待される収穫量に対して税金を定めるもの(農民向け)。
ギルド税(法人税):同業者組合による独占販売を認める代わりに一定の税金を取るもの(商工者向け)。
資産税:所有する資産に合わせて、一定の税金をかけるもの(資産家向け、貴族は課税されない)。
である。
ナザロには、多種多様な人々が暮らし、活発に経済活動が行われている。
土地税については、所有者の確認や測量・収穫量予測の精度が問題になる。
ギルド税については、すでにある複数のギルドについての選定、税金の額の設定などに関わる公正さが問題である。
資産税については、当然ながら資産内容の捕捉がほぼ不可能である。
つまり、理論的にはどれも良いのだが、実現性という面で難しいし、この3つ全部を取り入れるというは、とてもではないが複雑すぎて不可能なのだ。
かと言って、取りやすいところから取るというのは、すべての人間は平等という新教の考えに沿っていない。
みなが頭を抱えているところ、カルミラ様(ヨシュア様からの伝言として)の使者がとんでもない案を持ち込んできた。
それが、所得税と付加価値税である。
所得税:一年間の収入に対して一定の税金を徴収するもの。
付加価値税:物やサービスの購買時に課せられる税。
ナザロの住民全員に対して、一律でこの2つの税金を適用するというのだ。
もちろん不可能である。
そんなものが可能であれば、苦労はない。
なぜ不可能か・・・
どうやって一年間の収入を確認するというのだ?
どうやって金銭のやり取りの額を捕捉するというのか?
ところがだ・・・
ま、まさか・・・である。(まあ、これがヨシュア様なのかもしれないが)
カルミラ様をトップとする治安維持部隊(裏)は、これらを既に完全に把握しているという・・・
その一例として、私の収入と支出についてのメモが差し出された。
・・・・恐ろしいことである。
私自身が把握していることよりも詳しく、収入の経路、金額、そして細かな支出、貯蓄額までが記載されていた。
この水準で、住民登録した者については、すべて把握しているというのだ・・・
これだけでも恐ろしいことなのだが、それだけではない。
支出や貯蓄まで、完全に把握しているとのことだ・・・戦慄すら覚える・・・・
所得税はいいだろう、完璧だ。
では、収入がなく、莫大な資産によって生活するお金持ちにとっては? 所得税は意味がない。
しかし付加価値税によって、彼らの支払いに税金が上乗せされることで徴税が可能である。
・・・この仕組みが上手くいくなら、問題ない。
いや、これが公正にこれができるのなら、このナザロは新世界の中心になるかもしれない。
それほどの事なのだ。
税金というのは、公正であることが何より大事だ。
誰かがズルをしている。優遇されているという事になれば、いくら税率が低くても、その使途がいくら正当であっても民は反感を持つ。
しかしみな一様に、かつ、公平・公正に徴税されるとあれば、この街の財政は潤うだろう。それどころか、移民がさらに増加することも当然考えられる。
いつの世も、徴税というのは施政者の悩みのタネである。
それが、その最大の情報源である「カネの流れ」がすべて捕捉できているというのだから、とんでもない状況である。
〜ヨシュア〜
カルミラが泣き止んだ。
まだ目が赤いが、以前よりもより近く俺の近くに侍っている。これは鬼気迫るものがあるね。
以前は、偉大なるこのご主人様を放置し、ブツブツと呪詛を吐いていたが・・・・あれはなんだったのか?
「カルミラよ・・・。元気になったか? ところで、あの祈祷のことなのだが・・・」
「は? キトー、でございますか?」
ふむ、キトー・・・。 そう、そのキトーのことなのだが、そのキトーとは、どのキトーのことなのかが問題である。
自分でもキトーなんて言っちゃったが、つまり全然わかっていないのだ。
ここは言い換えたほうが良さそうだ。
「・・・そうだ。其方、何か術式を運用していたようだが?」
正直あれがキトーであれ何であれ、怖いのだ。ブツブツ言っているやつ。
「ああ、はい。あれは、精魂への語りかけによる霊魄使役ですわ。」
・・・・セイコン? レイハク? シエキ? サッパリワカラン。
「ふふ。(もちろんご承知の通り)私は、ヨシュア様のご加護で、人間の魂魄へのアクセスが可能になりました。知性を司る魂に語りかけれるのは大変有用な力ですわ。魄を操るのはアス・デウスなんかも得意とするところですが、こうやってみると獣を使役するようなもので役に立ちません。やはり、(空前絶後の濃密な)エートスを背景とした魂との語らいには無限の可能性があります。」
・・・・コン? ハク? パク?
「・・・・・(てか、こいつらわざとやってないか? おっp揉むぞ?)」
「ところでヨシュア様。聖地・ナザロの新指導者が決まりまして、何か困っているようですが、少し手助けなどを致しましょうか?」
さらりと流されてしまった。
まあいいか、それは・・・・てか、それ俺にできることなんだろうな? また嫌味なら怒るよ?
「・・・・ふむ。どうしたのだ?」
俺は、できだけ威厳を醸し出しながら聞いてやった。
そう、多少は傷ついてるのだ。
「はい。租税のことなのですが・・・」
ソゼイ?
・・・・ああ、税金のことか。 俺は、自慢じゃねーが払ったことねーぜ?
仕事したことねーからな。
・・・ん? 消費税なら払ったか・・・まあ、どうでもいいことだが・・・ふん、興味ねーな。
「それの何が問題なのだ?」
勝手にとれば良いじゃないか、金持ちからな! 俺は金ねーぜ?
「はい。現在の人頭税には問題も多く・・・・・」
なに!?
人頭税とな?
聞いてみれば人頭税とは、稼ぎや状況、全く無視で一律に金をとるっていうのか?
いかん! それはダメだよ。
ニートに優しくねー。
嫌い、それ。
「それは悪手だな・・・」
「しかし、代替策にはそれぞれ問題があるようで・・・」
ふむ。
(カルミラの難しい話を)俺様が理解したところによれば、代替策とやらは、土地にかけるか、商売権にかけるか、資産にかけるかというのがあるらしい。理想なのは、全部導入したいが、それぞれにターゲットが偏ってるし、手続きが煩雑らしい。
しかも黙って聞いていれば、貴族は課税されないという・・・冗談じゃねーよ。
そうゆうのは、そうゆう輩から率先して支払いなさいよ。
え?戦争で体張ってるから支払い義務がない?
嘘つけ!
前に勇者のバカが攻め込んできたとき、ナザロの領主、いの一番に逃げてったじゃねーか。知ってんだぞ?
この俺様ですら、戦ったぞ(ちょっとだけどね)。
命張ってんのは、みんな一緒よ!
(てか、なんで「いの一番」なんだ? 「あの一番」じゃね?)
(ま、ともかく)そうかー、貴族は税金を払わんのか〜。
じゃあ、前世の俺は貴族か?
ふん。
したがって、なんか良い方法がないかというのが論点なのだ。
なるほどね。
取りやすいところから取りたいけど、不満が出る、と。
そりゃそうだ。
一生懸命働いて稼いだものを、横から手ぇ突っ込まれるようなもんだもんなぁ、税金ってやつはさ。
だからね。全員から、稼いだ分に応じて取ればいいんだよ。
平等・公正!!
脱税は許さん、ってことでね。
え?
稼ぎがないやつはって?
いるの? そんなやつ?
・・・・あ、俺か・・・・
しかしまあ、確かに俺っちみたいに、稼ぎのない(施しだけで生きている)人間からは取れないもんな〜。
そりゃずるい気がするよな〜申し訳ねー
ああ、じゃあ、それこそ消費税もやればいいんじゃん?
俺ですら払ったんだし。
うん、じゃあ、これでいこう。
良い悪いは分からんが、分かりやすい。
「カルミラ。稼ぎと支払いの両方に税をかけたらどうだ?」
in-outの両方を抑えれば、大体網羅できるだろうし、不平感も少ないんじゃない?
「・・・・なるほど・・・・流石です。課題は、カネの流れの把握・・・支出については支払い毎、つまり付加価値に税金をかけるといういことですね・・少なくともナザロにおける商売・金融は掌握しているから・・・うん大丈夫ね。・・残るは資産、でもこれは簡単。残りは捕捉期間を週月年のどの・・・ごにょごny」
ふー。
まただよ。
まあいいや。
こまけーことはワカラン。
でも、そうだよなー。
なんか戦争とかも起こりそうだし、困った人たちの保護とかも大切だ。
道だの橋だの、医療とかもぜーんぶカネが必要だもんな。
あーあ。
俺、なんか甘えて生きてきたなー。まったく生産的なことしてこなかった・・・
あ、今も? うるせー。
立派な大人たちが作った安全安心な仕組みの中でぬくぬく生きてきたんだなぁ。
ふー偉いね。新指導者。
・・・え? てか、誰になったの?




