末姫さまの思い出語り・その15
スケルシュのおば様が次に出したのは家系図のようなもの。
見たことのない色のインクで名前と名前が結ばれている。
「なにが凄いって、女学院の院長になれそうな人材を何人も育てているんですよ。誰が選ばれても良いように」
「関係者以外が院長になった時はどうしていたんだ ? 」
「もちろん排除していました」
上皇陛下の問いにおば様は簡単に答える。
「ご覧のように短い期間で院長の座を辞している人は、全員が生粋のヴァルル帝国臣民です。体調不良や学内の醜聞。責任を取らされて交代しています。そこに新たな仲間を据えて、またまた愚かな令嬢を育てる。バカじゃないですか ? 」
院長になれば人事権もある。
必ずその座を得るように一見人格者に見える教育者に育てる。
そして思想に染まった『優秀』な生徒を教師として採用することで同じような教育を続けさせる。
「バカとしか言いようがありませんよ。こんな長い期間をかけて帝国を陥れようなんて、一体なんでこんな計画をたてたのか。しかも相手は少人数の低位貴族の小娘ですよ。ルーちゃんの時のように騒ぎは起こせても、貴族社会全体への影響力なんてありません。大体そんな手間をかけるくらいなら、自国の繁栄に使ったほうがマシです」
「まあ、普通こんな長期計画など考えつかないな」
おば様が言うには女学院の教育課程は、本当に最低の令嬢を育てるためだけだったらしい。
「末姫ちゃんなら、どんな令嬢を育てるかしら」
え、私 ?
今日初めて意見を求められて、私が学院長ならどうするかと考えた。
敵国の弱体化とかなら、あれだろうか。
「低位貴族と言っても女学院に通う生徒はそう多くありません。愚かな生徒を育てるよりも、少数精鋭で優秀な令嬢にして、女官にするか高位貴族の侍女として送り込みます。その前に帝国の在り方や皇室への疑念を刷り込んでおき、静かに反乱の根を張らせます。時間をかけて皇室と貴族との間に溝を作り、また市井にも少しずつその毒を撒けば、いつか革命が起きるかもしれません」
けれど王家のことを噂でしか知ることの出来ない他国と違い、帝国は瓦版を通じて皇族や貴族の動きを知ることが出来る。
毎日の瓦版には『私たちの皇室』なんて欄があって、前日の皆様の動きを報道されているのだ。
孤児院や老人福祉施設などにも頻繁に訪れて、近しく民の暮らしに耳を傾けておられる。
そんな瓦版は遠くの街まで配達されている。
冒険者や吟遊詩人がそれを補足する。
皇室への崇敬は限りなく、反乱など起きようはずがない。
「ですから彼らは全くの無駄、的外れで斜め向こうの方向に努力しているとしか思えません」
「ありがとう、その通りだわ」
おば様はまた紙の束を出す。
一体どこにどれくらいの書類を隠しているのだろう。
「彼らの一族は全て洗い出してあります。投獄したり刑罰を与えるのもいいですが、せっかく国家反逆罪と国家転覆罪を適用したのです。まとめて国外追放でよろしいかと。特に残って欲しい人材もいませんし」
「随分と思い切った処分だな」
「手にした大鉈は振り回して叩き切ってこそですわ、上皇陛下」
それでとおば様は続ける。
「ここまで尻尾は掴みました。ですが、実際の女学院の中で何が起きていたのかを知る術はありません。お庭番は男性ですから、ご婦人のみの場所を見張るのはちょっとということもありました。内部情報は欲しいのですが、その為の人材がいなかったのです」
続きをお願いね、ディー。
おば様はそう言ってエリアデルのおじ様に話を振った。
「我々の娘はこの時点で十才を超えていました。そしてとてもまともな子供だったんです。女学院での階級差別を見て黙っていられるわけがありません。目立たず情報収集などとても無理です」
「エイヴァンも頭を抱えていましたよ。まっすぐすぎて宰相職など無理だと。かと言って切るときには切る宗秩省も難しいって」
きれいな魂を選びすぎたのかしら。
おば様が不思議なことを呟いている。
「次に目を付けたのはアルのところの二の姫ですが、こちらは外見でアウトでしたね。誰の娘か一目瞭然ですから」
二の姫と呼ばれる下姉さまは、母と同じ銀色の髪と緑の瞳をしている。
顔立ちは母よりも父に似ているが、『ダルヴィマールの色』と呼ばれるようになったその髪と瞳では潜入捜査は無理だろう。
それに十になる前に一目ぼれしたお義兄様と婚約していたし。
第一あのおっとりした下姉さまにそんなことが出来るわけがない。
頭の先からつま先までふんわりを体現しているのだから。
「適任者はいない。そこで我らは考えました。適任者がいないなら、育てれば良いと。そこで白羽の矢を立てたのが末姫です」
はい ?
三月に入ってしまいました。
明日はひな祭りです。そして終わる気がしない。
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