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ルーの討伐修行 その3 走り寄る恐怖

 目の前で街への跳ね橋が上がってしまう。

 城壁の上の警備兵さんが下に向かって何か叫んでいる。

 街はまだかなり向こう。

 何を言っているのかは聞こえない。

 ピンクの塊はこちらに向かって一直線だ。

 このままだと間違いなく串刺しの刑だ。

 ここは街の西側。農耕地帯に続く道だ。

 しかたがない。

 かなりの距離があるが、南側の正門に向かおう。

 その間に警備兵さんがあちらに連絡を入れてくれるはずだ。

 いや、きっと入れてくれると信じたい。

 私は進路を右に変え、川に沿って走り続けた。



「馬鹿野郎っ ! なんで橋を上げたんだっ !」

「だ、だって、あんな桃色の集団が向かって来たんですよ。あれが街に入ったらって」

「その集団のかなり前を人が逃げてきてただろうがっ ! お前は人ひとり見殺しにしたんだぞ ! どう責任をとるつもりだ !」


 その日この門を任された分隊長は、門を守っていた兵を怒鳴りつける。

 新人の警備兵は恐怖に負けて、思わず橋の昇降機を動かしてしまった。

 それはしかたがない。

 ヒルデブランド生まれヒルデブランド育ちの坊やは、まともに魔物とやりあったことがない。

 いや、街の中でだけ暮らしていれば、魔物を見る機会すらない。


「至急正門に連絡しろ。冒険者ギルドにもだ。非番の兵にも召集をかけろ。全員で迎え撃つぞ !」

「分隊長、ちょっといいですか」

「なんだ !」


 部下に呼ばれて物見台に登る。


「あの、逃げてる奴ですが、早すぎませんか」

「ん ? 早い ?」


 ピンクの塊は猛スピードで一人を追っている。

 その人物と塊との差は先ほどからほとんど変わっていない。

 つまり、追うものと追われるもののスピードが同じということだ。


「どういうことだ、あれは」

「魔法・・・でしょうか、あっ !」

「どうした」

「分隊長、あれ、疾風のルーですよ !」

「疾風の・・・おお、あれが !」


 三週間でチュートリアルを終了。すでにその上のクラスへの昇格を確約されているという、前代未聞の新人。

 本人とその周辺は知らないが、近隣の街や王都にまでその名を轟かせる少女。

 疾風のルー、最速のルー。


「彼女なら、逃げ切れるかもしれん。しかし、討伐はまだ目ぼしい報告は上がっていないぞ」

「最低限のものは済ませているとのことですが、そちらの能力はまだわかってはいません。でも、分隊長、あの速さ、普通の魔法じゃありませんよ」


 そう、ピンキーズから逃げる。走って逃げる。走る。走り去る。

 そのようなイメージで走り続けた結果、本人も気づかぬうちに新しい魔法を取得していた。


 著者(わたし)はそれを『韋駄天(いだてん)』と名付けたよ。



 走った。

 走り続けた。

 川沿いの城壁の上からは声援が贈られる。

 人の声が力になるのはさいしょのチュートリアルで知っている。

 足が急に軽くなる。

 川は少しづつ左にカーブしてくる。

 このカーブが終われば正門だ。

 門に飛び込んで橋を上げてもらえばおしまいだ。

 

 おしまい ?

 それでいいの ?

 私は街の中に逃げて、それからどうなるの ?


 橋の手前で足が止まった。

 

 街に逃げ込めば私は間違いなく助かる。

 だが、その後このピンクの魔物たちは何をするだろう。

 当然、街を襲うに決まってる。

 私は飼育係だった時のことを思い出す。


 ウサギはねえ、泳げるんだよ。

 泳ぎたくないみたいだけどね。

 本当は泳げるんだ。


 そうそう。そんなこと主事さんが言ってた。

 そうだ、動画もあったっけ。

 めちゃくちゃかわいいの。

 橋が上がっても、あのピンキーズは川を渡ってこれるんじゃない ?

 ウサギって穴も掘れるんだよね。

 もしかして、城壁の下を掘ってきたりしない ?

 そしたら街の中に入り込めるよね。


 だめだ。

 ここで阻止しなくちゃだめだ。

 ここ(ヒルデブランド)は私の大切な場所。

 馬鹿にされ、蔑まれてきた私を受け入れてくれた街。

 やさしくて明るくて、ちょっとお調子者の人たちの住むすてきな街。

 それを脅かす存在は許さない。

 たとえそれがモフモフのピンキーズだとしても。


 橋を背にしてピンクの一角ウサギを迎え撃つ。

 イメージする。

 私は勝てる。

 私は勝つ。

 エイヴァン兄様も言ってたじゃない。

 負けない気持ちで立ち向かえば魔物は敵じゃない。

 門の向こうからたくさんの人が走ってくるのが聞こえる。

 城壁の上からは街に入れと叫ぶ声がする。

 イメージする。

 一角ウサギの脅威は何 ?

 あの鋭い角。

 あの角を封じればいい。

 ピンキーズたちが私の前で止まった。

 集団の中から右目の潰れたボスが現れる。

 なんかペッと唾を吐いたような気がした。

 親指を下に向けてニヤッと笑った気がした。

 そう、()る気ね ?

 いいわ。

 来なさい。

 私は、絶対、負けない !


お読みいただきありがとうございます。

面白い、この続きも読みたいとおもわれましたら、評価、感想、ブックマークをいただければ嬉しいです。


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