我慢の限界
王子様との交流は大切だけれど、これからここで生きていく以上、この世界の事を知るのも大切である。
だからこの世界の事を学びたいと、私と、凛とした雰囲気の美少女が揃って申し出た。
それはすぐに聞き入れられて、翌日からこの世界の一般教養を学ぶ事になった。
その為、朝起きて王子様方含む皆で朝食を取った後、個別に分かれ一鐘の間いずれかの王子様と談笑し、それから昼食を挟んで、夕方まで勉強、また皆揃っての夕食、個別に一鐘の間談笑、というのが私達の一日のスケジュールとなった。
一鐘、というのはこの世界での時間のはかり方らしい。
何でも、朝・昼・夜、そして深夜にそれぞれ違う音の鐘が一定の間を開けて鳴り、その時に鳴った鐘の回数で時間をはかるのだそうだ。
一鐘の間というのは一時間の事。
二鐘の間なら二時間となる。
そして、鳴った回数での時間のはかり方は、朝に鳴る鐘が一回なら朝一刻、二回なら朝二刻、といった感じらしい。
つまり私達は朝食を食べたら一時間王子様の誰かと個別に交流して、勉強。
昼食を食べて、勉強。
夕食を食べた後にまた一時間王子様の誰かと個別に交流して、入浴、就寝、というスケジュールだというわけだ。
ちなみに昼食はそれぞれ好きな場所で取っていい事になっているが、ほぼ毎日王子様がそれぞれ個別に、共に、と誘いにきている。
とはいえ、それは私をではなく、他の三人の少女を、となっているけれど。
朝と夜の談笑の時間も、私が王子様から誘いかけられる事はまずない。
勿論そんな事態に甘んじているわけにはいかないので、いずれかの王子様と少女の間に割り込んで談笑に混ざっている。
そうしているうちに、段々わかってきた。
王太子である第一王子様のイオージス様は凛とした雰囲気の美少女狙い。
第二王子様のツォニージス様は妖艶な雰囲気の女性狙い。
第三王子様のサージス様と第四王子様のフォーイジス様は可憐な少女狙いだ。
その為、私が割り込むのは第三王子様と第四王子様、そして可憐な少女の組が多い。
ともすればスルーされがちな中、毎回一生懸命話しかけているけれど、果たして効果があるのかは定かじゃない。
どの王子様にも相手にされていない私は、最近ではお城で働いている人達にも影で笑われているようだ。
この間なんて廊下を歩いていたら、擦れ違ったメイドさん達に『ご存じ? あの方、殿下方から"恋の敗者の予備品"と言われているのよ』と聞こえよがしに言われ嘲笑われた。
そうか、私はそんなふうに言われているのかと、さすがに落ち込んだ。
だけど、それでも足踏みしてはいられない。
根性! を合言葉に、今日も第三王子様と第四王子様の間に突撃した。
「失礼致します、サージス様、フォーイジス様。一鐘の間、私とお話して戴けませんか?」
私がそう声をかけると、それを予想していたのか、サージス様はいち早く振り返り口を開いた。
「ああ、お嬢さん。残念ですが私は今忙しいので、貴女のお相手はフォーイジスが致しますよ。貴女が声をかけるのはフォーイジスのほうが多いですし、そのほうがよろしいでしょう? ……失礼ながら、私も貴女は好みの女性ではございませんしね」
「えっ」
「なっ、何を言うんです兄上! 彼女が声をかける頻度は僕と兄上で同数ではありませんか! それに僕にも予定があるんです、今日は兄上が相手をなさって差し上げて下さい!」
「えっ……」
今までは誘いをかけても断られる事はなかったのに、急にはっきりとした拒否を示され、お互いに私を押しつけ合う二人に、私は困惑してただ二人のやり取りを見つめるだけになってしまった。
やがてその押しつけ合いは第三王子様が勝利をおさめたらしく、勝ち誇った笑みと共に去って行く。
私は治まらない困惑の中、それでも第四王子様に向かって口を開いた。
「あ、あの……それでは、フォーイジス様。私とお話を」
「……さい」
「えっ?」
「うるさい!!」
「!?」
声をかけた途端、第四王子様は突然怒鳴り声を上げて私を振り返った。
その顔は憤怒を表している。
「何故声をかけた!? 今日は僕は休日だったんだぞ!? 彼女を誘って街に視察に行く予定だったんだ! それをっ!! 兄上も今日が休日で、彼女を誘うだろうからこそ、遅れを取るわけにはいかなかったのに……!! これで彼女の心が兄上に傾いたらどうしてくれる!? ……はっきり言って、君は邪魔なんだ!! 二度と話しかけないでくれ!!」
「!!」
「……兄上、お待ち下さい! やはり今日は退けません!!」
第四王子様は一方的に叫ぶと、最後にそう言って第三王子様の後を追い、駆け出して行った。
その後ろ姿を見つめ、私は呆然と立ち尽くす。
「…………。…………忙しい……好みじゃない……邪魔……? …………へえ……そう……ふーん……」
やがて、二人に言われた言葉をぽつりぽつりと復唱すると、沸々と沸いてくる怒りのままに、私はダンッと壁に拳を叩きつけた。
「……なら、望み通り二度と話しかけないようにするわ。出ていってやるわよ、こんな所っ!!」
第四王子様が去って行った方向を見ながら低い声でそう告げると、私は足音荒く踵を返した。
もう無理だ、もう限界だ。
花嫁候補として望んで、勝手に召喚したのは向こうじゃないか。
そりゃあ、説明を聞いて、王子様という普通なら手の届かない相手と結婚できるのだとちょっとは喜んだけど、私が頼んでそうなったわけじゃない。
なのに、あんなふうに言われるなんて!
それでも好かれようと努力する理由なんて最早ない。
見知らぬ異世界だけれど、これまでの勉強で普通に生活できるだろうくらいの知識はついた。
勝手に召喚された挙げ句の暴挙暴言を受けた迷惑料としてたんまりお金貰って、出ていってやる~~!!