第94話 伯爵からの依頼
90式戦車に付いて書きたい事が多くなり過ぎて書き過ぎた、反省はしているが後悔はしていない。
「騎士団が帰って来ない?」
数日後、俺は伯爵に呼び出されていた。
街の東にある伯爵の屋敷に来るのは、結構久しぶりだ。多分、違法風俗店摘発の時以来だろう。
そんな伯爵から呼び出され、相談を受けている。
夏になると言うのに湿度が低く、涼しくは無いが快適な応接室のテーブルには、伯爵のメイドが淹れた冷えた紅茶が置かれ、伯爵はそれで喉を潤しながら話す。
「ああ……3日前に翼竜の捕獲と調査に行ったのだが……誰1人として戻って来ないんだ」
「翼竜にやられたと言う可能性は?」
「いや、その為にパーティを組んだのだ、翼竜が例え集団で掛かって来ても生きて帰れるようにな、中には数人の強力な魔術師がいるから、それは考え難い」
「ふむ……他の魔物は?」
「"カノーネン・ディノザオリア"に、"ゲオラプトル"が居るが……」
そう言いながら、伯爵は本棚から資料集を取る。
伯爵が独自に、ベルム街周辺の魔物について纏めた資料集、その中のあるページを開く。
「"カノーネン・ディノザオリア"は亜竜の一種……つまりドラゴンの亜種なのだが、調査を行う場所は出没範囲から大分離れている。"ゲオラプトル"は小さくすばしっこいし頭も良いが、翼竜程の脅威ではない」
その資料集に載っている挿絵を見て、俺は驚いた。
「……T-REX……」
その挿絵は、ティラノサウルスに酷似していたからだ。
鋭い牙、太い脚、前傾姿勢で歩く姿、前脚がこちらの方が長い事を除けば、殆どティラノサウルスと同じだった。
「知ってるのか?このタイプは"カノーネン・レックス"と言うんだ。体高は大きなもので3m、全長は15m、走るのが速くてな、馬に乗っていても追い付かれる事がある程だ」
どちらかと言えば"K-REX"だな、と伯爵は笑う。
K-REXか……しかも寸法がティラノサウルスより一回り大きい……
「"カノーネン・アンキール"は、全身に鎧を着ている様な体に、尻尾にはハンマーの様な球体が付いてる、これを振り回されたらひとたまりもない」
伯爵が次の挿絵を指差す、これも見覚えのある形をしていた。
頭以外はアンキロサウルスの様な形、顔が無駄に凶暴だ。
「こいつらはハンマーで相手を殴りつけ、弱った獲物を喰らうんだ」
「喰う?こいつらは草食じゃ?」
「いや、肉食だ。こいつを仕留めるのは難しい、何せ鱗がとても硬いからな。レベル3以上の魔術師でないと、返り討ちにされてしまう」
どうやら現代世界の"恐竜"とは色々と違う様だが、姿はそっくりだ。
「"カノーネン・ディノザオリア"の特徴は、火を吐くところだ」
「ドラゴンや翼竜の様に?」
「いや、広がる様な炎じゃない。矢の様な炎を吐くんだ」
要は炎の砲弾か……どうやら吐く炎の性質が違うらしい。
挿絵を見るに、火炎放射の様に広がる炎では無く、収束する砲弾の様な炎らしい。
「なるほど……」
「そこで君達に頼みたいのが……ラプトルの森の調査、可能なら騎士団を連れて帰ってきて欲しい。もしかしたら……全員、既にやられているかもしれないが、せめて遺品を持ち帰ってはくれぬか……?勿論、適切な報酬は出す」
「……了解、お任せを」
俺はその場で伯爵と契約書を作成し、伯爵からの依頼を受けた。
"ラプトルの森の調査、及び未帰還の騎士団員の捜索"である。
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案件を基地に持ち帰り、中枢の隊員を集めて会議を行う。
歩兵小隊の小隊長である健吾、情報局及び航空隊を指揮するナツ、全体の指揮を執る孝道。
場所は会議室……では無く、俺の部屋だ。
4人だけの会議で会議室を開けてるのは少々贅沢だし、会議室は現在事務会計科と工房が今後の予算調達で使用中だ。
目の前のテーブルには、紅茶が人数分、エリスが淹れてくれたものだ。
エリスは屋敷では紅茶を「淹れて貰う」側の人間だったが、「淹れる」方も上手いのだ。
そのエリスは、ベッドに座って膝に両ひじを突いてこちらを見守っている。
「それでは部隊長会議(仮)を始める、今回受けた仕事は"ラプトルの森の調査及び伯爵騎士団員の捜索"、この会議の目的は"ラプトルの森に向かう部隊の抽出"なので、そこを履き違えない様に」
「先鋒、俺が」
手を挙げたのは孝道だ、発言を許可すると、孝道は持って来たクリアファイルからレジュメを配る。
「現状で稼働可能な部隊を抽出してみた、ここから更に絞り込む必要がある」
レジュメを見ると、動かせる部隊が書き連ねられていた。
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第1歩兵小隊
・IFV2個小隊
・ピラーニャ小隊
・LAV-25小隊
第1機甲小隊:90式戦車
第2機甲小隊:90式戦車
第1砲兵中隊:M777A2
対装甲機動中隊
・16式機動戦闘車 9輌
・LAV-AT 9輌
輸送隊
・特大型運搬車 8輌
ナイトストーカーズ
・MH-60M 5機
・MH-47G 2機
・MH-6M 4機
・AH-6M 2機
OH-1 1機
CH-47F 2機
AH-64D 2機
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この中から部隊を動かす事になる。
次に手を挙げたのはナツだ。
「衛星の情報によると、"ラプトルの森"は東に約50km。この距離だったらヘリを張り付けておくと言うのも出来なくはなさそうだ。航空部隊からはAH-64Dを出すよ」
「観測と偵察でOH-1が居てくれると助かる。地上部隊は……対装甲機動中隊を出そうと思うけど……」
「カノーネン・アンキールって戦車みたいなんだろ?だったらこっちも戦車を出した方が良くないか?」
健吾が対装甲機動中隊より、機甲部隊を出すべきだと主張する。
よく考えれば、確かにそんな気がする。
装軌式の戦車とは違い、16式機動戦闘車は装甲や安定性で戦車に劣る。
カノーネン・レックスの火炎弾やカノーネン・アンキールのハンマーに耐えられない可能性も考えられる。
「なら第1機甲小隊だな、富士教導団戦車教導隊なら良いだろう」
「ああ、歩兵はIFVだな、89式装甲戦闘車を出そう」
「歩兵は2個分隊、16人で良いだろう。第1分隊と第2分隊で行こう」
「俺達か」
レジュメにカリカリと抽出部隊を書き込んでいく。
機甲部隊と航空隊の出撃は決定した、次は燃料や弾薬等の補給物資の確認である。
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2日後
戦力の抽出と指揮統制の調整、弾薬の受領を終え、伯爵から依頼された仕事を実行する日だ。
中央通路には、特大型運搬車に積載された90式戦車と89式装甲戦闘車。現地まで兵員を輸送する73式大型トラックがコンボイを編成していた。
全ての車輌には弾薬と燃料が満載されており、俺達もいつも通りの装備を身に付けている。
ポーチには弾薬の詰まった弾倉が満タンになっているし、ライフルにも30発弾薬が詰まったマガジンが装着されている。
「全員の登場を確認した。ガレント、第2分隊の準備は良いか?」
「第2分隊8名、全員居ます」
そう答えるガレントはSAI GRYライフルを持っていて、左側面にライトを取り付けている。
光学照準器はEOTech 553ホロサイト、ストックはMAGPUL CTRに換装している。
これはガレントのリクエストで、"レールに指が引っかかって痛いし、カバーを付けて重くなるのも嫌なので、持ちやすいハンドガードは無いか?"という事で、M4に代わって彼の為に召喚したライフルである。
そして今回の作戦において初めて採用したのは、拳銃のコルトM45A1である。
.45ACPを使用するこの拳銃はアメリカ海兵隊で採用されているモデルで、あのM1911A1の派生型でもある。
シングルカラムの薄い弾倉には8発しか入らないが、弾倉の数を増やす事で装弾数の低下をいくらか軽減出来た。
現在ベルトの左側には、HSGIのダブルデッカーTACOポーチが2つ、背中のダンプポーチ脇に1つ、取り出し難いとは思うが、カマーバンド左側に2つのマグポーチを取り付けている。
これで5本、元々挿入されている弾倉を合わせれば6本で48発の拳銃用弾薬を携行できる。
その分、ライフルの弾倉を携行出来る数は減っているが、今回は歩兵戦闘車と行動を共にするので大きな問題ではない。
俺達は今回の作戦では"機械化歩兵"となる。
"機械化歩兵"は、装甲兵員輸送車や歩兵戦闘車に乗り込み、戦車と共に機動戦を行う事が出来る歩兵を指す。
元々は第2次大戦中、ドイツが戦車を中心とした電撃戦を行う為に編成した部隊である。
電撃戦には歩兵の支援が不可欠であるが、歩兵は戦車の機動に追随する事が出来無い。
そこで、車輌や装甲車に乗って戦車部隊に追随し、共に戦う事が出来る歩兵が求められた。
これが"Panzergrenadier(直訳すると装甲擲弾兵)"、機械化歩兵の始まりである。
尤も、第2次大戦中はどこも車輌が不足しており、歩兵の機械化を実現出来たのは圧倒的な物量と資金力、その物量を運用するだけの能力があるアメリカくらいである。
モータリゼーションの進んだ現代では、歩兵が車輌に乗って移動するのは普通になって来ており、ここでの"機械化歩兵"は"IFVに搭乗し、戦車と共に機動戦を行う事が出来る歩兵"を機械化歩兵と呼称する。
因みに、良くSF小説やアニメであるようなサイボーグやアンドロイド、ロボット兵で編成された部隊を"機械化歩兵"と言う事があるが、あれは正式な軍事用語ではない。
今回は2個分隊で出撃する、投入する89式装甲戦闘車4輌に対して少ないが、今回の主任務には頭数はそれ程重要ではない。
むしろ、余り多過ぎると身動きが取りにくく、カノーネン・ディノザオリアの餌食になって死傷者が出かね無いからだ。
今回は特殊戦の様に、広大な土地の複数の目標を同時に制圧する必要は無いのだ。
衛星画像によれば、ラプトルの森は、森というものの城壁の様な遺跡に囲まれており、壁の厚さは約50m。
伯爵の話によると壁には門はなく、城壁内へと続くトンネルがある。
トンネルの幅は10m、高さは4m程だと言う。
森は半径12kmに及び、北側に城壁は無く断崖絶壁の山岳地帯、中には草原や泉、川もある。
まるで攻城戦だな……と思っていると、通信が入る。
『こちら第1機甲小隊、進発準備完了』
『89FV小隊、全員掌握、発進準備完了』
「了解……全隊、前へ!」
無線にそう告げると、3輌の73式大型トラックと8輌の特大型運搬車は、ディーゼルエンジンの唸りを上げて走り出す。
11輌のコンボイは、基地の営門を出て一路東へと進路を取った。
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さて、少し今更感があるが、90式戦車の89式装甲戦闘車について少し語っておこうと思う。
まず歩兵が登場する89式装甲戦闘車、武装は砲塔部のエリコン製90口径35mm機関砲KDEと、同軸の7.62mm機関銃、そして砲塔両脇の79式対舟艇対戦車誘導弾である。
35mm機関砲KDAは、他の機関銃や機関砲と比べると毎分200発と少なくなっている、これは砲の軽量化の為に砲尾を短縮する等の軽量化によるものだ。
また35mm砲弾の威力はM2ブラッドレーやLAV-25の25mm機関砲とは比べ物にならない。
弾種は2種類、装弾筒付徹甲弾と焼夷榴弾が用意されており、即応弾として17発ずつが装填されている。
そしてガーディアンの89式装甲戦闘車は改良が施されている。
まずは装甲、特徴である銃眼は装甲の弱点となるので同素材の装甲板で塞ぎ、全体的に薄くドラゴンの鱗を加工した増加装甲を取り付けた。
テストの結果、これで側面装甲でも25mm機関砲の掃射とRPG-32の直撃にも耐える事が出来る様になった。
2つ目は車載機関銃、74式車載機関銃からガーディアンでも使用している汎用機関銃のM240E5を採用、同軸機銃として採用した。
これは部品の互換性を持たせ、整備性の向上を図る目的がある。
3つ目に、兵員室の再設計。
89式装甲戦闘車は本来7人乗りだが、少しスペースを広げて8人の歩兵を搭乗させる事が出来る様に改良した。
更にスペースを広げた為、居住環境もある程度改善された。
走行能力は、本来の89式装甲戦闘車とはほぼ変わらない、5速ATの後進2速、公表されている最高速度は70km/hだ。
さて、次は今回の主役とも言える、90式戦車である。
日本製のこの戦車は、重量50.2t、全長9.80m、全幅はサイドスカート含む3.40m。同世代の諸外国の戦車と比べて少し小柄なその車体は、主に北海道に配備されている戦車である。
武装は44口径120mm滑腔砲Rh120、89式装甲戦闘車の機関砲とは段違いの破壊力を持つ。
HEAT-MPのJM12A1対戦車榴弾、そしてAPFSDSにはJM33装弾筒付翼安定徹甲弾の2種類を主に使用し、ガーディアンで採用している90式戦車は更にJM33Dと呼ばれる、ドラゴンの角や牙を加工して製作したAPFSDSも使用する。
副武装として主砲同軸に7.62mm機関銃で、89式装甲戦闘車と同じくM240E5を使用。
上部には12.7mm重機関銃 ブローニングM2があるが、中央に据え付けられているのでは無く、車長用のハッチに取り付けられたターレットリングに取り付けられている。その為車長用ハッチの形状も四角から円形に変更されている。
砲手用ハッチにもターレットリングにM240E5が取り付けられ、対歩兵火力の増加を図った。
防御力は元から高いので、強化するまでも無い。
試験映像によれば、「バンカー内に収めた90式戦車に、もう1輌の90式戦車で、推定距離250mから射撃」し、車体正面にHEAT-MPを3発、APFSDS1発を喰らっても無傷、しかもそのままバンカーか自走で這い上がると言う防御性能を見せた。砲塔部分も同程度の防御力を備えていると推測されている。
実際にガーディアンで行った耐久試験では、耐弾試験の為に召喚した90式戦車戦車に向かって戦車教導隊第2中隊の90式が射撃したところ、砲塔正面にAPFSDS 6発、HEAT-MP 14発を命中させたが、戦闘に支障は無い状態で自走も可能だった。
と言うのも、90式戦車の装甲は諸外国の戦車の装甲の性質とは少し異なるらしく、なかなかヤバい逸話が存在する。
通常の複合装甲の場合、装甲のセラミックの硬さでAPFSDSを貫通させつつ摩耗させ、完全な貫通を防ぐと言ういわゆる防弾チョッキの様な働きをする。
しかし、90式戦車の複合装甲の場合、ガッチガチに固めたセラミックの装甲ユニットが命中した敵の砲弾を逆に破壊すると言う物らしい。
しかもだ、通常の複合装甲のセラミックは砲弾が命中した際にヒビが入ったり割れてしまい、防御力の低下は避けられないが、90式戦車の複合装甲は"着弾時の衝撃と熱でセラミックが再燃結されてヒビが再び埋まる"という自己再生染みた訳の分からない複合装甲を持っている。
これは固めすぎたセラミックの分子に砲弾が命中しヒビが入るとセラミックの分子は逃げ場を求めるが、いかんせん固めすぎている為に入ったヒビ以外に逃げ場が無いのでセラミックはそこに集中し、ヒビが埋まる、と言う理論らしい、ますます訳が分からない。
尚、装甲ブロックの厚さもトップレベルで、推測値で対APFSDSで600mm以上、対HEATで1000mm以上だと言う。
この値は硬い硬いと評判のM1A1にも引けを取らない値だ、と言うかむしろ少し上回っているとも言える。
90式戦車はブリキ缶では無かったのだ。
だが、この防御に割り振った性能のお陰か、50.2tと言う重量と調達価格の高価さが当初槍玉に挙げられた。
重量については、重過ぎて橋を渡ると橋が落ちると言う指摘があったが、実は90式戦車は同世代の諸外国の戦車と比べてかなり軽い。
例えばアメリカのM1A1は57.15t、HAで61.5t。
フランスのルクレールが56.5t。
イタリアのC-1アリエテが54t。
イギリスのチャレンジャー2が62.5t。
中国の99式戦車が54t。
EU圏で使用されており、形状が似ているレオパルト2A4が59.7tである。
これを見ても、まだ90式戦車は「重い」と言えるのだろうか?
唯一軽いのが仮想敵のT-72で46tだったりする。
そして橋が落ちると言うのも、90式戦車が渡れない橋は必然的に諸外国の戦車は渡れず、その様な橋は架橋戦車で橋をかけたり、戦車は少しの川なら自走で渡れると言うことを忘れてはならない。
そして「90式戦車が通れても、諸外国の戦車が渡れない」と言うのは、とても大きなメリットであると言える。
2つ目に調達価格の高価さが槍玉に挙げられた圏、某アニメでは「12億の戦車が!」と言われたり、様々な作品で揶揄されていたが、現在は量産効果もあり1輌8億円ほどに低下している。
しかもこれも90式戦車が特段高価な訳では無く、第3世代MBTが全体的に高価なだけだ。
これも比較になるが、チャレンジャー2やルクレールは日本円で10億円、レオパルト2はドイツ国内向けで7億円、輸出型で10億円、と言う具合だ。
尤も、俺が召喚する異世界では価格は問題にはならないが。
そしてそんな巨体を動かすのが、1500馬力、排気量21500ccのパワーパックだ。
このパワーパックのお陰で、"公表されているスペックでは"最高70km/hで走行する事が出来る。
そんな走攻守三拍子揃った動く要塞が、ガーディアンでは8輌、2個小隊が召喚されている。
このラプトルの森の調査に動いたのは、富士教導団戦車教導隊第2中隊、砲塔に流星のマークが付いた部隊である。
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「総員降車!」
トラックが停車し、俺が号令をかける。
ベルム街から伸びる寂れた街道"クルップ街道"を東に40km、ラプトルの森まで10kmの地点だ。
ここで90式戦車と89式装甲戦闘車を特大型運搬車から下ろし、歩兵分隊は89式装甲戦闘車に分乗、ラプトルの森に向かう。
降車したトラックから更に弾薬を持ち出す、小銃や拳銃、機関銃用の弾薬に加え、パンツァーファウストⅢやAT-4CS、カールグスタフM3などの対重装車輌用の大物も持ち出してきた。
周囲を警戒しながら4輌の戦車と4輌の歩兵戦闘車がトラックから降り、自らの履帯で異世界の大地を踏みしめる。
「ヒロト」
「ん、どうしたエリス」
ヘルメットを脱ぎながらエリスが声をかけてくる、エリスのJPC2.0は右側のカマーバンドにラジオポーチを取り付け、AN/PRC-152を本部との通信用に取り付けている。
「今回の懸念材料は?」
「そうだな……毎度の如く、敵にどの程度銃が通用するか……って事かな。ラプトルとカノーネン・レックスはまだ良い。問題はカノーネン・アンキールだ」
「確かに、戦車並みに装甲化されたカノーネン・アンキールに対処するにはAT-4CSやパンツァーファウストⅢしかなさそうだな……」
「後は対戦車地雷やC4で比較的柔らかい腹側を吹っ飛ばすって手もあるけど、限られた時間でそれは流石に出来ないからな……」
「だな、カノーネン・アンキールと遭遇した際は、対戦車火器を使うか戦車の支援を呼ぶしかなさそうだ」
エリスはそう言って肩を竦める。
備えは万全だ、どんな作戦でも、エリスを、そして仲間を絶対に死なせる訳にはいかないのだから。
俺はエリスの肩を抱き寄せ、軽く口づけをした。
エリスは驚いた様に目を見開くが、すぐに顔を赤くして顔を背けた。
「……大丈夫だ、死なせたりしない」
「……不意打ちはずるいぞ」
「ずるくて結構、大人はずるいものさ」
「大人って言っても、私と歳は変わらないじゃないかっ」
「異世界に来る前は25歳だったからな、十分おっさんだおっさん」
「ふふっ、そうだったな。17歳の身体を手に入れて随分と生き生きしているけど……」
「だな、現代地球で出来なかった事が今出来ると思うと、正直楽しい」
そんな会話をしながら、装甲部隊の準備が整うのを待つ。
エリスはOPS-CORE FASTマリタイムヘルメットを被ってチンストラップを固定すると、こちらに向き直る。
「私も、私の役割があるからな……お前を……皆を守るっていう役割が……」
「ああ……じゃあエリス、いつも通り2班の掌握及び指揮を」
「分かった、任せろ!」
そう言うとニコッと笑うエリス、無茶苦茶可愛い。
「第1機甲小隊、準備完了!」
「A小隊、こちらも準備完了!行けますヒロトさん!」
「了解!第1分隊全員搭乗!」
『了解!』
無線にそう叫ぶと、ハッチの開いた89式装甲戦闘車の1号車、コールサイン"A1に第1分隊の分隊員が走っていく。
『第2分隊、全員搭乗!』
『応!』
第2分隊8名も、A2に走って乗り込んでいく。
ここからラプトルの森までは10km、それまではこれに乗って移動する。
『第2分隊全員掌握、行けます』
「第1分隊、全員掌握」
『こちら機甲第1小隊、いつでも行けます』
『ヒロトさん、命令を』
背中合わせのシートの一番奥に座っている俺に無線が届く、出発の合図を、との事だ。
「んじゃ、ありきたりだけど……前進用意!」
無線に叫ぶと、ディーゼルエンジンの音が大きくなり始める。
「前へ!」
最後にそう号令をかけると、4輌ずつの90式戦車と89式装甲戦闘車は、ラプトルの森に進路を取り、走り始めた。
今回初登場の兵器
コルトM45A1
SAI GRYライフル
 




