末姫さまの思い出語り・その22
無事に週三の更新ができました !
来週も更新できるよう頑張ります。
隣国の陰謀の説明だったはずなのに、何故か私が王城で働く話になっている。
「おじ様、王城で働くことができるのは殿方でしたら騎士養成学校を卒業してから、ご婦人は成人の儀を終えてからと承知していますけれど、私、まだ十四前ですよ。出仕出来るのは三年後です」
「そこはそれ、君は私の出した宿題を翌日には提出しただろう」
「簡単な問題ばかりでしたもの」
「あれ、騎士養成学校の卒業検定試験だったんだ。カンニ・・・不正が出来ないようマールが見張っていただろう」
そう言えば・・・珍しくマールが高価な懐中時計を手に付きっ切りだったっけ。
机の上は筆記用具だけで、それ以外は全部片づけられてしまっていて。
そうか。
試験なら資料とかも見てはいけないもの。
一人称が『俺』から『私』に戻ったエリアデルのおじ様が、私の提出した宿題、試験の紙束を机に出した。
「騎士養成学校は貴族男子十才から六年間通う義務がある。けれど、たまに在籍が難しい状況になる生徒もいる。そんな生徒のために考えられたのが卒業検定試験だ」
たとえば親が亡くなって爵位を継がなければならなくなった学生。
だけど基本爵位の継承は成人後と決められている。
これは男女ともに同じだ。
では嫡子が成人前ならどうか。
他国では後見人や代理を立てるけれど、帝国ではお家乗っ取りなどを防ぐために必ず嫡子相続と決められている。
「そこで始まったのが卒業検定試験。その年齢に相応しい知識があると認められると『みなし成人』として爵位を継承できるんだよ」
そうして爵位を継承した後は王城から監理官が派遣され、本人が無事に養成学校を卒業するまで領地経営などを取り仕切ってくれるそうだ。
長期休暇の間に必要な知識を教えてくれたりもする。
嫡子が女児であった時も同じ。
ただし男児と違って、爵位持ちの貴族婦人としての立ち居振る舞いを教える教師付きだとか。
とても便利な決まりだ。
「君が受けたのは卒業目前でそんな状況に陥った学生用の試験。つまり正式な卒業試験と同等だ。おめでとう、ほぼ満点で合格したよ」
「・・・めちゃくちゃ簡単な内容だったのですが、満点ではなかったのですね」
「採点した教師が悔しがって、一文字よく読めなかったと一点減点した」
は ?
なに。それ。
ふざけないでほしい。
「くだらないことをした教師は三か月の減俸にした。ついでにその理由は養成学校の掲示板にしっかりと貼っておいたからね。その教師は年度末での退職届を出してきた。当然だね」
・・・いいんだろうか。
いや、そんな理由で減点する教師など生徒が信頼するわけがないので、早晩消えただろう。
身の処し方としては正しい。
帝国の教師という前職があれば、他国で良い扱いも受けられるだろう。
「そんな訳で、来月から頑張ってくれ。ダルヴィマール領からの推薦で出仕ということになっているが、正式採用は成人の儀の後から。それまでは出来る仕事はなんでも受ける見習いという扱いになる。ただし勤務先は宰相府ではなく宰相執務室なので、少し扱いは違うかな」
「・・・お鳥目はいただけるのでしょうか」
「もちろん。既定の給金は出す。見習い期間は普通半年なんだが、君の場合二年と長いから半年後から正職員と同額になる。しっかり稼ぎなさい」
・・・おじ様。
そこはしっかり働きなさいというところではないかしら。
にしても、これはあれだ。
ダルヴィマール侯爵家の家訓。
「立ってる者は親でも使え。まして子供はこき使え」
対外的には『質実剛健・勤勉努力』なんだけど、働ける人間は働けということだ。
だからわざわざ私を『みなし成人』にしたんだろう。
成人するまで待ってくれても良かったのに。
「酷いわ、アル。また私の知らないところで末姫ちゃんの出仕が決まってる」
「ごめん、ルー」
「仕方がないから了承はしたけれど、こんな小さな子にお仕事させるなんて。さすがにエイヴァン兄様も止めるんじゃないかしら」
すると突然テーブルの上に鉢植えが現れた。
甘い香りがとても強い。
見たことのない白い花だ。
「あらあら、これって」
「まあ、そう言うことね」
上皇后陛下とおばあ様が笑ってその鉢植えを眺める。
「よかったわね、末姫ちゃん。スケルシュもあなたの出仕に賛成みたいよ」
「魔王のお墨付きですもの。全然問題ないわ」
問題ありまくりだし、大体その花はどこから来たんだろう。
これ、挿し木したいわと仰る上皇后陛下に、おばあ様がある程度根付いたらと答える。
「そう言えば、あの商人から『べるさいゆ』の場所を聞かれましたよ」
「え、ベルサイユ ? 」
花を愛でていた陛下方はギルおじ様の言葉にピタリと止まる。
「文句を言うつもりはないが、どこにあるのか知っておきたいとのことでした」
「プフッ ! 」
何故か陛下方以外が吹き出して、口を押えて笑いをかみ殺している。
「へ、陛下。まさか、あれをおっしゃったのですか ? 」
「いやだ、リアルで ? お母様、最高です ! 」
「先週テレビで劇場中継を見たばかりです。お願いですから笑わせないでください、お方様」
マールまで一緒になって肩を震わせている。
「いや、あのね。あの時はなんて言うかミッションクリアでハイになっていたのよね」
「あのセリフを言うのにぴったりの場面だったのよ。それでついつい。ね、エリカ」
『文句があるならベルサイユにいらっしゃい ! 』
ギルおじ様と陛下方以外が大爆笑になってしまった。
「彼には東の諸島群の乙女小説に出てくる巨大な宮殿と説明しておきました」
「・・・ありがとう」
上皇陛下とおじい様がなにがそんなに面白いんだと首をかしげている。
マールはハンカチで目をおさえながら壁に向かって肩を震わせている。
私は何が何だかわからない。
そんな混乱の中で一連の事件の説明は終わったらしい。
そしてあの突然現れた鉢植えの花。
名前はクチナシと言うそうだ。
死人にクチナシ、と言うことで。
『お鳥目』とは古い言葉でお金もことです。
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お読みいただきありがとうございました。