#4 才能
◇
時間は遡り。アズはオサムとしてまたテギレットと連絡を取っていた。
「青銅貨を持ってきてくれないか?手持ちは銀貨1億5000万枚と金貨1000万枚で少額貨幣を持ってくるのを忘れた。街で生活するには少々不便だ。あと店売り程度の武器がかなりあっただろ?全種類を1振りづつ頼む。人目を引かない普通のデザインのものをな」
しばらくするとまたシャールスが魔法車でやってきた。流石に夜ではないため飛んでくると目立ってしまうためだ。
「早いな。ご苦労だったシャールス。それでこのマジックバッグとマジックポーチに全部入っているのか?」
剣の類はマジックバッグで、青銅貨は小さなマジックポーチで持ってきたらしい。
「皇大御神様。剣はダガーからグレートソードまで100以上は入っております。青銅貨は枚数を聞かされておりませんでしたので1000万枚持って参りました」
オサムが確認し「そのようだな、青銅貨はこんなに必要無かったがまあ俺のミスだ、かさばらんしこれで良い。では戻って良いぞ」
シャールスは用件を済ませたため帰っていった。
「さて、ここは引き払って宿屋に移るか」
オサムは広すぎる部屋を出て道の向かいにある宿屋へ入っていった。
そこは1階が酒場で2、3階が宿になっておりローマンコンクリート作りになっている。うっすらと設計に携わった記憶がある。
宿屋の主人に銀貨12枚を支払い2階の部屋を半年借りた。
部屋へ入るとシャールスが持ってきたマジックバッグをひっくり返し、中身を全て床にばらまいた。
「ダガー、ソード、ファルシオン、スモールソード・・・」と壁に並べていき「これとこれでいいな」
ナイトレベル50のツヴァイヘンダーとカタナを選んだ。共に魔剣だが王都の武器屋でも売っている程度のものである。
だが耐久性に関してはビーツの作品であるため通常の魔剣とは比較にならない。
「ワルツに渡すのはこれとこれとこれ・・・レベルが低いか、じゃあこっちとこっちそれとこれらだな。魔剣も有るが大したものではないし混ぜておくか」
昼に話した準備をしてから明日を待つことにした。
常用しているデシタムールやセイヴァーダークなどのアタックが数千~数万有るとてつもない魔剣を持っていると、ふとした時に使用レベルから”アズ・ダッシュ”が何者か知られてしまう恐れがある。今はインペリアルセイヴァー用の剣を扱えるのは人間ではオサムだけになってしまっている。
ロードナイトやドラグーンも黒十字近衛騎士団や黒狼騎士団を合わせて50名も居ない。
オサムの力で通常の剣を振るうと破壊してしまう可能性があるが、ビーツの作品であれば手加減すれば問題無いという判断だった。
◇
ワルツは換金所にアズと来たが今回の稼ぎを使う必要は無いため貯蓄として銀貨1枚と青銅貨50枚を残して預けた。
「再鑑定してもらって来ると良いぞ」
アズに促され、ワルツは換金所の奥へと歩いていった。
その間コーヒーを飲んで待っていると、ワルツが戻ってきて
「ソードマンとマジシャンどちらにもクラスチェンジ出来るらしいです、そのため自動クラスチェンジが働かなかったと」
アズはやはり、と考え
「じゃあランシット君はどちらを選ぶんだ?」
とは言えもう決めている。ソードマンであった。
「はい、もうクラスチェンジしてきました。今はソードマンです」
そう言うのでワルツのレベルを見ると、ソードマンLv10になっていた。
「となると武器もレベルアップしたほうがいいだろうね、向かいの酒場が俺の宿なんで明日来てくれ、2階の1番奥だから間違わないと思う。人に見せるにはちょっと片付けないといけないんでな」
そう言うとアズは宿へと歩いていった。
ワルツはそれを目で追い、アズの宿を知ることが出来たため一旦自分の宿へと帰った。
次の日、ワルツは一旦換金所へ入って冒険者への依頼を眺めてみたが自分がこなせそうなものは無かったためアズの宿に向かった。
2階へ登り、一番奥の部屋へ歩いていくとアズが出てきた。
「おっと、もう来たのか?下の酒場でメシでもどうだ?」と、予定外の来訪に焦りながら対応した。
二人は下へ降りて軽く朝食を摂ると、アズは「10分位待ってから上がってきてくれないか?」
まだ片付け終わっていないため、急いで上がっていった。
ワルツは暫く待ってもう一度2階のアズの部屋へ上がっていき、ドアをノックした。
すると「いいよ、そのまま入ってくれ」と言われたので部屋へと入っていった。
「借りたばかりで部屋には何も無いけど君に俺の剣をあげようと思ってね、もう使わないから2~3持っていくと良い」
ワルツは壁に並べられた剣を見て
「新品みたいに見えますが、使ってたものなんですか?」
長めのブロードソードを手に取り「ソードマンレベル10の剣ですね。それとこっちは20ですか珍しい剣だな」
一振りずつ確認していった。
「殆ど使ってない新品も混じってるよ?使わない剣を持っていても無駄だからね。下取りしてもらうほどのものでもないし」
アズはそう言うが、状態が良ければ新品の2~3割程度では売れるのである。それが面倒なだけだった。
「けど、本当に良いんですか?バスタードソードやこの長いカッツバルゲル、クレイモアもありますよ、しかも店で売っているものより性能が良いです。ソードマンレベル1で持てるクレイモアなんて見たこと無いです」
ワルツは全ての剣を手に取ってはじっと見つめていた。
「そうか?それは知らなかったが、気に入ったのがあれば何本でも持っていって良いよ」
その間アズはワインを飲んでいた。城の地下で100年以上寝かせた極上のものだ。
酒にはあまり興味がないが、飲みやすいからと言う理由でウィスキーも年代物を飲むようになっていた。
酒は苦手だったが、Godsになってからはアルコールを含めた毒物はすぐに中和分解してしまうため酔うことはなくなった。紅茶やコーヒーと同じく味わっているだけである。
1時間も悩んだ頃、ワルツは8本の剣を眼の前に置いていた。
「うーん・・・どれも良いな。片手剣はカッツバルゲルとファルシオンとして、やっぱりメインはクレイモアかバスタードソードか悩むところだなあ」
独り言のように呟いているがしっかりと聞き取れる。
「悩むなら必要なだけ持っていけば良いぞ?」
アズが言うと
「え?良いんですか?こんなに?」ワルツは驚いた。
「使わない剣だと言ったろ?俺の勘なんだけど君は良いマジックナイトに成れると思う、そのためには早い時点でいい武器を持っていたほうが成長が早いよ」
以前のようにビーツが打った極上物の魔剣やレアアイテムを使った甲冑を渡してクイード達にやらせたことまでは出来ないが、通常の武器や低レベルの魔剣ならば問題はない。新しく作った魔法体系やクラスの組み合わせをオサムは知りたかった。マジシャンとソードマンの素質があるというのであればこの少年の将来を見てみたいと考えていた。
結局8本の剣を麻の袋に入れて持って帰らせることにした。
「重いだろうし俺も半分持つよ、宿は近いのか?」
二つの袋の内重い方を軽々と持ってアズは立ち上がった。
「君の宿も覚えておきたいしね」
これは嘘ではないが、レベル10程度のソードマンは弱いと思われるために荷物を奪われる可能性がある。王都の治安は7大騎士団の一つ白鷹騎士団とその配下の21騎士団、それに属する兵士がかなり厳しく守っているのだが、それでも1000万を超える人口を持つ他に例のない超巨大都市であるグレイシアには犯罪集団や秘密結社とでも言うべき者達が多数居ると聞いていた。
窃盗程度はかなりの頻度で起きている。
5分程歩くとワルツの宿に着いた。東門近くの宿屋とは言え、こんなに近いとはアズは思っていなかった。
「近いな、換金所や門に近い宿屋は高くなかったか?確か1日10セント青銅貨1枚、1月借りると銀貨2枚位だったか?」
金銭に疎いアズにはどうでもいいことだが、田舎から出てきたワルツには高いだろう。もう少し奥へ行けば1月30セントでも宿はあると知っていた。
「えっと、部屋が狭いんですよ、かなり。立地は良いんですけど1人で眠るのがやっとの部屋でベッドと机とイスくらいしかありません。アズさんの部屋のように水道も通っていませんし、風呂もありません、トイレも中庭にある共用のものなんです」
アズの部屋は1月2銀貨だが、かなり広く専用のトイレも風呂も付いている。そういうことか、と日本に居た時のことを思い出して「そういうことなら納得だな」と答えた。
100年前位に画一的に作った宿屋で設計したのは当時の王であったオサム、つまり今のアズだ。冒険者用に簡易的に作られた宿の一つであった。
それに対してアズが泊まっている宿屋は設計士が高級なホテルとして実験的に作ったもので新しく、華美ではないが機能はしっかりしている。
「剣、ありがとうございます。部屋見ますか?」
ワルツが扉を開けて中を見せると、4メートル四方の小さな部屋だった。
「キッチンも何もかも無いな。俺が昔暮らしてた部屋より狭いかな。けど一人で寝るだけなら十分だね」
アズの大昔の部屋は8帖程度の1DKで簡易なキッチンとユニットバスだったので、そう狭くは感じない。
それに屋敷を与えられていたにもかかわらず野宿やダンジョン内で睡眠を取ることが多かった。今でもメラススの塔やアレシャルの塔、ムーラの塔に行くと街へ帰る手段が有るにもかかわらずダンジョン内で眠ることが多い。
「立派とは言えないけど、始めはこのくらいでも十分だな」
初級冒険者であれば荷物も少ないしこの程度で良いだろうと思った。
しかしソードマンとマジシャンの才能があるという田舎の少年にアズはかなり興味を持った。
王国配下にある騎士団や法術士団の中にもマジックナイトは極めて少数しか居ない。
「それで、鑑定の結果をもう一度教えて欲しいんだけど、ソードマンとマジシャン両方の素質があるだったか?」
ワルツに確かめるように言うと
「そう言われました、あと成長加速のギフトを生まれつき持っているとも言われました。遅咲きのなんとかとか言ってましたね」
その言葉でアズは思い当たることがあった。自分自身のことである。
エリトールの時から武器や防具のせいもあって2ランク3ランク上の敵を単独で倒していたためにレベルアップが早いのだと思っていたが、もしかすると自分にもそのギフトがあったのかも知れない。
同じ様に戦い鍛えていたクイードたちは明らかに自分よりも成長が遅かった。
それに長男スウェンの成長の速さには目を見張る物があった。
「ふむ」とアズは呟き、謎が一つ解けたような気になり「じゃあ今日のところはこれで失礼するよ、何かあったらまたなんでも訊いてくれていい。俺は多分明日から2~3日街を留守にするから帰ってきたらね」
そう言い残してアズは自分の宿へと帰っていった。
ソードマンのレベル10ならポーションさえあればダンジョンの入口付近で一人でなんとかなるはずである。
それに同じ程度のレベルのソードマンやシーフ、モンクやマジシャンともパーティーを組めるだろう。
アズが見た限り前衛としてある程度使えるようにはなっているので心配はしていなかった。
自分が王宮を出たのは遊ぶためであり、塔や大規模ダンジョンをクリアするためだ。
新しく作った剣技と魔法を試すためでもある。ということでアズはまず最難関の一つ、アレシャルの塔へ行くことにした。