どういう事?
説明の後は早速四人の王子様方との顔合わせになった。
私達は初老の男性に連れられ、庭園に用意されていた席に揃って座る。
設置されていたテーブルは三脚。
そこにそれぞれ四つずつ椅子が置かれていた。
その中のひとつに纏まって座った私達の前に、メイドさん達がすかさずお茶とお菓子を置いてくれる。
さっきは全く手をつけなかったけれど、今度はカップを手に取りお茶を飲んで喉を湿らせる。
外のぽかぽかした陽気のせいか、はたまたこれから王子様に会うという緊張のせいか、喉が渇いてしまっていたのだ。
それは他の三人も同じなのか、同様にカップを手にしている。
可愛らしい少女に至ってはお菓子にまで手を伸ばしていた。
そうしてゆっくりと飲食しながら過ごしている事数分。
庭園の入り口のほうから、数人の足音が聞こえてきた。
そちらに目を向ければ、タイプの違うキラキラした青少年が四人と、その周囲を囲うように歩いてくる鎧姿の人達の集団が視界に映る。
「お待たせ致しまして申し訳ございません」
キラキラした青少年の中で一番歳上に見える青年が微笑みを湛えながらそう言うと、サッと視線を走らせ私達を見回した。
そして。
「私は第一王子のイオージスと申します。どうかあちらのテーブルで私とお話して戴けませんか? 美しいレディ?」
そう言いながら、凛とした雰囲気の美少女の手を恭しく取り、スッと隣のテーブルに誘導した。
一見すると気障にも感じられるその一連の行動も、彼だと全くそうは見えない。
これがイケメンマジックというものだろうか、と感心しながら二人を見つめた数秒後、正面に視線を戻すと、私が座るテーブルには他に誰もいなかった。
「え?」
小さく驚きの声を上げ急いで周囲を見回すと、二人の青少年に手を引かれ、別のテーブルに誘導されている妖艶な女性と可憐な少女が見え、更に少し離れた場所でこっちをじっと見つめる少年の姿が視界に入った。
ああ、きっとあの少年が私がタイプだという変わった、じゃなくて素晴らしい趣味の王子様なんだね!
希望通り王太子様じゃない王子様だよ!
良かった良かった。
願った展開にホッとしながらその王子様に顔を向け、にこりと微笑む。
すると、次の瞬間。
その王子様はくるりと踵を返し、別のテーブルへと足を進め、そこに座ってしまう。
そしてそこに座るもう一人の王子様と静かな火花を散らしながら、可憐な少女と談笑し始めた。
私はぽかんと口を開け、その様子をただ呆然と眺める。
………………え?
何これ、どういう事?
衝撃から我に返った私は首を動かし、それぞれ両隣のテーブルで談笑している王子様と少女達を交互に見つめた。
そして正面に視線を戻し、自分一人がぽつんと座るテーブルを見る。
…………ああ…………タイプの違う少女が召喚されたのは、別に王子様方の好みって訳じゃなくて、ただの偶然なわけね……?
テーブルの上に残されたカップやお菓子をぼんやり見つめながら、私は混乱する頭を必死に働かせ、そう答えを弾き出した。
つまり、自分は四人のどの王子様にもスルーされ、あぶれてしまったのだ。
…………でも、それじゃ私、どうしたらいいの?
元の世界には、帰れないんだよね?
王子様の花嫁になれなかったら、この見知らぬ世界でただ一人、どうなるわけ……?
……まさか、一人放り出されて、野垂れ死に…………っ、い、いやいや、大丈夫!!
王子様は四人、私達も四人!!
どなたかの花嫁には必ずなれるんだから、外見がタイプじゃなくても、好いて貰えるように努力するのみよ!!
最悪の事態が脳裏を過った私はブンブンと頭を振り、気合いを入れ直すと席を立った。
そして挑むような視線を男女三人がいるテーブルに向けると、そちらへ向かって歩いて行く。
「……あの、同席させて戴いても、よろしいでしょうか……?」
テーブルの横からそう声をかけると、三人は私を見た。
可憐な少女は何の反応も示さなかったけど、王子様二人は一瞬嫌そうに眉を寄せたものの、すぐに仕方ないとでも言うように渋々頷く。
「ありがとうございます」
私はにっこり笑って礼の言葉を発すると、一番若く見える王子様の隣に座る。
そして直ぐ様口を開いた。
「お初にお目にかかります。私は牧野千草……チグサ・マキノと申します。貴方様のお名前を伺っても、よろしいですか?」
身分制度のある世界だと、こちらから先に話しかけるのは無礼にあたる可能性もあるけど、自分から話しかけなければそのまま存在をスルーされ続ける可能性があるから、構っていられない。
頑張って話しかけなければ何も始まらないのだ、仕方ない。
まずは自己紹介から、と思って発した言葉だったが、直後に振り向いた王子様は思いもよらない言葉を口にした。
「……お嬢さん。この世界では名前はとても重要です。真名といって、それを知った相手を操る術さえあります。ですから気軽に名乗るのはお止めになったほうがいい。先程の兄上のイオージスという名も、真名ではない仮の名前ですので」
「えっ……!? そ、そうなんですか!?」
「はい、そうなのです。以後はお気をつけになって下さい。それでは」
王子様はそう言うと、再び可憐な少女へと視線を戻してしまった。
告げられた事実に困惑していた私はそれを見て、一気にスッと頭を冷やす。
……いや、『それでは』、じゃないでしょう!?
何で会話は終了ですみたいな態度取ってるんですか!
終わらせませんよ~~!!
「……ご忠告、ありがとうございます。それでは、貴方様の事はなんとお呼びしたらよろしいでしょうか?」
「…………フォーイジスと、お呼び下さい。お嬢さん」
私が再び話しかけると、王子様は嫌そうな顔をしてまた振り向いた。
……うん、どうやら話しかけられたら無視はしないらしい。
まあ私も一応は花嫁候補だからね、そりゃそうだよね。
でもそれならそれで、徹底的に話しかけるまでだね!
スルーなんて、させないんだから!!