#8 豪華なプレゼント
◇
「正体はバレてないけどなんか驚かれてたな。自分の作った世界なのにシステムしか知らないってのは問題か。少し一般常識を身に着けないといけないな、上から見てるだけじゃわからないことも多いよな」
人気のない場所まで歩いてグリフォンを呼び出し、王城まで帰ることにした。
王城ならばグリフォンやペガサスが降りたところで騎士団の連中だと思われるだろう。ただし、そこから東門付近まで歩くには3時間以上掛かるため魔法車を使う方が効率がいい。
王城へ降り立つと守備兵がやってきて
「どちらの方ですか?」と訊いてきた。
返事をする代わりにグリフォンの首輪の紋章を指差すと
「これは、星帝様でしたか、なぜ御連絡もなく王城に。何か不備がありましたでしょうか」と膝をついた。
「構わぬ、立て。目立たぬ魔法車を用意せよ、あと黒狼の者を1名、これも目立たぬ服装で」
オサムが待っていると急いで走りながら一人やってきた。
「星帝様、お待たせして申し訳ありません。王城城代のハミルカス・ドラティライティスでございます」
だが日頃の鍛錬の成果か息切れも起こしていない。
「ハミルカス自ら魔法車の運転手とはな、誰でも良かったのだぞ?」
齢50を超えるが未だ一線級の力量を持つ、黒狼でも最強クラスで黒十字騎士団団員と同等の強さを誇る男である。
「星帝様をお送りする役目を他の者に譲るわけにはまいりません」
謁見すら出来るものは極めて少ない。栄誉あることだと考えたのだろう。
道すがら
「私のような者からは何も申せませんが、何かの御用でいらっしゃったのでしょうか?それにその革鎧ですが」
オサムは遊びとは言えずとっさに
「西グリーシアの件は承知しているな?今回はその辺りの悪党連中を確かめようと考えていて情報集めだな。カルマ値の高い者は流刑もしくは殺消、簡単に言うとダークグレー及びブラックに対しては法を変えるつもりだ。このあたりで悪人は消しておく。目立たぬようにこのような装備にしているが、防御力は黒狼の鎧をも凌ぐ逸品なのだぞ?宿に戻れば本来の装備に着替えるがな」
もっともらしいが、もう暫く後で発表しようと考えていた計画と説明だった。
◇
ワルツ達のパーティーは12人の力で1階層を完全に制覇することが出来た。
「2階層も行けそうだな、行ってみるか。危なくなったならすぐに戻るけど」
ライドはまだレベルを上げられておらず38のままだった。1つくらいは上げておきたい。
ソロでの狩りと違い、パーティでの狩りはメンバー全員で経験値が等分される。
そのため、アズと二人で行った狩りではレベルの上昇が早かったがメンバーが増えると相対的に経験値は減ってしまう。しかし強敵とも戦えるので狩りはパーティーで行うのが常識となっている。
「オークが出ると言ってたけどさ、行けるトコまで行ってみようよ」
副ギルドマスターのティアが同意した。
「では行くとするか」皆で階段を降りていった。
このレベルのダンジョンでは多くのパーティが居るため、危険度は低い。大量トレインでもされない限りは12人もいればなんとかなるだろう。
暫く警戒しながら歩いているとドバリスが
「居たぜ、前方に3匹。オーク2にゴブリンアーチャーが1だな」
シーフの感知能力ですばやく見極めた。
「よし、俺とタウキー、ビリムとワルツで抑えるからティアは魔法でギリアスは弓で攻撃。ポーラとランデックとモリソンは後衛。最悪の場合キムシラが後衛へ下がること。後衛の守りははデハン、ドバリスとキムシラで頼む」
だが3匹程度なら楽勝だった。
「オークも十分倒せるな、でもやはりゴブリンよりはかなり強い。このまま2階層を進んでいくぞ」
ソードマン4人、モンク1人、シーフ1人、プリースト1人、アーチャー1人、マジシャン3人、ドルイド1人。バランスの取れたパーティなら2階層も制覇できるかも知れない。
「いやぁ、結構危なかったな、オーク6匹の部屋。けどかなり稼げた」
全員がレベルを1以上上げていたが、それ以上に晶石の数が多い。12人分のグランパープルのバッグが溢れそうになったため一旦戻ることにしたのである。
「マジックバッグが買えたらなあ・・・」
長時間ダンジョンに潜って一番困るのは晶石の数である。上級者になると1時間も潜れば大型のバッグいっぱいになってしまう。
かと言ってマジックバッグは高価過ぎて通常では買うことが出来ない。一番小さなマジックポーチでも銀貨1000枚、ゴブリン2万匹となると何往復すれば稼げるのかわからない。
「よし、目標はマジックポーチ2つ分の銀貨2000枚だ」
ライドはとりあえずの目標を作ったが、欲しい物は簡単に手に入ることとなった。
ギルドに戻り、しばらくするとアズが訪ねてきた。
「黒き剣のギルド会館ってここかな?あ、えーとギルマスの人だったっけ?」
アズは人の名前を覚えるのが苦手なため、ブルーのステータスバーで覚えていた。
「ワルツ君居るかな?宿屋に行ってみたんだけど居ないし荷物も無くなってるとか聞いて」
突然現れたアズの装備にライドは驚いた。
「ええ、居ます・・・呼んできましょうか?それとも部屋に案内でも・・・」
レベルがある程度バレてしまったため、もう良いかとアズはそこそこな装備に変えていた。
インペリアルセイヴァー800レベルの甲冑とナイトレベル90の長大な剣を2振りだがビーツの後期の作品でレベルを抑えてアタックを極力高めた特殊な剣なのだが色は通常のものだ。
「アズさんですか、ここがよくわかり・・・」
ワルツはアズの装備を見てライドと同じ様に驚いた。
しかしアズはそんなことを気にすることなく
「ギルド入団のお祝いを持ってきたんだけど、引っ越してきたのかな?ここで渡してもいいか?」
大型のバッグをカウンターに置いた。
「お祝いですか?その前にその装備は?」
固まりながらもワルツは声をだすことが出来た。
「ああ、これね。俺のお気に入りの装備なんだけど今から盗賊狩りにでも出かけようかと思って。それで持ってきたのは冒険に役立つと思うものなんだけど要るかな?」
恐る恐るワルツは
「冒険に役立つ物ですか?それは頂けるのでしたら頂きたいですが」
バッグの大きさを見る限り武器だと思われる。
「そっかそっか、まあお古ばっかりなんだけどもう使わないものだから」
アズが初めに取り出したのはツーハンデッドソードだった。バッグの大きさ的に絶対に入らない。
「え?そのバッグはマジックバッグですか?」
上から降りてきた数人は階段付近で固まっていた。
「うん、装備とかを入れておくための物なんだけどね」
アズはカウンターの上にドカドカと物を置いていった。
片手剣や両手剣、アイテム、ポーションとどんどん出してくる。
「あの、すみません、アズさん。剣はともかくポーションなんかはお古じゃないんじゃないですか?」
ワルツ達は圧倒されていた。
「えーと、クライアン魔法用具店あるだろ?俺はあそこの常連で実験的に色んな物を作ってもらってるんだ。生成に失敗すると低級ポーション、ローポーションとかハイポーション、エクスポーション?とか最悪だと毒になっちゃってね。そんなポーションは俺のレベルになると使わないんだよね。最低でもHP10000は回復してくれるものじゃないと使い物にならないから」
何の気なしにアズは言ったが、HP10000を回復するようなポーションなど聞いたことがない。
流通している最高のポーションはスプリームポーションと呼ばれており回復値は最大5000である。エクスポーションで回復値2500程はある、2次職でも十分な回復量でありかなり高価なアイテムである。
しかしそんなことは構わずにどんどん物を出しては置いていった。
「ランシット君、今使ってるバッグはどんなの?少し小さいけどこれならいくらでも入るから」
アズはマジックバッグとグランパープルのマジックポーチを見せて
「今持ってるのを見せてくれるかな?」とワルツを呼び寄せた。
「ちょっと待っててください、すぐ持ってきます」ワルツは階段へと走り自分の部屋へと向かった。
「あとさ、えーとギルドマスターって誰かな?」バッグの中をゴソゴソしながら訊くと
「はい、私です。黒き剣ギルドのマスターをしているライド・グラントールと言います」
アズの出す品物を見てゴクリとツバを飲み込み
「ワルツ君のお祝いと言うか、これは多すぎませんか?ソードマン用じゃない装備もあるようですが」
と困惑していた。
「やっぱり君だったか。えーと、弓とか杖とかもあるね、これでも全職業にチャレンジしてるんだよ?別にもう使わないからワルツ君のギルドに上げるんだけど、彼はソードマンだから分け方は君が決めるといいし」
まだまだ物をカウンターに出し続け、もう置ききれない程になっていた。
「お待たせしました、今のバッグはこれです」
ワルツが革の手作りのバッグを差し出すと、アズはそのバッグを掴み色んな角度から見て
「大きさ的には問題ないね、使い込み様も俺が持ってきた方のがまだマシかな?グランパープルのポーチも俺が持ってきたのとサイズがほとんど同じだな、じゃあこれとこれ使ってね」
マジックバッグとグランパープルのマジックポーチをワルツに渡した。
「ちょ、ちょっと待ってください。これマジックバッグじゃないですか?それにかなり特殊な素材が使われているみたいですが」
ワルツが慌てて尋ねると
「かなり使い込んでるけど普通の魔法用具店で売ってるマジックバッグの何十倍も入るから便利だよ、3重構造になってるんだ。古くなったから捨てようと思ってたんだけど」
そう言いながらもアズはまだ物を出し続けた。
最終的にカウンターの上と奥のテーブルが装備やアイテムで一杯になってしまった。
「あの、ダッシュさん、僕達はまだ1次職なんですがこれは・・・」
ライドはまだ困惑していた。全て合わせるといくらになるか想像も出来ない、明らかな新品もある。
「全部1次職のだよ?ワルツ君用にはこれね」
アズは1振りのバスタードソードを渡した。
ワルツがその剣をじっと見て
「ドライグランダーってこれ、魔剣じゃないですか!?使用レベルはソードマンのレベル30?アタックが200もありますよ!」
その驚く顔を無視してアズは
「うん、だから今はこのレベル10でも使えるビオモンデールを使うと良いね」
手渡された剣も魔剣だった。
「魔剣って言ってもアタックを上げただけでスキルは付いてないからそんなに良いものじゃないね、けど普通の剣よりはだいぶ強力だからさ。あとギルマスのえーと、グラントール君だったっけ?ブルーステータスなら安心して渡せるよ、公平に使ってね」
その頃になるとギルドメンバー全員が集まっていた。
「あ、そうか、ワルツ君は新入りだったね。マスターの君にもこれと、えーと・・・これを」
マジックバッグとグランパープルのマジックバッグだった。
「ちょっと大きいけど使いやすく出来てるから、古いけど良いよね?もう持ってるなら誰かにあげて」
アズの出す物があまりにも現実離れしているため誰も何も言えなかった。
かろうじてライドだけが
「あの、そのですね、これは・・・あまりにもというか、銀貨何万枚になるんですか?」
と尋ねると
「素材は自分で集めたし加工費だけだからそんなに高くないんじゃないかな?銀貨は渡してないよ。クライアンの工房と専属契約してるんでレアアイテムを工賃として渡してるから銀貨は使わないんだよ、俺」
ドラゴンやヴァレスを複数回狩ったと言うのと同じことを口にした。
「私達としては嬉しいのですが、これだけの物をいただくというのはギルドとしてもその・・・」
ライドの言葉に
「じゃあこうしよう。俺もこのギルドに入れてくれるかな?顧問っていう形で。戦いは後衛と助太刀でいいや」
アズは無茶な要求をしてみたが「考えさせてください」ということで結論は持ち越しとなった。
「ん、用事は済ませたし俺は帰るね」
アズは大量の荷物を散らかしたまま自分の宿へと帰っていった。
「ワルツ君、あの人は一体何者なんだ?親しいのか?普通はギルド入会祝ってこんなとんでもないことしないぞ」
ライドに言われても、自分はたった数日パーティーを組んだだけだ。
「アズさんはソロプレイヤーだと思うんです。けど何故か気に入られてしまったようで」
「とにかくさ、突き返すのも失礼だし整理しようよ、ね?この杖良いなあ、素材がわからないけど軽いね」
皆を落ち着かせるようにティアがテーブルの上の物をまず片付けだした。
内容を細かく分けリスト化すると
・マジックバッグ大1中1
・グランパープルマジックバッグ1ポーチ1
・魔剣ドライグランダー(
・魔剣ビオモンデール
・魔弓レイオン
・魔槌ショッパーラッツ
・ポーション多数
・ハイポーション多数
・エクスポーション多数
・剣、杖、弓、槌、短剣多数
・防具少量
他にも様々なアイテムがあるようだがわからないものもある。
「すごいな。魔剣じゃない武器類も通常のものより品質が高いしこのポーションやアイテムの量。本当に銀貨何万枚になるんだかわからないよ」
ライドは一息ついた。
「また改めて御礼しないとな」
ギルドメンバー全員で一旦倉庫にしまうことにした。