末姫さまの思い出語り・その17
今週も始まりました。
月、水、金曜日の更新がんばります !
「ギルおじ様 ! 」
侍従に案内されて入って来たのは、私の大好きなギルおじ様だった。
四十過ぎにしか見えないけれど、ディーおじ様より年上なんだとは聞いている。
真っ白な冒険者装束は今日もシミもシワもない。
「久しぶりだね、末姫。何年振りかな」
「スケルシュのおじ様が亡くなられて以来ですから、二年ぶりになります」
忘れもしないあの日。
成人前の私は葬儀に出られるわけもなく、納棺前にこっそりとお別れするしかなかった。
悲しくて悲しくて。
でも家族でもないのに人前で泣くのはよろしくないとマールに言われて、お見送りの後で自分の部屋で枕に向かって号泣したんだった。
「お久しぶりです、上皇陛下、上皇后陛下」
「相変わらず元気そうだな、英雄マルウィン」
マールがお帰りなさいませとギルおじ様をテーブルに案内する。
ギルおじ様はそんなマールに随分と老けたねと笑いかける。
「門前が凄い人だったよ。記者証を持っていない自称瓦版記者が連行されていた」
「ああ、まだいましたか。随分と逮捕されたとは聞いていますが」
「それと末姫の友人だと言う女の子たちもね。シロが威嚇してくれたからなんとか門を潜れたよ」
私が階段から落ちた翌日。
親から交際を禁止されていた子達から便りが届いた。
それは冒険者ギルド経由で受け取った。
偽名なのによく届いたと思ったら、予め転送される手続きをしていたそうだ。
手紙は私を気遣う内容だった。
怪我の具合はどうか。
助けに行けずにごめんなさいと。
そして廃校が決まった日から、自称友人たちからたくさんの手紙とお見舞いの品が送られてきた。
内容は、まあ、枕詞としてお見舞いの言葉。
その後は処罰を撤回してくれとか、お茶会に来ないかとか、家に呼んで欲しいとかすり寄ってくる言葉ばかり。
その手紙と品物は抗議と共に送り返し、複写して宗秩省に届けておいた。
知らないのだろう。
高位貴族、特に重要なお役目を頂いている家では、皇室やよほど親しい人以外の手紙は、家令執務室の隣の祐筆課で全て開封されて精査されるということを。
媚びへつらった手紙の山に「そろそろ勘弁してください」と若手侍従たちが泣きついてきた。
人間不振になっても困るので、私宛の手紙は全てマールが担当している。
「謝罪のみの家には末姫の元には届けていないが、侯爵家として謝罪は受け取ったと返してございます。それ以外のものは、表現力と語彙が増えたと笑わせて頂いておりますよ」
受け取りはしましたが、忘れは致しませんよ ?
ギルおじ様にお茶を差し出しながらマールが微笑む。
内容が気になるが、私の手元に届かないということはそういうことなのだろう。
「それで、結局どういう沙汰になったんだい ? 」
「ナラの言った通りですよ。あの国の息のかかった連中は一族郎党国外追放。女学院の教職員で汚職に関わったものは強制労働。見て見ぬ振りをしていた者も同罪。入ったばかりで何も知らなかった者と気付きもしなかったボンヤリ者は、事情聴取の後にそれまでの給金と退職金を渡して無罪放免です」
彼らには社会復帰が出来るように無罪を示す書類を渡し、瓦版でもその事実を周知するそうだ。
「教師の中には仕事熱心なあまり同僚から無視されていた者もおりますし、人嫌いで馴染まなかった者もおります。そして基本一階組の教師は常識的な人物でしたから」
加えて教師間の階級と言うものも存在していて、一階組の教師は二階とは隔絶されていたのであの陰謀を知りようもなかったらしい。
彼らは一度再教育の上で新しい学校で採用されると言う。
よかった。
二階組には馬鹿にされていたけれど、二学期までは楽しく過ごせていたからね。
私に対する扱いも、悪い噂の生徒がいるから少し距離を置いて観察するようにと言われていたとか。
そう言えば学業では特に困ったことはなかったかな。
一階の学生食堂の厨房関係者は、汚職の他に児童虐待が追加された。
うん、食べ物の恨みを思い知れ。
「対外的には王立精華女学院は汚職の倉庫。高位貴族を支える低位貴族の令嬢を長期にわたって適切に育てなかったことは、これ即ち皇帝に対する反逆であり帝国貴族社会の根幹を揺るがす転覆計画であると言うことになりますね」
二階では爵位が上の生徒は、学年が上がるごとに自動的に成績上位者になっていたと言う。
成績順位は発表されても、実際の点数は秘匿されていたから出来たことだ。
そして一階ではちゃんと点数は掲示されていたので、誤魔化しとかそういうことはなかったそうな。
何、それ。
もしかして私って成績操作しなくてもよかったんじゃない ?
久しぶりのギルマスの登場です。
ギルマス、今いくつなんだろう。
「年齢設定くらいしっかりしておけ」とか「よっ、永遠の四十代 ! 」とか思われましたら、広告の下から『いいね!』と応援のお星さまポチっとなをお願いいたします。
お読みいただきありがとうございました。