一方その頃現世では ~ ルーはフェンリルに出会った もしくは 親たちのわるだくみ
家族から新年早々干支の猪を大量殺戮するとはなにごとか。縁起が悪い。
と、怒られました。
ちょっとだけ反省。
フェンリルだ。フェンリルがいる。
白と黒のモフモフ。
体育館くらいの部屋の真ん中に、フェンリル様が鎮座ましましていた。
顔は私の倍、いや二回りは大きい。
足も太い。
お座りをしているが、頭のてっぺんが私の首辺りまである。
フワフワのモフモフ。
なんて綺麗な生き物だろう。
「アロイス、僕の大切な友達を紹介するよ。ルーって言うんだ。ルー、僕のアロイス。よろしくね」
「まさかフェンリルを飼ってるなんて・・・。すごいわ、アル」
私がそう言うとアルは大笑いして言った。
「確かに狼の血は残してるけど、この子はアラスカンマラミュート。れっきとした犬だよ」
「犬・・・犬なの ? こんな大きくて立派な犬って見たことない。あの、触っても大丈夫 ?」
私は犬の方のアロイスの前にしゃがんで「お手」と言ってみた。
ポコン。
あの、なんで私の頭にあなたの前足が乗っているんでしょうか。
今度は「おかわり」と言ってみる。
ポコンともう片方の前足が私の頭に乗る。
これは一体どういう事でしょう。
「犬とか猫とかは、自分をその家族の一番下の人より一つ上の身分だと思うらしいんだ。今まで一番下って判断していたのは世話係だった人。ルーはその後にきたから・・・」
「家族の内でも最弱と判断されたのね」
「そういう事」
あ、でも家族って思ってくれたのね。
私は改めて犬の方のアロイスの太くて大きな前足と握手してよろしくと言った。
「それにしてもここはお犬様専用のお部屋 ? 広いわねえ、私のマンションが丸々入りそう」
「中庭と使っていなかった部屋を繋げて作ったんだ。大型犬だから走り回らないといけないからね。戦前の作りで無駄に広いから出来たんだけどね」
「これなら雨が降っても走れるわね。でもこの子とどこで知り合ったの ?」
「保健所の保護センターだよ」
保健所って、保護って言うけど何日かするとサヨナラさせちゃうあそこ ?
「中学の入学祝に何が欲しいかって聞かれて、犬を飼いたいって言ったんだ。そしたら父が連れて行ってくれた。成犬もいたけど、やっぱり子犬から一緒にいたかったから、生後すぐのこの子にしたんだ。まさかこんなに大きくなるとおもわなかった。犬種もシベリアンハスキーのミックスだと思ってたし」
「なんで犬種がわかったの ?」
アルがアロイスの肩のところを指さした。
「ICチップが入ってた。動物病院で検査してもらったらわかった。飼い主さんに連絡したら迎えに来てくれたんだけど、お願いして譲ってもらったんだ。あちらも何匹も生まれて譲渡先をさがしてたからちょうどいいってね。今も年賀状のやり取りをしてる」
「へええ、そんなこともあるのね」
ふいに犬のアロイスが私に何か押し当ててくる。
「遊んで欲しいんだって。そのボールを遠くに投げてやって」
「うんっ !」
私たちはそのまましばらく楽しく二人と一匹で遊ぶことにした。
◎
「手、繋いでましたね」
「繋いでいましたね、普通に」
「あれでお付き合いしてないって言うんですか」
子供たちを見送った親たちはあきれ返っていた。
「世間ではあれを付き合ってるというんだと思うんですがね」
「うちの娘、そういうところに鈍くて」
「うちの息子もどうも奥手で」
「あら、そんなことないわよ」
七海が挙手して発言する。
「弟はめぐみちゃんにベタ惚れです。気づいてもらえないから我慢しているだけです」
「あら、七海さんはご存知 ?」
「ええ、初めて会った時からバレバレです。本人それを隠す気もないみたいだし」
二組の夫婦は顔を見合わせた。
「・・・佐藤さん、お嬢さんを息子の嫁にいただけますか」
山口父は一口お茶を飲み、フゥっと息を吐く。
「実は娘から話を聞いて、失礼ながら色々と調べてもらいました。もちろん興信所などではなく、知り合いからですが。伝手を頼って学院祭にもこっそり行きました」
「医師や看護師、リハビリ担当者から入院中のことを聞くことができました。息子は病院には出入りさせていませんから、私の子だと知るものはいません。偏りのないお話です」
佐藤両親はあらまあと顔を見合わせた。
「目が覚めてからのリハビリの頑張り。思うように動けないのに愚痴一つ言わずに笑顔でこなして、周りに対して感謝と気遣いを忘れず、今時こんな模範的な患者様がいると驚いたといいます。毎日通っている彼氏というのがうちの愚息とは思いませんでしたが」
「学校でも夏休み中意識不明だったにも拘らず、課題は全て提出。学院祭でも大活躍。素晴らしい踊りでした」
「どなたにうかがっても清楚でまじめで申し分のないお嬢さんです。おまけに息子が惚れているとなれば、ぜひともご縁をいただきたいと思います」
山口夫妻はそろって頭を下げた。
「大変ありがたい御話だと思います。ですが・・・」
「ご無理でしょうか」
佐藤両親が待ったをかける。
「ただ、娘の将来は本人に決めさせたいと思います。したいことを妨げることだけはしたくありません。病院に嫁ぐのだから医療関係、もしくは経営関係の大学に進めと強要したくはないのです」
「私たちには娘に対して後ろめたい気持ちがあります。母である私が仕事をするために寂しい生活を押し付けてしまいました。私は双方の両親の協力のおかげで今も好きな仕事を続けることが出来ています。ですからリタイア後は娘の選んだ道を応援していきたいと思っていますし、娘の配偶者、そのご両親にも同じようなサポートをお願いしたいと思っているのです」
今度は山口両親が顔を見合わせる番だった。
「私共は波音が医師にならなくても良いと思っています。もちろん医師として勤務し、理事長になるのが理想的ですが、名前だけの長であってもかまいません。要は地域のためにこの病院が存続することが大切だからです。もちろん配偶者にも医療関係の職業についていただく必要も感じていません。ただ、波音が好きな相手と幸せな人生を送ってくれることが一番なのです」
佐藤母は冷え切った茶で喉を潤す。
「娘の望まない結婚はさせません。親や周りに勧められて何となくというのも問題外です。ですがご子息以上の異性と出会える可能性は、あの子の性格から限りなく低いと思います。ですから、ここは・・・」
「ここは ?」
「本人たちの意思で決定するように両家が協力して、10年計画で上手く華燭の典につなげた方がよろしいかと」
「なるほど。あくまで二人が自分たちで決めるように誘導するということですな。さすが日本のキャスリン・ジェインウェイと言われる方だ」
「いやですわ。お恥ずかしい」
ルーの母、二つ名をもっていたらしい。
その時ドアがノックされ、渦中の二人が入ってきた。
「父さん、二人でアロイスの散歩に行きたいんだけど」
「まあ、めぐみさん。アロイスと仲良くなったの ?」
「はい、おばさま。一緒に遊んでくれました」
山口母は嬉しそうに立ち上がるとルーの手を取った。
「おば様なんて、七海の妹分なんですもの。私には娘も同然よ。どうぞお母様って呼んでちょうだい。お願いよ」
「は、はい・・・」
「なら私はお父様がいいな」
「では波音君、自分のことはお父さんで」
「じゃあ私はお母さんね。息子が出来たみたいでうれしいわ」
釈然としない表情のルーを連れ出すとき、アルが後ろ手でブイサインをしたのを親たちは見逃さなかった。
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