第101話 村の一時退避
1週間のバッファを取らせて頂きました。今後も予告なくこの様にバッファを取らせて頂く事があるかもしれませんので、ご了承下さい。
別視点
「クソ、敵にも転生者が居たか……」
俺は洞窟遺跡の広間で悪態を吐く。
少し考えれば分かる事だった、俺が転生者で、味方にも転生者が居るとなれば、敵にも同じ様に転生者が存在する。迂闊だったと今になって反省する。
"転生者が操る戦闘ギルドがいくつか存在する"と言う話は聞いて居たが、相手が銃で武装しているとは聞いていない。
勅令の玉もやられてしまった、一度傷が付けば使い物にならなくなるこれが無ければ、本国と連絡を取る事が出来ない。
出来るだけ早く本国側が気付いてくれる事を祈りつつ、敵が居た方向へと視線を向ける。
カノーネン・レックスを2頭とラプトルを差し向けたし、遺跡内に徘徊しているカノーネン・アンキールも居る。生きては遺跡から出て行けないだろう。
カノーネン・レックスは兎も角、カノーネン・アンキールの鱗は間違い無く銃弾など跳ね返すほど堅牢だ。
俺は神から授かった"異世界の魔物を意のままに使役する能力"で、苦労して仲間と共に……
その為にはまずこの森を手に入れる必要がある。
俺は余計な考えを振り払う、まずは森に侵入した余所者を排除する為に、ステッキを床に突き立てて鳴らす。
すると周りの小さな通路から、無数のラプトルが飛び出して来た。
大きな通路からは、カノーネン・ディノザオリアが足音を立てて出てくる。
ステッキの先端で奴らが逃げた方向を指すと、すぐさま3種の亜竜がその通路に向かっていった。
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ヒロト視点
戦術的退却、と言えば聞こえは良いが、状況が突然変わり打つ手が無くなったので村まで逃げ帰って来た。
この偵察で得られた成果は
①敵が転生者である事。
②そいつがラプトルやカノーネン・ディノザオリアを操っている事。
③敵の転生者の背後には何らかのバックグラウンドが存在する事。
④遺跡を拠点にしている事。
だ。
俺達は急遽設営した野戦司令部としているタープの下にテーブルを置き、作戦を立て始める。
ゴードンとイデルは村長との会議に出ている為、ここには居ない。
「ヒロトと同じ世界から来た人間か……」
エリスが顎に手を当てながらうーんと考え込む。
カノーネン・ディノザオリアに現代兵器が通用する以上、倒しようはある。恐らくそれについてどうやって奴らを倒すのか考えていたのだろう。
とにかく、奴をどうやって排除するかが目下の目標だ。
と、村長との会議が終わったのか、ゴードンがやってくる。
「ゴードンか、イデルの様子は?」
「軽く怯えて居たが、闘志は衰えて居ない様だ。……イデルの婚約者も、奴らに殺されたからな……イデルを動かしてるのは復讐心だろう」
なるほど……あの時叫んで居たのは婚約者の名前か。
気持ちは分かる、もしエリスが殺されでもして、相手がのうのうと生きているなら、俺はどんな手段でもそいつを追い、挽肉にして地面に混ざってどれがそいつか分からなくなるまでありとあらゆる武器で攻撃するだろう。
復讐心と言うのは強大な力を生むが、復讐に囚われてしまってはいけない。自ら制御しなければならない力だ。
だが、闘志が衰えて居ないのなら、その復讐心、今回に限って利用させてもらうとしよう。
「……分かった、精神面のケアは頼む。ラプトルを操る時は頼むかもしれないが、その時はよろしく」
「ああ、分かった。……それから、奴らについて1つ分かった事がある」
ゴードンが切り出し、俺は真剣に耳を傾ける。
「目の赤い亜竜達と話そうとしてみたんだ、そしたらあの亜竜達、よく分からない言葉を話していた」
「よく分からない?それはどう言う?」
「分からない……聞いた事も無い……意味もない雑音みたいなのだった……アレは多分、洗脳による物だと思う」
なるほどと思い俺は1人頷いた。
⑤奴は亜竜達を洗脳によって操っている。
「目が赤くなるのはその影響か……」
「あぁ……ところで、あんた達は一体どこの兵士だ……?」
ゴードンはそう言って俺達の事を見渡す。
「斑模様の服に黒っぽいクロスボウ……弦も弓も無いのにどうやって……?」
ゴードンは自分の頭の中で、俺たちの使っている武器に合致するものを探しているのか、1人考え込む。
「俺達はガーディアン、これは俺達の武器だ」
俺はそう言ってM4を掲げる、そう、M4は俺達が使う武器以外の何者でも無い。彼らを混乱させない様にするには、これだけで充分だ。
「……益々分からん……けど、あんた達が亜竜を相手にしても勝てるくらい強いってのは分かったよ」
彼は苦笑しながら肩を竦め、これ以上は追求して来ない。
いつか分かる日が来るだろう、そう思うことにしつつ、俺達は敵である洞窟の転生者に対してどの様に戦うか作戦を練り始める。
遠くからもう良い加減聴き慣れた羽音がやって来る、ヘリの音だ。
臨時本部となって居るタープから空を見上げると、OH-1とAH-64D、MH-60Mが戻って来るところだった。
OH-1と2機のAH-64Dは周辺の偵察に、MH-60Mは頭上をグルグルと旋回しながら各部隊から情報を集めていた。
『C2より1-1、無事だったのか?』
状況の把握と情報収集が終わったC2の孝道から通信が入る、俺は胸元のPTTスイッチを押して答えた。
「ああ、なんとか全員無事だ。ラプトルが2頭やられちまったが……」
『そうか……これからどうする?』
「森から奴らを排除する、亜竜をカノーネン・ディノザオリアやラプトルを操ってる奴ら、どうやら転生者らしい」
『転生者!?……やっぱりいたのか、俺達以外の転生者』
この異世界に俺と言う転生者がいて、孝道達3人が来ている事で、他にも転生者が居るというのはなんとなく察しはついていた。
しかし今回の転生者はしっかりとした"敵"だ、それに何らかの能力を有して居る可能性がある。
対応は急を要するが、慎重に判断する必要もあるのだ。
更に奴らを排除したとしても、伏兵や他の敵が居る可能性も捨て切れない。対処が慎重になるのも致し方無い話だ。
しかし、奴らはそんな事を待ってくれる筈が無かった。
『ポーラスター01より緊急通信、森の中をこちらに向かって移動する多数の熱源を探知。距離10km!』
無線から流れたナツの声は逼迫していた。
C2から航空部隊を調整するナツに、エリスが通信を繋げる。
「敵の到着予定時刻と数は!?」
『10分の予定、匂いを辿っているのか真っ直ぐそちらに向かっている。動きは緩やかだが、確実に近付いている。数は50から70!』
その通信を聞いたエリスが指示を仰ぐ様にこちらを振り向く。
俺は手持ちの装備と頼める援護を考えて戦略を立てる。
戦車がいるとは言え、小隊規模で完全にこの村を守り切る事は難しい。と言うか、おそらく無理だ。
それにこの見通しの悪さでは、敵の正確な位置を特定するのは難しい上に、地の利は敵側にあるので下手に打って出る事は出来ない。
加えて相手にはすばしっこく狡猾なラプトルが大量に居るのだ、歩兵が展開してきた所に襲い掛かられたらひとたまりも無い。
「……この規模での防御戦闘は無理だ、住人を逃がす事が出来れば……」
俺はPTTスイッチを押して話し出す。
「村の住人を逃す!基地からヘリ全機をスクランブル発進させろ!森の城壁外に出るぞ!」
『了解、基地航空隊は全機緊急発進。タロン21、22、航空支援で時間を稼げ』
『分隊は村人の退避、5分以内で完了させろ。機甲部隊は防衛線を張れ!』
「了解、全分隊集合!」
俺は分隊を集める、第1だけでなく、第2分隊、狙撃小隊本部、第3狙撃分隊の合計26人が集まる。
「村の住人に呼び掛け、5分以内に脱出の準備だ。手こずっていたら手を貸してやれ、第1分隊はヘリの誘導を優先しろ。狙撃部隊は警戒に当たれ」
「了解!」
全員がそう返事をすると、それぞれが与えられた使命の為に散開していく。
俺はその中で、第3狙撃分隊の分隊長兼狙撃手であるハンスの肩を叩いた。
「ハンス、レイヴンを飛ばして周辺警戒を頼む」
「了解、グリム!レイヴンを持って来い!」
「了解ー!」
指示を受けた第3狙撃分隊の隊員は自分達が乗っていた89式装甲戦闘車から大きめのコンテナを持ち出す。
コンテナの中身は組み立て式のラジコン飛行機……ドローンとそのコントローラー。
RQ-11"レイヴン"、それがこの無人機の名前だ。
ハンスはこれを組み立てるとバッテリーを入れ、機体後部のプロペラが小さな音を立てて回り出す。
そして機体下部を持ち、紙飛行機を飛ばすかの様に手投げ発射した。撮影される映像がコントローラーにリアルタイムで投影される。
偵察機の転送してきた映像には、豊かな森とその森の中の道を行く戦車が写っていた。
「こんにちは」
俺は村の家々を1件ずつ訪れて回る。
声を掛けた家から出て来たのはお母さんとその娘と見られる親子だ、ガーディアンの事は村長から伝えられている為、驚きは無い。
「あら、どうなさったのですか?」
「突然すみません、森に住み着いた奴らがこの村を目指して進行中です。出来るだけ急いでこの村から一時避難する準備を」
只ならぬ雰囲気に、お母さんの表情に不安が浮かぶ。
「この村を捨てるのですか?」
「村を捨てる訳ではありません、奴らがここに攻め込んで来るので、一時避難という形になります」
「おうちこわれちゃうの?」
母親の後ろで娘が言う、彼女も不安そうな表情を隠せず、母親の後ろに隠れている。
俺がどう説明しようか迷っていた時、隣に見慣れた金髪が立った。エリスだ。
エリスはしゃがんで娘と目線を合わせ、微笑みながら言う。
「良いかい?お家はもしかしたら壊れてしまうかもしれない、思い出のお家は戻ってこないかもしれない。けど、君達が生きていれば今度は君達が思い出を作る番になれるんだ。だから君が生き残る為に、一緒に来てくれないか?」
語り掛けるエリスの表情はとても優しかった。
「……うん、お姉ちゃん達と生き残って、一緒に思い出作るよ!」
それに安心したのか、女の子はそう言って元気に笑う。
エリスは女の子と同じ様に笑って、良い子だと言って頭を撫でた。撫でられた女の子は嬉しそうだ。
「……では、お願い致します」
「はい、分かりました」
母親に向き直ると、母親は納得した様に少し微笑んで家の中に戻って言った。
家財道具などの事もあるだろうから、早めの声掛けの方が良いだろう。
俺は次の家に向かいながらエリスに話しかける。
「……エリス、子供の扱い上手いな」
「エリス派は孤児院から出たメンバーばかりで構成されてたからな、子供と話すのは慣れてる」
「なるほどな……」
そう言えばそうだった、エリス派は親の無い孤児院出身者などで構成されており、騎士団として組み込まれてから一般教養なども教えられているので戦闘以外にも秀でた者が多い。
現に歩兵分隊に組み込まれて居らず、後方支援ながら重要な役割について居るメンバーもいる。
「子供、かぁ……」
エリスはプレートキャリアとベルトの間、コンバットシャツに包まれたお腹、特に下腹部を少し撫でる。
「……欲しいのか?」
「ヒロトは?」
この異世界に男性用避妊具の様なものは無く、避妊法は女性側が"ハッカ"と呼ばれる経口魔術避妊薬を飲むのが主流だ。
性病に関しては俺もエリスも陰性だったので遠慮なくヤってしまっているが、毎晩という訳でも無い。
……まぁヤる時は薬飲んでてもデキてしまいそうな程中に出すんだけどね……
しかし、子供はまだ不要とは思っているので、エリスに薬を飲んで貰っている。
「……俺は子供はまだいいかな……」
「その心は?」
「ガーディアンは規模的な意味でまだ不安定だし、規模を広げれば財政的にまた不安定になる。その状態で子供作ると、俺もエリスも負担になっちまうからな」
「ふふっ、私も同意見だ」
エリスはクスッと笑いながらそう言う、頭を撫でたくなったが、ヘルメットを被っていたので止めた。
「……ぁ……」
それを見てエリスは少し寂しそうな表情を浮かべる。
よし、脱出したら死ぬ程撫で撫でしちゃる。
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第3者視点
ガーディアン本部基地
ヘリのエンジン音が響き渡る飛行場、タービンが回り始め、甲高い音が飛行場を包む。
「回転数異常なし、ローターブレーキ解除」
コールサイン"イエロー31"を持つCH-47Fのパイロット、ヘンリー・アルセリア少佐が機体各部のチェックを行っていく。
航空部隊各機はいざという時の際に備えて発進準備を整えており、各パイロットが各自のヘリに走っていた。
出撃するヘリはMV-22Bオスプレイが2機、CH-47Fチヌークが2機、MH-47Gチヌークが2機。
それから村の住人が乗せきれない事態に備えて、MH-60Mブラックホークも上空で待機。対地支援の為に2機のAH-6Mも出撃する手筈になっている。
「こちらイエロー31、離陸準備完了」
『了解、風向1-3-0、風速4。イエロー31、離陸を許可する』
「了解、イエロー31、テイクオフ」
ヘンリーはコレクティブ・ピッチレバーをゆっくりと引くと、CH-47Fの巨大な体躯はゆっくりと浮かび上がる。
それを皮切りに、全10機のヘリがガーディアンの基地から飛び立った。
イエロー31のロードマスター、アンネ・アルセリアは機付員の手も借りて住民や貨物を搭載する為の準備を行い、あと2人の機付員はガナードアからGAU-19/Bを構えている。
車輌を使えば1時間ほどの距離だが、ヘリではそんなに掛かることは無い。8機のヘリと2機のティルトローター機は、ローターの爆音を響かせながらラプトルの森を目指した。
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ラプトルの森
ヒューバート視点
「巫山戯んなよ!?」
青年が怒鳴り声を上げる、現場は俺の目の前。
タープを撤収して避難を呼び掛けて回っている所、この青年に怒鳴り付けられたのだ。
「安全の為に避難って、結局お前らが勝手にコケて村に亜竜を引き寄せただけじゃねぇか!」
俺はM249を携えながら軽く溜息を吐く。
確かに強襲作戦が失敗し"俺たちが村に亜竜を呼び寄せた"様にも見えるだろう。客観視すれば俺にだってそう見える。
だが、だとすれば俺達はその責任を取ってこの村の住人を守ると言う義務が発生する。
本当ならば村ごと護りたい所だが、この人数と手持ちの兵器では守り切る事など到底不可能とヒロトさんが判断したからだ。その判断は間違ってはいない。この小規模の部隊を広範囲に展開させれば、最悪各個撃破されてしまう。
「時間が無いんです、一刻も早い避難をお願いします」
俺はこれ以上言っても時間の無駄だと思い、そう言って背を向けて次の家屋へと向かうが。
「……シカトしてんじゃねぇよテメェは!」
怒号と共に背中を蹴られる、蹌踉めくが、前転の受け身を取る事が出来て傷はなかった。
「たかだか戦闘ギルドの分際で無視してんじゃねえよ、俺は素手でラプトル3頭を仕留めた事があるんだぜ!?」
だからどうした。
埃を払って立ち上がる、携えていたM249を軽く見てみるが、大きな問題はなさそうだ。
「……良い加減にしろよ、ガキかテメェら」
「あ?何だ粋がってんのか?」
「巫山戯んのも大概にしろ、生きるか死ぬか、ここで選べよ」
普段は出さない低い声で威嚇する様にそう言う、こちらだって忙しい、わざわざこいつらに割く時間的余裕がある訳でも無いのだ。
俺は再びそいつらに背を向け、家を一軒一軒訪ねて廻る。規模的にはこの村の住人は15世帯40人ほど、ヒロトさん達が呼んだブラックホークも含めれば、家財道具一式もチヌークに乗せて避難する事が出来る。
家から続々と荷物を持って外に出てくる住人を見渡し、殆ど全員が出てくるのを確認した時、再び通信が入る。
『航空隊到着まであと2分、第1分隊はLZを確保せよ』
ヒロトさんからだ、俺はPTTスイッチを押して了解、と返事をすると、広場と呼ばれていた開けた所に向かって走り出した。
ロケットの飛翔する音と機関砲の連射音が響く、航空隊のAH-64Dが交戦を開始したのだろう。
恐らく6km程の所まで迫っている、これを超えられれば、戦車による攻撃も始まる。そうすればもっと近い所での交戦となるだろう。
避難完了までは間に合ってくれよ、と心の中で念じつつ、広場に到着する。
"広場"はCH-47Fが1機着陸するスペース位はあり、野戦司令部用のタープなどもここに下ろした。
逆に言えばヘリが着陸出来るスペースはここしか無く、非効率的だが"1機降ろして載せたら離陸させてまた1機"と言う手法を取らざるを得ない。
広場に集合した第1分隊の全員に向けてヒロトさんは指示を出す。
「LZを確保した後、住民を誘導してヘリが離脱する。その間に住民の安全確保と誘導を行う!」
「了解!」
指示を受けて8人が円状に散開、ヒロトさんがポーチからスモークグレネードを取り出してスタンバイ。ヘリからの通信を待つ。
『This is Yellow3-1. ETA 2minute over』
聴き慣れた通信、グリーンベレーでもヘリの誘導は何度も行ったことがある。
イエロー31のコールサインを持つCH-47Fが到着するまであと2分、そう言えば異世界人はヘリの事を"空飛ぶ風車"とか言ってたなと思いつつ、その時を待つ。
村から翼竜4騎が飛び立つ、恐らく村の翼竜使いが乗っているのだろうか、背中には2〜3人が乗っており、爪に荷物をガッチリと掴んで少し重そうだ。
ヘリの定員と搭載量は限られているので、翼竜で避難可能な者はと呼び掛けたのだ。
『イエロー31、着陸まであと1分!』
『了解、LZに降下、着陸せよ。位置はレッドスモークで指示する!』
ヒロトさんはそう言うとM18スモークグレネードのピンを抜いて投げる、缶の様なデザインのスモークグレネードは一度地面でバウンドすると、赤い煙を上げ始める。
円の中心で赤い煙が立ち上る、ヘリの羽音が大きく聞こえ始めた。
木々の向こうから姿を現したチヌークは、1機が上空で旋回待機、もう1機がハッチを開けながらスモークめがけて旋回降下し、ゆっくりと着陸した。
オスプレイは回転翼機モードのままこちらに飛翔、チヌーク同様旋回しつつ待機している。
『第2分隊は住民を誘導、チヌークに家財道具を乗せさせろ』
『了解』
ヘリの騒音が大きいので、自然と会話は無線による通信になる。
第2分隊の分隊長、ガレント・シュライクがSAI GRYライフルを構えながら村の住人を誘導し、CH-47Fに近づく。
事前に説明をしていたのか、混乱する事なくチヌークのロードマスターに貨物を渡していき、ロードマスターはパレットに荷物を固定する。
『ヒロトさん進言します!チヌークには荷物を乗せ、住人はブラックホークに分乗させましょう!』
『分かった!荷物を乗せた住人に10人1グループを作らせろ!』
『了解しました!』
なるほど、CH-47FやMH-47G、MV-22Bに住人の荷物を乗せ、住人はブラックホークで撤収すると言うことか。
それなら荷物の量の制限を多少緩和出来る、その分、住人を乗り込ませるのに時間がかかるが……
第2分隊は整列と誘導を行いながら荷物をロードマスターに預け、ロードマスターは荷物を固定、乗せ終わった住人はガレント達の元へ向かう。
貨物の搭載を終えたチヌークはハッチを閉めて離陸、続いて2機目のチヌークが広場に着陸してくる。
2機目のチヌークも受け取った荷物をパレットに固定、満杯になって離陸を繰り返した。
3機目のチヌーク、MH-47Gに荷物を搭載している時、戦車砲の砲声が聞こえ始めた、戦車部隊も交戦を始めたのだ。
戦車砲の射程距離は条件にもよるが2000〜3000m、戦車隊はここから500mのところに展開しており、敵がそこまで迫っていると言う事になる。
「急げ!敵が来るぞ!」
第2分隊も住人達を急かす、荷物の搬入が慌ただしく終わり、MH-47Gの1機目が離陸、2機目が着陸に入る。
誘導もロードマスターへの受け渡しも慣れて来たのか、スムーズになり始めた。
MH-47Gが離陸、次はMV-22Bオスプレイだ。
回転翼機モードのまま着陸進入するオスプレイはカーゴハッチを開けていて、既に貨物の受け入れ準備が整っていると言わんばかりだ。
ロードマスターは次々と荷物を受け入れ、積み終わり次第離陸、荷物を積む輸送機は次のオスプレイが最後だ。
「これで最後だ!」
2機目のオスプレイに荷物を積んでいる時、村人が最後の荷物を持って来た。
その最後の荷物を積む、と、ヒューバートの目に入ったのは最後まで愚図って居たあの青年だ。
第2分隊の兵士に連れられるも、未だ愚図っている。
周りにも「早くしろよ」という雰囲気が流れていて、何とかしないと面倒だ。
「よし!良いぞ!」
最後のオスプレイが離陸、貨物は全部乗せ終えた。後は住人をブラックホークに乗せて離脱すれば俺達だけだ。
チヌークとオスプレイが1機ずつしか着陸出来なかった広場も、ギリギリまで寄せてブラックホーク2機が着陸するスペースを何とかといった感じで確保、1機のヘリに10人を乗せて離陸していく。事前に班を決めていたおかげでスムーズにいった。
しかし残りの2機、ブラックホークのキャビンの近くで青年が愚図っている為に出発が遅れていた。
俺はスリングでM249を肩に担ぎ、青年のもとへ歩み寄る。
「だから何で俺が避難しなきゃいけないんだ!元はと言えばお前らが_____」
そして未だ愚図る青年の背中に、先程のお返しとばかりに蹴りを入れた。
俺はそんなに出来た人間では無いので腹も立つ、良い加減愚図るのをやめないこいつが少々頭に来た。
ぎゃっと声を上げて青年が倒れ込んだのは、ブラックホークのキャビンの中だ。
「だったら生き残って生きる喜びを感じろよ、その性格じゃすぐ死ぬぞ、お前」
「何を_____」
返事を聞き終える前に、キャビンのドアを思い切り閉める。
それを皮切りに、2機のブラックホークは住人を乗せて離陸した。
残っているのは、ネルトラプトルに乗ったゴードンとイデルだけだ。彼らは村のラプトルを連れて城壁の外へと出る事になっている。
村からネルトラプトルの鞍に乗ったゴードンとイデルが、7頭のラプトルを率いて出て来る。
「大丈夫かゴードン?」
「あぁ、村とはお別れだが、俺達にはラプトルがいる。この森の事は頼んだぞ」
「任せろ」
俺はゴードンと拳を突き合わせ、彼はネルトラプトルに乗って猛スピードで走り去った。
今度は俺達が撤収する番、広場を放棄して分隊毎に集合する。
「村からの住人の撤収は終わった、第2分隊が見てきた様だが村人はもういないし、荷物も無いそうだ」
良かった、村人の忘れ物はもう無いという事か。
「これより我々はIFVと合流し搭乗、機甲部隊とともに撤収する!」
「了解!」
ヒロトさんの宣言に大きく了解の声を返し、歩兵部隊は全員、IFVに向けて走り出した。