アンシアちゃんという15才のお嬢さんがまた迷子になっています
明けましておめでとうございます。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。
精一杯がんばりますので、本年もよろしくお願いいたします。
冒険者のみんなと森の中を進む。
下草が邪魔なので、ご家庭用電動草刈り機のイメージで刈りながら走る。
「・・・また禄でもない魔法を覚えやがって」
「ちがいますー。これはギルマスの使ってたのをマネしたんですー」
「ギルマスまでルーに毒されたか」
なんて失礼な。
文句をつけようと思ったら、頭の中で何かが光ってる。
「ルー、どうしたの。また何かわかったの」
アルが急に立ち止まった私に声をかけてくる。
私の頭の中には森の地図が浮かんでいた。
白い光がゆっくり街に近づいてくる。。
そのずっと後ろに多数の赤い点が見える。
そしてその点は物凄いスピードで白い光を追っている。
「アンシアちゃんがあぶない・・・」
これをみんなに知らせなくちゃ。
騎士団の人たちは馬に乗ってるから、急げば間に合うかもしれない。
でも私たちは直線に進んでいるけど、あちらは結構くねった街道を行ってる。
それにかなりばらけて進んでいるから、全員にこれを知らせる方法がない。
どうやって知らせたらいいんだろう。
考えろ。
絞り出せ。
◎
ヒルデブランドには三つの公的部隊がある。
市民の生活を守る市警団。街への出入りや城壁などからの警戒を担当する警備隊。
そして三つ目のダヴィルマール騎士団は街全体を守護する。
毎年秋の終わりに南の温かい地方へと、動物たちが渡りと呼ばれる移動をする。
中には危険な大型の魔物もいるため、ヒルデブランドでは冒険者ギルドとも協力し、合同訓練と称して魔物たちの討伐や街に近寄らないよう誘導したりしている。
しかし今回はそれに加えて森に迷い込んだ少女の発見救出がある。
万が一渡りと遭遇したら悲惨な最期が待っている。
一刻も早く発見しなければ。
道を外れている可能性も考え、森の中を確かめながら進む。
あまり距離は稼げないが仕方がない。
その時ピンポンパンポンときれいな音が鳴り響いた。
騎士たちは馬を止め周りを見回す。
「敵襲か ?」
「隊長殿、今の音はなんでありますか」
ざわめく騎士たちの上でもう一度音楽がなった。
「合同訓練に参加中の皆様にご案内もうしあげます」
きれいな少女の声だ。声の主を探すが、姿が見えない。
「保護対象は現在鐘二つの場所から徒歩で街道を街に向かっています」
見つかったのか。不思議な音楽と声に身構えていた騎士団だったが、居場所の判明にホッとする。
しかしつづく言葉に凍りついた。
「保護対象の後方に100体以上の魔物を発見しました。かなりの速度で対象に近づいており、接触は鐘一つ後と予測されます。訓練に参加中の皆様は十分ご注意の上保護対象の元に急いでください。くりかえします。保護対象は魔物に襲われる可能性があります。至急の保護を・・・イタタタタッ・・・お前またしょうもない魔法をっ・・・これしか思いうかばなかったんですぅ・・・ちったあ真面な魔法を覚えろってあれほど・・・兄さんたち、もれてます、ただもれです・・・ブチっ」
「・・・」
「・・・」
「・・・よし、全速で保護対象に向かう。続けっ !」
「ハッ !」
隊長は後半部分を聞かなかったことにして、脱力しかかった団員たちに活を入れ馬を走らせるのだった。
◎
「なんだって突拍子もない魔法ばかり開発してるんだ、お前はっ !」
「だって全員に情報知らせるのに迷子の放送しか思いつかなかったんですもん !」
「だからといってあの音まで再現しなくてもよかろうがっ !」
「あれがないと館内放送じゃないし !」
「だーかーらっ ! そもそも館内放送である必然性はないっ !」
下草刈りながらガンガン走る。
兄様ズは走りながらも叱ってくる。
エネルギーの無駄遣い。
今私たちは魔法を使ってかなりの速度で走っている。
体感として時速30キロくらいかな。
エイヴァン兄様とアルははじめこの魔法を知らなかったけど、私のイメージするところを説明するとすぐにつかえるようになった。
草を刈りながら、木を避けながら、アンシアちゃんの元に一直線に走っていく。
間に合うだろうか。
いや、間に合わせないと !
◎
大きな石を背にして、なすすべもなくあたしは震えている。
周りは全て一角猪に囲まれている。
こいつらは静かに少しずつあたしに近づいてきて、気が付いたときには逃げ場を失っていた。
魔法を使って逃げようと思ったけど、口がうまく動かない。
魔法を発動させる詠唱は正確な発音ではっきり言わないといけないのに。
泣いてしまいたい。
でも、わかってる。
あたしが少しでも逃げることを諦めたら、こいつらは一気に飛び掛かってくる。
声が出ない。
腰が立たない。
でも、負けるわけにいかない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
誰か助けて誰か誰か・・・。
「ルウゥゥゥゥゥッッ !!! 助けてぇぇぇぇっ !!!!!」
あたしは思いっきり対番の名前を叫んだ。
「はーいっ、いっきまーすっ !」