#6 ギルド
晴れてソードマンにクラスチェンジ出来たワルツは次の行動を考えていた。
「確か冒険者ギルドってのがあったよなあ、仲間作りのために入っておくか。けど入れてくれるのかな?」
冒険者の集まるグレイス聖王国には数多くのギルドが存在する。
来るもの拒まず、去る者追わず、というギルドから2次職以上限定のギルドまで選ぶことが出来るが、ワルツのレベルでは入会出来るギルドは限られているだろう。
まずは換金所の掲示板を見て探そう。ということでやってきたのだが募集を出しているのはハードルの高いギルドがやはり多い。
ソードマンレベル10のワルツは選択肢が限られているため、カウンターで聞くことにした。
「あの、ソードマンのレベル10でも入ることの出来るギルドってありますか?」
無理を承知で頼んだのだが、低レベルでも人物次第で募集している新設ギルドが2つあるという。
ワルツは簡単な地図を渡されその2つに向かうことにした。
この王都は設計初期から道路が広く区画整理がしっかりとしているため迷うこと無く1つ目のギルドへたどり着いた。
見る限り小さな建物だが初級者も受け入れてくれるのならばギルド資産も少ないのだろう、ワルツは入り口の扉をノックした。
するとドアが開かれ、暫く無言で見られてから「入会希望の人かな?ようこそ」
歓迎され審査を受けることとなった。
「えーと、ウチのギルドの詳細は聞いてるかな?ランドーク星帝が使っていたという魔剣を探すために結成したんだけど?」
情報を全く持っていないワルツは「初級者でも入れると聞いて来ました。ソードマンのレベル10です。目的は強くなるためなんですがそれでも良いですか?」
それに対し
「初級者大歓迎だよ、俺もまだソードマンのレベル38だ、作ったばかりで人が少なくてねとりあえず人数を増やしてパーティーを効率良く組むために初級者でも入ってもらうことにしてるんだ」
どうやらレベルの低さの問題はないらしい。
「あ、自己紹介してなかったね、俺は”シュヴァルツシュベーアト”黒き剣ギルドマスターのライド・グラントールと言う。君は?」
どうやら悪い人ではなさそうに感じたので「ライツェン語ですね?黒き剣?僕はワルツ・ランシットです。もしよろしければ入れてもらえますか?」
もう一つのギルドにも行くべきかも知れないが、雰囲気が良いのでワルツはまずここから始めようと考えた。
「大歓迎さ、メンバーの殆どはライツェン王国出身だけど君は?その訛りだと西の方の人だよね」
星帝となったオサムは全世界の共通言語としてグランパープルの言語を採用し、授業に組み入れた。同時に言語や文化も尊重し、共通言語以外の教科に関しては国ごとに独自で作らせることとした。これにより各国の歴史や文化は保護され、且つ全世界の人々が意思疎通出来るようにしたのであった。
ギルドマスターの人柄も良さそうだ。ソードマンとしての鍛錬以外にジャッジマスターの修身もしているのかも知れない。流石にジャッジマスターのレベル確認のためにじっと見つめるのは止めておいた。
「ウィンディア王国のリューン村という田舎からです、よろしくおねがいします。メンバーの方は出払っているのですか?」
ギルド会館内には見る限り3名しか居ない。
「今は6人がシャグレット丘陵のダンジョンに行ってるだけだけど1週間は帰ってこないかな、近くのベニアの街を拠点にしてるから」
「実はまだ11人しか居ないんだ。君が入ってくれると12人だね、2人は今買い物に出かけてて残ってる3人が俺達ってわけ」
王都を拠点にしているギルドは千以上あると聞かされたが、数十万人の冒険者の半分以上がギルドに所属している。”黒き剣”は今の所最弱のギルドということになるだろう。
「人数が少ない内に入れるのは僕も気が楽です。大きなギルドだと冒険に連れて行って貰えないでしょうから」
数百人のメンバーを擁する大ギルドに入ってしまうと自分など見向きもされないだろう、と考えてワルツは内心ほっとしていた。
「じゃあ基本的な事を説明するね」グラントールは話しだした。
1、ギルドの目的はランドーク星帝がグレイス帝国時代にダンジョンの何処かに封印したとされる魔剣を探し出すことである。
2、ギルドメンバーは全て公平である。
3、稼いだ金額の1割をギルドに納める。
4、それ以外は自由。他のギルドのメンバーとパーティーを組むのも自由。
思ったより規則の緩いギルドだったが、目的が壮大である。
王国中に隠されているというランドーク星帝の剣は100年以上経った今でも誰も発見出来ていない。その存在を疑う者も居るが、ランドーク星帝はグレイス皇帝時代の最後に10振りの剣を世界の何処かに隠したとはっきり言ったので間違いはない。
しかし今では伝説となってしまっている。
◇
「あー、なんだか冒険がつまらなくなっちゃったよ」
オサムは一旦天空宮殿に戻りリムルと話していた。
「皇大御神様は無敵なのですから仕方のないことでしょう。とは言え世界を脅かすようなモンスターは創造しないでくださいね」
リムルはオサムの考えを読むのが上手い。先手を打たれてしまった。
「んー・・・やっぱりそうだよね、グレートドラゴンを超えるドラゴンとか作ろうと考えてたんだけどリムルがそう言うなら辞めとくよ。確か神に近いドラゴンが世界の何処かに居るはずだしね」
オサムにとってリムルの言葉は願いと同じである。それを無視することは絶対にない。人生を変えてまで自分と共に生きることを選んでくれた最愛の者だ。
「今はね、アズ・ダッシュって名前で冒険者をやってるんだけど気になる少年が居てね。俺が見た限りあの子は強くなる、ロードナイトかドラグーンになった上でスペルマスターの80を超えたプロミネントか、それ以上のグラガンにもなって最強のマジックナイトに育つ可能性があると思うんだ」
楽しそうに語るオサムをリムルはずっと見ていた。
「ティアソル以外にお楽しみを見つけたんですね、お言葉か嬉しそうです」
リムルは天空宮殿から出ることはないが、オサムの土産話を聞くのが好きだった。
「そうだね、ティアソルは予想通りの強さに育ったからもう良いや。3日程此処に居て、また行ってくるよ。宿を半年借りてるんだ」
そんな話をリムルに聞かせていた。
◇
「デグレ平原のダンジョンでも行ってみようか?ランシット君」
ライドと他の4人の合計6人のパーティーでということらしい。
「まずはこの俺、ソードマン、そしてシーフのドバリス・クークック、マジシャンでアルケミストのランデック・ヒューと買い物に行ってる2人。それにランシット君になる。デグレ平原のダンジョンは小規模ダンジョンだけど2階層からはオークが出るから1階層だけになるけどいいかな?」
ワルツはそれなら、ということで早速支度に取り掛かった。
「あと、宿代は今いくら払ってる?出来ればこの建物の部屋に移ってもらって会館の維持に使ってほしいんだが。部屋を見るか?結構広い間取りで月に銀貨1枚だけどどうかな?」
部屋を見せてもらうとワルツの今の部屋の倍以上はある。それにギルド会館には共用だが風呂もトイレもキッチンも有った。比較的新しい作りなのだろう。月に青銅貨10枚の追加出費なら申し分ない部屋だった。
「いいですね、こちらに移ってきますのでよろしくおねがいします。えーと、今の宿屋を後3週間と少し借りてるのですがすぐにでも移ってきます。とりあえず今日からということでこれ、銀貨1枚渡しておきますね」
ワルツは一旦宿に戻り、荷物を全部運んできた。往復で大体徒歩20分程度なので3往復してその後装備を固めた。
「とりあえず準備出来ました。お待たせして申し訳ありません、もう冒険に行けます」
その頃になると買い物に出かけていたという2名が帰ってきていた。
ギリアス・プラティネスというアーチャーとモリソン・ダーグバイムというドルイドである。
予定通り6人で出かけることとなった。
「いいか、最前衛は俺で補佐がランシット君、中衛はドバリスとモリソン、ランデックとギリアスは遠距離攻撃。もし傷を負ったらモリソンとランデックが回復だ」
デグレ平原を歩きながらグラントールは確認を行った。
「着いたね、絶対はぐれないように。ゴブリンとホブゴブリンだけしか出ないけど囲まれると終わるからね」
その言葉にワルツはアズのことを思い出した。100匹ものゴブリン達を一撃で屠った強者、一体何者なんだろう?
「入るよ、倒すことより倒されないことを重視。わかったか」
6人はダンジョンの入り口を通り抜けた。
◇
「失礼いたします、皇大御神様。西グリーシア王国の国王から使者が来ています」
図書室に専用で作らせた部屋に置いてあるカウチソファから上半身を起こし「どうした?」まだ眠い目をこすりながら跪くその男を見た。
「魔薬であるダイバーグラムの流通元が判明したとのことです。山奥に砦を築き交戦の構えをとっているらしく。敵は約500。ナイトやスペルマスターが300弱居るらしいのですが如何いたしましょう」
魔薬とはオサムがこの世界に来る前から裏で流通しているもので、眠りを阻害し気分を高揚させる一種のドラッグである。
「西グリーシアの軍では無理なのか?あ、そうか・・・では東方蒼龍騎士団と黒十字騎士団で一気に殲滅させるか」
各国軍隊は戦が無くなったためにかなり規模を縮小して警察機構となっている。そのためナイトが比較的少ない。
自分が直接行っても良いが、無闇矢鱈とこの世界で桁違いの力は使いたくはない。
「黒十字騎士団もですか!?星帝様の近衛騎士団ではありませんか、討伐程度でそのような・・・」
黒十字騎士団とはクイード達7名の近衛が年老いた後、黒狼騎士団から最強の10名を集めた時より始まるグレイス帝国皇帝近衛騎士団であり、現在のメンバーは59名のみだが全ての者が一騎当千の猛者たちである。
「えー!集まったのこれだけなの?皆ポータルリングもらってるでしょう!一瞬で王城まで戻れるはずよね」
ティアソル・グレイス・アレンリソート、皇帝一族の中で剣姫と呼ばれる黒十字騎士団団長が荒れていた。
オサムの曾孫になるが、ロレーヌの血筋に連なる者は総じて血気盛んでかなり強力なナイトが多い。中でもティアソルはハイ・ドラグーンでプロミネントオブスペルマスターでもある、最強とも呼ばれるマジックナイトだ。
ロレーヌの系統に対してリムルの子供達の中ではスウェンだけが飛び抜けた強さを持っていたのだが、リムルの性格を受け継いだのか主にジャッジマスターのレベルが高く各国の王を多く輩出している。性格も温和で対照的だ。
「ひいおじいさまに聞いてくる!エアフライト!」
勝手に天空宮殿に飛んでいってしまった。
「ひいおじいさま!ひいおじいさま!」ティアソルは王宮を歩き回った。
「ちょっとどきなさい!」止めようとする近侍や侍従を押しのけて「ひいおじいさま!」ついにオサムの部屋の扉を開けた。
「ん?その甲冑は黒十字・・・ティアソルか?どうした?討伐に行くのだろう?」
ゴロゴロとしていた自由時間を邪魔されたが、幼い頃から剣の修業をつけていたかわいい曾孫には怒れない。
「それですよ!それ!きちんと全員に連絡されたんですか!?半分も集まらないんですけど!」
なにやら苛立っているようだ。
「時間に余裕がある者は王都に集まれ、と命令を下したはずだが・・・ああ、今任務に付いている者は来ないぞ?」
黒十字騎士団は星帝の目であり耳である。全世界に散らばって情報収集を部下と共に行っている。
「えー!?私には必ず来いと連絡が来ましたよ」
オサムは頭を掻きながら
「だってお前は団長だろ?お前が居ないと困るじゃないか」
当たり前のことを言われてもティアソルは
「じゃあ最悪私しか来ない可能性もあったんじゃないですか、ひいおじいさまも手伝ってください。エクストラバスタースラッシュやマキシマムセイヴァースラッシュなら一撃です。フレイムキャノンやフレイムナパームで畑も焼けますし」
半径数百メートルを吹きとばし、一つの森を焼け野原にしろと無茶なことを世界の支配者に平気で言う。
「ちょっと待て待て。俺が出るわけにもそんな力を使うわけにもいかないだろ?んー・・・おーい!テギロットは居るか」
するとすぐに隣室のテギロットがやってきて「お呼びでしょうか、皇大御神様」と、膝を付いた。
「あのさあ、悪いんだけど近侍の者の中から強い奴をこのティアソルの騎士団に同行させてくれないか?諜報索敵や魔法も使えたほうが良いんでカロムやルバランのところからも出してもらってくれ。2~30人も居れば十分な戦力だろう」
「わかりました、早々に」テギロットは部屋を出た。
◇
「上々の成果だな。少し危険な場面も有ったが乗り切れた。ランシット君はレベルの割に戦い慣れてるけど一人でダンジョンに?まあそれは後でいいか」
ライドはダンジョンからの帰り道、満杯になったグランパープルのバッグを叩いて
「換金したら飲みに行くか、ランシット君の入団祝だ」
ランシットは照れながら「アズ・ダッシュという方に戦い方を教えてもらったんです、少しだけですけど。すごく強いマジックナイトでゴブリン100匹以上を一瞬で倒したんですよ」
今は何処に居るのかなあ、と考えながら「剣も頂いたんです」と笑った。
今日の狩りで仲間と呼べるものが出来、楽しい一日の終りを迎えた。