#7 天空の迷い人
「こいつが新しいメンバーなのか?あたし達が遠征中に入った、えーと・・・ワルツ・ランシットか。よろしくな、ワルツ」
ティア・ビルガーデンというマジシャン達が昼になり帰ってきていた。
◇
「俺だって忙しいんだよ。全世界の国を見て回らないといけないんだからさー。マローヤ王国の次期国王も任命しなきゃだし」
オサムは小さくぼやいていた。
「で、テギロット。例の西グリーシア王国のあの件は?終わったんだろ?」
玉座に座りながら報告を聞くことにした。
「はい、砦は完全に破壊、畑もわかる限り焼き払いました。砦の者は壊滅、戦闘員以外に多少の生き残りは居るでしょうが元の組織規模に戻すことはおそらく不可能かと」
「そりゃお前達まで行かせたんだしそれくらいはしてもらわないとね、報告はそんなもんか?一応確認には行くけど昔からある悪党は全部潰していかないと駄目だな」
いくら全世界が平定されたとはいえそれは表面上のものであり、闇の部分はまだまだ残っている。
各国騎士団や兵士たちは日々取締りを続けていた。
「形だけは平和な世界を作ったつもりなんだけど、何処にでも悪い奴は居るからな。麻薬組織とか奴隷売買とかテロリストとかサイコパスとかソシオパスとか。今までは住みよい世界を作るのに精一杯だったけどこれからはそういうのを取り締まって行かないとねぇ」
紅茶を一口飲み
「永久牢獄は1万人以上居るはずだし、ダークグレー以下の罪人は捕縛出来るなら捕縛、無理なら殺処分でいい。情報も要らないし殲滅ってことにするか。いいな?テギロット、この言葉を全ての者に伝えてくれるか?あと武器や防具も最高の物を作らせるので明日からでもやろう」
話し方は軽いが言葉の内容は凄まじいものだ。この世から悪人を一掃すると神が、星帝が、最高支配者が命令するのであるから。
「黒十字や黒狼、他の騎士団員の武器の要望を調べておいてくれ、ビーツ達に作らせる」
◇
天上では世界についての話が行われていたが、王都では黒き剣ギルドの宴会が開かれていた。
「へー、ソードマンレベル1でも使えるクレイモア?これが?すごくバランスが良いな、片手剣と同じくらい軽く振れる上にレベル30の普通のクレイモアよりアタックが高い」
ワルツがもらったという剣をライドが振っていた。
「話を聞く限り強さだけなら黒狼クラスかそれ以上の人だよねぇそのダッシュって人、また会えたら紹介してもらえるかな」
ライドは興味を持った。
「私はまだこのワルツの強さを知らないし、明日は12人全員で冒険に行くぞ!」
ティアたちは帰ったばかりだが簡単なダンジョンへ冒険に行くことにした。
「ここってこんな複雑だったか?長い間来ない場所はマッピングしないと駄目だな、塔なら楽なのに」
アズは小規模ダンジョンの中を迷っていた。
「入り口はどこだあ?というかここ何階層だ?」
8階層で時々出てくるオーガやトロル、グレートベアやメレジャイアントを一撃で片付けながら
「勘弁してくれよ~帰還アイテム持って来るの忘れて最下層まで行っちゃったんだし、マッピング道具も無いしもー!」
他のパーティーに聞きながらも自分の失敗に自分で怒っていた。
2時間も迷った頃にやっと1階層まで上がってくることが出来、偶然ワルツのパーティーと出会った。
「あ、アズさん」
ワルツに見つけられ「どうしたんですか?なんか焦ってるみたいですけど」
しかしアズは冷静に
「このダンジョンって迷いやすいよね?4時間位迷ってた。ちなみにここのボスは10階層のミノタウロスだよ」
と言うと
「え?ソロで最下層まで行ってボスを倒したんですか?」と驚かれた。
「だって俺は基本マジックナイトだよ?ブロワーで確かビショップでもあるけど」
つい口にしてしまったがブロワーはモンクの人類到達可能な最上級職であり、徒手空拳で鋭い剣を正面から撃ち砕くほど拳を強化されている。ナイトとスペルマスターでありながらブロワーでビショップのクラスまで持っている人間など聞いたことがない。居るとすれば黒十字騎士団か黒狼騎士団に数名程度だろう。だがそんな者は黒十字騎士団にさえ居ない。
そしてアズは実際にはブロワーではなく更に上級のブレイカーであった。
その上ビショップはプリーストの2次職である。しかしアズは4次職のカーディナルクラスを修めているがその辺りはよく覚えていない。
ワルツを除く皆は絶句してしまった。
「へー、だからあんなに強かったんですね、納得です」
「いやいや、おかしいだろ?そんな人が騎士団にも入らず冒険者のままなんて。ろくなパーティーメンバーも揃わないはずだぞ」
ドバリスの言うことは極めて常識的だった。普通その程度の強さになれば王国騎士団に簡単に入団できるはずだ。
「カルマ値が高いのか?いや・・・ステータスが見えない、何かの魔法か。けどグリーン以上じゃないと凝視すれば強制的に警告色は出るはず」
「まあそれは良いじゃん、君達はえーと・・・黒き剣だったか?ワルツ君はギルドに入ったんだ、良かったね。時間があれば寄らせてもらうよ。全員ステータスはグリーン?あ、君はブルーだね、そのレベルでジャッジマスターのレベルも上げてるなんてすごいな。ギルマスかな?」
オサムは悪人をわかりやすくするために、ステータスを色付けすることにしていた。カルマ値つまり行動の善悪に応じて最悪のブラックからダークグレー、グリーン、ブルー、マリンブルー、ホワイトとなる。
一般の騎士団はグリーンで入団できるが、7大騎士団や3大法術士団はブルー以上。つまりジャッジマスターレベル30以上を要求される。
そしてダークグレー以下になると半径10mの者達にアラームが伝わるため警戒されることになる。そしてステータスも隠すことが出来ない。めったに居ないが馬車強盗等を繰り返し、殺人行為を複数行えばステータスはブラックになるので見つかったら即取締の対象として追われることになる。ダークグレーやブラックになると賞金目的の冒険者や各国騎士団員は捕らえるよりも殺すことを優先する。
ステータスを隠せるのはハイドステータスの指輪を身につけるか、オサムのようにGodsでなければならないため基本的には不可能だ。
ハイドステータスの指輪をドロップするモンスターはオサムにすらわからないままであるし、アレシャルの塔やメラススの塔に何千回挑んでも手に入るかどうかという代物で、クライアンにさえ再現は不可能だった。そして、ステータスを隠せる魔法などオサムは作っていない。Godsのスキルで隠しているだけだ。
「俺はね、気楽に冒険がしたいだけなんだよ、楽しみながら。ほとんどソロだけどね。ちなみに俺のステータスはホワイトだから安心してね」
またもアズはミスを犯した。
「ホ、ホワイト!?ジャッジマスターレベル80以上でしたっけ?初めて見ました」
ありえないことではないが、星帝から必ず国王に推薦されるレベルである。そして星帝の要請を断る人間など通常はこの世界に居ない。
「アズさんって何者なんですか?」
ギルマスのライドは与えられた情報の処理を必死に行っていた。ありえないことを聞きすぎた。
「何者なんだろうね、冒険してたらこうなっちゃったってとこかな」
アズは笑ってはぐらかした。
「俺はこのまま帰るけど、君達は今来たばかりだろ?2階層からはオーク系が出るから用心したほうが良いよ。あと1階層もゴブリンアーチャーとゴブリンメイジが出るから、まあ12人のパーティーなら負けることはないだろうけど気をつけてね」
そう言い残してアズはやっとたどり着いた入り口から出ていった。