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第96話 対亜竜戦

今回少し短めかもです。

観測地点C(チャーリー)へと向かって走る機甲部隊の装軌車列。

一応予定通りに事は進んでいる、先程見つけた足跡を加味すれば、カノーネン・レックスの足跡を追っている事になる。


D(デルタ)で見つかったナイフから考察するに、騎士団はD(デルタ)にその時存在した。

そしてその後をカノーネン・レックスが追い掛けて行ったと見ていい。

とすれば、騎士団は高確率でカノーネン・レックスに襲われた事になる。


尤もこの森で"襲われる"となるならば、カノーネン・レックスだけの話では無い。

ゲオラプトルにカノーネン・アンキール、翼竜(ワイバーン)も居る。


個人用情報端末(モバイルガジェット)にダウンロードした魔物図鑑によれば、レベル4の魔物が3体の生息が確認されれば、その森や場所は5段階の危険レベルの内4まで跳ね上がる。


そんなカノーネン・アンキールやカノーネン・レックスが何体いるか分からないこのラプトルの森は、間違いなく危険指定区域だろう。


2輌の90式戦車と89式装甲戦闘車は観測地点C(チャーリー)に到着、機械化歩兵の俺達は降車して周辺を警戒、安全を確保する。

観測地点C(チャーリー)は広く、車両部隊がそのまま乗り入れる事が出来た。


「周辺クリア」


「3つ目の観測地点か……ここは崖になっているんだな……」


エリスが見た方向を見ると、言った通り崖になっていた。

ほぼ垂直に切り立った崖、下は谷で、向かいの崖には生物が掘ったと思われる穴がある。


暫く観察を続けていると、翼竜(ワイバーン)がその穴へと入っていくのが見えた。

なるほど、あそこは翼竜(ワイバーン)のコロニーな訳だ。

あのコロニーを観察するために騎士団はここを観測地点としたんだろう、そうすれば間近で翼竜(ワイバーン)を観察出来るからだ。


崖の方を歩くと、じゃり、と何かを踏みつけた。

踏んだものは_____装飾の付いた単眼鏡だ。

拾い上げて見ると、既にレンズは割れていて使い物にならなくなっている。


「……これも騎士団のものか……?」


エリスに見せると、エリスも手に取って観察する。


「多分な……翼竜(ワイバーン)の観察には単眼鏡は必須だ、何せ強力な魔物である上に、素早く動くからな」


「なるほどな……でもここで単眼鏡を落としたという事は……」


「ああ、この辺りで襲撃を受けた可能性はかなり高い」


『1-2より1-1、また足跡だ』


エリスと単眼鏡から考察を膨らませていると、不意にガレントから通信が入る。

どうやら再び足跡を見つけたらしい。


「分かった、すぐ向かう。周辺を警戒しておけ」


『了解』


無線でそう告げると、急いで偵察隊の元に戻る。そして戻った時、既に第2分隊は足跡を囲んでいた。


「ヒロトさん、これです」


先程見つけた、紅葉型の大きな足跡。それが森の奥の方まで点々と続いている。


そして興味深い事に、鎧の物と見られる金属片がその足跡周辺に散らばっているのだ。


「……これは黒だな……全隊ウェッジフォーメーションだ、足跡を追うぞ」


『了解』


『了解』


90式戦車と89式装甲戦闘車がディーゼルエンジンを唸らせながら隊形を変える。


ウェッジフォーメーション……楔形隊形とも呼ばれるこの隊形は、全面への火力投射に優れた隊形だ。


また側面への火力もラインフォーメーション……横隊ほど低く無く、また索敵範囲も広い部類の上、隊形を変えて柔軟な対応を行いやすい隊形なので、敵の詳細が不明で接敵するか分からない時によく用いられる。


今回は2輌の89式装甲戦闘車を前に、その斜め後ろに90式戦車を出すと言う索敵重視のフォーメーションを組んだ。


第2歩兵分隊はウェッジの内側に入り後方を警戒、第1歩兵分隊は足跡を追いながら前方を索敵する。


足跡はずっと森の出口の方……俺達が入って来た門の方角まで一直線に続いていた。

エリスが歩きながら呟く。


「気味悪いな……」


「あぁ……まるでパニック映画の中にいるみたいだ……」


エリスの呟きに答えるように言う。

人は怖いと、他者と話す事で精神の安定を保とうとする。俺は今相当怖い、だが、エリスも同じ様に怖いはずだ。


ジャングルの中の見えない敵と言うのは、実害がある分、幽霊より怖い。

ベトナムでも、恐らく米軍兵士は同じ様な経験をしたのだろう。


前方と側面を警戒しながらM4を構え、ゆっくりと進んでいく。両隣には、89式装甲戦闘車と90式戦車が履帯で地面を踏みしめながら、歩兵の速度に合わせて追随していた。


そして数100m進んだところで、あるものを発見した。


「……!?」


「どうし……!?」


20m程先に、何かが転がっている。

茂みから横たわる様に飛び出ているのは______血飛沫の散った人間の腕だ。


「生存者か?」


「いや、罠かもしれない……」


大体この手のホラー映画やパニック映画の場合、生存者に見せかけたトラップに引っかかり、被害を受けるのはお決まりのパターンだ。


俺は覚悟を決めてエリスに背後を任せ、茂みに近づく。

茂みをカッティング・パイの要領で向こう側を覗き込む様に移動すると、やはり想像通りだった。


そこに転がっていたのは、人間の腕だけ、しかも騎士団の腕の鎧を身に付けている。

間違い無く伯爵の騎士団だった。


「最悪の想像通りだな……」


俺は腕に手を合わせ、腕を拾い上げる。

乾いた血がべっとりとへばり付き、温もりは既に失われている。


「どうする?」


「どうするっても……進むしかないだろうな。ここに腕があるなら、近くにもあるはずだ。全部攫うぞ」


「分かった」


言いながら注意深く探す、石の裏や草むらの影、目立たない場所だ。

そして探していく内に、騎士団の生存確率がぐんぐん下がって行った。


見つけたものは刺し傷のあるラプトルの死体、焦げた場所にあった焼死体、人間の指、頭皮、白骨化した骨、騎士団の鎧の欠片……


「……酷えなこれは……」


遺体と呼べるか分からない程欠損した遺体を一つ一つ回収し、死体袋に入れて90式戦車の荷物用ラックに置いて固定、白いカバーを掛けていく。

カノーネン・レックスの足跡を辿って更に進んでいく、俺達はそこで凄惨な光景を目にした。


大きな岩に張り付いた"人の形をした血痕"、小さく白いものが混じっているのは砕けた骨か。


直径1mはありそうなクレーター、底を覗き込んで見ると、染みのような赤黒い何か。


夥しい量の血の量、飛び散って所々に落ちている乾いた人肉の肉片。


「うっ……」


辺りを漂う凄まじい死臭に思わず眉をひそめる、鼻が曲がって吐きそうな臭気だ。


「……凄惨だな……これは酷い……」


「ああ……流石に此処までの現場は初めて見た……」


エリスは何度かの出征でこうした死体を見るのは慣れているのか俺などより遥かに手際が良いが、それでも今回のは特別酷い。


俺が岩に近付き、恐らくこの騎士の物であったのであろうという下に落ちている短刀を拾い上げたその時。

岩の向こう、遠くの茂みが葉擦れの音を立てる。

______いや、正確には音は更に向こうから聴こえてきた。


俺は何度も感じた遭遇戦の恐怖を感じつつ、茂みから目を逸らさず速やかに短刀を回収して後ずさり、通信回線を開く。指揮統制ヘリ(C2)へと繋がるチャンネルだ。


「C2、俺達の周囲に反応は?」


『OH-1とAH-64Dが索敵中だ、以降観測ヘリとの通信をリレーする』


『こちらポーラスター01、前方500m付近にそちらに接近する多数の熱源を赤外線前方監視装置(FLIR)で捉えた。方位1-9-0より高速で接近中』


『こちらタロン2-1、敵との距離が近過ぎて誤爆の危険性がある。ミサイル及びロケット弾での航空支援は難しい』


ポーラスターのコールサインを持つOH-1と、タロンのコールサインを持つAH-64Dからの通信だ。


『光学映像で捉えた、そちらに向かっているのはゲオラプトル、数はおよそ20から30』


「マジか……」


転生前にパニック映画で観たあのすばしっこいラプトルが30体も……!?


「総員防御戦闘用意!隊形そのまま!前方に火力を集中させろ!歩兵は車輌の死角をカバーする様に入れ!」


「了解!」


「了解!」


『了解!』


通信を皮切りに、89式装甲戦闘車のエリコン35mm機関砲KDEが正面を向き、中で砲手が即応弾の焼夷榴弾(HEI)を装填。同軸機銃にも7.62×51mmNATO弾が装填される。


90式戦車の主砲は、薬室には既に|JM12A1多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)が装填されており、自動装填装置の次弾もそれが選択されている。

車長の坂梨中佐が車長用ハッチに据え付けられたブローニングM2重機関銃に12.7×99mmNATO弾を、砲手の田中中尉がM240E5汎用機関銃に7.62×51mmNATO弾を装填する。


俺達歩兵もM4やM249の安全装置を解除し、戦闘準備を整える。

M4のセレクターはセミオートへ、ACOGを覗き込み、レティクルを300〜400m程度で合わせる。


「タロン2-1、許可し次第航空支援を、敵後方の集団に向けてくれ」


『了解、頭引っ込めてろ』


「来るぞ!」


上空でヘリのローター音が近付く。

90式戦車の上でM2を構えている坂梨中佐がそう叫んだ。

90式戦車の車高では、茂みの向こうが微かに見えるらしい。


ギシャァァァァァ!


濁った咆哮を上げながら茂みの向こうから姿を現したのは、頭から尻尾の先までが2m程の青みを帯びた緑色の皮膚を纏った小型恐竜。


足は鋭い鉤爪を持ち、凄まじいスピードで走って来るゲオラプトルの群れだ。


「航空支援許可する!各個に攻撃!」


俺がそう命じると、全員が一斉に発砲を開始した。

迫り来るラプトルの群れに、5.56×45mmNATO弾から35mm焼夷榴弾(HEI)まで、大小様々な口径の弾丸がラプトルの群れに襲い掛かる。


ACOGのレティクルを合わせ、セミオートで引き金を絞る。

軽い音と共に発砲炎(マズルフラッシュ)が上がり、空薬莢がエジェクションポートから飛ぶ。


1発目、ラプトルの鼻先に命中して後頭部まで突き抜け、撃たれたラプトルは地面に転がる。

照準を変えて2発目、外した。

3発目、これは首元に命中したが、ラプトルは倒れずに突っ込んで来る。


「マジか……!?」


次弾を叩き込もうと引き金を絞る瞬間、更に重い銃声がヘッドセット越しに聞こえた。


90式戦車の車長用ハッチのターレットリングに取り付けられたブローニングM2重機関銃とM240E5 7.62mm同軸機銃、89式装甲戦闘車の35mm機関砲KDEが火を吹いたのだ。


同軸機銃が放つ7.62×51mmNATO弾は細かい連射でラプトルの群れを薙ぎ払い、ブローニングM2重機関銃が発射する12.7×99mmNATO弾は弾幕を形成してラプトルを引き裂いていく。


35mm機関砲弾は連射間隔こそ機関銃に及ばない物の、榴弾の凄まじい破壊力を以ってラプトルを木っ端微塵にする。


上空のAH-64Dは、後方の集団に向けて機首下部のM230 30mmチェーンガンを射撃。30mmのHEDP弾は地面で小爆発を起こしながら歩兵から遠いラプトルの集団を蹂躙、地面を舐める様に掃射していく。


その機銃掃射が2機分だ、最早生物に向ける火力では無い。

ドドドドドドドドッと太鼓を打ち鳴らす様な音と共に、歩兵用火器からすれば信じられない様な太さの薬莢をばら撒きながら上空を通過する。


スコープのレティクルにラプトルを捉えて発砲するが、相手は素早く動き当たらない事も多い。

1頭のラプトルが吼えながら真っ直ぐ突進、弾幕を掻い潜って接近する。

セミオートでダブルタップ、2発の5.56mmNATO弾はラプトルの頭をかろうじて撃ち抜き、その場に転がる。


しかしそのラプトルを飛び越えて、別のラプトルが突っ込んで来た。

ACOGスコープから目を離し、上にマウントしているRMRダットサイトに切り替える程の距離だ。


ダットを合わせ、引き金を絞る。

銃床(ストック)を通じて肩に食い込む反動、エジェクションポートから飛び出す焼真鍮色の空薬莢。


「すばしっこい……!」


数発撃つが、ボルトがホールドオープン、弾切れだ。

ハンドガンに切り替えようとしたが、肉薄されてラプトルが飛びかかる。


「ヒロト!!」


エリスが叫ぶ、悪いがそちらを振り向く余裕は無い。

後ろ足に大きな湾曲した鉤爪が付いており、それで引っ掛けようとして来るのをM4のハンドガードを割り込ませて何とか堪える。

しかし流石に魔物のパワーは強力だ、全力で押さえていないと押し負ける。


エリスが援護しようとするが、今撃ったら俺に当たるため撃てない。


ラプトルが頭に噛み付いてきた。ヘルメットのおかげで頭ごと噛み砕かれると言う事態は避けられているものの、現在進行形で亜竜に食われつつあるのは正直恐ろしい。


「ぐうぅぅ……っ!くそっ!」


俺はホルスターからコルトM45A1を抜き、銃口をラプトルの腹部に思い切り押し付けて引き金を引く。

パンパンパン!乾いた銃声が3発、9mmより大きな45口径の反動がガツンと手首に走る。


.45ACP弾はラプトルの皮膚を貫き、体内で停止。9mmよりストッピングパワーの高いこの弾丸は、ラプトルにダメージを与えるには十分だったらしい。


呻き声を上げるラプトルの首元にダブルタップの要領で更に2発、悲鳴を上げるラプトルをライフルで押し退けるとラプトルは地面に横たわるが、未だ襲おうと首を擡げて吠える。


起き上がり、トドメに頭に2発の.45ACP弾を撃ち込むと、ラプトルは完全に沈黙した。


タクティカルリロード、左腰のTACOマグポーチからM45A1の弾倉を抜き、マガジンキャッチを押しながら弾倉を交換する。


抜いた弾倉を見ると、既に空になっていた。

45口径とシングルカラムの相談数の少なさを改めて感じながら、空の弾倉をダンプポーチに放り込む。


「ヒロト、大丈夫か?」


迫り来るラプトルの群れに発砲して、ラプトルを仕留めながらエリスが訊く。


「ああ、大丈夫だ……」


M4の弾倉も空になっていた為、JPC2.0のポーチからP-MAGを1本抜き、空弾倉と交換して空弾倉はダンプポーチへ。

装填されているP-MAGをマグウェルに挿し込み、ボルトストップを押して初弾装填。再装填完了、再び銃口をラプトルの群れに向ける。


89式装甲戦闘車を挟んだ向こうでは、第2分隊の分隊長ガレント・シュライク少尉も奮戦していた。

彼は俺が支給したSAI GRYライフルをソードグリップ______タクティカルトレーニングの講師"クリス・コスタ"氏がよく用いて居た事から"コスタ撃ち"とも呼ばれる射撃法______で構え、次々と発砲。

近接戦では適さないものの、ある程度離れた距離への射撃に向いているこの構え方で、ガレントは次々と有効弾を送り込んで行く。


バンッ、バンッと開けた銃声が響く毎に5.56mmNATO弾が撃ち出され、金色に輝くボルトが前後に動いて空薬莢の排出・弾薬の再装填を繰り返す。


1挺で歩兵12人分の火力を持つと言われるM249も形成したキルゾーンの中で射線をオーバーラップさせ、第1分隊のエイミーとヒューバート、ロバーツとロイの分隊支援火器(SAW)射手が5.56mmNATO弾の猛射を浴びせて行く。

凄まじい勢いでベルト状に繋がった弾薬が吸い込まれ、反対のエジェクションポートからベルトリンクと空薬莢として排出される。


そして密集したラプトルの群れに対してはM4にFN Mk13EGLMを取り付けた擲弾手が射撃する。

ポンッと低圧ガス射出システムの軽い音と共にM406 40mm高性能炸薬弾が射出され、着発。


中の32gのコンポジションB爆薬が炸裂し、内部に仕込まれた金属ワイヤーが外殻を切り刻んで飛散させる。

致死性の金属片と爆風は周りのラプトルを飲み込んで、或いは弾き飛ばして殺傷した。


「1-2!側面へ回り込まれるぞ!」


「了解!火力を側面へ!」


ラプトルはかなり頭が良い、真正面からでは無く、今度は包囲を狙って来た。

50km/hは出ているであろう速さで走るラプトルが、左右の側面から迂回して包囲を固め始めた。


「エリス!側面を!」


「了解!2班!付いて来い!」


エリスの号令に、エイミーとアイリーン、クレイが追従して左側面へと回り込む。90式戦車もそちらに砲塔を向け、M2重機関銃を撃ちまくる。


第2分隊も同じく分隊を2つの班に分けて、ルイズの指揮する2番を右側面へ火力を集中させる。


戦車からは重い12.7×99mmの銃声と、7.62mm車載同軸機銃のリズミカルな銃声が響く。


そしてそれを側面15度あたりからカバーする様に89式装甲戦闘車がエリコン35mmKDE機関砲をバリバリ射撃しており、歩兵はその合間を抜いリロードのタイミングを見計らいつつどんどん射撃していく。


先程の様に肉薄される前にタクティカルリロードを駆使し、弾切れになる前に新たな弾薬を弾倉から送り込む。


「手榴弾行くぞ!」


89式装甲戦闘車の車内にある予備弾薬を漁り、MK3A2攻撃(オフェンシブ)手榴弾(グレネード)を取り出す。

レバーを押さえながらピンを抜き、木にぶつからない様に調整しながら全力投弾。

ラプトルの群れの鼻先に落ちた手榴弾は爆発し、TNT爆薬の衝撃波でラプトルを吹っ飛ばした。


「援護を!」


「了解!」


クレイは周りに援護を呼び掛け、89式装甲戦闘車の車内から84mm無反動砲"カールグスタフM3"を取り出す。

ブラックバーンは弾薬を持ち、クレイの後に続く。

流石に無反動砲は狭い車内の中に1挺しか持ち込め無かったので、いつもの様にフルバーストでは無い。


ブラックバーンが砲弾の遅発信管を操作する。

この砲弾はHE441B榴弾で、時限信管によって任意の場所で爆発させる事が出来る。


俺達はブラックバーンの信管調整と発射準備が完了するまでラプトルを抑え、セミオートで射撃を続ける。


ブラックバーンの信管調整が完了、榴弾(HE441B)を装填し、砲尾を半回転させて閉鎖、クレイのヘルメットをポンと軽く叩く。

そのままライフルを後方に向け、隣で後方に味方や壁が無い事を確認。

……否、防御陣地を掻い潜って、今にも跳びかからんと猛進して来るラプトルが1頭。


「良い?」


「後方よし!」


クレイはスコープを覗いて照準を合わせ、そのまま引き金を引いた。

言葉はおかしくなるが、無反動砲は謂わば歩兵用の小型の大砲だ。

だが砲は反動が大きく、歩兵が持って撃てば反動で確実に吹き飛ばされてしまう。

そこで無反動砲は反動を相殺する為、後方へ大量の発射ガスを盛大に放出する。


その為無反動砲の射手の後方45°、60m以内は危険地帯となるのだが、そんな事を全く知らないラプトルはバックブラストの直撃を受けた。


240m/sで砲口から飛び出した砲弾はライフリングによって与えられた回転のジャイロ効果で安定した軌道を描き、ラプトルの群れの真上5m程で炸裂、仕込まれていた約800個の金属球と破片を飛散させてラプトル達をズタズタにした。


もちろんバックブラストをモロに受けて吹き飛ばされたラプトルも背後で黒焦げになっている。


異世界には存在しない"銃"や"砲"と言う武器によって、ラプトルの群れは4分足らずで一掃された。


「クリア!」


「クリア!」


「クリア!」


「オールクリア!」


最後のラプトルを撃ち倒し、周囲の安全を確認、銃口をゆっくりと下ろす。


「驚いたな……ラプトルの素早さ、パワー、耐久力……人間やゴブリンとは大違いだ」


「ああ……5.56mm弾を数発撃ち込まないと死なない個体も居たしな……」


隣でエリスが溜息を吐く様に言う、確かに5.56mm1発では死なないラプトルも多かった。弾薬が余計に消費されると、その分手数が少なくなり、不利になる可能性がある。


「頭を撃ち抜ければ良いが、かなりの速さで走ってくるからな……落ち着いてヘッドショットは難しそうだ」


「やっぱ、対魔物は7.62mmが良いんかね……所で、ラプトルは何処が換金出来るんだ?」


「いや……実は私も知らないんだ……」


エリスはそう言って肩を竦める。


「ゲオラプトルの場合、後脚の鉤爪が換金出来ます。これはナイフや鎌になる様ですね」


エリスの後ろからELCAN(エルカン) SPECTOR(スペクター) DRをマウントしたM249を携えたエイミーが声を掛けて来た。


なるほど、これだけ鋭く耐久力のある鉤爪は、ナイフに適していそうだ。


「お、本当か?サンキューエイミー」


右腰からM9バヨネットを抜き、俺に襲い掛かったラプトルの足に突き立てる。

ブツッと皮膚を裂く感覚がナイフ越しに伝わり、骨の関節部分を見つけてそこから切断して切り離す。


爪を持ってみた感覚は、必要な重量を残しつつ軽量という事だ。

これなら走る時に邪魔にはならないし、獲物を狩る時に慣性で突き刺す事も出来るだろう。


まじまじと爪を観察していると、先程とは明らかに異質の足音が聞こえる。

ズシ……ズシ……と、重い何かが地面を踏みしめる音だ。


俺はゆっくりと足音が聞こえる方向に首だけを向け、そちらを睨む。


「カノーネン・レックスか……!?」


バサバサと葉擦れの音を立てながら、400m程先にカノーネン・レックスが現れた。

本家と思われるティラノサウルスを知っている身としては、前脚が少し大きく、頭の上に2本の角が生えている点が気になった。


グォォォォォォォォァァァァァ!!!


大きな咆哮を上げ、こちらを威嚇しながら歩み寄るカノーネン・レックス。

俺は迷わず戦闘準備を命じた、全員が横隊を組み、得物を構える。


「撃て!」


号令を皮切りに、軽快な銃声と共に様々な口径の弾丸が発射される。

俺のM4から発射された5.56mmは、銃口初速で音速の3倍近くで発射され、400mの距離などあっという間に詰める。


そして2092.0J(ジュール)の運動エネルギーを以って、カノーネン・レックスの頭に命中した。

しかし、カノーネン・レックスの方が頑丈だったらしい。5.56mm弾は虚しく弾かれ、跳弾となってあらぬ方向へ飛んでいく。


「ちっ……やっぱ5.56mm程度じゃダメか……A(アルファ)1と2、歩兵を収容する、車輌戦闘だ」


『了解』


『支援する』


両翼の90式戦車が89式装甲戦闘車が歩兵を収容する間に支援するべく、木と木の間を縫う様に吶喊する。


89式装甲戦闘車は歩兵分隊の全員を無事収容、全速力で後退した。


車長はハッチから安全な車内に入り、各乗組員に指示を出す。


7.62mm車載機銃を撃って牽制しつつ、カノーネン・レックスに砲口を向けた。

カノーネン・レックスは口を開き、緋色に輝くエネルギー弾の様なものを蓄え始める。

炎の球は一定以上の大きさに成長するとエネルギーの収束を終え、キュッと小さくなって90式戦車に口を向ける。


デュン!


そんな様な音と共に放たれたカノーネン・レックスの砲弾の様な炎の球は、走って来る90式戦車の遥か後方へと着弾、爆発して大木をなぎ倒した。


外した事に驚いたのか、カノーネン・レックスは眼を見開いて次弾のエネルギー充填を始める。

90式戦車は回頭、車体前面を晒しながらも砲塔と砲身はぴったりとカノーネン・レックスに向けて突進する。


再び放たれた炎の砲弾は90式戦車の砲塔正面へと命中、90式戦車を大きく揺らす。

揺れた車内で坂梨中佐が叫ぶ。


「被弾した!戦闘に支障は!?」


「FCS、機銃、ペリスコープ、自動装填装置、全て異常無し!」


「走行問題無し!行けます!」


かなり大きな衝撃ではあったが、第3世代主力戦車の装甲を貫く様な貫通力は無い様だ。

車長は矢継ぎ早に命令を発する。


「弾種、対榴(HEAT-MP)てぃ(撃て)っ!」


坂梨中佐の号令と共に90式戦車1号車の砲手が、更に無線が繋がっていた2号車の車長も命じ、ほぼ同時に2輌が発砲する。


砲身が後退し、焼尽薬莢の金属製の底部だけが閉鎖機から排出されて尾栓が解放、バンドマガジン式の自動装填装置から素早く次弾が送り込まれて次発装填が完了する。


120mm滑腔砲から発射されたJM12A1多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)は、あっという間にカノーネン・レックスに辿り着き、爆発。

成形炸薬弾頭のモンロー/ノイマン効果によって発生したメタルジェットがカノーネン・レックスの皮膚を貫き、摂氏3000度以上の融解金属の噴流がカノーネン・レックスの体内を蹂躙する。


この森の2種の王者の片割れは、感じた事も無い威力の"兵器"の恐ろしさを知らない。

だが、()は初めて喰らった致死的ダメージに、はっきりと死を知覚した。

体内を焼かれる感覚に苦悶の咆哮を上げるカノーネン・レックスに、90式戦車は更に畳み掛ける。


「次弾!続いて撃て!」


容赦無く放たれた2発目のHEAT-MP(JM12A1)の1発が腹部のど真ん中を、もう1発は側頭部に命中して炸裂。


メタルジェットは骨格ごと脳を貫き、カノーネン・レックスは短い呻き声を上げる。

そしてそのまま撃たれた方向に、バキバキと木々をなぎ倒しながらズシンと地面に倒れた。


『こちら90、カノーネン・レックスを撃破、送レ』


『ポーラスター了解、付近を索敵する』


『了解、付近を索敵する』


上空を飛行する"ポーラスター"のコールサインを持つOH-1ニンジャから通信が入る。


しかしOH-1の索敵サイトには、89式装甲戦闘車の後方から接近する不穏な影を2つ捉えていた。

こう、余り動きのない戦闘は得意分野では無いかもしれませんね……

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