お仕事しましょう! 3
翌朝、闘技場へ行くと、入り口にあの獣人の姉妹が立っていた。
二人は私達を見つけると、パッと顔を輝かせ、一緒に駆け寄ってくる。
そして私達の目の前で止まると、揃って深々と頭を下げた。
「あの、昨日は、妹を治して下さって本当にありがとうございました! 私達、喜んでばかりでお礼も言わずに……!! ごめんなさい、本当にありがとうございました!!」
「おねえちゃん、ありがとう! フォネ、げんきになれてうれしい!! ありがとう!!」
「ふふ、どういたしまして。わざわざお礼を言いに来てくれたの?」
「はい。あと、お代をお支払いに。……おいくらですか? あの、足りない分は、分割にして戴きたいんですが……そのっ、必ず、全額お支払いするとお約束しますので……!!」
「うん? お金なんていらないよ? 闘技場にいる人の治療をするのが、今の私のお仕事で、その報酬は、お仕事終了後に、依頼主であるこの闘技場の人から貰えるから」
「え? で、でも……妹の事は、闘技場のお仕事とは関係ないんじゃ……それに、あの病は難しいもので、凄くお金がかかるって……そんな高いお金、本当に支払って貰えるんですか……?」
「うん? ……う~ん、と? ……お仕事の報酬はちゃんと貰えるから、大丈夫だよ! 貴女達は気にしないで? ね?」
「!!」
正直言って、この子の言うことは正しい。
妹さんの病は闘技場のお仕事とは無関係だから、その分のお金は出ない。
でもこの件に関しては私が治してあげたかったからした事だし、お金が入らなくても気にならない。
けれど、この子にとっては気になる事だろう。
私だったら、これまで誰も手を差し伸べてくれなくて、子供ながらに懸命にお金を稼いでいた、高い治療費がかかる難しい病気を、無償で治して貰ったなんて事になったら有難いを通り越して申し訳ないし、なんだか怖い。
だから、うまく誤魔化せればと思うんだけど……難しいかな?
「め、女神様……!!」
「へっ?」
「あのっ! それならせめて、お手伝いを! 私達をお側に置いて貴女のお手伝いをさせて下さい! 女神様っ!!」
「え? えっ!? ちょ、ちょ、ちょっと待って……!? 女神様って何!? 私、そんなんじゃないから!! 違うから!! ほ、本当に、気にしないで!?」
な、何がどうして、そんな発想に至っちゃったの!?
私の思考の斜め上に突き抜けちゃったよこの子!!
「そんな! 気にしないなんて、そんなわけにはいきません!! どうかお願いです!! お側に!! 何でもしますから、女神様っ!!」
「い、いや、だからね? ……ええっと……!!」
どうしたものかと困ってシギとメルを見れば、二人は『ティズ様信者が増えたな』、『そうですね。さすがティズ様です』なんて会話をしていた。
し、信者って…………。
そう思って再び女の子を見ると、目をキラキラとさせて私を見上げていて……その様子に、確かにこれは、信者と言えるかもしれないなんて思ってしまった。
そのあとも、なんとかやんわり断ろうとしたものの、女の子は決して引かず、仕事の開始時間も迫ってしまった為、仕方なく押しきられる形で、手伝って貰う事になった。
女の子はシシィ、妹ちゃんはフォネと名乗り、薬や包帯を取ったり、治療を待ってる人に症状を聞いて、魔法を使う私とシギ、薬のみで済むメルの元に誘導したりと、色々お手伝いを頑張ってくれたのだった。