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第98話 竜人族の村

1週間の空きを取らせていただきありがとうございます。

作品の進行具合によって今後もバッファを取らせて頂く事が御座いますが、ご了承下さい。


そして、9/12はミリヲタ2周年で御座います。

2年経っても書きたい事の半分まで来て居ない遅筆で文才の無い作者ですが、今後とも「ミリヲタ」をよろしくお願い致します。

「何だこれは……」


俺達は全員降車し、村があったと思われる場所を探索した。

燃え落ちた家屋の残骸が散乱しており、燃え尽きた遺体と見られる炭化した物体も散見された。


ラプトルの森に人が住んでいたと言うのは聞いていなかったが、これは何かあったのは明白だ。

放火事件や火災事故以外で考えられる火種は……翼竜(ワイバーン)かドラゴン、カノーネン・ディノザオリアの襲撃だ。


「……!?まずいラプトルが……!?」


何の気なしにIFVから降りてしまいラプトルに襲われると覚悟したが、俺達を先導して来たラプトルは相変わらず村落の跡地に悲しげな視線を向けているだけで、襲って来る様子は無い。


人に慣れているのか、それとも別の意図があるのか……


ラプトルは暫く村落の焼けた跡を見つめていたが、こちらに向けて"キュウン"とひと鳴きすると踵を返して先と進み始める。


「付いて来い……か?」


「行ってみるか……ラプトルがこれを見せに来ただけとは考え難いしな……ロストしたらロストしたまでだ」


そう言いながら、歩兵は89式装甲戦闘車に乗り込む。

いちいち車輌に乗り込んで面倒だと思うが、乗り込まなければラプトルに追い付けない上にカノーネン・ディノザオリアの火力に歩兵は非常に脆弱だ。

それを補う為の機械化歩兵であり、歩戦共闘のドクトリンなのだ。


また89式装甲戦闘車に乗り込むと、今度は奥の席まで詰める。

ペリスコープは全員分用意されているので、視界が塞がれる心配は無いだろう。


「あのラプトル……人を襲わないのか……?」


隣に座るエリスが呟く様に言う、多分全員が持っている疑問だ。

"何故あのラプトルが襲って来ないのか"、それはあのラプトルを追っていると判明した。


もう何度目か分からないが、89式装甲戦闘車と90式戦車はラプトルを追って走り出した。


===========================


暫くラプトルの後ろを走ると、轍が大きく広がり始める。

よく見たら2本の轍が4本になり、馬車や荷車がすれ違える様にもなっていた。


ラプトルはその道を更に奥へと進む、それを90式戦車は追いかけた。道幅もようやく傍のブッシュを踏まなくて良い幅になり始めた。


やがて道沿いに見えてきたのは木で出来た柵、それが道に沿って続いている。

間違い無く人間の手で作られた、木の板で出来た柵だった。

戦車が踏み潰さない様に進んで行くと、今度は走るラプトルの速度が落ちて来た。


『後続へ、減速する。追突に注意。伊藤、速度落とせ』


『了解』


『了解』


先頭を走る坂梨中佐の90式戦車が減速、続いて89式装甲戦闘車2輌と殿の90式戦車が減速する。


各方向に砲塔を旋回させて全周警戒の体勢に入り、キュルキュルと履帯が擦れ合う小さな音を立てながら人が歩く程の速度でゆっくりと進んで行く。


『……前方、門があります』


「……門……?」


戦車からの通信を聞いてペリスコープを覗き、進行方向を見る。


100m程先、確かに木で出来たゲートがある。壁は無く、ただ木材で組まれたゲートが口を開けていた。


「……全車停止、降車して偵察する」


『了解、全隊止まれっ!』


坂梨中佐が号令を掛けると車列はゆっくりと停止、エンジンをアイドリングさせたまま89式装甲戦闘車のハッチを開けて降車する。


全周囲を警戒、どうやら待ち伏せ攻撃(アンブッシュ)の心配は無いようだ。


「第1分隊集合、村に入るぞ。警戒させないように友好的に行こう」


「そうだな、分かった」


「了解っ!」


「第2はここで待機、車輌を守ってくれ」


「了解」


俺はそう言うとヘッドセットを外してヘルメットを脱ぎ、M4の安全装置がちゃんと入っているか確認する。


銃口管理(マズルコンシャス)引き金管理(トリガーコンシャス)、ガーディアンでは徹底して行っている事だ。

むしろこれが出来無い奴には銃を扱うどころか触れる資格すら無いとも日頃から思っている程重要な事である。


それを見ながらエリス達も銃に安全装置をかけ、ヘッドセットとヘルメットを脱ぐ。


「あのラプトルはあの村のラプトルだったのか……」


「そうらしいな……どう言う事なのか聞けるかもしれない」


あのラプトルが俺達をどんな理由でここまで連れて来たのか、それが気掛かりだ。

門に向かうと、その門から中が見える。

先程の5頭のラプトルが意思疎通の為なのか、村人の1人にキュルルと声を上げている。


村人はそれを見てウンウンと頷き、何処かを指差すとラプトルは指差した方向へと走っていく。


そして、その村人が俺に気が付いてニコリと微笑む。

俺はお辞儀をし、村の門に近付くと、あちらもそれを見て何人かで近付いて来た。


友好的なのか、それとも罠なのかは判断しきれないが、向こう側好戦的で無い以上こちらも戦意を見せない方が得策だ。


「ようこそラプトルの村へ、さっきから爆発魔術の様な音が聞こえてね。ラプトル達に見に行ってもらってたんだ。君達かい?」


20代後半と見られる男性が友好的な笑みを浮かべながら話し掛けてくる、爆発魔術の様な音とは銃声や砲声だろう。俺達で間違いない。


「俺達で間違いは無い、すまない。村を騒がせようとした訳じゃ無いんだ、向こうで別のラプトルやカノーネン・ディノザオリアと交戦してな……」


「カノーネン・ディノザオリアと!?よく生き残れたな……」


どうやらこのラプトルの森に住む人達にとっても、レックスとアンキールを含めたカノーネン・ディノザオリアはかなりの強敵らしい。


「もしかしたら……貴方達なら……」


「……?どういう事だ?」


「……」


それきり村人は黙り込み、考え込んでしまう。

暫くして村人が顔を上げると、真っ直ぐ目を見据えた。


「初対面でこんな事を頼むのは失礼だと思うが、力を、貸して欲しい」


俺はエリスと顔を見合わせる、何かあったのは明白だ、このタイミングで言うならば、あの燃えた村との関係があると見てもいいだろう。


俺は青年の顔をまっすぐ見据え、口を開く。


「話は聞こう、その後で判断させてもらう」


「分かった、来てくれ」


そう言うと青年は、俺達を案内する様に村の中を歩き始めた。

案内されたのはこの村で最も大きな竪穴式住居だった。


入る前に第1分隊に向き直る、当然ながら8人全員で入る訳には行かない。


「俺とエイミーで行く、その他はここで警戒待機、何かあったらエリスが指揮を取ってくれ」


あえてエリスでなくエイミーを指名したのは、エリスと一緒に入ると分隊の指揮官2人が不在となって、いざという時に即応出来ないからだ。

全員がそれに承諾すると、青年に向き直る。青年も頷いた。


「村長!入ります」


『入れ』


見た目屋根だけで出来ている様に見える家屋の中から声が掛けられ、青年が俺達を招き入れる。


「失礼します、村長事案について対処出来るかもしれない者を連れてまいりました」


「おぉ……その斑模様の方々が……?」


そこに座って居たのは、見るからに「長老」「村長」と言うイメージの老人だ。


斑模様、と言うのは、戦闘服とプレートキャリアのマルチカム迷彩を見ての事だろう。


そりゃこの世界の人間からしてみれば迷彩服なんてただの奇抜な服装にしか見えないもんなぁ……ちゃんも意味はあるんだけど。


発言のイニシアチブを握る為に、相手が名乗るより先に名乗り出る。


「ギルド"ガーディアン"団長、高岡ヒロトです」


「同じく"ガーディアン"団長補佐、エイミー・ハングです」


俺はそう名乗って敬礼をする、因みに副団長は当然ながらエリスだ。


「ようこそ、ラプトルの村へ……皆をここに呼ぶのだ」


「はっ」


村長は俺を案内して来た青年に声を掛ける。彼は返事をすると外へ出て行き、村人を集めて戻って来た。

見た所、30代の男女が4人、20代の男女が3人の計7人だ。町内会みたいなものだろうか?


「突然の事で申し訳ない、タカオカ殿、折り入って頼みがある」


「ええ、内容と条件によっては我々は協力します」


そうだ、頼みも何も、理由を聞かなければ協力のしようがない。

そして、タダで隊員達に命を懸けさせる訳にもいかない。もちろんそれなりの対価を提示してもらう必要がある。


「……儂らの村が、余所者に荒らされておる……」


「余所者?」


「あぁ……ここ10日くらい前からやって来て、ラプトルやディノザオリアを従えて村を荒らし、焼いて回っているんだ……」


長老の後ろにいた30代の男性が答える。


「なるほど……途中のラプトルに誘導されて見たアレはやっぱり村だったのか……」


帰還直前、ラプトルに誘われる様に連れられて見たあの焼けた家屋の集合、やはりあれは村落だったらしい。


と、俺はここまで抱えていた疑問を彼らにぶつけた。


「そう言えば、あのラプトル達は?この村で飼育してるのか?」


「その通りだ、あれは俺達のラプトルだ」


その後ろ、華奢な20代の青年が答える。どうやら彼がラプトルの飼育責任者の様だ。


「……どうやって操っているんです?ラプトルは気性が荒く、手懐けるのは難しいと聞きます」


俺の隣に座るエイミーが質問を投げかける、確かにあの荒っぽいラプトルを手懐けるのは、相当難しいだろうと素人目ながら分かる。


だが、その理由もすぐに判明した。


「儂らは、"竜人族"じゃからな」


「"竜人族"?」


疑問を反復すると、若い男衆が服の腕を捲る。

七分袖の服の袖を軽く捲ると……筋肉の付いた二の腕が露わになりそこには竜の鱗の様な模様が浮かんでいた。


"竜人族"、エリスの授業で聞いた事がある。

獣人族や妖精族と同じ亜人の派生で、二の腕に竜の鱗の様な模様がある。ミリヲタ的に例えるなら、KRYPTEK(クリプテック)の3D迷彩の様だ。


そして竜人族の最大の特徴とも言える性質が、翼竜や亜竜とコミニュケーションを取れるという事だ。

ベルム街のギルド"ドラゴンナイツ"にも、竜人族の調教師がいると言う噂を聞いた。


恐らく、ラプトルを手懐けて居るのも、彼らが竜人族だからだろうか。


「竜人族の方々でしたか……失礼致しました」


「儂らはこの森を守り、この森に住んでおる、外との関わり始め殆ど持たぬ」


それでこんな壁の中で生活しているのか……壁の中という認識が薄いのは、ラプトルの森自体が広大な面積を持っているからだろう。


「ディノザオリアやラプトルが村を荒らして回っている原因は?」


「ここから北に向かうと遺跡がある……そこに余所者が住み着いて亜竜を操っておる……」


「余所者?」


「ああ……森の亜竜達を操って、同胞を次々と殺しておる……止めなければ、更に犠牲者は増える、どうか手を貸しては来れんだろうか?」


「手を貸すには良いが……対価が無い」


「テメェ!あの野郎に全て奪われた俺達から、これ以上搾り取ろうってのか!?」


激昂したのは村長の後ろにいた20代の青年だ、気持ちは分かる、俺が同じ立場なら間違い無く怒鳴り上げていただろう。


俺も力があり、出来るならば困っている人々には手を差し伸べたいとは思う。


だが俺は聖人では無い。こちらに取って"ラプトルの森を荒らしている余所者の排除"がメリットにならない以上、対価を貰わなければ俺も仲間も命を懸けて戦わせる事は出来ない。


もちろん対価の為に命を懸けると言う訳でも無いが、大義名分や信念や精神論、使命だけでは戦えない。そんなのはブラック企業だけで十分だ、ウチの隊員にそんな真似はさせたくない。


そしてガーディアンの設立理念が"自衛"である以上、直接的なメリットのないこうした依頼は対価が必要になるのは当然である。


「頼む……何なら儂の全財産……娘達を差し出しても構わん……どうか、頼みたい……!」


村長が必死で頭を下げる、流石に娘を差し出されても困るが……


「……あっ!」


エイミーが何か思い付いたかの様に声を上げる。その声に全員が注目した。


「分かりましたよ、この村でも対価を払える方法が」


===========================


村には90式戦車と89式装甲戦闘車が入り、村を守る様に展開していた。

そして村長とこの村の青年1人が外に出ており、彼らにはM249を持つエイミーが付き添っていた。


エイミーが出した案は、伯爵との交渉で一旦外へ出ることだ。

伯爵からの依頼は"翼竜(ワイバーン)調査に向かった騎士団の捜索"だったが、村人からの情報により、亜竜を操っている者がいる、それを排除しなければ翼竜(ワイバーン)調査は今後も危険を伴うと進言し、ギルド組合を通して交渉、伯爵からの依頼の内容を変更してもらうというものだ。


街の防空を"ドラゴンナイツ"に委託しているが、翼竜(ワイバーン)を戦力にして防空能力の保有を図りたい伯爵にとっては悪い話では無いだろう。


それに……ああは言ったが、あの焼けた村を見て腹が立ったのは事実だ。何とかしてやりたいと言う気持ちは大きい。


「こ、これは何じゃ……!?」


「鉄で出来た……箱舟?象?」


村に入る許可を貰ったものの、村長達は戦車と言う異世界の兵器に驚いていた。


そりゃ50.2tの鉄と複合装甲の塊が動いてたら誰だって驚くわな……と謎の納得をし、部隊の調整に入る。


もうすぐ日が暮れる為、第2分隊はここで野営、第1分隊と89式装甲戦闘車1両と90式戦車1両は村長と青年を乗せてラプトルの森の外へと出る。


門の所に居る機甲部隊は村に向かわせ、村には3輌ずつの90式戦車と89式装甲戦闘車を一時的に駐留させる。


俺達は門の外に出た後ヘリに乗り換えて街へ戻り、ガーディアンの基地に村長達を宿泊させた後、翌日に伯爵との交渉に入る。

なぜ戦車部隊でそのまま帰らずヘリに乗り換えるかと言うと、そもそもの話、戦車は長距離の移動に向いて居ないからだ。

長距離を移動する際は特大型運搬車などの戦車(タンク)輸送車(トランスポーター)が必要になる。


現在エリスが基地からヘリの迎えを要請しており、俺達が門に辿り着く位の時間には到着するだろうとの事だ。

村長達が一頻り驚いたのを見て、全員に声を掛ける。


「第1分隊集合!村長達は中へ」


「あ、あぁ、分かった」


村長達は挙動不審になりながらも、開いた89式装甲戦闘車のハッチから兵員室(キャビン)に乗り込む。


「じゃ、キャビンの事はよろしく頼む」


「了解です、」


ガーディアンの89式装甲戦闘車の乗員数は8人、村長達を乗せると定員オーバーになる。

そこで俺達は分隊を2つに分けた。


俺、エリス、ヒューバート、エイミーの4人と、ブラックバーン、クレイ、グライムズ、アイリーンの4人だ。


2班は村長達と共に兵員室に乗る、中で現代兵器について根掘り葉掘り訊かれそうだ。


乗り切れない4人はどうするかというと……タンクデサントだ。

これは第2次大戦時、ソ連が戦車に直接歩兵を乗せて共に移動して戦った戦術で、今日でも歩兵の移動手段としてや、戦車の生存率を高める為にしばしば行われている。


利点は戦車が歩兵により広い視界を得られる事で即応性が高まったり、隠れた対戦車兵器の迅速な発見に繋がる事。


欠点は敵の注目を集める事が多い戦車が真っ先に狙われる為危険な事と、乗っている歩兵が剥き出しの為、隠れる場所がなく戦闘地域に突っ込んだ時の歩兵の生存率が著しく低い事だ。


今回は歩兵の移動手段としてタンクデサントと言う方法を取る、転輪と履帯に足を掛け、体を戦車の上に引っ張り上げてよじ登る。


90式戦車の後部貨物ラックには回収した騎士団の遺体や遺品が積まれている為、複合装甲の張り巡らされた砲塔に腰掛ける。


「日本の戦車って結構コンパクトなんですね、M1A1エイブラムスなんてもっとデカいですよ」


背中合わせの様に腰掛けているヒューバートが声を掛けてくる。


「当たり前だ、日本の交通事情に合わせなきゃいけないし、何より比較対象であるM1A1エイブラムスが馬鹿でかいからな」


そう、日本の戦車事情は複雑で、日本の狭い国土で動かせる様にと言う制約がある。

日本の中でも90式戦車は最大の大きさと重さを持っている戦車なのだが、ヒューバートはこれでも小さいと言うが、比較対象が桁違いなだけだ。


90式戦車は全長9.755m、全幅3.33m、全高2.335m、全備重量50.2tだ。

一方ヒューバートの祖国アメリカで採用されているM1A2SEPは、全長9.83m、全幅3.60m、全高2.43mと全ての値で90式戦車を上回っているのに加え、全備重量63.087tと10t以上も重い。


寧ろ、90式戦車のこの小柄な車体に良くM1A2やレオパルト2A4と同程度の火力・防御力・機動力をコンパクト化して盛り込む事が出来たものだ。日本の技術力たるや時々恐ろしいまでのものがある。


「隊長、車輌部隊、準備完了です」


車長用ハッチから身を乗り出したのは坂梨中佐だ。


「よし、じゃあ出発しよう。ガレント!後続の誘導頼むぞ!」


「了解しました!お気を付けて!」


野営用の簡易司令部の無線機を使用していたガレントがそう返すと、90式戦車と89式装甲戦闘車が走り出す。

振り落とされ無い様にハッチの縁に捕まると、隣に座るエリスがぎゅっと腕を掴む。


見ると若干顔を赤くし、上目遣いでこちらを見上げている。


「お……落ちない様にしないと、危ないからな……」


俺は驚いたがふっと頬を緩め、空いた手で頭をワシワシと撫でながら「そうだな」と返す。


あたりは暗くなっていく、森に入れば闇はもっと深くなる。

そろそろ暗視ゴーグルが必要になる時間帯かもしれない。


行きは1時間掛かったが帰りはショートカットが出来た為、更に短い時間で門に到達する事が出来た。


途中の森で門を守っていた4輌とすれ違ったので、そろそろ村に到着しただろう。


ディーゼルエンジンの音を響かせながら壁門のトンネルを抜け、停止する。

戦車が停止し、複合装甲の上から飛び降りる。


「全隊警戒を厳に!」


俺達は戦車を降りると89式装甲戦闘車に歩み寄る、後部のハッチを開けて隊を分けた4人と共に村長が降りてきた。


「ひ、ヒロト殿!この荷車はどうやって動く!?それに説明を聞いたが、100mの射程を持ち連射出来るクロスボウなど聞いた事がない……!」


「しかもこの荷車……鉄か?鉄の荷車がどうしてこんなにも素早く動けるんだ……!?」


2人して興奮気味に降りて来たが、俺はそれを見て不敵な笑みを浮かべる。


「これだけで驚いていたら、埒があきませんよ?」


そろそろ時間、夕日が紅く照らす中、ヘリの音が聞こえて来た。

2機のCH-47Fがこちらに向かってくる、1機は着陸進入し、もう1機は城壁を超えて村の方へ飛んでいく。恐らくアレはテントや足りない野営装備を搭載しているのだろう。


"Yellow31"と黄色く縁取られた文字が機首に書かれたCH-47Fが着陸、後ろから見たらカエルにしか見えないハッチを開ける。


「こ、こ、これは……!?」


「空飛ぶ風車……?」


「村長達はこれに乗って待っていて下さい、エイミー、案内してくれ」


「畏まりました、こちらです」


エイミーが武装しているとは思えない従者の立ち振る舞いで2人をチヌークの中に案内する。


「全員、90式戦車から遺品を下ろす。チヌークに積載後、俺達はヘリに乗り基地に帰る!」


『了解!』


『了解!』


その通信を皮切りに全員が戦車に群がる、戦車の乗員もハッチから出て来て、後部の荷物ラックから遺品を下ろし始める。

白い布に包まれた遺品を丁寧に下ろし、ヘリへと運ぶ。


俺もその一つを受け取ってヘリへ運び、籠に乗せて動かない様に固定。

コックピットに向かい、パイロット席に座っているヘンリー・アルセリア少佐に声を掛ける。


「作業が終わり次第離陸だ、頼んだぞ!」


「了解!でもどうして突然!?」


ヘリの機内は騒音が大きく、ヘッドセットの通信を介しての会話となる。


「中で竜人族の村人達から助けを求められた!伯爵に報告して正式な依頼として受ける!」


「了解!」


騎士団の少ない遺品の収容は完了し、第1分隊全員が乗り込む。

村長達はエイミーが既にシートを展開させてシートベルトをしていた。


ロードマスターのアンネが確認してハッチを閉め、左右のM240汎用機関銃を構えているガンナーが警戒する。


ヘリコプターと言う異世界の乗り物に初めて触れ、乗った村長達は興奮している様だ。

それを見ながら側面のシートを展開し、シートベルトを締める。


人数確認、エリス、エイミー、ヒューバート、グライムズ、アイリーン、ブラックバーン、クレイ。全員居る。


「分隊全員掌握!準備完了!」


「了解、イエロー31、テイクオフ!」


エンジンの甲高い音が増していく。ゆっくりと浮力を感じ、足下の安定した感覚が消える。

俺達に取っては訓練通りの感覚だったが、村長達に取っては翼竜(ワイバーン)に乗る時とは違った感覚、未知のものだ。


ヘンリーがピッチレバーを引いて旋回しつつ高度を上げる、窓からは回答し、森へと戻る90式戦車のハッチから手を振る坂梨中佐が見えた。


CH-47Fは10名と騎士団の遺体を乗せ、基地へと進路を取った。

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