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末姫さまの思い出語り・その42

 貴族の家には図書室がある。

 そして大抵その奥には禁書庫がある。

 人目に触れさせることは出来ないけれど、お家の歴史として残しておかなければならないような書類などが仕舞われている。

 もちろん我がダルヴィマール侯爵家も領都の本宅、王都の別宅と二か所に禁書庫を持っている。

 本宅にあるのが正式なもので、王都の物は本宅が火災などにあった場合の予備に複写されたものだ。

 だが、どこのお家もそうだが、それらの文書は当主のみが閲覧可能だ。

 それほど重要な歴史が隠されていると言える。

 そして当主が自由に読むことが出来るだけましだ。

 没落したり禁書庫を用意できない家は、王城の奥の禁書庫の一つを利用できるが、こちらはよほどの事がなければ当主ですら手に取ることはできない。

 いくつもの省庁の許可を得なければ、たとえ自分の家のものであっても見ることができないのだ。


 例の『女学院事件』数年前の疑惑解明の時には女帝陛下からの許可が下り、禁書庫は無理だったが膨大な数の公文書が公開されたそうだ。

 開架図書とは違い、戸籍を含む公文書の閲覧にはそれなりの許可が必要となる。

 そんな重要書類を精査したのは、ダルヴィマール侯の領地で特に優秀な人材のみだった。

 もちろん貴族ではない。


「たしか『べ』なんとかってスケルシュのおば様が言っていたような気がする」


 けれど確かめてみると家臣団の名簿の中にその『優秀な人材』の名前は一つも無かった。

 ダルヴィマール侯爵家では依子貴族の家臣団の他に、領内の上級学校の卒業生らが登用試験を経て文官として仕えている。

 彼らは『優秀な人材』の中に入っていなかった。

 つまり、あの時集められたのは、全員がどこの誰かもわからない平民と言うことだ。

 正式な訓練も受けていない、上級学校を卒業してもいない平民が『優秀』 ?

 年齢もバラバラで成人直後の少年もいれば六十過ぎの老人もいる。

 彼らは領都ヒルデブランドからわざわざやってきて、王城で作業をしていた。

 一体どこにそんな人材が埋もれていて、彼らは今どこで何をしているのだろう。

 そして『大崩壊』関連の公文書の中に、ダルヴィマール侯爵家の名前はなかった。

 年老いた騎士の間ではいまだに「あの時のルチア姫は」と語られ、騎士養成学校では『ダルヴィマールの三貴人』の(いさおし)を近代史の授業の中でこれでもかと教えられる。

 他の大陸では吟遊詩人が残した歌が今でも歌い継がれてる。

 にも拘らず公式な文書には一切名前が出てこない。

 

 これは繋がらないはずの謎につながる謎だ。

 考えてもしょうがない。

 今はどこかに書きつけて置いておこう。

 今目指す場所は禁書庫だ。



 禁書庫に自由に出入り出来るのは皇帝と宰相の二名のみ。

 私は宰相執務室長になってから、特別に宰相と同等の権利を渡された。

 皇配殿下が楽をしたいからだ。

 そこで勉学のためと頻繁に禁書庫を利用していた。

 足らない経験を補うため、過去の資料を読み漁っていたのだ。

 それが隠れ蓑になって、私の禁書庫通いは特に不審に思われなかった。


『木を隠すなら森の中に。本を隠すなら書庫の中に』


 基本の基本だが、問題の資料は初代皇帝、ハール始祖陛下の日記の後ろにあった。

 始祖陛下の日記は抜粋で出版されているから、わざわざ手に取ることはない。

 まして『一部読解不可能』の但し書きがついていたらなおさらだ。

 読める部分のみ公開されたと思うだろう。

 そしてその奥に、封印もされていない状態で『ルチア姫の物語』が置かれていた。

 さらに膨大な瓦版。

 数冊の本。

 そのうちの一冊は以前スケルシュのおば様が持っていらしたものだ。

『動画派』風の色付きの美麗な絵が表紙に描かれている。

 どれも別に隠しているつもりはありませんよ、見つけたならどうぞ読んで下さいとでも言うように雑に積まれていた。

 いかにも極秘文書と言う体であれば、誰もが一番に手に取るだろう。

 だが当たり前のように置いてあれば注意を引くことはない。

 それを狙ったのは誰か。

 そして禁書庫を利用できたのは誰か。

 上皇陛下当時の宰相であった祖父。

 そして王城内は出入り自由の侍従、『天下御免の紫の薔薇』の持ち主。


 取り敢えず私は全ての資料を持ち出した。

 地の分ばっかりになってしまいました。

 そして本当に六月中に終わる自信が崩れていきます。


 お読みいただきありがとうございました。

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