今年の夏が暑かったから……
今年(2018年)の夏が暑すぎたから、思いついたものです。
サラッとお読みくださいな。
今年の夏は例年にない暑さだった。毎日、ニュースでも異常な暑さと騒いでいた。
熱中症患者が病院に運ばれたとか、室内でもエアコンをつけて水分を取り、うんちゃらかんちゃらと広報無線でも注意を促していた。
かくいう私も暑さにやられてしまい、寝付いてしまったのだ。
今日も何とか夕食の支度を終えて、少しだけ横になろうとしただけだったのに、いつの間にか眠ってしまっていた。人の気配に目を覚ました私は、心配そうにのぞき込むあなたの姿に気がついた。私が目を覚ましたことに気がついたあなたは目元を綻ばせた。
「お帰りなさい、あなた」
そう言って私は体を起こした。あなたと視線を合わせてニコリと笑顔をみせた。
「ごめんなさいね。いま夕ご飯の支度するから」
体にかけていたタオルケットを畳んで立ち上がろうとしたら、肩に手が置かれた。
「いいから、休んでいなさい」
あなたの言葉に私は布団の上に座り直した。気遣いからだとわかっているのに、私は少し項垂れ気味になりながら言った。
「こんなんじゃ駄目ね。何にもできないのですもの」
立ち去りかけたあなたは戻ってきて、私の顔に両手をあててきた。そのまま顔を挟みこむようにして……。
「いた~い。痛い、痛い~! 何するのよ~!」
こめかみに拳をあてられてグリグリとされた私は叫んだ。
「今の台詞はどこから出てくるのかな?」
「痛いってば! 放してよ。本当のことでしょう」
やっと放してくれたあなたは、笑顔を浮かべた。その顔にゾクリとする。笑ってない目で私のことを見てくるのだもの。
「何もできないというのは、布団を干したり、シーツを干したり、タオルケットを干したりしていた人のことじゃないよな?」
「えっ、それは……だってねえ」
「ん?」
笑顔が深まったけど、その顔は怖いから~。
「だってえ~、ここのところ暑いじゃない。寝ていると汗をかくでしょう。今日だっていい天気だったから、布団を干したくなったっていいでしょう」
「ああ、いいよ。普通にただ干したのなら」
笑顔だけど……笑顔だけど、怒ってる? なんでよ。
「普通に干しただけじゃない。布団を干すならシーツも洗濯するわよね」
「だから、そこはいいんだよ。だけど、なんで1時間で布団をひっくり返すのかな? そのあと、1時間後に室内に布団を入れて、少し熱を冷ますために広げておいたと聞いたけど?」
「えっと、誰に?」
「娘からだよ。というか娘にやらせればいいだろう」
笑顔を消して怒り顔になったあなた。なんか本気で怒ってない?
「いや、だってさ、娘にやらせるのは悪いでしょ。勉強を頑張っているんだし。それにそんなに手間ではないんだし……」
怒っている顔が怖くて言葉はしりすぼみになる。
「どこがだ。スマホを弄ってばかりで、宿題が進んでないと聞いたぞ」
娘~、自分で話すな~。
そう思ったら、あなたはジトーと私の顔を見つめてきたのよ。
「お前が昨日話したことだろう。さっき娘に今日の様子を聞いたら、あまり進んでないと言っていたからな」
「……それでも、私は主婦なんだし、あなたは仕事に行っているのに、甘えてられないじゃない」
シュンとしながら言ったら、あなたからは盛大なため息が聞こえてきた。
「お前は自分の体調を考えろ。起きているのが辛いやつがそんなことをするな」
「でも、午前は大丈夫だったもの」
「さっきまで眠っていたんじゃないか」
「今日はたまたまだもん」
「たまたまで、息をするのが苦しいなんて言うか!」
「それもたまたまだって」
「動悸、息切れも」
「……更年期だから」
「更年期とは違うと自分で言ったのに?」
言い返す言葉が見つからなくなり黙ってしまったら、またあなたのため息が聞こえてきた。
「……わかった。おとなしくできないのなら、強制入院させてもらうように、先生におねがいすることにしよう」
「横暴―!」
「それなら、何もしなくていいからおとなしくしていろ!」
そういうと部屋を出て行ってしまったあなた。私はため息をハア~と吐き出した。
たまたまが重なっただけなのに、過保護すぎるわよ。それもこれも……。
「それもこれも、今年が暑すぎるのが悪いんじゃないー!」
私の叫びは空しく響いたのだった。
モデルはいませんからね。
間違っても……のことじゃないですからね。
あまりにも暑すぎたから思いついただけなのよ!
(言葉を重ねるほど嘘くさくなるのはなんでだろう?)