武器屋にて
街に着くと私達は早々に宿を取り、部屋に荷物を置いた後、商店街へと足を進めた。
陽は既に傾きかけている。
あまりのんびりしている暇はないだろう。
買い物は必要な物だけに絞らなくてはならない。
私達は手分けをして旅の間の保存食を買い足して、武器・防具屋の前で再集合した。
中へ入り、それぞれの武器を見て回る。
「あったわ、魔石付きの杖! 私の得手は土魔法だし、やっぱり土属性の魔石が付いてる杖がいいわよね。ええっと……」
「私は支援魔法全般ですから、水と風と土と……ううん、あ、あっちのコーナー……でしょうか……?」
「ああ、そうみたいね。……複数の魔石付きだと、それなりに値段もいくでしょうねぇ」
「えっ? ……あ、え……ええと……わ、私やっぱり、一番得意な風魔法の魔石だけでいいです……!」
「え? あっ!? ちょ、ちょっと待ってメル、今のはそういう意味じゃあ……!」
ああ、メルが値段を気にして誤った選択をしようとしてる……。
色々な武器があるなぁ、と店内をキョロキョロと忙しなく見ていた私は、杖を見ている二人から聞こえてきた会話に眉を下げ、そちらへと近づいて行った。
「メル、それは駄目だよ? 武器や防具は戦闘時に皆の命を守る大切な物でしょう? 値段なんて気にせずに、良いものを選んでよ。お金はあるんだから、ねっ?」
「ティズ様!」
「え……で、でも、ティズ様……!」
「でもじゃないよ? 大丈夫だから! ね?」
「……う……は、はい……」
「ああ、良かった……! ごめんねメル、余計な一言だったね、さっきの。本当にごめん、気をつける! さっ、あっちのコーナーに行こ!」
「あっ、は、はい……!」
メルが私の言葉に頷くと、リゼはホッとしたように息を吐いて、メルの手を引き、杖の置かれた棚の間を移動して行った。
あの様子なら、もう大丈夫かな。
そう思った私は、剣を見ているシギ達の方へと足を向けた。
「へぇ……凄いな。柄に魔石が嵌め込んである。こんな剣もあったのか……。魔石が使用されているのは、杖だけだと思ってた」
「俺もそう思ってた。……俺の剣、この魔石付きの物にするかな……。……ああ、そうすれば、お前にも勝てるかもしれないなシギ? 一番ティズ様のお役に立つのは、俺になるかもな?」
「!!」
「……いいなぁ、それ。魔石付きの剣って見かけも格好いいし、羨ましいなぁ。……俺もいつか努力して魔法も使えるようになったら、買って貰えるかな……。才能が0ってわけじゃ、ない筈だし……」
「え、そうなの? うん、ならいいよ。そうなったら買い換えようね、約束するよシード。……シギも、魔石付きの剣に買い換える? メルにも言ったけど、武器や防具はお金なんて気にせず良いものを使って欲しいから」
「え……! よろしいんですか、ティズ様!?」
「なっ!?」
「うん、勿論! 好きなの選んで?」
「ありがとうございます!! ……だそうだロベル。残念だったな?」
「チッ……!!」
「ん……え、どうかしたの?」
「「 あ、いえ。何でも 」」
「? そう……?」
どこかおかしい二人の様子に首を傾げて尋ねてみれば、シギとロベルは声を揃えて返事を返した。
そう、声は揃っているのに、何故かその表情は真逆だ。
一人は機嫌良さげににこにこと笑い、一人は眉を寄せて不機嫌そう。
この二人の仲は、よくわからない。
「あ、あの、ティズ様! 本当ですよね? 俺も魔法を使えるようになったら、魔石付きの剣……! 約束ですよ!?」
「あ、うん。勿論だよシード。約束ね?」
「は、はい! 俺、頑張ります! やった……!!」
シギとロベルを見ながら首を傾げていた私に声をかけると、再度確認をして約束を取りつけたシードは、棚に並んだ魔石付きの剣を見て目を輝かせている。
魔石付きの剣って、そんなに凄いのかな?
シードの向上心が上がって努力してくれるなら、それにこした事はないから、どっちでもいいけれど。
どんなに凄い武器だって、結局はそれを使う人の実力がなければあっても意味はないと思うし。
そんな事を思いながら改めて店内を見て回っていると、やがて五人がそれぞれ『これにします!』と武器を持ってやって来た。
それらを買い、私達は店を後にする。
扉を潜ると、私は皆に気づかれないよう、こっそりとポケットに入った財布を握り締めた。
言った通り、武器は大切な物だから、後悔はない。
ないけど…………うん、明日、頑張って稼ごう。
財布を握ったまま、私は決意を新たにした。