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初めての夜営

 気がつくと、広々とした草原にいた。

 空の色は濃紺で、幾つもの星が瞬いている。

 横になったまま首だけを動かして周囲を見渡せば、ぽつぽつと点在する三角のテントや、地面に直接寝袋を敷き、その中にくるまっている人々が視界に入った。

 そしてそれらを囲うように、四方に青白く光る石が置かれている。

 あれは、結界石だ。

 あれで囲った場所は魔物の侵入を防ぐ為、夜営の際に重宝するらしい。

 宰相様から私にと渡された鞄の中にも入っている。

 私はいつのまにか、旅人が集ってできる夜営地に来ていたらしい。

 野宿に適したそれらの場所は地図にも描かれ、旅人の大いなる助けになっているそうだ。

 私が横になっているすぐ側では、メルシェルとリゼッタらしき後ろ姿の人影が、木の枝をせっせと交互に組んで置き、火をおこそうとしている。


「主様、お目覚めになられましたか? 良かった」


 そんな二人の様子をじっと見ていると、ふいに頭上から声が降ってきた。

 ……どうやら、現実逃避ができるのはここまでのようだ。

 私は意を決して視線を正面へと戻す。

 するとすぐ近くに、ちょっと硬そうな髪質の青い短い髪に新緑のような緑の瞳のイケメンの顔があり、こっちを覗きこんでいた。

 ああ、目を開けて最初に見たこれはやはり、夢や幻ではなかったらしい。


「……貴方、そんなに整った顔してたのね」

「あ……はい。驚きましたか? 近くの川で水浴びをしたんです。さっきまで酷かったですからね、俺達。特に廃棄間際達は、外見なんて全く構われませんから、泥やら何やらついてましたし」

「そうね。シギ、じゃなくて、護衛の彼は最初から綺麗な顔したイケメンなのはわかってたけど。……ところで……私はいつからこの状態だったの? 貴方、足は痺れていない?」

「はい? ここに来てから、ずっとですよ? 俺が水浴びしていた間は、ロベ、他の者がしていましたが。あと、足は痺れていません」

「……そう……。でも、もういいわ。世話をかけたわね、ありがとう」


 そう言うと、私は青い髪のイケメン、セシードの膝の上にあった頭を持ち上げ、起き上がった。

 ここに来てからずっとこの状態だったらしいが、気がついて尚それを続けていられる程、私の羞恥心は衰えていない。

 ……異性に膝枕されるなんて、父親以外では初めてである。

 そうして離れてから改めて見ると、身体は綺麗になってはいるが、服は汚れたままだ。

 替えの服がないから、洗濯するわけにはいかなかったんだろう。

 次に街か村へ行ったら、すぐに彼らの服を新調しないと……。

 う~ん……一人で十分だった奴隷を五人も買ったから、やっぱり出費が結構嵩むよね……。

 後悔はないけど、何か、旅をしながら稼ぐ方法を考えなくちゃ。


「あ、主様! 気がつかれたんですね!」

「良かった……! 一安心です!」

「あ……ごめんね、心配かけたよね? もう大丈夫だから」


 セシードを見つめ考え込んでいると、私が起き上がった事に気づいたメルシェルとリゼッタはホッとしたような声を出して、こっちに駆け寄ってきた。

 どうやら二人も身を清めたようで、メルシェルは水色の髪に紫の瞳をした清楚な美少女に、リゼッタは淡い茶色の髪に青い瞳の可愛い少女になっている。

 髪の長さも整えたようで、メルシェルは肩を少し越えるくらい、リゼッタは肩にギリギリ届くくらいのものになっていた。

 気を失う前は皆、くすんだ茶色っぽい髪を、前は目が隠れるくらいまで、後ろは腰に届くほど伸ばしていたというのに、恐るべきビフォーアフターである。

 あのくすんだ茶色っぽい髪色は、汚れによるものだったのか……。

 ……って、あれ?


「ねぇ、シギ……じゃなくて、ええと。な、なんか人数足りなくない? あとの二人はどうしたの?」


 シギラムとロベルクがいない。


「あ、今は、その二人が川へ行っているんです。交代制にしたので」

「ついでに帰り際、夕食にできる獲物を狩ってくるって言ってました」

「火はもう起こせましたから、あとは食材が届くのを待つだけですよ、主様!」

「そ、そう……」


 ゆ、夕食にできる、獲物を、狩ってくる、んだ……。

 ……旅生活の間は、そういうのを食べる事も多々あるんだよね、やっぱり。

 ……こ、根性で早めに慣れよう……うん、そうしよう。


「主様っ! お目覚めになられましたか!!」

「良かった……! 心配致しておりました、主様」

「あ。二人と、も……っ!?」


 背後から聞こえた二つの声に振り向けば、さらさらの銀の髪に紺色の瞳の美少年……シギラムだろう、と、ふわっとした栗色の髪に朱色の瞳の、やはり美少年……ロベルクかな、が嬉しそうにこっちへと駆けてくるのが見えた。

 こ、この世界の奴隷って美形がなるものなの?

 い、いやいやいや、そんなまさか。

 もしそうだとしたら、あの王子様方だって奴隷って事になってもおかしくないんだし。

 たまたま、なんだよね?

 私が買った奴隷達が、たまたま皆、美形だったってだけなんだよ、うん。

 ……それよりも、今はもっと他に、気になるものがある。

 戻ってきた二人の手には、猪に似た、けれども何かが違う生き物と、鶏のように見えるけれど、大きさが明らかにおかしい生き物がそれぞれ握られているのだ。

 もしやこれらが、夕食にできる、狩ってきた獲物なんだろうか。

 鶏のような生き物は私が知るそれの五倍くらいある。

 それにプラスして猪に似た生き物一頭。

 ……六人で食べきれるのだろうか……?

 保存……きくかなぁ?


「あ、やはりこちらが気になりますか主様? お喜び下さい。今夜はイノシーの肉が食べれますよ!」

「ニワニリーの肉もです! お倒れになった主様の為に、少しでも精のつく物をと、頑張って探して狩って参りました。たくさんお食べになって下さい、主様」

「そ、そう……ありがとう。嬉しい、よ……」


 じっと見ていた私に気づいた二人は、その表情を達成感に満ちたものに変え、手にしている獲物をずいっと私の目の前に差し出した。

 解体されたわけでもない、そのままの状態のその物体がすぐ目の前に寄せられ、私は顔をひきつらせながら、感謝の言葉を二人に述べたのだった。

 悲鳴を上げる事なく礼を言えた自分を褒めてやりたい。

 私の為にと獲ってきてくれた物を前にしてそんな事をしたら、二人に失礼だもんね。

 けど…………ねぇ、ところで、皆。

 いつのまにか、私の事を主様って呼んでるけど、それはもう決定なの?

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