末姫さまの思い出語り・その12
階段落ちから十日。
やることもなくてはつまらないだろうと、エリアデルのおじ様から宿題の束を渡された。
数学やら古典やら礼法や兵法など、結構な量だが内容はそれほど難しいものではない。
次の日にはおじ様のお屋敷に送っておいた。
そして少ししてから女学院跡地で番犬をしていたシロが帰って来た。
新しい学びの場の建設が決まったらしい。
母は届けられた設計図を前に、足らない建材の確認や室内の設えを考えたりしている。
「以前の学院は重厚でゴテゴテと飾りがついて暗い感じだったわ。あれでは息がつまってしまう。若いお嬢さんたちが学ぶんですもの。低学年は可愛らしく、学年が上がるにつれて上品で洗練されたお教室にするのはどうかしら」
窓は大きくしてお日様の光がたくさん入るようにして、明るく笑顔になれるような環境にすればきっと心持ちも変わると母は言う。
確かにあの建物は重圧を感じるような雰囲気に溢れていた。
二階の生徒たちはいつも決死の覚悟のような雰囲気を漂わせ、笑顔一つ見せなかった。
そして目下の者を見下し嘲笑うのを使命としているようだった。
『淑女の嗜み』は読ませてもらったけれど、あれを十才から叩き込まれたら確かにそういう人間に育つだろう。
女学院の二階はそんな令嬢を育成する場所だった。
「今までは私服だったけれど、今度は制服にしようと思うのよ。同じような形だけれど、年齢別に三種類。きっと成人に近づくという自覚が沸くと思わない ? 」
被害者への慰謝料の一環ということで、今回は我が家の意見がかなり反映されるらしい。
母と二人、カーテンや壁紙、制服などについて楽しく話し合って一月ほどたった頃、我が家にお客様が訪れた。
◎
「「末姫ちゃん、久しぶり ! 」」
客間で待っていたのは懐かしい方達。
エリアデルのおじ様とスケルシュのおば様。
そして領都にいるはずのおじい様とおばあ様。
そして何故か上皇陛下と上皇后陛下がいらした。
あわてて膝を折ろうとしたら、そんなことしなくていいと言われた。
「大変だったわねえ。あたしたちが隠遁している間に王都もずいぶん変わったのかしら」
「引きこもっていたツケが来たかな、エリカ。たまには街にでないと」
上皇ご夫妻はもう結構なお年だと言うのに、相変わらず元気一杯だ。
「今日は女学院についての結果を聞きに来たの。一般世間向けにとは違う本当の結果をね」
「『暗闇参謀』が久々に動いたということで楽しみにしているんだ」
祖父母は隠居したのをいいことに、御所の上皇ご夫妻用離宮にこっそり滞在していると言う。
「さて、それでは説明を頼めるかな。隠遁して久しい我々まで呼んだのにはわけがあるのだろう ? 」
「そうですね。末姫には理解できないこともあるだろうけれど、そこはそう言う事だと思って質問しないように。あくまで当事者だから同席してもらう」
黙って聞いていろということだろう。
私は頷くと少し離れた椅子に座る。
「そもそも最初からおかしかったのです。ヴァルル帝国はこの世界では唯一成熟した国。にも拘わらず一部低位貴族婦人の振舞いが三流国並み」
おじ様はなにやらキラキラした絵が表紙の本を数冊取り出した。
書物は表題だけで絵が描いてある物は見たことがない。
どこの国のものだろう。
「お方様、冒険者になった時のことですが、冒険者ギルドの案内人が急に非協力的になったとおっしゃっていましたね」
「・・・ええ。チュートリアルの邪魔をされたわ。それで不正を働いていたことがわかって全員解雇になったの」
前日まで期待の新人と持ち上げていたのに、突然の手のひら返し。
「ギルドの上部が以前から不正を知っていたからだと思ったけれど、そう言えばあれだけの人数を一日二日で煽るって出来るものかしら」
ねえ、アンナ ?
そう言えば、と前侯爵夫人は頷く。
「私、権力を振るうのは好きではないの。なのにあの時は子飼いの瓦版工房を使えるだけ使って、案内人たちの悪行やら実名やらを王都中に広めたわ。それで商売が出来なくなった実家や解雇された親戚とかいたし、父からはやり過ぎだって怒られたの」
でも、その時は自分が正しいことをしているって思ってた。
「後でなんて思いやりのないことをしたのかと反省したわ。三代後まで冒険者ギルドで採用しないって、係累だと非難されて都落ちした家もたくさんありましたもの」
「そうでしょうね」
ディーおじ様はスケルシュのおば様と目を合わせて、頷きあってから言った。
「強制力という言葉をご存じですか」
やっと書こう書こうと思っていたところに来ました。
久々の残っている人の大集合です。
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お読みいただきありがとうございました。