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直談判

 怒りで頭を沸騰させたまま、私はその足で王様の執務室に特攻をかける事にした。

 初日に、王子様方との顔合わせの後に挨拶した王様には、何かあればあの初老の男性を介して申し出るようにと言われたけれど、内容が内容だけに、きっとその通りにしても初老の男性に上手く宥められるだけで聞いては貰えないだろう。

 無礼なのは承知の上。

 でも何が何でも聞き届けて貰います!

 そう固く決心し、私は騎士様が守る扉の前に立った。

 怪訝な表情でこちらを見て、手に持つ槍を握り直すその騎士様を横目に、私は深く息を吸い込む。


「失礼致します! 私先日異世界から召喚された少女の一人です! どうしても直接王様にお話したい事があって参りました! 入室の許可を戴きたく存じます!!」


 次いで、一息にそう告げた。

 怒鳴る程大きくはないが、普段会話する声よりは大きめの声量ではっきりと告げた為、きっと部屋の中まで届いた筈だ。

 扉を守る騎士様は、突撃してきたものの決して押し入ろうとはせず、ただ声を発しただけで大人しく扉の前で待つ私を注視しつつも、どうするべきか困っているようだった。

 どちらも、中からの返答待ちといったところか。

 ……さて、もしも入室を拒否されたら、どうしようかな。

 強行突破はこの騎士様に阻まれるだろうし……最悪、少し離れた場所で王様の出待ちだろうか。

 そんな事を考えながら騎士様と対面し待つ事、数十秒。

 ゆっくりと中から扉が開かれ、そこから顔を出した男性に入室を許された私は安堵の息を吐き、騎士様にぺこりと頭を下げると大手を振って中へと歩を進めた。

 王様の執務室は、白い壁に風景画がひとつかけられ、床には深緑の絨毯に金糸の模様が映える陽当たりのいい部屋で、置いてある家具も華美ではないが質のいい物が絶妙な配置で設置されている。

 その部屋の奥で机に座り、羽ペンを手にした王様が、じっとこちらを見つめていた。

 私と目が合うと、王様はその顔に微笑みを浮かべ、口を開いた。


「初日以来だな、娘よ」

「はい。突然の訪問、申し訳ございません。入室を許可して戴き、ありがとうございます」

「いや、構わぬよ。直接話がしたいなど、余程の用件であろう。遠慮は無用だ、申してみよ」

「ありがとうございます。では、遠慮なく」


 王様から許可を得た私は、本当に遠慮なく、これまでの事を全て話した。

 初日から存在をスルーされかけていた事、自分から動かなければ一切王子様方との交流がない事、最近ではお城勤めの人達にまで嘲笑われている事、そしてつい先程言われた言葉まで、全てである。

 話をしていくうちに何故か段々と王様の笑顔が怖く感じられるようになり、部屋の温度も下がっていっているような気がしたけれど、私は頑張って話し続けた。


「……い、以上の事から、私はもうここにいる意味を感じられません。よって、出ていきたいと思います。つ、つきましては、勝手に召喚された上ぞんざいに扱われた事に対する迷惑料を戴きたく存じます。今後の生活の為に、それなりの額をよ、要求致します……!」


 よし、言い切った!

 途中ちょっとどもったけど、最後まできっちり言い切ったよ!

 よく頑張った、私!

 さ、さあ王様、何でか怖いから黙って微笑んでないで早く何か言って!

 何でか怖いから!!

 大事な事だから二回言ったよ!?

 勿論心の中でね!!

 私は、話をしている最中から段々と下に下げていった視線を、更に下に下げて王様の返答を待った。


「………………そうか」


 緊張して冷や汗すら流れ出した頃、ようやく王様が沈黙を破った。

 けれどその言葉はとても短くて、それがどういう意味を持つ言葉なのか、私には判断がつかない。


「……あ、あの……?」

「宰相。向こう五年程、安定した生活を送れるだけの資金をこの娘に渡してくれ」

「!」

「……よろしいのですか、陛下?」

「構わぬ。これ以上この娘に我慢を強いる訳にはゆくまい。……娘、城を出ていく事を許可する。だが、ひとつだけ頼みがある。何処へ行こうと構わぬが、ただひとつ、この国からは出ないで貰いたい。他国へ行き、もしそなたが異世界から召喚された身と知れたら、今度はその国の王族に囲われようからな。我が国もそうだが、どの国も他国に間者を放っている。そなた達についても、どこまで情報が流れているかわからぬのだ」

「えっ! わ、わかりました……もう王族の花嫁候補になんてなりたくないし、この国のどこかでひっそり暮らします」

「………………そうか。……すまなかったな、娘」

「い、いえ。……あの、それじゃ、失礼致します」

「うむ。達者でな。……幸せになるのだぞ」

「はい……ありがとうございます」

「娘。資金については、旅装一式と共に後ほどそなたの部屋へ届けさせる。用意に多少時間がかかる故、出発は明日にするように」

「あっ、は、はい! それは助かります、ありがとうございます宰相様!」


 そう言ってぺこりと頭を下げると、私は振り返らずに王様の執務室を後にした。

 それは別に、温度が下がったままの冷たい部屋からとっとと逃げ出したかったわけではない、決してない。

 そうして私が部屋の外に消え、扉が閉まると、王様は再び宰相様に視線を向けた。


「……宰相。娘に渡す資金はあの馬鹿ども四人の資産から引いておけ。それと明日、娘が旅立ったら、馬鹿四人を私の元に連れてくるように」

「……は、畏まりました」


 宰相様に命じる王様の声は、この時、地を這うように低かったという。


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