表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/215

第90話 ランディ・ヘイガートと言う人間

人物の心情描写とか日常回って難しい……

と言う事で、更新です。乱文ですがどうぞッ!

目の前に広がるのは、緑色の世界。

晴れ渡る夜空に、無数とも思える星が散らばっていた。


異世界には大気汚染が無い。

光化学スモッグの心配も無いし、人々が排出する二酸化炭素も豊かな自然によって光合成されて酸素に変えられてしまう。


転生前の地球の大気汚染は、人類の技術発展の代償とも言えるだろう。


だが技術レベルが産業革命以前、そして魔法まで存在するこの異世界で、「汚染物質を排出する」存在は、恐らく俺達ガーディアンくらいのものなのでは無いか?


汚染の無い大気は遠くまで見渡す事が出来、夜も星が綺麗に見える。

俺はそんな最高の星空を、緑色の世界の中で眺めていた。


転生前では、山に登ったりしなければ見る事が難しかった星空。

今宵、この場所は満天の星空を楽しむ特等席に変わるのだ。


こんな星空の下で、弟や友人達とバーベキューやキャンプが出来たりしたら最高だろうな、酒があるとなお良し。

あ、今の俺の肉体年齢はまだ18だったんだ……それに俺、向こうでもあまり酒は飲まなかったし…-


今ここには居ない弟や友人に想いを馳せ、叶う事の無い願いを夢見ている。

この異世界には、弟や友人は例外を除いて居ないのだから。


「ヒロト?」


緑色の世界に広がる星空の一部が欠け、人間の顔を映し出す。


「どうしたんだ?」


「いや……ちょっと昔の事を思い出しててね……」


「そうか……あんまりぼーっとしていると、夜間哨戒中なのに眠ってしまうぞ?それに暗視装置の電池も勿体無い」


俺はエリスのその言葉に肩を竦めながらクスッと笑い、そうだな、と答えながら暗視装置の電池を切って跳ね上げる。


さっき「弟や友人は例外を除いて居ない」と思ったが、その代わりに愛しい恋人と、大切な仲間を得た。

これはもし転生していなかったら、決して出会う事の無かった仲間達だ。


転生して失ったものもあれば、新たに得たものもある。

今し方星空を眺めるのに使っていたAN/PVS-31双眼型暗視装置も、転生しなければ使う事も出来なかっただろう。


……そう言えば、今頃地球はどうなっているのだろうか?

俺の住んでいたアパートは、既に他の人が使っているのだろうか。

俺が向こうに居た痕跡は消され、多分弟は一人っ子と言う事になっているだろうな……


あの建設途中のショッピングモールはもう開業したのだろうか、転生して半年以上経つから、時間軸が彼方と此方で同じなら、そろそろ開業する頃だろう。


そう言えば義樹と東京のイベント参加する約束もしてたなぁ……結局守れなかったけど。


世界情勢はどうなってるだろうか、某国の暴走で3回目の世界大戦が起きて無ければいいけど……


「お待たせしました、クリスタが暗視装置隠したまま寝やがりまして……」


そんな事を考えているとランディがやって来た、狙撃手の彼は夜間哨戒で俺と同じシフトに入る。


彼の得物は.338Lapua Magが使用出来る様に薬室(チャンバー)を無理矢理拡張してボックスマガジンに8発入る様にかなり無理な改造をしたM24A2 SWSと、Sightmark Sure Shotオープンダットサイトとサイドレールにライトとしてinsight(インサイト) M3Xを乗せたMP7A1だ。


「おう、あったのか?」


「ありましたありました」


そう言ってヘルメットに取り付けた暗視装置をポンポンと軽く叩く。


俺はスチール製のカップに注がれたコーヒーを飲む、グライムズが交代前に入れてくれたもので、まだ熱い。


口の中をコーヒーの苦味と深みが支配し、香りが鼻に抜ける。


「ふぅ……」


「ヒロト、凄い遠い目をしてたな……」


エリスは本当によく見ている、エリスに隠し事なんて出来無いな……


「ああ、転生前の事をちょっと考えててな……」


「転生前か……ヒロトはどんな少年だったんだろうな」


エリスはそう言ってクスッと笑う。


「あんまり変わらねえな、背が伸びたくらいだから、転生前の俺より若い年齢となると、このまま背が縮んだみたいなもんだぞ?」


「それはそれで……可愛いかも」


おいおい、ショタ化は勘弁してくれ。

それに高校時代の俺はもっと捻くれてたし、中学時代はチビで虐められてたからなぁ……


「ランディはどんな少年だったんだ?」


「俺ですか……?」


地面にバイポッドでM24A2を立てて伏せ撃ちの姿勢になっていたランディに問い掛ける。


現在のガーディアン第1期生、つまり初期メンバーは、転生者、召喚者、異世界人で構成されている。


その中の"異世界人"はほとんどが"エリス派"、つまり俺が最初に訪れた街の屋敷で働いていたエリスの支持者だが、4人だけ例外がいる。

グライムズ・ジューク

アイリーン・バレンツ

ランディ・ヘイガート

クリスタ・ヘイガート

以上4人だ。


グライムズとアイリーンの2人は、リンカーの街で出会い、ランディとクリスタは、その後の村の偵察で出会った。


エリス派なら、どんな身分階層出身でエリス派に加わった経緯くらいならエリスが把握しているが、上記の4人の出自はほぼ全く知らないのだ。


「……じゃ、少し話しましょうか」


一気にシリアスな雰囲気が流れ始めた。

ランディが自分のステンレス製のマグカップにコーヒーを注ぎ、口を付けながら話し出す。


「俺はグライムズと同じあの村の出身なのは知ってますね?」


「ああ、それは知ってる」


「俺もクリスタと、あの村の産まれで、弓矢やクロスボウの扱い方を勉強したり、練習したりしてました。他の子供達が球蹴りや隠れんぼで遊んでる時に……変でしょう?」


ランディはそう言って苦笑する。


「いや、変って事は無いだろう。練習の成果が今の狙撃の腕として現れてる。大した事じゃないか」


「そうですかね……まぁ、ウチの親父はもっと上手かったんですけどね……」


900m先のターゲットに向かってワンホール・ショットを行える程の腕のあるランディだ、これより上手いランディの親父さんって……


「何はともあれ、その時からの技術はお前の役にも立ってるし、俺も頼りにしてる、無駄や変なんて事は無い。むしろ誇るべきだと思う」


「……ありがとうございます」


ランディは多分、俺よりも真面目だ、射撃にも性格が出ている。

針の穴を通す様な狙撃は、この真面目さがあって出来るものなのだろう。


「それから……もう1つ相談が……」


ランディが改まって話があるとでも言いたげに向き直る。


「何だ?」


「俺とクリスタは……実は腹違いの兄妹なんです」


時が止まった様な気がした。

腹違い……?


「俺の親父は弓使いで猟師でした、母親は俺を産んでからすぐに別れて、俺は親父に育てられました。クリスタは、親父の再婚相手との間に出来た子供です」


……そうだったのか……


「だから、俺の中に流れている血と、クリスタに流れてる血、少しだけ違うんです」


「……それで幼少期に、辛い思いを?」


掘り返す様で悪いとは思うが、団長として聞いておきたい話だ。


「いえ、辛い事は無かったです。両親は対等に扱ってくれましたし、腹違いだからと言う理由で俺やクリスタが差別される事も無かったんですが……1番の問題は、俺とクリスタが"半分しか血が繋がってない"って事なんですよ」


確かに、ランディとクリスタには同じ父の血が流れているが、母から貰った血は違う。腹違いと言うのはそう言う事だ。


「……クリスタが甘えて来るのは良いんですが……スキンシップが過激になって来てて……正直、誘ってるんじゃないかって思う事も……それに耐えるのが大変で……」


「それは……クリスタを妹としてではなく"女性として"見てしまっている、と言う事か?」


「……分かりませんが、多分そうなのかもしれません……」


エリスがヒュッと軽く口笛を吹く。


「兄妹でか……なるほどな……」


第3者から見れば笑える余地のある相談かもしれないが、ランディに取っては全く真剣な相談だ、彼の目がそれを物語っているし、この短い付き合いでランディはそう言う冗談を言う奴では無いと言う事だって分かっている。


真面目な天才狙撃手、それがランディ・ヘイガートと言う人間だ。


「やっぱりおかしいですかね……兄妹でなんて……半分とは言え、血は繋がっているのに……」


「いや、おかしいと言う事は無いぞ」


俺はランディの言葉を遮って反論する。


「お前とクリスタの血が繋がっていようがいまいが、お前の中にあるその気持ちが本物なら、おかしいなんて事は無い。むしろ、その気持ちに蓋をしてしまう方が……何つーかな、勿体無い、と思うぞ?」


ランディはそれを聞いて口を閉ざす、彼はいつの間にか、自分のM24SWSを抱き締めていた。


「欲望に任せ過ぎてもダメだけど、自制のしすぎと言うのもまた後悔する事になる。バランスが大事だ、クリスタの気持ちは分からないし、俺に言われるまでも無いとは思うが……お前の気持ちが本物なら、大事にしてやれ」


「……ええ、もちろんです」


「私もそれは賛成だ、自分を抑え込み過ぎても、それは自分にとっても相手にとっても、マイナスにしかならないからな」


エリスも似たような事を言いながら、グライムズの淹れたコーヒーを一口飲む。


俺はヘルメットを被り、暗視装置を付ける。

夜間に襲撃を掛ければいけると思っている賊どもが居れば、返り討ちだ。


===========================


02:00


交代まであと1時間、グライムズが淹れてくれたコーヒーも、すっかり冷めてしまった。

しかし冷めてしまった後も美味いコーヒーを淹れられるのも、また1つのテクニックだろう。


「ほれ、エリス」


「ん……あぁ、ありがとう」


うとうとと船を漕いでいたエリスにコーヒーを注いだカップを渡す。

やはり充分に睡眠をとっていたとは言え、この時間の哨戒と言うのはキツいものがある。

しかし、この時間帯というのは夜行性の魔物の動きが活発になるだけでなく、盗賊達にとって奇襲に絶好の時間帯なのだ。


暗視装置をつけて辺りを見回す、今の所、不審な影は無い。


エリスがカップのコーヒーを啜り、俺も冷めたコーヒーを飲む。

時間のたったコーヒーは酸味と雑味が混ざってしまうが、グライムズのコーヒーは酸味すら美味しさに変えてしまう。

流石に淹れたてには劣るものの、この技量と豆を見る目はグライムズの専売特許と言えるだろう。


尚、紅茶派の多いガーディアンでコーヒー派が勢いを増して来ているのも、彼の腕前の影響だろう。

エイミー率いる紅茶派とグライムズ率いるコーヒー派、この水面下の対決はグライディア王国に移る少し前から始まり、今でも静かに火花を散らしている。


「ランディも居るか?」


「あ、ありがとうございます。頂きます」


マガジンを抜いたM24 SWSのボルトハンドルをオープンにして、ライフルに異物が入っていないか確認していたランディにも声をかけた。


コーヒーの入っているポットからランディのステンレス製カップにコーヒーを注ぎ、ランディに渡すと、彼は礼を言って受け取り、飲み始めた。


俺も自分のカップにコーヒーを注ぎ、静かに飲む。

この時間、夜間の戦闘は無かった。


===========================


03:00


そろそろ次の奴らと交代だ、グライムズ程では無いが、一応俺もコーヒーを入れておいてやろう。


……と思ったが、次の夜間哨戒が紅茶派の筆頭であるエイミーだった事を思い出した。


……エイミーはどうするだろうか……飲まなそうだな……

しかし、選択肢は多い方が良いだろう。そう思いコーヒーも淹れておく。


「エリス、ランディ、交代の時間だ。次の奴を起こそう」


「ああ」


エリスとランディに声をかけ、次の哨戒担当を起こしに行く。

こっちは次はヒューバートとエイミー、それから狙撃分隊はマーカスか。

ヒューバートとエイミーは俺達と同じ馬車で寝ている。


「ヒューバート、次の夜間哨戒担当だ」


「……zzz」


……分かっては居たが、声をかけた程度では起きそうも無い。

揺すって起こそうと思ったが、エリスがエイミーの頬をツンツンと突いているのが見えた。


「エリス、何してんの?」


「いや……エイミーの寝顔、久し振りに見たと思ってさ……ほら、私のメイドだったし、従者としても優秀だったから、あんまり寝顔って見た事無いんだ」


なるほど、今までこういった"隙"が少なかった訳か……

エイミーが優秀な従者であると言うのは周知の事実だ。


「可愛いなぁ……優秀だから、エイミーが私と同じくらいの歳だって事を忘れそうだ……」


確かに、いつもの瀟洒な姿とは違った無防備な寝顔は可愛らしく、年相応の少女のそれだった。


「それは分かるな……でも、寝顔を見ていたいからって起こさないわけにもいかないぞ?」


「ふふっ、それもそうだな。エイミー、起きて。夜間哨戒の時間だ」


「んん……ふぁ……はっ!?」


頬を突かれ、エリスに声をかけられたエイミーがガバッと跳ね起きる。


「も、申し訳ありませんエリス様!寝過ごしてしまい……!」


「そんなに慌てなくても大丈夫だ、今丁度交代の時間だから。それに久し振りにエイミーの寝顔を見る事が出来て良かった……」


「あぅぅ……」


エイミーが少しだけ顔を赤らめる。


「ほれ、ヒューバートも起きろ、夜間哨戒だぞ」


「ん……くっ……ふぁぁぁ……」


ヒューバートは大きな欠伸をしながら伸び、目を覚ます。


「……おはようございます」


「おはよう、さぁ起きろ。哨戒の時間だ」


「……ヒロトさんは?」


「俺はこれから寝る」


「……俺が代わりに寝ておきますんで、哨戒やって貰えません?」


「ふざけんなよ、自分でやれ自分で」


俺は笑いながらそう言うと、ヒューバートも目を擦りながら笑い返す。


「冗談ですよ、さてと……」


ヒューバートは枕元にあるJPC2.0を身につけ、添い寝するように置いてあったM249の具合を確かめる。

エイミーも同じようにJPC2.0とヘルメットを身につけ、M249を持った。


「それじゃ、いってきます。おやすみなさい」


「おう、おやすみ」


ヒューバートと交代するように俺達は馬車に入る。

俺はJPC2.0とヘルメットを脱いで枕元に置い置き、M4を隣に置くと直ぐに寝転がる。


コーヒーを飲んだが、夜勤はやはり辛い。エリスも何か話しながらと言う余裕は無いようだ。


「おやすみ、エリス」


「ん……おやすみ、ヒロト」


俺はエリスにそう言って軽くキスをすると、2度目の眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ