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第100話 竜の遺跡の中で

俺が知る限り、俺に関わっている人種は大きく3種類。


先ずは"異世界人"、"現地人"とも呼ぶが、その通りこの異世界に元から住んでいる原住民で、ここから更に獣人や竜人の亜人、エルフやドワーフなどの妖精、飯喰い(コーマ)の様な魔人などに細分化される。


2つ目は"召喚者"、俺がスマートフォンの能力によって"召喚"した地球人の兵士だ。

ヒューバート、レイ、マシューズ、バーナードや、ヘリパイロットなど、現在ガーディアンを構成する人員の中で最も多い人種だ。


そして3つ目が、"転生者"。

健吾、ナツ、孝道の3人、そして樋口もだ。

この3人に共通するのは"日本人である事"だ。


日本人を日本人と一目で見分けられる一つの基準として、黒髪が挙げられる。

俺を含めた今まで関わりを持つ転生者の全員は、例外なく黒髪だ。


逆に黒髪の例外として、クレイが挙げられるが、クレイはれっきとした異世界人だ。

なので、アレが黒髪だから転生者だとも限らない。


俺が暫く様子を伺う様に見ていると、男の前の壁に嵌め込まれた水晶の様な透明な大きな球体が濁り出す。


そして映し出されたのは_____長い銀髪の女性だ。


『アヤト様……』


「久し振りだな、シェリス」


俺は息を呑んだ、状況証拠での判断に過ぎないが、黒髪に"アヤト"と言う漢字に変換出来そうな名前。こいつは転生者だ、異世界人では無い。


水晶の向こうの人物はおそらく異世界人だろう、見た目30歳程度の妖艶な女性だ。


『準備の程は如何でしょう?』


「漸く7割が終了した、後3割は……そうだな、3週間ほど待って貰えれば終わる」


『分かりましたわ、その様に……私達の国の、第1歩ですからね』


「あぁ……俺達の国の為に」


『ええ、それではまたお会いしましょう……』


水晶はそれっきり再び透明になり、広間には静寂が舞い戻る。

相手は50mも無い距離、ACOGの上にあるRMRダットサイトの赤い点を合わせる、もちろん狙いは頭だ。


ここで奴を殺さなければ、被害は増える。

しかし俺は引き金を引けずにいた。

"殺らなければ殺られる、だから殺る"、その誓いは既に胸に刻み込んだ筈だ。


俺はダットサイトのレティクルを頭に合わせてレンズ越しに奴を睨みつけ、引き金に指を掛けた状態でいつでも撃てるようにしたまま、撃てない理由を探した。


転生者だから?_____関係ない、敵は等しく殺す。


日本人だから?_____同じ理由で却下、殺す時は殺す。


重要な情報を持っているかもしれないから?_____恐らくこれが最も大きいだろう。しかし、被害が大きければ情報を得る前に殺す。


理由は兎も角、俺はその瞬間引き金を引くのを躊躇った。()()()()()()()()


そのせいで、味方側の動きを察知するのが遅れた。

ゴードンに着いて来たもう1人の青年_____名前は確か、イデルと言った_____が、激昂して奴に向かって叫ぶ。


「テメェ……よくも俺達の森を……!」


「バカ、よせ……!」


俺達は彼を制するが、それより先に叫び出してしまう。


「お前が……ラーナを!ラーナ達を殺したのかぁぁぁ!!!!」


彼の心からの絶叫が広間に反響する、それに男が気づき、こちらを振り向いた。


「お前が俺の……」


「やめろバカ!」


彼が叫んだ名は、おそらく親しい者の名だろう。恋人、婚約者、近親者、恐らくそう言った関係だったのだろう。彼の激昂具合でそれは容易に想像が付く。


しかし、それを叫ぶのは今ではない、今でなくて良かった。今叫ぶべきでは無かった。今叫んで欲しく無かった。


「……おやおや……?どこからかネズミが入り込んだようだな……」


大仰な喋り方で振り向く男、どうやら転生者は立場を与えられると、立場相応の話し方になるらしい。


「入り込んだネズミは……始末しなきゃな」


奴が口笛を吹くと、広間の奥の通路からカノーネン・レックスが現れた、それも2体もだ。


グォォォォォォォァァァァァ!!


2体のカノーネン・レックスは凄まじい咆哮を上げ、空気がビリビリと震える。


「逃げろっ!」


ヒューバートが叫び、M249を射撃する。射線はカノーネン・レックスを追っていたが、カノーネン・レックスが動き出した事により狙いはそれ、流れ弾は背後にあった大きな水晶玉に命中して大きなヒビを入れた。


「ほら!立て!死にたくなければ走れ!」


「走れ走れ!!」


カノーネン・レックスにビビって尻餅をついたイデルを立ち上がらせる。

俺とヒューバートが殿となり、ラプトル達と共に来た道を戻る様に走り出す。


「お前ら、転生者かぁぁぁぁぁ!!!!」


俺達の背後から、先程の男の絶叫が聞こえる。その怒声に呼応する様にカノーネン・レックスが吠える。


俺達は先程の通路に飛び込み、奥へと進む。

人用の通路なのかカノーネン・レックスは通れず、頭を半分程突っ込んでも俺達を食う事は出来ずに悔しそうに前脚を突っ込んで俺達を探り当てて掻き出そうとする。


俺達はその間にも奥へ奥へと走り続ける。俺達の背後からの咆哮が、カノーネン・レックスからラプトルのものに変わった。


「クッソ、今度はラプトルか……!」


走る背中から、先導するラプトルとは別のラプトルの足音が聞こえてくる。


「エリス!ラプトルに続いて先導を!クレイ!アイリーン!追っ手を叩くぞ!」


「あぁ!」


「了解!」


クレイは呼ばれると、持っていたパンツァーファウスト3の1本をブラックバーンに渡す。

クレイとアイリーンが残り、殿の俺とヒューバートが後ろを塞ぐ。

ヒューバートとクレイは狭い通路で横並びになり膝撃ち(ニーリング)の姿勢に、俺とアイリーンはその上で立射(スタンディング)の姿勢でそれぞれの銃を構える。


こうする事で狭い通路で火力を2倍にする事が出来る、これをタクトレでは"ハイローテクニック"と呼ぶ。


グリップのスイッチでライトを点ける、暗闇に赤い目が反射した。


「撃て!」


狭く暗い通路に4つのマズルフラッシュが光り、銃声が反響して耳に届く前にヘッドセットのサウンドカットに音が小さく抑えられる。


お陰で耳に届く銃声は相当小さな音になっているが、ヘッドセットがなければ耳が聞こえなくなりそうな程の大音量だろう。


喧しい音と共に銃口から吐き出される5.56mmNATO弾、連動してボルトが作動し、エキストラクターが薬室から空薬莢を引き抜いてエジェクションポートから排出していく。


5.56mmNATO弾は2000J(ジュール)と言う殺傷には充分すぎる運動エネルギーを持って音速の3倍で飛翔、ラプトルに獰猛に喰らいつく。


4人の構えるM4やM249から絶え間無く撃ち出される5.56mmNATO弾の嵐のような弾幕を、敵のラプトルはその身を以って受け止めた。


「撃ち方止め!行くぞ!」


普通に話せば聞こえにくい為、無線で音声を飛ばす。

引き金から指を抜いてヒューバートの肩を叩き、4人は立ち上がって再び奥へと走り出した。


背後からは濁った鳴き声、恐らく群れの後方にいたラプトル達だろう。

人の走る速度などたかが知れている、ラプトルが追い付く事など造作も無い。


「ッ!」


クレイが振り向く、彼女の右目は既に血のように緋くなっていた。

ラプトルがクレイを獲物と認識して肉薄。飛び掛かるが、右目と同じ色の真っ赤なマフラーが蛇の様に伸びる方が一足速かった。


ズパン!


良い音を立ててラプトルがマフラーに縦に真っ二つにされ、走って来た勢いのまま転がる。


クレイはマフラーを意のままに操る特異魔術を持つ、この力のせいで彼女の村では忌子や魔女扱いされていたらしいが、ガーディアンではその力を遺憾無く振るっていた。


その勢いのまま2体目のラプトルを袈裟斬りの要領で両断し、3体目は頭にマフラーを巻き付けてギリギリと締め付けていき、リンゴを握りつぶす様に潰してしまった。


搾り滓を捨てると再び振り向いて走り出す。もう追っ手は居ないようだ。


先に行ったエリス達と合流すべく、俺達は通路を走った。


============================


エリス視点


私の隣を、ゴードンがラプトルに指示を出しながら走っている。

とは言っても、私は彼らの声は聞こえない。竜人族は、亜竜や翼竜とテレパシーで会話をするからだ。


ゴードンが走りながらラプトルに何かを語りかけるような視線を向けると、ラプトルは応える様に吼え、行動に移す。


先程渡った幅の広い通路、そこに辿り着くと、ぞっとする様な感覚が襲う。


「伏せろ!」


その声に反射的に反応して伏せる、ゴードンとイデルはグライムズとブラックバーンがタックルの要領で地面に伏せさせていた。


その直後、ヘルメットの上を質量のあるものが"ブォン"と風切り音を立てて通過し"ギュッ!"と言う濁った声が聞こえた。


「皆無事か!?」


「グライムズ居ます!」


「ブラックバーン居ます!」


「エイミー居ます!」


「ゴードン大丈夫だ!イデルも無事だ!」


素早く点呼を取り確認する、ヒロトからも教わったが、奇襲を受けた場合に騎士団でも良くやっていた。


「くそッ!カノーネン・アンキールです!」


やはりか、と思った。先程頭上を通過したのはカノーネン・アンキールのハンマーだったのだろう。


「た、ターボが……!」


声の方を振り向くと、イデルが焦った様に声を上げて壁を見つめている。

視線の先には______血と形のある肉の塊。


恐らく、ラプトルを思い切り壁にぶつけたらあんな感じになるだろう。

壁からは、肉の塊からはみ出ているラプトルの脚と思しき物が力なく垂れる。


カノーネン・アンキールと睨み合っていると、その後ろからまた呻き声が上がる。

暗い通路の向こうからは、カノーネン・レックスがやって来る。


この通路で挟まれた……っ!


既に飛び込む予定だった人用の通路は、カノーネン・アンキールにじりじりと追い詰められていた事で飛び込める位置には無くなっている。


「騎士さん、カノーネン・レックスは俺に任せてくれ」


ゴードンが立ち上がりながら名乗り出る、残ったラプトルがゴードンの周りに集合する。


「これでも狩りでカノーネン・レックスを何回か相手した事がある、時間稼ぎくらいにはなってみせる」


「分かった、そっちは頼む」


カノーネン・レックスの相手はゴードンに任せ、カノーネン・アンキールに向き直った。


通路の薄暗闇には、亜竜の呻き声が反響する。


ピィ!


カノーネン・レックス側、ゴードンが吹いた口笛を合図に4体のラプトルが一斉にカノーネン・レックスに襲い掛かった。

ラプトルは後脚の爪をカノーネン・レックスに突き立て、背中に噛み付く。カノーネン・レックスもそれを振りほどこうと体を揺らしたり振り回したりしていた。


こちらも始めよう。


「ブラックバーン!」


「了解!」


ブラックバーンに声を掛けると、彼は既にプローブを伸ばして発射準備済みのパンツァーファウスト3を構えていた。


私はM4の銃口を、鱗を貫けないと分かっているカノーネン・アンキールに向けた。

引き金を引く、5.56mm弾は音速の3倍でカノーネン・アンキールの鱗に命中し、火花を散らして弾かれる。


エイミーがM249を激しく射撃するも、結果は同じだ。

グライムズがMk13 EGLMから40mmグレネード弾を発射、鱗に直撃して爆発するが、こちらも同じく効果は無さそうだ。


しかし、私達の目的はその攻撃でカノーネン・アンキールを倒す事では無い。意識をこちらに引き付ける為だ。


「やれ!」


「死ね!クソ野郎!」


カノーネン・アンキールを口汚く罵ったブラックバーンから放たれるパンツァーファウスト3こそ、本命の攻撃だ。


バシュッ!


発射されたタンデムHEATの弾頭はロケットモーターを燃焼させながら、カノーネン・アンキールの鱗に命中した。


通路は爆発の熱と轟音に包まれる、が、狙った通りにはいかなかった。


煙の中から姿を現したのは、後脚を一本失い、眼を真っ赤にしたカノーネン・アンキールの姿だった。


「……ちッ!」


思わず舌打ちしてしまう、手持ちの対戦車兵器はもう無い。


カノーネン・レックスも背中に乗っていたラプトルを弾き飛ばし、1体をブチブチと音を立てて噛み潰した。


こんなにヤバいと感じたのは騎士団でドラゴンを討伐しに行った時以来だ。


広いとは言え通路には逃げ道は無く、両側をドラゴンと同じくらい危険視されているカノーネン・ディノザオリアに挟まれている状況。


直感的に死を覚悟したその時。


「おい!こっちだ!」


通路の奥から怒声が聞こえる、厳密に言えばカノーネン・レックスの背後からだ。


カノーネン・レックスがその声に振り向くと同時に、ヘッドセットでサウンドカットを聞かせても響くような爆音、砲弾はカノーネン・レックスの脇を通り抜けて、カノーネン・アンキールの頭に突き刺さった。


パンツァーファウスト3より圧倒的に速い砲弾に貫かれたカノーネン・アンキールは力無く地面に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。


「はっ!!!」


続いて聴き慣れた声と共に、ヒュンヒュンと鞭が空中を走るような風切り音。

次の瞬間、カノーネン・レックスの首がスッパリと斬り落とされて地面に落ちた。


ガーディアンでこんな真似が出来るのは1人だけ、それもその1人は私の愛する人と行動を共にしていた。


「大丈夫か!?」


「ヒロト!皆!」


いつもいいタイミングで駆け付けてくれる、私のヒーローの登場だ。


============================


ヒロト視点


状況を整理する。


"ラプトルの群れを撃退してエリス達に追い付こうとしたら轟音がして、通路から出たら、エリス達がカノーネン・ディノザオリアの挟み討ちにあっていた"


字面だけで見るのは簡単だが、かなり危機的な状況に置かれている。


ので、AT-4CSをクレイから1本貰い、カノーネン・アンキールにヘッドショットを決めたのと同時に、クレイにカノーネン・レックスの首を斬り落として貰った。

我ながらあの状況で良くAT-4CSでカノーネン・アンキールの頭に当てられたと思う。


「大丈夫か?」


「あぁ、済まない。また助けられたな……」


「良いんだよ、仲間だろ?お返しに俺が危なくなったら助けてくれ」


「そのくらいお安い御用さ」


一息つけると思ったが、敵さんはどうやら一息つく暇すら与えてくれないらしい。

当然と言えば当然か、俺が敵なら同じ事をすると思う。


通路からは、また別のラプトルの鳴き声だ。


「皆!通路へ走れ!」


俺が通路を指して叫ぶと、全員が弾かれた様に走り出す、もちろんラプトルもだ。


それを追って敵の赤目のラプトルが通路に入る、今度の殿はクレイとブラックバーンだ。


「今度は外さないでよっ?」


「さっきだって外してねえよ……!」


ブラックバーンが振り向きM4を構え、牽制で数発射撃する。

2〜3発が命中するも、致命弾には至らない。

クレイはそれを狙ってスリングでM4を背中に回して背負い、両方のマフラーを手に取って鞭の様に操る。


「っは!」


その2本を振り回すと、長くマフラーが伸びていき先端が荒ぶり、ラプトルを斬り刻んでいった。


俺達は光を求めて、遺跡通路を突き進み外を目指した。


============================


外の部隊、第3者視点。


外で待機しているのは、狙撃小隊本部と第3狙撃分隊、そして89式装甲戦闘車が4輌。もう少し離れた場所には90式戦車4輌と待機している。


観測ヘリと攻撃ヘリ、C2ヘリのMH-60Mは燃料補給の為に1度帰投し、再び此処に来る予定だ。


「こうして見るとラプトルの森ってタイムスリップしたみたいだ……」


「あぁ、まるでジュラシック何とかだな」


話しているのは第3狙撃分隊のハンスと、その弟のグリムだ。ハンスはM82A3のスコープを覗きながら、グリムはSR-25の具合を確かめながら話していた。


ハンスは地球であった有名な恐竜SF映画の名前を挙げながら、スコープの十字のレティクルを遺跡のトンネルに合わせていた。


「大体あの映画は"人間には扱えない力を持ってはいけない"ってのと"無茶な期間で無茶な仕事を頼むと無茶苦茶になる"って教訓じゃなかったか?」


「うん、でも今回は普通に共存してるみたいだし……」


グリムはそう言って、主人の帰りを待つネルトラプトルへと視線を投げた。

2頭のネルトラプトルは何をするでもなく、ただジッと背中に乗せていた主人の帰りを待っていた。


その時、トンネルの中から轟音が響く。明らかに火薬が炸裂する音だ。

周りが慌ただしくなる、ハッチを開けていた89式装甲戦闘車の隊員達も車内に引っ込んでハッチを閉めた。

ヘッドセットを外すと、小さく銃声も聞こえる。中で戦闘しているのか。


『カミングアウト!!』


トンネルの中から叫び声がする、突入した建物の中から外に飛び出す時の合図だ。


「来るぞ、備えろ」


ハンスはM82A3のトリガーに指を入れる。

89式装甲戦闘車もディーゼルエンジンを唸らせ、発進準備を始めた。


「……来た!」


トンネルから飛び出す影、最初は3頭のラプトルだ。


「……?5頭で入ったはずだよな?」


「うん、なのに3頭しか出てこない……?」


狙撃手の兄弟が話していると、ヒロト達が出て来た。相当慌てている様子で防衛線まで走って来る。


「中で何が!?」


「詳しい事は後で話す!今は後退するぞ!」


「り、了解」


ヒロトは切羽詰まった声で狙撃部隊に指示を出す、ハンス達は立ち上がり89式装甲戦闘車に向かって走り出す。

ゴードンとイデルはネルトラプトルに跨り、3頭のラプトルと共に村に向かって退却していく。


ほぼ同時に、遺跡のトンネルから赤い目のラプトルの群れが押し寄せて来た。


「総員後退!IFVに入れ!FV小隊、戦車小隊、射撃を許可する!」


『了解!』


『了解!』


『了解!』


無線を飛ばし、全員から了解の返答が来る。

数秒のタイムラグの後、洞窟入り口への機銃掃射が始まった。

89式装甲戦闘車が7.62mm同軸機銃と35mm機関砲、後方の90式戦車に搭載されているブローニングM2重機関銃が一斉に火を噴いた。


大小様々な口径の銃砲弾が洞窟入り口に降り注ぐ、その間に89式装甲戦闘車は歩兵を収容した。


『どんどん出て来る、キリがねえ!』


『戦車隊!砲撃で落盤させろ!』


『了解!』


90式戦車がM2を撃ちながら前に出る、坂梨中佐の車輌だ。


「ヒデ、よく狙え」


「了解……!」


坂梨中佐は車長席でM2を撃ちながら、合間に砲手の田中 秀明中尉に声を掛ける。

狙いを合わせる、洞窟入り口までの距離は300m。


引き金を引いた。


ドン!


どんな銃声よりも凄まじい砲声が轟き、JM12A1多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)を発射した。


HEAT-MPは洞窟内に入り、天井に命中。

天井にビシリと大きな亀裂が入る。


バンドマガジン式の自動装填装置から素早く次弾のHEAT-MPが装填され、再び照準し直す。

2発目が轟音と共に発射される、6秒前に発射したHEAT-MPと同じコースを辿ったJM12A1は、天井のほぼ同じ場所に命中した。


亀裂はどんどん大きくなり、やがて1つ2つと瓦礫が落ちていく。

危機感を覚えたラプトルが上を見上げた瞬間、ガラガラと音を立てて内部を崩壊させ、まだトンネル内にいたラプトルを生き埋めにした。


「命中!」


田中中尉が声を上げるが、喜んでばかりも居られない。

洞窟は塞いだが、洞窟から出た多数のラプトルが残っている。


「撃ちまくれ!」


89式装甲戦闘車の同軸機銃と機関砲、90式戦車の同軸機銃と車長用ターレットリングに据え付けられているブローニングM2重機関銃が次々とベルトを飲み込み、銃弾の暴風を巻き起こす。


赤い目をしてこちらに向かってくるラプトルを、兎に角撃ち倒していく。

思わぬ事態に体勢を立て直すべく、ヒロトは全部隊を村に引き上げる事にした。

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