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いたずらっ子にはお仕置きを

 アンシアちゃんが探索のチュートリアルを終了させた。

 二日酔いで寝込んでいた日は自己都合ということで七日かかったことになる。

 でも普通は平均して六日半で終わらせているので、まあまあいいんじゃないかしら。

 翌日は私の淑女教育の日だったけど、なぜか延期になった。

 モモちゃんに蹴られた跡が消えないから恥ずかしいという連絡をもらった。

 そんなわけで、今日もアンシアちゃんのチュートリアルだ。

 本来であれば対番会が開かれるはずだけど、ご老公様の都合と、アンシアちゃんの今のやる気を落としたくないということでまた今度になった。

 真面目ないい子だなあ。

 今度のチュートリアルは護衛。

 採取のチュートリアルは、まだ雑草が生えきっていないということで、一番最後になった。

 うふふ、私、頑張って一杯根絶したものね。


「アンシアちゃん、しつこいようだけど、依頼をこなす上で大切なのは ?」

「勝手に解釈しないこと」


 わかってるね。大丈夫だね。

 今回の依頼はお子様をお友達のお家まで連れて行って、夕五つの鐘までに送り届けるというもの。

 アルが失敗したやつだ。

 だから、どんな感じになるかわかる。

 アンシアちゃんはどう対処するのだろうか。

 二人で指定されたお屋敷に向かう。


「こんにちは、お姉さん」

「こんにちは、マクシミリアン君。君が今日の護衛対象 ?」


 小ぶりだが手入れの行き届いた邸宅。

 私たちは裏の使用人用の扉から入って案内を乞う。

 護衛対象が大人の時には正面から入るのだが、今日は子供相手。

 護衛に来たぞと見せびらかし威嚇する必要がないのだ。


「はじめまして。アンシアと申します。今日一日護衛を務めさせていただきます。よろしくお願い申し上げます」


 アンシアちゃんは教えられた通り丁寧に挨拶をすると、ポケットから依頼書を出して確認する。


「本日はご友人のお宅までお送りし、夕五つの鐘が鳴り終わるまでにお届けするということでよろしいでしょうか」

「はい、それでは坊ちゃま、いってらっしゃいませ」 


 年のいったメイドさんがバスケットをマクシミリアン君に渡す。

 お友達へのお土産らしい。

 

「ではお預かりいたします」

「坊ちゃまをよろしくお願いしますね」


 お友達の家は通りを二つ挟んだ向こう側。

 お屋敷街なので一軒一軒が広い。

 そんなお上品な通りを冒険者二人を引き連れて、マクシミリアン君は堂々と歩いていく。

 ときおり追いかけっこで顔見知りになった奥様方やメイドさんに挨拶される。


「そうだ。マクシミリアン君、この間はバスケットをギルドに届けてくれてありがとう。どこに置いていったのかわからなくて困っていたの」

「びっくりしたよ。お姉さん、急に走っていっちゃったんだもん」

「ごめんね。でも助かったわ」


 ニコニコとおしゃべりする私たちと違い、アンシアちゃんは黙って後をついてくる。

 ときおり左右を確かめるように顔を動かす。

 安全確認をしているのだろう。

 つかず離れず。護衛の基本だ。

 私もこういった護衛がしたかったなあ。

 そうこうしているうちに目的のお友達のおうちについた。

 豪邸だ。

 アンシアちゃんがノックすると、執事服の中年の男性が現れた。


「いらっしゃいませ、マクシミリアン様。お嬢様が楽しみにお待ちしておりますよ」

「お邪魔するよ。これはお土産。後でお茶と一緒に出してもらえる」

「かしこまりました」

  

 籠を家の人に渡すと、マクシミリアン君はスタスタと中に入りくるっと振り返って言った。


「今日はここに泊まるから、明日の朝迎えに来てね。じゃっ」

「「は ?」」


 目の前でドアが閉まり、カギをかける音がする。

 これだ。アルがやられたやつ。

 翌朝迎えにくると、もう帰ったと追い返されたって言ってたな。

 さあ、アンシアちゃん、どうするの ?


「・・・確認する」

「確認 ?」

「本当にこの依頼内容で間違いないか、一度戻って聞いてみる。変更があったら依頼書を書き直してもらわないといけないから」


 そこで家から出ないように見張っててとアンシアちゃんは駆け出していった。

 方向音痴は解消されたようだ。



 しばらく待っているとアンシアちゃんが息を切らせながら帰ってきた。


「確認してきた。依頼内容に変更はなし。予定通り夕五つの鐘までに連れて帰って欲しいって」

「お疲れ様。で、どうするの」

「ここにいると怪しまれるから、裏口で待機する。夕四つの鐘が鳴ったら突入して確保。そのまま自宅まで連れて帰る」


 アンシアちゃん、なかなか過激な方法をとるな。

 とりあえず夕四つまでは見張る以外にすることがないので、私はお昼ご飯や飲み物を買ってきた。

 お取り寄せで出してもいいんだけど、ここで稼いだお金はここで使って経済を回さなきゃと思う。

 それにまだどれが出して良くてどれを出しちゃいけないか曖昧なんだよね。

 でもこのチュートリアルが終わったら、アンシアちゃんとケーキで女子会しよう。


 そんな感じで食べたり飲んだりしているうちに昼三つの鐘がなった。次が夕四つだと思っていたら、裏の通用口が静かに開いた。


「こんなところからのお帰りでよろしいのですか」

「いいんだよ。きっと見えないところで見張っているだろうし、こっちから出た方が安心だよ」

「マクシミリアン様、またいらしてくださいね。絶対ですよ」


 道より数段低くなった通用口から先ほどの男性と可愛らしい女の子の声がする。

 この家のお嬢様だろう。

 護衛対象は紳士っぽくお嬢様の手に軽くキスをすると、先ほどのバスケットを受け取って軽やかに階段を上がってくる。

 そこを鬼の形相のアンシアちゃんが出迎えた。

「お帰りですか、お坊ちゃま。約束の時間には早いようですが」

「な、なんでこんなところに」


 アンシアちゃんはマクシミリアン君の持っていたバスケットを取り上げるとヒョイと私に渡す。

 ちょっと重い。お(うつ)りで何か入ってるみたい。まだ家の人がそこにいるから聞いちゃおう。

 

「すみませーん。こちらの中身は振ったりしちゃだめなものですかー」

「お嬢様の作られたクッキーです。できれば静かにお持ちください」

「承知しましたー。じゃあ、これは私が預かるから、アンシアちゃんはご存分に」


 それを聞いたアンシアちゃんは、すごく悪そうな顔でニッコリした。


「いるのよね、こういうガキ。遊び足りなくて黙ってコソコソするやつ。どうせこの後どこかで遊び倒すつもりでしょ。でもそんなことはさせない」

「いえ、それはちょっと違うんだけど」


 これは街のお約束。新人を鍛えるためにわざとやってるんだけどって、聞こえてないな。

 

「王都ではね、そうやって日暮れすぎても遊んでる子はこうやって連れ帰るの」

「ちょっと、マクシミリアン様に何をするんですか !」


 家の人が慌てて止めようとする。

 アンシアちゃんは腰につけていたロープでマクシミリアン君をグルグル巻きにする。


「さあ、お家に帰りましょうか、お坊ちゃま」

「こ、これじゃ歩けないよっ ! どうやって帰るのさっ !」


 叫ぶお坊ちゃまを無視して、アンシアちゃんは私にコイコイと手招きする。


「おばさんから聞いたわ。あなた物を浮かせる魔法を使えるんですってね。ちょっとこの坊やを浮かせてよ」

「浮かせるって、なにするの、何やるの、危ないことしないでよっ !」


 マクシミリアン君は涙目になっている。

 騒いでいたので各おたくの裏口からメイドさんやら家の人やらが様子をうかがっている。

 こんな中で魔法を使うのは嫌なんだけど。


「早くやってよ。こんな重いの担いでいきたくないわよ」


 アンシアちゃんはが急かす。

 仕方ない。やるか。

 私はマクシミリアン君に向かって軽く手を振る。


「おおお」


 ふわりと地上2メートルの高さに浮かび上がった姿に、居合わせた人たちから驚嘆の声が上がる。


「すみません。これ、あまり人に言わないでもらえます ? できれば内緒で・・・」

「無駄よ。家までこのまんまだから、いやでも人に見られるわよ。コソコソしない方がいいのよ、こういうのは」


 アンシアちゃんはロープの端を持ち、家路につく。

 お坊ちゃまは茫然自失としている。

 こうして私たちは思いっきり目立ちながら意気揚々とお屋敷に向かい、無事に依頼完了のサインをもらうのだった。

 ギルドに帰ってからギルマスと兄様ズのお小言が待っているとも知らず。

お読みいただきありがとうございます。

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