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第83話 討伐完了のお知らせ

教育訓練が始まった頃、俺はMV-22Bオスプレイに乗っていた。

戦闘服では無く、制服でだ。

もちろん、全く丸腰では無く、ベルトから下げているホルスターにはP226が入っているし、俺以外の第1分隊の隊員はP90を携行している。


向かっているのは、公都バルランス。


ギルド組合には既にドラゴン討伐完了の申請を出しているが、討伐前に「証拠としてドラゴンの爪か牙を1つ持って来てくれ」と公爵閣下に言われていた。

言われた通り、解体作業中に折れてしまった牙を1本持って来た。

既にアポは取ってあり、各方面の領主を集めてくれた様だ。


「……暖かくなって来たな……」


「もう5月だからな……そろそろ夏の支度が必要だ」


そう、4月もそろそろ終わり、本格的に夏が近づいてきた。

日本で暮らして居た時ほど暑くは無いが、それでも最近の服装では暑いと感じる。

コンバットシャツもコンバットパンツも、そろそろ夏物を支給する頃だろう。


制服も夏物に変えるか……そんな事を思いながらオスプレイは公都バルランスの門近くの空き地に向かっていた。


パイロットのベネディクト・ウェイクマンがキャビンに呼び掛ける声が、ヘッドセットを通して聞こえる。


『もうすぐ到着します、全員、降りる準備を』


「了解」


そう聞いた俺達は、降下準備を始める。

メッセンジャーバッグにドラゴンのよ牙が入っている事を確認、拳銃に初弾を装填してデコッキングレバーを押し下げ、ホルスターに戻しておく。


他の隊員も、セカンダリ・ウェポンのP226のスライドを引いて初弾を装填、拳銃をホルスターに戻してからプライマリ・ウェポンのP90に初弾を装填する。


セカンダリから先に装填するのは、セカンダリへの装填を忘れないようにする為だ。

プライマリを先に装填してしまうと、「それで終わり」と言う意識が出てしまう。そのまま戦闘を行い、セカンダリに切り替えた時に弾が出ない!と言う事を防ぐ為に、セカンダリから先に装填する様に教育期間中に教え込む。


エンジンナセルは徐々に垂直に近い角度になっていき、固定翼モードから転換、回転翼モードへ移行する。

床下からも、着陸脚(ランディング・ギア)が下りる機械音が聞こえた。


着陸地点に到達、ホバリングしながら向きを変え、後部ランプを公都城壁へ向ける。

ロードマスターのヘザー・フェルトンが垂直着陸するMV-22Bのランプドアを開けると、外の景色が飛び込んで来た。相変わらず門の守衛をしている兵士が驚いてこちらを見ているのが見える。


ゆっくりと降下し、着陸脚(ランディング・ギア)が接地、浮遊感が消え、地面に足を降ろした安定感を感じる。


「行って来る!」


「お待ちしております!」


ヘザーにそう声をかける、流石にここで待っている訳にもいかないので一度基地に帰投し、帰りも迎えに来てくれる事になる。


俺達全員を下ろすと、オスプレイはハッチを閉じて再び離陸、帰投コースに入った。


対戦車火器に狙われる心配が無いので、パイロットも多少は気が楽だろう。

最も、パイロット達は経験の無い"魔術"という技術に警戒する必要はあるが……


そんな事を思いながら城門に向かって歩く。

通行証を見せると、警衛の兵士が声をかけて来た。


「ガーディアンですね?伺っております」


「えぇ、お願いします」


公爵閣下が事前に手回ししてくれたのか、門を警備する兵は快く門を開けてくれた。


どうやら俺は、公爵閣下から相当信頼されているらしい……嬉しいが、公都の警備体制に不安を覚える。

もし俺が爆発物を持ってるテロリストだったらどうするんだ……まぁこの世界には爆発物なんて物は無いんだろうけど、その分魔術が存在するからな……


そんな事を思いつつ苦笑しながら警衛の兵士に礼を言って、城門に入った。


===========================


公都の内部は前と変わらず平和だった。

様々な商店が並び、広場の噴水では子供が遊んでいる。

食事処からはいい匂いが漂い、昼前の身体の食欲を刺激してくる。

街中はあまりゴミが無く清潔そうで、人々の生活水準の高さが伺える。

そんな中を第1分隊は、8人を4人2つに分け、少し距離を置いて歩いている。


俺の横にはグライムズ、ヒューバート、ブラックバーンが。

もう1つの班は、エリス、エイミー、アイリーン、クレイといつものメンバーだ。


「変わらねぇな、ここは」


「そうですね……風俗街より、遥かに」


俺の独り言に応えるようにグライムズが言う、確かにあの街よりは遥かに良い。

表通りは客引きと店から漏れる酒と香水の匂い、少し裏路地に入ればスラムの様なゴロツキの巣窟、それに対して公都は公都であるが故に治安は良く、商売もきちんと公正な値段で行われている。


まぁ、あの街は所謂"必要悪"でもあるんだが……


街の中心に入り、公爵閣下の宮殿へ。もうこれで、宮殿入り口の兵士に会うのも4度目になる。


「ガーディアンだ」


「あぁ、ドラゴン討伐戦が終わった様だな?」


「あぁ、苦戦はしたがね」


そう言って苦笑しながら肩をすくめると、その兵士が首を横に振った。


「いやいや、ドラゴンを倒したんだ!謙遜する事は無い」


そう、こちらの世界では、ドラゴンを倒しただけで物凄い事なのだと言う。

こちらも少し手こずりはしたし、M2A3ブラッドレーが1輌廃車にはなったものの、アレを相手に作戦全体を通して戦死者が居なかったのは幸運も重なったとも言えるだろう。


一先ずそのドラゴン討伐完了の報告を行う為、公爵閣下を始め貴族の方々が集まる会議室に向かう。既に集まっているはずだ。


宮殿の撤退路を確保する様に俺はエリス達を配置した、会議室の出入り口にはエリスとエイミーを配置、何があってもすぐに対応出来る様に待機させる。


「……ふぅ……」


呼吸を整える。元々一般人、何度か機会があったとは言え、まだこう言う会合は緊張する。


「大丈夫だ、何があっても私達が守る」


エリスは碧い目で見据えて、俺にそう言葉を掛ける。

その言葉だけで、大分楽になった気がする、恋人のパワー凄い。


「ありがとう、行ってくる」


俺はエリスに礼を述べると、会議室のドアをノックした。


「失礼します!」


『入りたまえ』


ドアの向こうから声がする、俺はそのドアを開けて中に入った。

中には、既に前と同じ面子の貴族が勢揃いしていた、勿論、ノイマン伯爵も居る。


この間と同じ様に、貴族達の前に立ち、公爵閣下が話出す。


「皆聞いてくれ、民を苦しめていたドラゴンは、彼、ヒロト殿の手によって退治された。ヒロト殿、証の物を」


ワーギュランス公爵がそう言って俺に視線を投げると、俺は持って来ていた鞄からドラゴンの牙を出す。

レプリカなどでは無い、本物のドラゴンの牙だ。


と、ここでノイマン伯爵が手を挙げる、ワーギュランス公爵が発言を許可すると、口を開いた。


「本物かどうかを確認したい、見せてもらっても良いだろうか?」


「構いません、是非お手にとってご確認下さい」


ノータイムで返答する、それだけの自信があるからだ。

ノイマンもここまで来て公爵閣下の信頼を失う様なヘマはしないだろう、ここでこのドラゴンの牙が偽物だと嘘を吐いても、他の貴族や公爵閣下自身の手によって直ぐにバレ、貴族の位を降格させられかねない。信頼と貴族の肩書きを失う様な事は無いだろうと言える。


ノイマン伯爵を皮切りに、レムラス伯爵や他の貴族、ワーギュランス公爵も牙を手に取り、手をかざして魔力を放出、俺には分からないが、ドラゴンの鱗や牙、爪、骨はやはり炎魔術に反応するらしく、かざした手からはオレンジの光と火の粉が出ている。


確認が取れると「"あの"ドラゴンを他のギルドや騎士団の協力無しで倒したのか……」「若いのにやりおるな……」「ガーディアン、侮れんな」などと言う貴族のざわめきがちらほらと聞こえて来る。


「間違いなく、本物の様だ。依頼達成だな」


「ありがとうございます、公爵閣下」


公爵に依頼の契約書を渡すと、公爵が依頼達成の欄にサインをし、自分もサインをする。


「では、報酬を」


そう言うと公爵は近くに座っているメイドに声を掛ける、メイドは声を掛けられると何処かへ引っ込んだ。


「報酬は金貨2000枚と、退治したドラゴンの鱗の所有権、と言うのはどうかな?鱗を売り払えば、またかなりの金額になるだろう」


そう、ドラゴン1頭から採れる鱗の数はかなりのものだ、恐らくあれをギルド組合を通して武器屋に売れば、金貨5000枚以上にはなるだろう。日本円にして5000万円程だ。

ドラゴンだけで無く、普通の魔物でも換金出来る場所は換金するのが普通だ。


だが、俺達自身、ドラゴンの鱗を売るつもりは無い。

譲って貰ったのは"ドラゴンの鱗の所有権"なので、売り払わなければいけない訳では無く、鱗や牙、爪、骨なども有効活用させて貰う。


「ありがとうございます公爵、我々もドラゴン戦を通じて、良い経験になりましたし、今後の組織の改善点も見る事が出来ました」


「ふむ、それであればよかったよ」


ワーギュランス公爵はそう言って笑う、中年だがまだ若い公爵の表情には皺が刻まれていた。


頃合いを見て、2人のメイドがトランクを持って来る、トランクの大きさは、両手で持つダンボール程の大きさだが、木で出来た箱は革張りされ、軽い装飾が施されている。

彼女らがそれを開けると、金貨の入った袋が詰められていた。


造幣されたばかりの金貨は、造幣所のエンブレムの入った麻袋に20枚が詰まっている。

それが縦に5列、横に10列、2段に分かれて整列している。


1つを開けて見ると、くすみのない金色に輝く金貨が確かに詰まっていた。確かに本物の金貨だ。


「確認しました、今後とも、ガーディアンをよろしくお願い致します」


「うむ、また何かあったらよろしく頼むよ、今後ともよろしく」


公爵は微笑んだままそう返す。

俺は、敬礼を返し、失礼します。と言ってトランクを持ち上げる。


金貨が2000枚も入っている為、ズシリと重いが、鍛えている俺は持ち上げられない事も無い。


目的は達成した、俺はその満足感を噛み締めながら、会議室を後にした。


===========================


「エリス、ありがとう」


「あぁ、良いんだ。……って、凄いな」


「凄いですね、これだけの金貨……久し振りに見ました……」


出入り口のところに居たエリスとエイミーと合流、2人はその報酬に驚いていた。

エリスは元貴族、エイミーはその屋敷のメイド長だったので、2000枚もの金貨を見た事ない訳では無いのだろうが、ガーディアンになってからはこれだけの収入は久し振りだ。


宮殿を出るまでの間に宮殿内の撤退路を確保していた第1分隊を集合させ、そのまま宮殿を出た。


それにしても、どうするかこの大量の金貨……迎えのオスプレイが来るまでまだ時間があるし、一度解散して観光でもしようと思ったんだが……何しろ金貨2000枚の大荷物だ。


どこかに置いておき……と言うのは無理だし、これを持ち歩くのも目立つし邪魔過ぎる。

持てるとは言え、そろそろ指先が痺れてきた。


「うーん……まだオスプレイ来るまで時間あるけど……」


「そうだな……でも、そのトランクが邪魔だな……」


「そうなんだよ……これ何か良い案無いか?」


「ギルド組合の荷物預かり制度を使ったらどうだ?」


エリスの言葉に、そんな制度あったっけ?と思って首を傾げる。


「あぁ、大荷物を持った冒険者達が一時滞在する時に、ギルド組合でその荷物を一時的に預かる制度だ。冒険者は性質上、武器や食料を結構な量で持ち歩いてるから、街にいる時くらいはその大荷物を置いて、観光を楽しんでもらおうって事」


「成る程、じゃあそうしようか。皆聞いてくれ!」


俺は分隊員に呼びかけ、視線を集める。


「一時的に解散する、迎えのオスプレイが来るまでは解散、自由行動とする!休暇が少なかった分だ、楽しんでくれ」


事前に隊員達には、迎えのオスプレイが来るまでの数時間を自由散策とするという事を伝えていた。

この街にしか無い食事や娯楽、ここでしか買えないものもあるだろう。


「では各自解散!集合は1600だ!遅れても15分しか待てないぞ!」


「「「りょうかーい」」」


いつものキビキビとした返事とは一変、間延びしリラックスした了解の返答が返って来る。

厳し過ぎる訓練を行い実戦に備えるのも大切だが、こうして隊員たちに息抜きさせる事も重要だ。


返答を返した隊員は、何人かのグループを組んで街へ散って行く。


グライムズとアイリーン、ブラックバーンとクレイの2組4人はカップルで、ヒューバートとエイミーは一緒に街の人々に紛れていった。


「さて……俺達は先ずはギルド組合だな」


「あぁ、そうだな」


エリスは微笑みながら俺の手を引き、ギルド組合に歩いて行った。


この公都のギルド組合は公爵の宮殿から少しだけ離れており、建物の規模は今までのどの街よりも大きい。流石は公都。


いつもより遥かに広い組合の建物の入り口を潜り、中に入る。


普段はあまり目に止めなかったが、よく見れば「荷物預かり」と書かれたプレートを掲げているカウンターがある。

このシステムは初めて知ったな……


カウンターに座っている受付嬢に声を掛ける。


「すみません、荷物を預かって頂きたいのですが……」


「はい、畏まりました。荷物を預からせて頂きますね」


受付嬢はそう言って手元から木の札を出して来る、俺はその間にカウンターに荷物を置いた。


システムとしては、この木の札と引き換えに荷物を預かるタイプらしい。地球のコインロッカーとほぼ同じだ。


「差し支えなければ中身の方をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「あ、金貨です。2000枚ほど」


俺の言葉に受付嬢は硬直する、2000枚の金貨なんてそうそう受け取れるものでは無いだろう。


「えと……はい、き、金貨2000枚ですね?お、お預かり致します……銀貨1枚になります」


提示された金額を支払い、木の札を受け取る。

動揺はすぐに収まったようだ、この辺り、彼女らのプロ意識を感じる。


「こちら受け取りの際に引き換えにお持ち下さい」


「はい、ありがとうございます」


行ってらっしゃいませ、と送り出され、エリスの元へと向かう。


「お待たせ」


「そんなに待ってない、じゃ、行こうか」


「あぁ、行こう」


そう言って俺達は歩き出した。

公都バルランス観光のスタートである。

これより日常編が何本か続くので、筆の進みが遅くなります……日常編に弱い作者で申し訳ない……

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