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冒険者への第一歩!

「ラスさんちはここよ!」


自信満々で一軒の家を指さした私に、アルはおやおやという顔をする。


「いいのかい。確かめた方がいいんじゃない?」

「いいえ、ここでいいの。ごめんくださーい」


止めようとするアルを無視して、私はその家の扉を開けた。カギ、かかってないや。


「はじめまして、ラスさん。ルーといいます。冒険者ギルドからお届け物です」

「はいはい、久しぶりのフカさんだね」

「フカじゃないです。ルーです」


 奥から出てきたおばあさんはニコニコと小さな箱を受け取った。


「よくここがわかったねえ。みんな大体一日目の夕方近く。早くてもお昼過ぎなんだけどね」

「そうだよ。どうしてわかったんだ」


 アルが不思議そうに聞いてくる。


「アルって算数の文章題苦手だったでしょ」

「うっ、なんでそれを!」

「物語とか読まない人は文章題が苦手なの。ヒントは全部文章の中にあるのに、数字とかだけに注目しちゃうんだよね。肝心のところを読み飛ばしちゃうの」

「それがなにか関係あるの?」

「大あり」


 私は依頼書をヒラヒラとふった。


「アル、自分の時は駄菓子屋のラスさんを探してたんじゃない?」

「あ、あぁ、そうだったよ」

「でもこの依頼書には駄菓子としか書いてない。この通りにお店はない。ってことは、ラスさんはお店に卸す駄菓子を作っている人だと思ったの。そしてこのおうちからはすっごい甘い匂いがした。簡単な推理だよ、小林くん」

「誰だよ、小林くんって。そっか、そういうことか」

「依頼書はよく読むんだよね!」


 ウーンとうなるアロイスに、私は思いっきり偉そうに胸を張った。


「お疲れさん、依頼書にサインしたから、ギルドに帰るまでなくさないようにね。次はこの包みを東のさいしょのノルンさんのところに頼むよ」

「わかりました。あれ、依頼書はないんですか」

「ないよ。代わりにさっきの依頼書にサインをもらうんだ」


 情報なしか。どうやって探そう。と、大きな袋が押しつけられた。


「お駄賃だよ。うちで作ってる棒付きキャンデーだ。美味しいよ』

「ありがとう、ラスさん」

「上手に使うんだよ」

「?」


 それから私たちはもくもくとノルマをこなした。

 東の最初のノルンさんは駄菓子屋さんだった。ラスさん、ここにお菓子を卸してたんだね。ミニチョコをもらった。

 次のレイナルドさんは帽子屋さん。頭のサイズを測られた。

 四番目はヤニス洋装店。ここではバッチリ採寸される。

 新人さんの採寸の練習なんだって。

 五番目はジュエリー・キネタ。ギルドの正面なんで分かりやすかった。

最初のラスさん以外は名前と住所だけがたよりだったけど、ここでラスさんにもらった棒付きキャンデーが良い仕事をしてくれた。


「ぼくぅ、ノルンさんち知ってるぅ?」

「知ってるけど、お姉ちゃん、フカさんでしょ。教えてもいいのかな」

「フカさんじゃなくて、ルーお姉ちゃんです。教えてくれたらお礼にキャンデーあげる」

「あ、それラスおばあちゃんの。わかった。ついてきて」


 と、言うように、街の子供たちがワイワイ集まって案内してくれた。

 上手に使えって言われたけど、こういうことね。

 おかげでサクサクと依頼は進み、ここまで街の東半分を行ったり来たり。そろそろお腹も空いてきた。


「一休みしてもいい? 少し疲れちゃった」

「そうだね。お昼にしようか。僕もお腹がすいた」


 広場の近くのオープンテラスに座ると、まだ何も注文していないのに大きなお皿が出てくる。


「いらっしゃいませ。こちらはフカさん専用のプレートランチになります。お代はギルドからいただいておりますのでご心配なく。ごゆっくりどうぞ」

「・・・だからフカさんじゃないって。あ、美味しそう。いただきまーす!」


 白いお皿にはサラダ、ハンバーグ、ソーセージ、卵、そして小さめの丸いパンが2つ乗っている。

 大きなコップに給仕のお姉さんが何かのジュースを注いでくれた。


「美味しい! お残しなしで食べられそう」

「こっちで食べ過ぎてもあちらには関係しないから、しっかり食べるといいよ」

「そうなんだ。じゃあお菓子とか食べ放題だね」

「こっちで食べたものはこっちの体に返るから、食べ過ぎたら当然太るよ」

「げ、やばい。よし、食べた分動こう。次は西のさいしょのキンバリーさんだったね」


 ごちそうさまを言って私はいきおいよく席をたった。



 と、ある酒場。

 昼間っから飲んでいる奴らがいる。

 名誉のために言っておくと、彼らは徹夜の護衛依頼明け。これは昼酒ではなく晩酌である。


「おい、今度のフカ、もうチュートリアルの半分を終わらせたんだと」

「今朝ギルドにいた女の子だろう。対番はアロイスだったか?」

「キンバリーの酒蔵に向かっているそうだ。こりゃあ最短記録更新か?」


 カウンターで飲んでいた男がフンと鼻を鳴らす。


「聞きましたか、兄貴」

「ああ、小娘が張り切ってるな」

「兄貴の持つ最短記録一日半をやぶろうとは。生意気ですね、フカのくせに」


 並んで座っていた大柄な男はグイッとジョッキの中身を飲み干した。


「そうだな。ここは人生の先輩として、この仕事の辛さを少々教えてやるのもいいかな」

「まったくもって、その通りです。鉄は熱いうちに打て、ですね」


 それ、今つかうことわざじゃないから。

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