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知らないうちの再出発

前半はシギラム、後半はロベルク視点です。

「ロベ、と、いや……すまない、反応が一歩遅れた。支えてくれてありがとう。後は俺が運ぶから、主様をこちらへ。とりあえず、東へ移動しよう。通った街の門を主様は東門と言っていたから、たぶんこの森の先へ行けばいいのだろうから」


 そう言って、俺は主様を受け取るべくロベルクへと両手を伸ばす。

 するとロベルクは何故か不服そうな顔をして、主様を抱きとめている手の力を強めた。


「……何故お前が仕切る? 主様はこのまま俺が運ぶ」


 そして不服そうな顔のまま、真っ直ぐに俺を見てそう言ってきた。


「なっ、何を言って? 何故も何も、主様に護衛として買われた奴隷は、俺なのだし。だから主様を運ぶのは、俺の役目だろう?」

「お前の役目? そんな事を、誰が決めた? 主様は何も仰っていないだろう。俺だって主様に買われた奴隷なんだ。俺が運んだっていいだろう」

「い、いや、それは……だが、正式に買われたのは俺だろう? 結果的に主様はお前達をお助けになられたけど、お前達は、その……」

「……処分品、だったって? 確かにそうだ。けど、主様は俺達を助けた。つまり主様は俺達を処分するつもりはなかったという事だ。なら正式も何もないだろ。主様は俺が運ぶ。第一、処分品だった俺達は玩具のような武器しか持たされてないんだ。唯一きちんとした剣を持っているお前の手は空けておくべきだろう」

「う……だ、だが、たとえ手は塞がっても、俺には魔法もある! だからこそ中級品だったんだ。だから、やはり主様はこっちへ」

「俺も元は中級品だ、剣の他に魔法も使える。条件が同じなら、やはりきちんとした剣があるお前の手をこそ空けるべきだろう」

「な、し、しかし……!」


 正論を重ねて、自分が主様を運ぶと言って譲らないロベルク。

 けれど、この主様を他の奴に任せたまま引くわけにはいかない。

 主様は俺が、悪事も何も働いていない、ただ怪我や病と戦いながら必死に生きているだけの人間を殺める事を防いでくれた、尊い優しさの持ち主だ。

 もし俺を買ったのがこの主様でなかったなら、俺は確実にこの手を彼らの血で汚していただろう。

 ロベルクとは違うが、俺も主様によって助けられたんだ。


「な、なあ。……それなら、主様は俺が運ぶよ。俺は下級品だったから魔法は使えないし、武器も、こんなのだし。戦闘ではまず役に立たないだろうから、他の事で……今はとりあえず、主様を運ぶ役目を任せてくれないか?」


 その主様を自分が運ぶべく食い下がっていると、突然横からセシードが遠慮がちにそう言って参戦してきた。

 どうやらセシードも、助けてくれた主様に恩を感じているようだ。

 だけど……ろくな武器を持っていない上に、魔法も使えない、だって?

 そんなの。


「「 駄目だ。それじゃあ主様を守れないだろう。論外だ。……っ!! 」」


 セシードへと却下の言葉を告げると、それはなんとロベルクと重なる。

 驚いた、同じ事を考えたのか。

 その事にロベルクも驚いたようで、目を見開いて俺を見つめてきた。

 俺も同じように見つめ返す。


「あ、あの……俺、こう見えて動体視力はいいんだ。だから、少なくとも攻撃は避けられるから、主様を守る事くらいは、できるよ」

「「 !! 」」

「……ねぇ、なら、こうしない? 私は下級品だったから武器は使えないけど土属性の攻撃魔法が使えるから、メルシェ、じゃなくて、この子は確か支援系の魔法が一通り使えるはずだから、セシー、か、彼が主様を運んで、私とこの子が側にいてそれを守る。それで、現れた敵の殲滅を貴方達二人が行う。……ね、貴女、支援魔法、できるでしょう?」

「あっ、う、うん! できるよ!」


 数秒ロベルクと見つめ合った俺は、セシードの反論に我に返った。

 するとリゼッタがそこに割り込んできて、新たな提案をする。

 そしてリゼッタの確認の声に、メルシェルがコクコクと頷いた。

 この三人が主様を守り、俺とロベルクが敵の殲滅か……。

 できればやはり俺自身が主様を運びたいし、他に任せたくなんてない。

 ない、が。


「……それが無難か。仕方がないな。……俺はこの案に賛成するが、お前はどうだ?」

「……。……絶対に、主様に傷を負わせるなよ」

「う、うん! わかった!」

「が、頑張るよ!」

「なら決まりね」

「ああ。じゃあ、出発しよう」


 ロベルクの承諾も取れ、役割を決めた俺達は、主様が仰った東へと、足を踏み出したのだった。


◆  ◇  ◆  ◇  ◆


『正式に買われたのは俺だろう?』


 俺は、堂々とそんな事を言えるシギラムが妬ましい。

 いや、正しい言い方をするなら、羨ましい、というべきなのかもしれない。

 俺は、遠からず死ぬ筈だった。

 いつからかこの身を蝕んだ病に、日に日に浸食され、それが遂に最後の猛威を振るってきたと感じた時、俺は商館の商人に試し切り用の商品として引き摺り出された。

 最早足の感覚などほぼなく、他の奴隷達に支えられてなんとか歩き、主人となった少女に買われてからは、いつも商人に中二番(ちゅうにばん)と呼ばれている男に担がれた。

 どうやら、真名はシギラムというらしいが。

 中二番は、中級品で二番目に腕が良い事を指す。

 病になるまで中五番と呼ばれていた俺より、実力は上だ。

 ああ、俺はこの後この男に殺されるのか。

 もう既に、絶望など通り越して全てを諦めていた俺は、担がれて揺れる体を動かす事なく、ただ目を閉じた。

 けれど、試し切り用として俺を、いや、俺達を買った少女は、俺達を殺さなかった。

 それどころか、回復魔法を唱えて助けたのだ。

 そのせいで魔力の枯渇を起こしているのに、それでも笑顔を向け、俺達を気遣う言葉をかけた。

 けれど、そのすぐ後。

 気丈に振る舞ったものの限界がきて倒れた少女を、俺は咄嗟に抱きとめる。

 その身体は、暖かかった。

 ……俺の主人だ。

 その温もりを感じた時、俺はこの少女を自らの主人だと認めた。

 だからこそ、シギラムには渡さなかった。

 買われた経緯などどうでもいい。

 主様は俺達を、俺を殺さずに助けた、それが全てだ。

 確かに買われた段階から護衛としての正式な役割が与えられているシギラムより、俺の立場は下だろう。

 戦闘の実力だって、きっと敵わない。

 けれど。

 俺だって主様の奴隷という事に変わりはない。

 ただ正式に護衛として買われたというだけで、その忠誠の在処が定かでないシギラムを、リーダー格だと認め、下になどつくものか。

 シギラムは、病や怪我から救われ、多大な恩を主様から受けた俺達とは違う。

 シギラムがはっきりと忠誠を示すか……主様がそう命じない限りは、主様の身を預けたり、するものか。

今回は王様視点を書く予定でしたが、流れ的にこちらを先にしました。

よって明日は王様視点です!

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