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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼女と猫

彼女の猫になりたい

作者: ピッチョン

【登場人物】

國近悠乃くにちかゆうの:高校二年生。クラスメイトの小雛を好きになり猛アタックした結果付き合ってもらうことになった。わりとさばさばした性格。

佐々岡小雛(ささおかこひな):悠乃のクラスメイト。性格はおとなしめ。告白自体されたことが初めて。猫を一匹飼っている。


ミィコ:小雛の飼っている猫。三歳、メス。毛はキジトラ柄。



「佐々岡さん、一緒に帰ろ」

 放課後、私の誘いに佐々岡小雛(ささおかこひな)が「うん」と頷いた。セミロングのストレートの黒髪、黒真珠のような丸い瞳と小さな鼻、添えられた薄めの唇は綺麗なピンク色をしている。背が低いので私と話すときは常に見上げるような姿勢になるのが可愛くてほっこりしてしまう。

 なんと言ったって、この子が私の彼女なのだから可愛さもひとしおだ。もう一度言う。この子は私の彼女なのだ。

 にへへ、と頬がにやけてくる。こんな可愛い子と付き合えている私は本当に幸せ者だ。

「……なにか?」

 並んで歩きながら横顔を眺めていたら小雛に怪訝そうに見られた。でもそんな顔すら可愛いのだからどんな態度でも許せてしまう。

 私はにっこりと笑い掛けた。

「本当に佐々岡さんが彼女なんだなぁって」

「私はまだ実感ないけど」

「実感はこれから徐々に湧いてくるもんだよ」

「……そうなの?」

「そうそう」

 小雛の反応が悪いのも無理はない。何故なら私達が付き合い始めたのは昨日からだからだ。

 茜色に染まった放課後の教室。私は小雛に告白した。

『好きです! 彼女になってください!』

小雛はすぐにこう返事した。

『ごめんなさい、そういうのよく分からなくて』

だけど断られたくらいで諦めては恋する乙女の名が(すた)る。

『分からないってことは嫌ってるわけじゃないってことだよね? じゃあ付き合ってみてから決めるっていうのはどうかな? いきなり同性に告白されて戸惑う気持ちもよく分かるよ。これまで普通に話していたクラスメイトからなんで急にって。でもそこで一歩引いちゃうのは勿体ないよ。交際するということを真剣に考える子もいるけど、私はもっと柔軟になっていいんじゃないかって思う。どうせ別れたとしても付き合ったという人生経験は残るわけじゃない? だったら試しというか軽い気持ちで受けてみるというのも全然ありじゃないかな。もし今まで同性との恋愛をまったく考えたことがなかったなら今回が自分の心を知るいいきっかけになるよ! 女の子と恋愛出来るのか、それともやっぱり無理なのか。そういった意味でももう一度私の彼女になることを考えて欲しい!』

 なりふり構わず勢いでまくしにまくしたてた。ちょっとでも再考してくれることを祈って。

 私の圧力に押されたのか小雛が『えっと……』とたじろいだ。勝機はここしかなかった。

『お願いします! お情けでも同情でもいいので付き合ってください!』

 土下座した。みっともなかろうがこれで付き合えるのなら安いものだ。小雛が慌てて私に声をかけた。

國近(くにちか)さん、や、やめてください』

『お願いします! 付き合う以上のことは求めませんから!』

 額を床に叩きつけながら尚もお願いを続けた。

 ゴンゴンと鈍い音が教室に響き、小雛が取り乱し気味に叫んだ。

『わ、分かった! 付き合う! 付き合うからそんなことしないで!』


 こうして私と小雛は交際を始めた。

 土下座して付き合ってもらうなんて情けないと思うだろうか。優しさにつけこむなんてずるいと思うだろうか。私に言わせれば恋愛に清廉さを求める方がおかしい。恋愛は戦争だ。他人に取られる前に自分でかっさらうくらいの気概を見せずして成就などありえない。略奪しろ、とまでは言わないが、本当に相手のことが好きならば出せる全ての力を以て臨むべきだ。だって、今目の前にいるこの子が運命の相手かもしれない。一生を添い遂げることになるかもしれない。そうなったらあと何十年かの未来がここで決まるのだ。人生を左右するかもしれない大事な出逢いだと考えればむしろ最善を尽くさない人の方が不思議に思う。

 まぁ私の考え方はともかく。

 小雛と付き合えたという結果が残ったのなら過程はどうでもいい。問題はこれからだ。

 告白のときに付き合う以上のことは求めないと言ったものの、やっぱりデートもしたいしキスだってしたい。小雛にも私のことを好きになって欲しい。

 交際とは告白をしてOKをもらって終わりじゃない。そこから二人の仲を深め、互いを思いやれてこそ恋人となるのだ。

「ねぇ佐々岡さん、二人だけのときは名前で呼び合わない?」

「……え」

「私のフルネームは知ってる?」

國近(くにちか)悠乃(ゆうの)さん」

「よかった。知っててくれて」

「クラスメイトなんだからそのくらいは知ってるよ」

「じゃあ、下の名前で呼んで?」

「……悠乃」

「ありがと、小雛」

 これが始めの第一歩。名前で呼び合うなんて女友達でもよくある当たり前なことだけど、私達にとっては大きな前進だ。

 名字(家の名)ではなく名前(あなた)のことを見ていますと伝える大事な儀式。

 小雛は表面上は無反応だったけど、かすかにくすぐったそうに唇の端を歪ませていた。

 たったちょっとのその変化が、私にはとても嬉しかった。



 目標を定めるのは何事においても重要だ。勉強でもスポーツでも趣味でも恋愛でもそれは変わらない。

『小雛と手を繋ぐ』

 中学生かと突っ込まれるかもしれないけど、私の中でこれは名前の次に大切なことなんだ。

 身体の一部分を触れ合わせたまま同じ時間を過ごす。何も言わなくても握った手のひらから伝わってくる体温が、相手の気持ちを伝えてくれる。それが私の考える理想の恋人像。

 学校からの帰り道、少し緊張しながら小雛に話しかける。

「小雛はドラマとか観てる?」

「ドラマはあんまり観てない」

「どういうやつ観てるの?」

「雑学系とか、動物のとか」

「動物いいよね~。うちマンションだからペット飼えなくてさぁ。ああいうの見ると飼いたくなっちゃうんだ」

「私のとこ、猫飼ってるよ」

「え、ホント!? 写真とかある?」

「うん。……これ」

「うわぁ可愛い~! キジトラ柄っていうんだっけ。名前はなんていうの?」

「ミィコ。子猫のときからすごい甘えん坊で、構ってほしそうにミィミィ鳴いてたから」

「へぇ~、可愛いね~」

 猫も可愛いが嬉しそうに話す小雛が可愛い。きっと家では猫にデレデレなんだろうなと思うとなおさら可愛い。

 ……私が猫になれば小雛に愛してもらえるのでは? 猫になれば手を繋ぐどころか同じ布団に潜り込んだり顔を舐めたりしても怒られない。最高じゃないか。

「あー……小雛は、その、もう一匹くらい猫とか飼いたくない?」

「え? さすがにもう一匹は厳しいかな。飼うにしてもお母さんたちに相談しないと」

「あはは、そうだよねー」

 私は何を聞いてるんだ。もし飼いたいって答えられてじゃあ『私を飼ってほしいニャン』って言うのか。ポーズ付きで。バカか。

 そんなことより今の私には『小雛と手を繋ぐ』という崇高な目的がある。

 すっと視線を小雛の手に向けた。

 左手はスマホを持ってミィコちゃんの写真を私に見せてくれている。右手は肩に掛けたスクールバッグの持ち手を握っている。狙うとしたらスマホを持っている左手の方だろう。

「……子猫のときの写真はあるの?」

「どうだったかな、ちょっと待ってね……あ、あったあった、はいこれ」

 差し出された画面にはタオルに包まれた愛くるしい子猫が映っていた。

「うわ、めちゃめちゃ可愛い~!」

 私は顔を近づけながら左手を小雛の手の甲に添えた。

「――――」

 小雛が息を飲む音が聞こえた。しかし私は手を離さない。むしろ徐々に力を込めて握っていく。

 初めて触れた小雛の肌はすべすべで弾力があり、指で手のひらの側面を押すと柔らかく気持ちがいい。

「……!!」

 小雛が慌てている。多分どういう反応をすればいいのか分からないのだろう。私の真意をきちんと示すために、小雛の目を見つめて微笑む。

「すっごく可愛い」

「っ!!」

 みるみる小雛の頬が染まっていく。恥ずかしさのあまりか足を止めてしまった。

「どうかした、小雛?」

「そ、その、手が……」

「手が、なに?」

「あ、当たって」

 これだけしっかり握ってるのに『当たって』と言うあたり、小雛の優しさがよく分かる。

「迷惑だった?」

 もしも小雛がこういうのをイヤだというのなら無理強いはしない。手を握らなくても仲を深めていくことは出来る。

「め、迷惑というか、驚いて……」

「小雛がイヤじゃないなら、もっと手を握ってたい」

「…………」

 返答はなかった。無言は消極的な肯定だ。つまり、小雛は私と手を握ってもいいと思っているのだ。

 私は小雛から左手を離して、反対の手をななめ前に伸ばした。小雛が繋ぎやすいように。

「…………」

 やっぱり小雛は何も言わない。そのかわりスマホをしまって恐る恐る私と手のひらを合わせてくれた。

 あったかい。密着した部分からじわりとぬくもりが広がってくる。

 指を少しずつ折り曲げて小雛の手を握った。小雛があえかに握り返してくれたのがすごく嬉しかった。



「ミィコちゃん、こっちおいで~」

 私が指でちょいちょいと手招きをするが、ミィコちゃんは小雛の背中に隠れて警戒したまま出てこない。

「ミィコ、ほら大丈夫だから」

 小雛が無理矢理膝の上に乗せても私が触ろうとすると逃げていってしまう。申し訳なさそうに小雛が謝ってきた。

「ごめんね。ここまで人見知りする子だと思ってなくて。親戚が来たときは普通なんだけど」

「いいよいいよ、初めて会ったんだし警戒するのも当然だって」

 むしろ感謝してるくらいだ。ミィコちゃんがいたから休日にこうやって小雛の部屋に上がることが出来た。猫を見たいというのは口実で、学校以外で会えるのならなんでもよかった。

 小雛の膝の上でくつろぐミィコちゃんと、その背中を優しく撫でる小雛を少し離れたところから眺め小さく息を吐いた。

 デートという名目じゃないけど自室で恋人と二人きりなのに小雛はそこまで意識しているようには見えない。純粋に私が猫を見にきただけだと信じているのかもしれないが少し寂しい。

 今日の私の目標は『小雛にドキドキしてもらう』。

 恋愛は独りよがりになってはいけない。相手の心を動かせないようでは恋人として失格だ。

 ふとミィコちゃんと目が合った。悠然としっぽを揺蕩(たゆた)わせながら、すまし顔を向けてくるその態度はどこか勝ち誇っているようにも見える。

 くそぅ、自分だけ小雛に愛されやがって……。私だって小雛に膝枕されてなでなでしてもらいたい!

 そのとき私に天啓が降りる。小雛になでなでしてもらえないのなら、私が小雛をなでなですればいい。

 私は小雛の背後に近寄って腰を降ろし、その髪の毛を撫でた。

「!」

 途端に体を強ばらせる小雛。首をゆっくりと回して私の方を見る。

「ど、どうしたの?」

「ミィコちゃんは小雛がいいって言うから、私も小雛にする」

「…………」

 小雛は私の手を払いのけなかった。OKが出たなら遠慮はしない。頭頂部から後頭部にかけてゆっくり手のひらをすべらせていく。

「小雛の髪の毛、すっごいさらさらだね」

 手櫛で()くと指の間を抜けていく感触が心地良い。

 またうなじとの対比が素晴らしい。真っ黒の髪を持ち上げたときに覗く真っ白のうなじは艶美の一言に尽きる。見るからにすべすべの肌は今すぐ指を這わせ唇の跡をこれでもかと付けてやりたくなってくる。やりたくなるだけで実際にやったりはしないけど。

 小雛はミィコちゃんを撫で、私は小雛を撫でる。なんというか奇妙な光景だ。でも私には幸せな時間だ。小雛にとってはどうだろうか。少なくとも微睡(まどろ)んでいるミィコちゃんは満ち足りた顔をしているが。

「……悠乃」

 猫の首元を指で掻きながら小雛が話しかけてきた。

「うん?」

「なんで私のこと好きになったの?」

「なんで……? うーん……」

「そんな悩むことなんだ」

「悩むっていうか、言葉にしづらいというか」

「好きだから付き合おうって言ったんじゃないの?」

「そうだよ。小雛のこと、大好き」

「…………」

 大好き、と言った途端に小雛が黙った。多分照れたのだろう。自分から話を振っておいてその反応はずるすぎる。可愛い。

 髪の毛の先を弄びながら言葉を続ける。

「好きになったきっかけとかはないんだ。ただ、一緒のクラスにいて一緒の時間を過ごすうちに、自然と小雛が私の視界に入るようになっただけ。真剣にノートを取る横顔とか、午後の授業で必死に眠気に抵抗してる姿とか、めいっぱい背伸びをして黒板を消してるところとか」

「……そ、そんなとこ見なくていいよ」

「なんで? どれもめちゃくちゃ可愛いのに」

「…………」

 また黙ってしまった。

 そうやって恥ずかしがるとこも可愛いんだと言おうと思ってやめた。これ以上はいじめになってしまう。

「ずっと小雛を見てるうちに思ったんだ。あ、私一日中眺めてても飽きないかもって。小雛だってそう思うことない?」

「私は……」

 そんなことはないと言いたげな小雛に、私は視線を膝の上に向けた。

「たとえばほら、ミィコちゃんとか」

「あ……」

「ペットと人間じゃ話は違うかもしれないけど、どっちも可愛い、愛おしいって思う気持ちは変わらないと思う。だから私は小雛のことが好きなんだって気付いたし自分の気持ちを信じることが出来た」

 小雛がミィコちゃんを撫でたいのと同様に私も小雛を撫でたい。その欲求は好意から来るものに他ならない。

「もし小雛がミィコちゃんに対する感情と似たものを私に抱いてくれたなら、それが『好き』かもしれないんじゃないかって少しでも考えてみて欲しいな」

 急に同性から告白されて勢いで付き合うことになった小雛の心の内は分からない。嫌々ではないとは思うけど、だからといって簡単に好きになってくれるとも限らない。せめて私が『好き』だと気付いたことを話すことで、そのときが来たら小雛にも気付いてもらえればいいなと思う。

「……悠乃も私の膝の上に乗ってみる?」

「え?」

「その、ミィコと同じことをしてどうなるか確かめてみようと思ったんだけど」

「の、乗る乗る! 絶対乗る! なにがなんでも乗る!」

「食いつきすぎ……」

 食いつきもする。まさか本当に猫みたいになって悠乃の膝の上に乗れるとは思わなかった。

「じゃあちょっと手洗ってくるね」

 小雛がミィコを床に降ろし部屋を出ていった。取り残されたミィコがヒゲを揺らし開いたドアを見つめたあと、私の方を振り返った。そのまま音もなく近づいてくる。

 お、もしかして私の膝の上に乗るのだろうか。そう思ったとき、べし、と膝頭を前足で叩かれた。そのままぷいと背中を向けて部屋を出て行った。

 そのキジトラ柄の背中に心の中で詫びた。安息を邪魔する気はなかったんだミィコちゃん。私だってミィコちゃんに負けないくらい小雛が好きなんだから許してくれ。

 少しして小雛がタオルを持って部屋に戻ってきた。

「お待たせ。ミィコは?」

「出て行っちゃった。私が小雛を取ったから」

 小雛が苦笑した。私の前に正座して、膝の上にタオルを掛けた。

「はい、どうぞ。どういう感じで乗る?」

「膝枕……いや、うつ伏せに乗った方が猫っぽいか……」

「なんでもいいよ」

「じ、じゃあうつ伏せで!」

 横向きになって小雛の膝をお腹で抱きかかえるように体を丸めた。自然と小雛の体と密着する形になり、胸の鼓動が早くなる。

「お、重くない?」

「大丈夫。えっと、触るね」

「う、うん」

 小雛の手が私に触れる。右手は私の頭を、左手は背中を、それぞれ優しく撫でていく。すると先程まで鳴っていた胸の早鐘が徐々に収まっていった。

 あぁ――なんという癒しだろうか。心が、体が浄化されていくようだ。これはそう、母性。小雛の指の動きひとつひとつから絶大な慈愛を感じられる。

「……悠乃、くすぐったくない?」

「全然。もう最高すぎて一生膝の上で暮らしたいくらい」

「それは私が困る……」

 困ると言いながらも小雛は手を止めなかった。少し気になって見上げてみると、両頬を朱に染めて口元を引き結んだ小雛と目が合った。

「こっち見なくていいから!」

 顔を手で戻された。雑に頭を撫でられながら私はにやけるのを抑えられなかった。

 小雛もドキドキしてくれていたんだ。

 だったらもう今日の目標は達成だ。たとえ小雛が好きだと思ってくれてなくても構わない。少しずつ距離を縮めていればいつかきっと想いが私に傾いてくれるはずだ。確証はないけど。

 私は目を閉じた。そうすると小雛の手をよりはっきりと感じられた。

 すでに手の動きは元の優しく慈しむようなものへと戻っている。きっとそうやって撫でながらも顔は赤いんだろうなと思うと、染みるような嬉しさが胸の底から込み上がってきた。



 どうやらそのまま寝てしまっていたらしく、起きたときには夕方の5時を回っていた。暗くなりつつある窓の外を見て急いで帰宅の準備をした。

「最後ばたばたしてごめんね」

 玄関で靴を履きながら謝ると小雛が首を小さく横に振った。

「うぅん、私が起こさなかったのが悪いから」

「気を遣わなくてよかったのに。頬をつねるなり叩くなり遠慮なくやってよ」

「それはさすがに……」

 廊下の奥からミィコちゃんがやってきた。

「あ、ミィコちゃんも見送りにきてくれたの~?」

 しゃがんで両手でキャッチしようとしたらするりと抜けられて小雛の足の後ろに逃げていってしまった。

「くそぅ、やっぱりダメか」

 小雛がミィコちゃんを抱きかかえる。

「でも最初よりはミィコも慣れてる感じがするよ」

「そうかなぁ?」

 ミィコちゃんは私と目も合わせてくれないが。なんとなく早く帰れと言われている気がする。

 まぁ恋愛同様、時間と回数をこなしていけば自然と仲良くなるものだ。佐々岡家では私が一番新参者になるのだから先輩には敬意を払わないと。

「またね、ミィコちゃん」

 小さく手を振ってから小雛に向き直る。

「今日はありがとね。また学校で」

「悠乃」

「ん?」

「その、まだよく分からないんだけど」

「なにが?」

「私も多分、一日中悠乃を撫でても平気、かも」

「――そっか」

 本当は大声で叫びたくなるくらい嬉しかったけど、私は一言だけ返した。

 推測や希望を口にすることは簡単だ。でも私が小雛の気持ちを代弁することは出来ない。それは小雛自身が考えて出すべき結論だから。

「また遊びにきてもいい?」

「うん」

 今はこれだけでいい。

 玄関のドアを開けて出ていくとき、後ろから「ミィ」と鳴き声がした。

 それが『また来いよ』に聞こえたのは私の勝手な思い込みだろうか。



             終


付き合ってから仲良くなる過程を書こうと思ったのですが猫が出て来たあたりで舵がどこかに行きました。プロットも何もなく書くのがいけないんですが。


猫と百合は親和性が高いかもしれない……。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ〜、最高ですねぇ
[良い点] 主人公の必死さが伝わってきてすごく可愛いです。 小雛の反応が初々しくてニヤニヤして読ませていただきました。 [気になる点] 続きをだす予定はないのでしょうか? この二人の可愛らしい姿をもう…
[良い点]  悠乃の必死さやノリツッコミが面白く、終始にやけながら読んでいました。また、小雛の反応も一々可愛くて、とても癒されました。 [気になる点]  小雛の反応が、付き合いたての普通のカップルのよ…
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