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第93話 マルファンクションクリアランス

相変わらず、某新聞社はガーディアンに対する批判……もとい、誹謗中傷が書き連ねられている。


「よくまぁ人を罵るのにこんなにエネルギーを使えるよなぁ……」


俺はあの新聞を流し読みしながらそう呟く、ぶっちゃけて言えば、こんな事を書かれても俺は痛くも痒くも無い。痛いのは片腹だけだ。


俺は新聞を畳み、その辺に放る。一応、窓拭きや靴が濡れた時に役に立ってはくれる。


「さて、銃のメンテでもするか……」


ロッカー室からM4を持ち出し、地下の射撃場へ移動してクリーニングを行う。

テイクダウンピンを抜いてアッパーレシーバーをスイングアウト、チャージングハンドルを引いてボルトを抜き、清掃する。


クリーニングロッドを使ってバレルの中まで綺麗に清掃した後、フロントのピンも外してアッパーレシーバーとロアレシーバーに分解、ハンドガードリングを少し下げてバーティカルフォアグリップの取り付けられたハンドガード下部を、上部のネジを緩めてLA-5(レーザーデバイス)M3X(フラッシュライト)の取り付けられたハンドガード全体を取り外す。


レールハンドガードの中に収まっていたのは、M855/SS109弾を撃ち出せる様に少しだけ肉厚になった17-4鋼のバレルと、ショートストロークガスピストンのキットだ。


ガスピストンキットを取り外し、ガスの残りカスを洗浄、綺麗にした後に油を注して元に戻す。


ロアレシーバーの撃鉄(ハンマー)付近にも油を注し、余分な油分を拭き取る。


ハンドガードを元に戻し、前方のテイクダウンピンをアッパーレシーバーとロアレシーバーの穴に合わせて止め、アッパーレシーバーを振り下ろすようにしてロアレシーバーと噛み合わせて後部のピンを止める。


動作確認の為に何度かチャージングハンドルをガチャガチャと引き、P-MAGに5.56×45mmNATO弾を込める。

クリップを使って纏めて20発程をマガジンに詰め込み、M4に装填、チャージングハンドルを引いて離し、薬室(チャンバー)に初弾を入れる。


しっかり肩付けし、300m先の人型目標(マンターゲット)に狙いを定め、引き金を引いた。

銃声、反動、5.56mmNATO弾が音速の3倍ほどで飛翔し、人型目標(マンターゲット)の心臓部分に命中した。


そのまま首、頭とセミオートで射撃し、セレクターをフルオートに合わせる。

突き出すように構え、しっかりと脇を締めて反動に備える。

発砲、銃声が連続で響き渡り、薬莢が床にカラカラと金属音を立てて落ちる。


うん、しっかり当たってる。

弾丸は狙った場所に真っ直ぐ命中、調整の方も狂いはないみたいだ。


銃の分解清掃もやった事はあったし、異世界(こっち)に来てからヒューバートやレイ、マシューズ達の"召喚者"に教わった。

俺は団長ではあるが戦闘部隊の隊員でもある、それが戦闘訓練を受けていないのは流石に示しが付かないと言う事で、前世のアメリカ海兵隊の訓練をアレンジした13週間に及ぶ訓練をクリアしている。


その中でも銃の分解清掃の手順は教わった、拳銃からライフル、機関銃、無反動砲に至るまで、歩兵が使用する可能性のある全ての火器についてだ。


「……そう言えば、そろそろ銃の貸与が行われる頃だっけな……」


現在、ドラゴンに村を追われた難民を保護し、有志を募って志願兵として訓練を行っている。


訓練兵のスケジュールを思い浮かべながら、俺はそう呟いた。


===========================


訓練兵は現在、貸与されたM4A1(自動小銃)P226(拳銃)を持って講義室に集合し、机の上には青く塗装された模擬弾が置かれていた。

教壇には情報部と教育隊を兼任するナツが立っている。


その他にもヒューバートやレイ、マシューズ達が講義の補佐に付いていた。


「今回行うのは"マルファンクションクリアランス"。不発、排莢不良、装填不良、二重装填等の動作不良に対応する為のテクニックになる」


今回の講義は"マルファンクションクリアランス"、要は銃の射撃中にジャムが生じた際の対処法だ。


「まず引き金を引いても弾が無い時、ボルトやスライドがオープンになっているだけなら弾切れでホールドオープンしているだけだ。不発の時は、スライドやボルトが閉じており、ハンマーが落ちても撃発されない」


ナツはM4を手に取り、説明を行う。

M4のボルトストップを押してボルトを前進させ、人のいない方向に向けてトリガーを引き、カツンとハンマーが落ちる。もちろん、安全を確認した上で、だ。


「この時、不発かと思ったら遅発する事もあるので、射撃場では構えを解かずにそのまま10数え、それから不発弾を抜く事。不発弾はなるべく抜いた後に埋めておくように」


戦場で銃を構えたまま10数えるなど悠長な事はやっていられない、素早く対処する為にも、戦場で不発の際は即座に不発弾を抜いて戦闘に復帰する事になる。


「装填及び排莢不良には、いくつかパターンがある。まず、薬莢が手前で引っかかっている場合」


ナツはそう言うと、雷管を抜いて撃発する事の無い安全なダミーカート(識別のため、全体を青く塗装されている)を装填したマガジンをM4に差し込み、チャージングハンドルを引く。


そして再び少しだけハンドルを引き、薬室手前で薬莢が引っかかっているように見せる。


「こうなったらチャージングハンドル、拳銃ならスライドを引いて排莢する事。この時、フォアードアシストノブはボルトが破損する恐れがある為、押してはならない」


チャージングハンドルのすぐ近くにあるボルトフォアードアシストノブだが、あれはなるべく使わない方が良いとされている。

ボルトの強制閉鎖の為の器具だが、ボルトを傷つけて破損する危険があるからだ。


なら何で付けたんだと思われるが、先程も言ったようにM16系統はチャージングハンドルがあるものの、コッキングレバーの様にボルトと繋がっていないので、ボルトを強制閉鎖する事が出来ないのだ。


しかし、ボルトが完全に閉鎖しなかった場合、フォアードアシストノブは使わずもう一度チャージングハンドルを引き、スプリングの勢いで閉鎖する事になっている。


「そして、ボルトやスライドに薬莢が噛み込んでしまった場合。これはストーブパイプと言って、名前の通りの排莢不良だ」


ナツはチャージングハンドルを少し引いて、空薬莢をボルトに縦に噛ませる。

空薬莢がエジェクションポートからストーブの煙突の様に挟まり、ボルトの完全な閉鎖を阻害している。これが"ストーブパイプ"と呼ばれる排莢不良だ。


「このタイプの排莢不良は簡単だ、空薬莢を払い落とすだけで回復する場合が多いから、スライドやチャージングハンドルを引いて挟まった薬莢を取り除け」


ナツはボルトに噛み込んだ空薬莢を排出する為エジェクションポートからを下に向け、チャージングハンドルを引いて戻した。


「不発、装填及び排莢不良の際は"タップラックバン"と言う方法でクリアする」


言いながらナツはP226に持ち替える。

タップラックバン、銃がジャムを起こした時に用いる基本的な操作テクニックだ。


タップ:マガジンの底部を叩く。

ラック:スライドやボルトを引く。

バン:可能であれば発砲。


例外はあるが、これで大抵の動作不良は解消される。

また、タップラックバンを実行する前に、エジェクションポートを見てどの様な動作不良を起こしているか確認し、適切な処置をするのが望ましい。


ただ、解消されない作動不良が二重装填(ダブルフィード)と呼ばれるタイプのものだ。


二重装填(ダブルフィード)には2パターンある。まず1つ目は、"薬室から空薬莢が引き出されずに2発目が装填されてしまった場合"、2つ目は"薬室から空薬莢が引き出されたものの、上手く排莢されず2発目が装填されてしまった場合"だ」


ライフルのボルトや拳銃のスライドには、エキストラクターと呼ばれるパーツがある。


これはボルトが後退した時に空薬莢のリムに引っかかり、空薬莢を薬室から引き出す役割がある。


前者の二重装填(ダブルフィード)は、エキストラクターが空薬莢のリムに引っ掛からなかった場合、後者はエキストラクターは引っかかったが、エジェクションポートから排出されなかった場合だ。


二重装填(ダブルフィード)からの復帰は厄介で時間がかかる、なので安全な場所に到達するまでは拳銃に持ち替え、素早く応戦しろ」


戦場のど真ん中では、0.1秒の躊躇いが命取りになる。そんな所で呑気に詰まった弾薬を取り除いていたら、即刻撃ち殺される。

二重装填(ダブルフィード)が起きた場合に最も大切な事は、拳銃に持ち替えるか、身を隠す事だ。


二重装填(ダブルフィード)の対処法に、先ほど述べた"タップラックバン"はやらない方が良い、回復しない事の方が多く二度手間になり、詰まった弾薬を更に奥に押し込んでしまい症状が悪化する可能性があるからだ」


これは特に前者の場合である。

薬室に空薬莢が残っている二重装填(ダブルフィード)の場合、弾倉から上がってきた弾薬が詰まっている薬莢を更に押し込んで悪化させる可能性がある。


「対処法としては、チャージングハンドルを引いてホールドオープンさせ、マガジンを力を入れて思い切り引き抜いて、チャージングハンドルを3回ほど引いて離し、ボルトを前後させる」


言いながらナツはチャージングハンドルを引いてボルトストップをかけ、言葉の通りM4を作動させる。

マガジンを力を入れて引き抜くのは、マガジンリップから薬室(チャンバー)に中途半端に送り込まれた弾薬の頭だけが出ている状態になってマガジンが抜けなくなるからだ。


「これで大体取れるが、頑固な弾詰まりはこれでも取れない場合がある。そう言った時は、マグウェルかエジェクションポートから詰まった弾薬を取り除くか、ストックを地面に思い切り叩きつけ、薬室に詰まった弾薬を取り出す事。どちらにせよ時間がかかる方法だ、まず自らの安全確保を優先する事」


因みに、これでも詰まった弾薬が取れない場合、銃口からクリーニングロッドで詰まった薬莢や弾薬を押し出す。


「銃に手を入れる際は指を挟まないように、またバレルや薬室が高温になっている場合があるので注意する事だ。今日はこのマルファンクションクリアランスを全員がマスター出来る様になるまで練習するぞ、では拳銃から始めよう、手元のP226を取ってくれ」


そう言うと訓練兵達は一斉に銃を手に取る。

ガーディアンとして一線で戦える様になるまでの戦闘訓練、7週間目は始まったばかりである。


===========================


ベルム街より東に50km、ラプトルの森。


「いるか?」


「ああ、いるぞ、ワイバーンのコロニーだ」


西洋風の鎧を着て、頭には兜を被り、靴はブーツを、手にはロングソードやサーベル、弓矢、クロスボウなど様々な武器を持った兵士が、単眼鏡を覗き込んでいた。


兜をと鎧の腕にはベルム街、レムラス伯爵の紋章が付いている。


もちろん、金属の鎧ではなく、皮の鎧を着ている兵士もいる。

彼らは伯爵の騎士団だ。

ラプトルの森の調査及び、棲息する翼竜(ワイバーン)の捕獲が目的で、ここにやって来たのは12人。


翼竜(ワイバーン)を保有して伯爵騎士団の空中戦力を整え、輸送補給及び地上部隊の航空支援を行う事も可能になり、戦力の増強も計る事が出来る。


捕獲方法は、雷系魔術で麻痺させて捕獲、その後調教師に調教させるのだ。


現在翼竜(ワイバーン)を使った任務はギルド"ドラゴンナイツ"にほぼ委託している、だが翼竜(ワイバーン)戦力が確保出来れば、伯爵騎士団の実力は更に上がるだろう。


「さ、では翼竜(ワイバーン)を捕まえに行くぞ」


「……た、隊長……これ、マズイ事になってますよ……」


隊員の1人が怯えた様な声を上げ、周りに目を向けた。


「何……?」


隊長も怪訝な表情を浮かべた直後、周囲の茂みがガサガサと葉擦れの音を立て始める。


流石に隊長も気付き、只事では無い雰囲気を感じながら剣を鞘から抜き、構えて周囲の警戒する。


翼竜(ワイバーン)では、無いな……」


「ええ、ゴブリンやコボルトでも無さそうです……」


「となると……っ!?」


ラプトルの森で出てくる魔物の可能性を少しずつ排除していき、残った結論に辿り着いた隊長の表情が変わる。


その時、茂みから灰色の影が飛び出して来た。


騎士団員の目の前に着地したのは、人間と同じくらいの体高の、ドラゴンの亜種である"亜竜"の1種。


「ラプトルだ……!」


ゲオラプトル、通称"ラプトル"と呼ばれる小型の肉食恐竜である。

ラプトルの森に広く棲息し、野生動物や迷い込んだ人間も襲う。


頭は良く、口には鋭く細かい歯が並んでおり、肉を引き裂く事など容易。また前脚の爪も発達しており、噛み付き攻撃と爪による攻撃で集団で襲いかかる事から、5段階ある魔物の危険度の内、レベル3、トロールと同じ危険度を持つ魔物である。


そんなラプトルが1頭だけかと思いきや、後から2頭、3頭と茂みから飛び出す。


更に横の茂みからも2頭、後ろの茂みからも4頭が飛び出して来た。


「囲まれたな……!」


「どうします……!?」


「退却する、各自応戦しろ」


「了解……」


クルルルル……と唸り声を上げる猫の様な目をしたラプトルとの睨み合いは続く。


キシャァァァァァ!


ラプトルが吼え、隊長に飛び掛かるが、臨戦態勢を取っていた隊長は素早くラプトルの噛み付きを躱し、人間で言うところの心臓部に剣を突き立てる。


苦しそうな呻き声を上げるラプトルを引き倒し、抜いた剣を更に頭に突き立ててトドメを刺す。


後ろでは、クロスボウの使い手であるラークがボウガンから矢を放ち、頭を正確に射抜いていた。

魔術師であるマルロも、氷系魔術で貫通力の高い"アイシクル・ランス"の投擲姿勢に入っている。


これで2頭を始末した、隙はまだ無いが、ラプトルも隙を見せる筈だ。


そう好機を伺いながら、ラプトルと再び睨み合い、距離を取りながら後退する。


ギシャァァァァァァ!


再び吼え、此方に飛び掛かって来た時、空中でラプトルが何者かに攫われた。


「!?」


ラプトルは驚きと苦悶の咆哮を上げるが、攫った者はラプトルを決して離さない。


体長体高はラプトルの2倍を優に超え、ラプトルより鋭い牙、ギョロリとした目付き。


転生者が見たら、ほぼ100%が"ティラノサウルス"と答えるだろう。


「か……カノーネン・レックス……!」


カノーネン・レックス、体高5mはあるかと言う、大型の肉食恐竜だ。


「逃げろッ!」


誰かがそう叫んだ、最早誰が叫んだかわからない。

もうそんな事はどうでも良い事だった。

兎に角逃げる、一目散に逃げる。森の出口を目指して兎に角走った。


後方を走っていた部下が喰われ、ブチブチと肉を裂く音と鈍い悲鳴が聞こえた。


「立ち止まるな!逃げろ!」


クロスボウを持った兵士が振り返り、カノーネン・レックスに矢を放つ。


矢はカノーネン・レックスの腹に突き刺さったが、大したダメージは与えられなかった。

次の瞬間、クロスボウを放った兵士は、膝から上が喰われて無くなっていた。


「くそッ!」


カノーネン・レックスの口元が紅く輝く。


「来るぞぉぉぉぉぉ!」


逃げろ、と言う間も無く、カノーネン・レックスの口から炎が吐き出された。

ドラゴンの様に火炎放射では無く、まるでフレア・ジャベリンを発射する様に高速かつ高威力を持った巨大な炎の鏃は、兵士を巻き込んで地面で爆発した。

爆風に吹き飛ばされ、地面を転がる。


「隊長!早く立って下さい!」


女性の兵士が隊長の手を引き、走る様に手助けをする。


「早く!ラプトルも追って来てます!」


12人居た筈の騎士団員は、もう5人しか居ない。

必死に走って居た部下の1人も、ラプトルに追いつかれ、のし掛かられる。

ラプトルは部下にすぐ様群がると、鋭い爪と牙で肉を引き裂き、捕食していく。


「あぐっ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"!痛い!痛い痛いッ!あ"あ"あ"!」


おおよそ人間が出すとは思えない濁った悲鳴が遠ざかる、隊長は申し訳ない気持ちで一杯になっていた、助けられず、遺体も持ち帰れずすまない、と。


「もうすぐ森を抜けます!このまま……!」


そう言いながら隣を走っていた女性兵士が、突然消えた。

何事かと思い振り返ると、先程まで女性兵士が走っていた場所から程近い岩に、()()()()()()()()()()がへばり付いている。


「な……!?」


驚きの声に答える様に茂みから姿を現したのはまた別の恐竜。


戦車(タンク)の様な鎧を纏い、長い尾の先端はコブ状のハンマーが付いており、頭部まで覆われた鱗の隙間からは凶暴な牙が見えている。


「カノーネン・アンキール……!」


カノーネン・レックスと対を成す亜竜、カノーネン・アンキール。

転生者が見たら"アンキロサウルス"と言うだろう見た目の陸竜は、草食では無く肉食である。

恐らく、先程の一撃はハンマーを水平に薙ぎ払い、女性団員を岩に叩きつけたのだろう。


「このっ!」


「ラーク!よせ!」


ラークはカノーネン・アンキールにクロスボウで矢を放つが、鱗に弾かれて少しのダメージも入った様子は無い。


「く、くそッ」


急いで矢の再装填を始めるラーク、震える手で何とかと言った風に矢の再装填が終わり、照準を合わせて引き金を引くが、クロスボウの短く太い矢はカノーネン・アンキールの頭部の鎧に弾かれるだけだった。


「ひっ、ひぃっ!?」


対人及び対魔物において、かなりの威力を誇るクロスボウの太く短い矢を撃ち込んでも効かないカノーネン・アンキールに、絶望した様にその場にへたり込むラーク。そんな彼を鎧を纏った陸竜は、頭からバクリと喰らった。


「ラーク!!!」


(いかづち)の精霊よ、その一撃で敵を封じ込めよ!スパーク・カノン!」


レベル4という高位魔術師のマルロが、レベル4の威力を持つ"スパーク・カノン"を放つ。


突き出した掌に電撃が走り、速度は遅いが雷撃のビームとしてまっすぐ伸びていく。

通常の魔物であれば、即死クラス、例え翼竜(ワイバーン)や大サソリと言えど、重症になるダメージを負う。


しかし、ビームは硬い鱗に弾かれ、無効化された。

それでもマルロは詠唱する、今度は地面に手を当て、魔法陣を展開。


「あらゆる鎧を貫き、強大な敵を倒し給え!アースアーマー・ピアシング!」


マルロの使う魔術の中で、最大威力を誇る地面系の攻撃魔術だ。


もし命中すれば、翼竜(ワイバーン)でも即死クラスだ。

そんな土の砲弾が3発、連続で射出されて立て続けに命中した。


亜竜の命を奪う土の砲弾、しかし、カノーネン・アンキールの防御力は想像を超えていた。


無傷のカノーネン・アンキールが土煙の中から姿を現した時、マルロは絶望した。


「そんな……嘘だろ……俺の魔術が……」


「マルロ!」


刹那、上から振り下ろされたカノーネン・アンキールの尻尾のハンマーがマルロを直撃、ハンマーは地面にめり込み小さなクレーターを作った。


カノーネン・アンキールが振り下ろしたハンマーを上げると、先程までマルロだった血塗れの肉塊が地面のシミになっていた。


仲間達の凄惨な最期を目の当たりにし、剣を取り落としてその場に立ち竦む隊長。


「あ……あ……」


最早、彼の口から出るのは意味の無い言葉と言うより音。

追い付いたカノーネン・レックスが、背後から隊長の頭を前脚でガッと掴む。

3種の亜竜に囲まれた彼に、逃げ場など無かった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


悲鳴の後は、肉を引き裂き、骨を噛み砕く音だけが響いたとか。

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