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第89話 商隊護衛、前半

1日目

予定通りに事は進み、馬車の隊列は進んでいた。

ガーディアン製の車輪と車軸のおかげで従来よりも大きな馬車に大きな荷物を積み込む事が出来る様になり、サスペンションのおかげで乗り心地は比較にならないほど向上している。


街道からはガラガラと木の車輪が転がる音が消え、ゴムのタイヤが地面を踏むジャリジャリという音に代わっている。


俺達はそんな音を聞きながら、荷馬車に揺られていた。


バックパックの取り出し易い位置に入れていたGPS情報受信器(ガーミン)を取り出し、地図と照らし合わせて現在地を確認する。


既にベルム街を出た商隊は北へ向かっており、到着は2日後となる。

北の街に物資を運んだ後、帰りの商隊を護衛してベルム街に帰還すれば仕事は完了だ。


内容は、魔物や盗賊から商隊を守る事だ。

街の周辺はレムラス伯爵の兵士によって定期的に魔物の駆除がされているが、出る時は出る。


その時は、護衛である俺達の出番だ。俺達が銃火器を用いて、商隊に近づく敵を排除するまでだ。


「こちら1-1、現在商隊護衛中。ウェイポイントA(アルファ)を通過、行程に遅れ無し。オーバー」


俺は無線を本部に繋ぎ、状況を報告。

GPS情報受信器(ガーミン)と地図を照らし合わせた時、地図にマークしてあるウェイポイント毎に通過報告を行う。


この通信は前に上げた通信衛星を介して、車輌格納庫と航空機格納庫の間にある隊員待機室に設置されている発令所に送られる。


『了解』


そう返って来たのは健吾の声だった。

健吾は歩兵第1小隊長として俺達第1分隊の上位部隊の隊長を務め、完全治癒能力の持ち主として医務室の主任も兼ねている。


「今の所目立った外敵は無し、だが俺達の火力で太刀打ち出来なかった場合は救援を要請するので頼む、オーバー」


『分かってる、アパッチのパイロットも暇そうだ。オーバー』


「そいつは良い情報だ、そのまま暇で終わると良いな。通信を終了する、次のウェイポイントでまた話そう、オーバー」


『了解した、気を付けてな。アウト』


それを期に無線は途切れ、再び馬車が地面を踏む音が訪れた。


「なぁヒロト、思ったより暇だな……」


隣に座っているエリスが話し掛けて来る、エリスも同じ装備をして、今はヘルメットを脱いでいる。


エリスのM4A1は、AAC M4-2000減音器サウンド・サプレッサーを取り付け、EOTech(イオテック) EXPS-3ホロサイトとG33Magnifire(マグニファイア)ブースターを乗せている。

どちらかと言うと、特殊部隊が使っていそうな組み合わせで中距離と近距離の両方を対応しようとしているのだ。


「ああ、だが暇な方が良い。魔物や盗賊が出なくて平和って事だからな……」


「もちろんそんな事は分かってる……けどこうしてただ座って馬車に揺られるってのもな……」


エリスが言う"暇"は、恐らく"なすべき事が何もなく、ただ時間を持て余すだけ"で、その退屈さが苦痛なのだろう。


それは俺もさっきから感じていた事だ、最初こそ馬車に横座りしたまま銃を構えたり銃に乗せてあるACOG(エイコグ)を覗いたりしていたが、かなり前に飽きていた。


それもここは現代では無く異世界なのだ、退屈凌ぎになる物は圧倒的に少なく、先程から無線機でもチャンネルを変えてお喋りしている隊員もいる。


『こちら先頭班、グリッドさんが寝始めました』


「寝かしとけ、但し戦闘になったら叩き起こせよ」


『りょうかーい、でもこっちはかなり退屈です』


「頑張って3人とも寝ないようにしとけ」


クリスタから返ってきた気の抜けた返事にそう返し、無線は再び沈黙する。


俺の馬車は、俺とエリスの他に、エイミーとヒューバートの分隊支援火器(SAW)手組が乗っている。


聞き耳を立てると、エイミーとヒューバートは採用しているM249について話している。


「オープンフィールドにおける分隊支援火器の仕事は相手に火力を浴びせる事、2人以上居る時は、攻撃範囲をオーバーラップさせて効率よく敵を撃破していく事だ」


「あ、それ教練でもやりましたね……市街地では?」


「市街地の場合は取り回しの悪さと弾薬の消費量に注意する事、ただ敵に大火力を叩き込むツールがSAWって事だ。前進する時は前進するライフル兵を援護し、火力を集中する時は分隊支援火器手がメインの射撃を行う。互いにカバーし合うんだ」


流石は元グリーンベレー、教え方が上手い。

ヒューバートの言った通り、市街地では取り回しが悪い反面、低下しがちな火力を補う重要な役割を果たすのが分隊支援火器だ。


「なぁヒロト……私達、どうする?」


「どうする……って……そうだな……」


「今は恋人同士……だけど、いつかは結婚するだろ?ここなら親の邪魔も入らないし……」


「ああ……でも、ここでプロポーズするのか?そう言うのってもっとキッチリしたレストランとかで、ビシッと正装を決めてするもんなんじゃ……?」


俺の考えるプロポーズ観にエリスがクスッと笑う。


「なんだよ……」


「いや……ヒロトは真面目なんだな、と思ってさ。そんな真面目な所も大好きなんだけどな」


そう言ってエリスは俺の肩に頭を預ける、エリスの髪から漂う甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。

同じシャンプー使ってるのにこの匂いは何なんだろう……これが女の子の匂いか?


……いかんいかん、本題から外れるところだった。


まぁ、察してはいたが、エリスは俺と本気で結婚を考えているのだろう。

もちろん俺だって考えているが、俺なんかで本当に良いのだろうか?

俺レベルの人間なんてどこにでもいるし、言う程真面目でも優しくも無い。

本当にエリスが俺のどこに惹かれたか疑問になる様な感じだ。


「……今、"俺なんかの何処に惹かれたんだろう"って卑屈な事を考えてるだろ?」


……流石はエリス、そこまでお見通しか。

嘘を吐くのが嫌いな質なので正直に答える。


「……ああ……俺なんかの何処に……」


「私が好きになった人は……"なんか"って言葉で否定出来ない程……素敵な人だ……」


「……サンキュ、エリス」


俺はそう言って、隣に座る愛しい恋人の肩を抱く。


「……プロポーズは、色々落ち着くまで待って欲しい……我儘で本当に申し訳無いけど、エリスも、仲間達も、全員守れる位、組織を大きく、強くしたい。俺が始めた組織な訳だからな、全責任は俺にある。達成されるまでとは言わないけど、待ってて欲しい」


「……もちろん、いつまでも待ってるぞ、私は結構気が長いんだ……」


「……ありがとうな……」


エリスの幸せオーラが全開になる、マルチカムの迷彩服に身を包んで静かに笑うエリスは何だかいつもより可愛く思えた。


しかし、そんな雰囲気に水を差す用に無線にノイズが入る。


何事かと思い周囲を見回すと、商隊前方に位置する馬車から照明弾が打ち上がっていた。

続けて無線がクリアになり、クリスタの声がヘッドセットに飛び込んでくる。


『敵襲!ゴブリンの集団が左の茂みから接近!数は15〜20体!』


『ほらグリッド!起きろ!敵だ!』


続いてカイリーがグリッドを叩き起こす声が聞こえる、カイリーは第82空挺師団出身の"召喚者"、その迫力は本物だ。グリッドも飛び起きた事だろう。


俺達の間に流れていた甘い雰囲気も霧散して、状況を確認する。


馬車が停車し、前方と後方の馬車からクルセイダーズの面々が降車、茂みから飛び出して来たゴブリンの集団に向かっていく、もちろんキルア団長もサーベルを抜き放ち、敵に向かって猛然と突進する。


「止まるな!走り続けろ!」


前の馬車にそう叫ぶがナグロスさんの乗っている馬車はもっと前方にあり、声が届く訳もない。


そもそもこの世界の車輌戦闘______馬車を護衛する為の戦闘は、止まって行う物が主流なのだ。

ならば……と俺も腹を括る、「郷に入れば郷に従え」だ。

M4A1のチャージングハンドルを引いて離し、初弾装填。


「総員警戒態勢!クルセイダーズのメンバーを撃たない様に、誤射には細心の注意を払え!射撃開始、繰り返す、射撃開始!」


『了解』


『了解!』


『了解!』


後方の馬車は、微妙にキルゾーンから外れている、激戦が繰り広げられているのは前方の車列だ。


突如、茂みの中で爆発が起こり、茂みの中に居た残りのゴブリンがまとめて吹き飛ばされる。


カイリーがFN Mk13EGLMを発射したのだ、茂みに隠れていた弓矢やクロスボウを持ったゴブリンは纏めて始末される。


「な、何だ!?」


ゴブリンやキルア始めクルセイダーズの団員達は突然の爆発に驚いている様だが、ゴブリンが一足早く立ち直り、槍でキルアに襲いかかる。


だが、前方の車列から鈍く高い音が聞こえたと同時に、槍持ちのゴブリンが地面に崩れ落ちて2度と動かなくなる。

クリスタがSR-25で狙撃し、仕留め始めた。減音器サウンド・サプレッサーに抑制された銃声が鳴り響く度にゴブリンが糸が切れた操り人形(マリオネット)の様に地面に倒れていく。

その死体には、眉間を撃ち抜かれた様な痕があった。


3〜4体の小集団が迂回して別方向から車列前方に襲いかかるが、今度は別の音が響く。


同じく減音器サウンド・サプレッサーに減音された音だが、かなりの勢いで連続している。

グリッドが迫り来る小集団に対して、M240E6の掃射を始めたのだ。


パパパパパパッ!


鈍く抑えられた音が連続し、薬莢やベルトリンクが馬車に落ちる音の方が大きく聞こえそうだ。

減音器サウンド・サプレッサーを取り付けるだけで、銃声は30%〜45%は軽減されるそうだ。


人間より遥かに敏感な聴力を持つ馬にとって、銃声の煩さは暴走モノだろう。それを抑える為の減音器サウンド・サプレッサーだ。


副次的に、ヘッドセットをしなくても銃声が耳に響きにくいと言う効果もある。


ガーディアンの戦闘に戸惑うキルア団長以下クルセイダーズ、そんな彼らを尻目にドンドン数が減り、数の不利を悟ったのか後退し始めるゴブリンの集団。


「ちょっかいかけるとこうなるぞ……」


俺は馬車の上で膝撃ち(ニーリング)の姿勢を取ってM4A1を構え、セレクターはセミオートに。

距離は250m程、ACOGのレティクルを遠ざかるゴブリンの胸の辺りに合わせ、引き金を絞った。


バスッ!


死を乗せた弾丸は銃口から飛び出した時点で音速の3倍を超えており、4gのSS109/M855弾は真っ直ぐゴブリンの胴体を貫いた。


その隣を走るゴブリンにも照準を合わせる、今度は腹の辺りだ。


ガーディアンで最も狙撃が上手いのはランディだ。

順位にすれば、彼に次いでアンナ、クリスタ、カーンズと狙撃手が名を連ねる。

もちろん狙撃銃を用いての結果だが、では彼らに銃の扱いを教えたのは誰か?


______彼らに銃による狙撃を教えたのは、俺なんだよ。


もう一度引き金を引くと、5.56mm弾がゴブリンの膝を貫いた。

這って逃げようとするが、後方にいた馬車に乗っていたランディが狙撃で仕留めた様だ。


後ろの馬車でランディがM24 SWSカスタムのボルトハンドルを操作して.338Lapua Magの空薬莢を排出する。


「戦闘終了、弾薬をチェックしておけ」


『了解』


『了解』


俺もマガジンを外し、チャージングハンドルを引いて薬室(チャンバー)から初弾を抜く。


「お疲れ様、ヒロト。援護する暇も無かったな」


エリスが同じ様にライフルから初弾を抜きながら言う。


「あぁ、俺も2発しか撃ってない」


俺はそう言いながらエリスに軽くキスをした。


魔物との遭遇戦は僅か4分で終了した。

キルア団長以下クルセイダーズの団員達が戦闘の様子を見て引き攣った笑みを浮かべていたのは言うまでもない。


===========================


「その武器は本当に凄いな……」


「これがあるから俺達は強いんだ」


「1つ譲って欲しいよ」


「それは出来ない、俺達は武器商人じゃないんだ」


「ただの冗談さ……でも凄いと言うのは本心だ」


その日の夜、ガーディアンの隊員達はクルセイダーズのメンバーに質問攻めに遭っていた。

昼間の戦闘を……戦闘と言っていいのか疑問に思う程一方的な"殲滅"を目の当たりにし、「あの武器は何だ?」「どう言う訓練をすればあの様な戦い方が出来るのか」という事を矢継ぎ早に聞かれた。


もちろん、答えても問題が無いくらいの範囲で質問に答え、皆を驚かせた。


「弓矢やクロスボウより遠くまで届くぞ……」


「しかもよく当たる……」


「アレがガーディアンの飛び道具か……」


この異世界の飛び道具は、未だに弓矢やクロスボウが主流、良くて遠距離まで届く魔術である。

弓矢は一斉射撃で斜めに撃ち出すのが主な戦い方だし、クロスボウは多少水平射撃が可能とは言っても精度は悪く、何度も射撃を繰り返すのが普通だ。


しかも砂漠環境やジャングル、雪の多い環境ではクロスボウの木製銃床(ストック)が縮んだり歪んだりと変形してしまう。

その為、この世界の飛び道具は銃ほど精密でも無く威力も無く、魔術は素早く撃てない上に、魔力が扱える者なら魔力の流れを感じ取り攻撃が予測されてしまう。


その点銃は、精密も威力もあり、素早く撃てる上に魔力を一切使わないし、遠距離から近接戦闘まで力を発揮する事が出来る。

弾丸が尽きればただの長い鈍器となってしまうが、それは弓矢やクロスボウにも言える事だ。


威力のある魔術……例えば炎系魔術であればフレア・ジャベリン、氷系であればアイス・アロー等の魔術より威力こそ低いものの、無詠唱で致死性の攻撃を不意を突いて送り込む点では銃器が優れている。


威力が欲しければ、対戦車火器を持ち出せば良い話だ。


今は野営中で、馬車で円陣防御を構築して襲撃に備えている。

ガーディアンとクルセイダーズのメンバーは夜間組と就寝組に分かれ、夜間組はシフトを組んで夜間警戒に当たる。


夕食はナグロスさんが持って来た食材を使った、「護衛を頼んでいる差し入れだ」という事だ。

エイミーとエリス、それからクルセイダーズでも料理の腕に覚えのある団員達で工夫し、ポトフを作って食べた。


新鮮な食材から使っていくのは常識だ、そうでなければこの陽気で肉や野菜など簡単に腐ってしまう。


第2次大戦期のドイツ海軍の潜水艦Uボートでも、出港直後は新鮮な食材を積んでいるので先に使ってしまっていた様だ。今の潜水艦も同じなのだろうか……?


エリスとエイミーが一緒に作ったのだ、美味しくならない訳がない。

あっという間にポトフの鍋は空になってしまった。


「言っとくけど、俺達は武器の管理に関してはかなり厳しい。盗んだら即分かるし、その場で相応の処分をするからな?」


「ああ、分かってるよ」


分かっているとは思うが、キルアに一応釘を刺しておく。

人の羨望や嫉妬、「あいつが凄いものを持っている!それ欲しい!」という欲は、時に原動力となって人を突き動かす。

転生前にそう言った窃盗のニュースは何度も見た。


「それじゃ、俺は寝るか……」


「ああ、今日はお疲れだったね、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


キルアはこのまま夜間哨戒だったらしく、彼は持ち場に戻る。


俺はあてがわれた馬車に戻り、プレートキャリアとヘルメットを脱いでベルトを外し、弾薬箱が置いてある馬車の奥に置いてM4を立てかける。


馬車の中は大人2人が余裕で寝転がれるスペースがあり、俺達はそこに寝袋を敷いて休む事にしている。


かなり大荷物になってるな……今度から護衛に車輌を使うか……?


そんな事を思いながらブーツを脱いで寝転がるスペースの足元に置き、寝る準備を整えているとエリスが馬車に入って来た。


「すまない、馬の世話を頼んでいた」


エリスは手に持っていたヘルメットを置き、JPC2.0を脱ぎながらそう言う。

M4を立てかけてブーツを脱いで足元に置くと、敷いた寝袋を這って来る。


「俺も今来たところだ、夜間哨戒は?」


「1ターン目はグライムズとアイリーンだ、3時間ずつの交代になるな」


現在時刻は10時、俺とエリスの番は午前1時から4時まで2ターン目だ。

因みに狙撃手のランディも一緒だ。


俺とエリスはいつも一緒の部屋で寝ている、エリスは自分の部屋があるが、ほとんど俺の部屋に居て同棲している感じだ。

当然ながら寝るときも一緒なので、一緒に寝る事には抵抗は無いが、今回違うのは"他人の馬車、人の目がある"ところで2人でこうして寄り添って寝る事だ。


「……改まって考えると恥ずかしいな……これ……」


エリスが横になり、顔を赤くして俯きながら言う。


「ま、普段は俺達の部屋だし、周りを気にしなくていいからな……」


「そうだな……今日は抱きつくのは止めておこう……」


内心、少しだけ寂しかった。

俺はいつもエリスを抱き締めたまま寝ている、何故かと言うとエリスが抱きついて来るからだ。いつも凛々しいエリスが寝る時に抱き付いて来るのはギャップがあって威力3倍増しだ。


話を戻す、いつも抱きついて寝ているので、少しだけ寂しさを感じたが、それもすぐに払拭された。


エリスが手を繋いで来たからだ、しかも指を絡める、所謂"恋人繋ぎ"でだ。


「これなら……いいだろ?」


多分、今のエリスの顔は真っ赤になっているだろう。俺が顔が熱くなっているのだから。

俺はその手に答えるように握り返す。


たまにはこれも、いいかもしれない。


「それじゃエリス、おやすみ」


「ああ、おやすみ、ヒロト……」


エリスの柔らかい金髪を繋いでいない方の手で撫でながら言うと、ニコリと微笑みながらそう返す俺の愛しい恋人。


俺の意識は、そのまま微睡みに沈んでいった。


===========================


……ん……さん、……て……さい……


「ヒロトさん、起きて下さい、哨戒の時間です」


深夜1時の少し前、俺はグライムズに起こされた。

どうやら夜間哨戒のシフトが回って来た様だ。俺は大きな欠伸が出てしまう。


「ん……ああ、おはよう。もうそんな時間か」


「おはようございます、コーヒー淹れて起きましたから、飲んで下さい」


グライムズはコーヒーを淹れるのがとても上手い、ガーディアンで食後のコーヒーと言えば彼、と言う程だ。


「ありがとう、さて、起きるか……」


寝転がったままその場で軽く伸びをする、背骨がパキッと鳴った。


「それにしても……ヒロトさん、エリスさんと仲良く寝てますね……」


「ん……?」


俺はグライムズの視点を追うと、俺の右手に辿り着く。

そう言えば、エリスと手を繋いだまま寝たんだった。自然な事過ぎて頭から抜けていた。


「ああ、いいだろ?」


俺はニヤリと笑って軽く自慢してやる、グライムズはそれを見て笑った、彼も恐らく、アイリーンとやるだろう。


「あ、そうだグライムズ」


「はい、何でしょう?」


「一応言っとくが、ここではヤるなよ?」


「……それは、分かってますよ」


グライムズは1度、防音の無いテントでアイリーンと交わって俺にバレた事がある。


流石に今回はガーディアンだけじゃなくクルセイダーズも商人もいるので、自重する様釘を刺しておいた。


さて……夜間哨戒か。

俺はエリスの肩を揺らして起こす。「んん……」と可愛らしい寝言を上げているが、今は仕事中、心を鬼にしてエリスを起こす。


「エリス、起きて。夜間哨戒だ」


「ん……ひろ……と……もうそんな時間か、起きなきゃ……」


エリスは猫の様に伸びをして欠伸を片手で抑える。

俺はその様子を見ながら、プレートキャリアに手を掛けた。


「おはよう、エリス」


「おはよう、ヒロト」

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