あいづち
不意に、何もかもに絶望する時がある。
例えば見上げた空がやけに浮いた青だったり、拗らせた喉風邪の痛みが引かない朝だったり、誰にも連絡のつかない真っ暗な夜更けに、その絶望はぬっと顔を出してわたしの耳元で薄い声で囁く。
「もうやめましょう。」
その声は、昔別れた男の声にも、死ぬ直前に祖母が出した掠れた声にも聞こえる。どこか記憶に引っかかる声は、何度も同じ言葉を囁く。
わたしは耳を塞ごうとするけれど、そうすると決まって右手首が重たくて持ち上がらない。なんとか上げた左腕で片耳だけ塞ぐと、右耳からだけ絶望が聞こえる。悲しくて、やりきれなくて、泣きたくなるのになく気力すらそんな時には残っていないのだ。
そうして結局、相槌を打つ。
そうだね、やめてしまおうか。
この生命力が少ない薄い体で、もう随分頑張ったじゃないか。
右手首が重たい。痛い。
昔の古傷がじわじわと血を流し始める。
実際はそんなことなんてないのだ。
ないのに、確かにそこには生温く、やけにおどろおどろしい赤い液体が流れているような気になる。
相槌を打っている間に、ささやき声は震え始める。
「もうやめてしまいたいのに…」
その声が自分のものだということに、わたしはどことなくぼんやりと気づいている。
やめたいけど、やめられないのだ。
もう中途半端な歳まで生きてしまったから、その気力も活力も残っていないのだ。
古傷を眺めながら、なんであの時死んでおかなかったのかと、恨み言を思う。
そうして相槌を打つ。
相槌を打ちながら、やがて絶望はぽっかりとそこに隙間を残して逃げてしまう。
眩しい朝焼けの中、その隙間を眺めて、わたしは相槌を打つ。この間抜けな拍子が、その隙間を埋める何かを作ってくれないかと期待する。
相槌だけが間抜けなリズムで、コツ、コツと残る。
コツ、コツ、と。