花嫁候補になりました
白い壁に木製の深い茶色の家具が映える。
部屋の中央には同色のテーブルがあり、そのテーブルを挟むように黒いソファが置かれ、その下には赤いラグが敷かれていた。
ソファには私を含め、四人の少女が二人ずつ座っている。
誰の表情も不安げで、出されたお茶にも菓子にも手をつけず、テーブルの脇に立つ初老の男性をただ一心に見つめていた。
その様子を見て、『まずはお召し上がりになって一息つかれて下さい』と言った男性は少し困ったように眉を下げたが、徐に口を開く。
「……どうやら、何よりもまずは状況の説明が肝心のようですな。私は貴女様方の心境と対応を読み間違えてしまったようです。いや、申し訳ございません」
男性はそう言って軽く息を吐くと、四人の少女の顔をゆっくりと見回した。
その視線が変わらず自分を見つめている事を再度確認し、再び口を開く。
「最早お気づきでしょうが、ここは貴女方が生まれ育った世界ではございません。貴女方はとある目的の為に、勝手ながらこの世界へとお越し戴きました。その目的は、ただひとつです。我が国の四人の王子のどなたかと結婚し、妃となって戴きたいのです」
男性ははっきりとそう告げると、更に説明を続けた。
曰く、異世界の女性と結婚し子供ができると、その子供は何らかの、とても優れた才能を持って生まれてくるのだそうだ。
しかもどういうわけか、武官の子供なら剣技の、魔術師の子供なら魔法の、文官の子供なら執政の才能に恵まれるらしく、故に才能溢れる子供を作る為、この国では一定の年数が経つと、異世界から女性を召喚し、王子と結婚して貰うらしい。
これはこの国だけではなく、頻度に差はあれど、他国も似たような事をしているそうだ。
そして私に、いや恐らく私達にとって一番重要なのが、この世界への道は一方通行で、もう帰れないという事。
ならば、この世界で幸せになれるよう努力しなければならないだろう。
男性が言うには、王子様方が必ず私達を幸せにして下さるから心配は不要との事。
……王子様と、結婚かぁ。
私は心の中でそう呟くと、他の少女達をちらりと見つめた。
まずは、テーブルを挟んで、私の正面に座る少女。
背中まで真っ直ぐ伸びた綺麗な黒髪に、意思の強そうなややつり目の目をした、凛とした雰囲気の美少女だ。
可愛いよりは、格好いいという言葉が似合いそうである。
次に、その隣に座る少女、いや、女性というべきだろうか。
毛先が緩くウェーブした、たれ目にぷっくりとした唇の妖艶な雰囲気の女性。
特筆すべきは顔よりもその体で、まさにボン、キュッ、ボンとは、彼女を表す為にある言葉だと言っても過言ではないだろうというくらいの羨ましい体つきをしている。
最後に、私の隣に座る少女。
茶髪のふわふわとした髪に、可愛いらしい顔つきの小柄な少女だ。
守ってあげたくなるタイプ、というものだろう。
よくもまあ、これだけ全員タイプの違う女性をピンポイントで召喚できたものだと感心してしまう。
そう、全員タイプが違うのだ、私を含めて。
とはいえ、なら私のタイプはと言えば、これが特に上げるところのない、至って平凡なタイプなのだ。
顔も体も普通だし、性格も普通。
こんなんがこの三人の中に放り込まれて、果たして王子様の気を引けるのかと不安になるところだけれど、ここで重要となるのが、先程の男性の言葉だろう。
そう、四人の王子だ。
王子様は四人、私達も四人。
この事から推察するに、たぶん、それぞれの王子の好みの女性が召喚されたのだろう。
つまり、どこもかしこも普通な私が好みだという変わった……コホン、素晴らしい趣味の王子様がいるのだろうと思う。
恋人いない歴=年齢な私、牧野千草十九才。
どうやら恋人どころか、結婚相手ができそうです!
しかも王子様という夢のような相手!!
……あ、でも王太子妃とかはさすがに大変そうだから、第二王子様以降の人がいいなぁ。
私が好みだという変わっ、いや素晴らしい趣味の人、どうか王太子様ではありませんように!!