第82話 ドラゴン戦を終えて
ドラゴンが地面を揺らしながら、地面に倒れ臥す。
16式機動戦闘車から放たれた1発のAPFSDSが眼球を貫通し、脳に到達して搔き回したのだろう。
人間が頭を撃たれれば死ぬ様に、ドラゴンも硬い鱗以外は生物であるが故に、基本的な構造は同じなのだ。
「撃ち方止め!撃ち方止め!」
俺達はカールグスタフM3に新たなHEAT751を装填し、後方を確認しつつジリジリとドラゴンに近寄っていく。
俺はドラゴンに近づき、生死確認をする。
左目はグチャグチャに潰れ、半開きになった口からは赤黒い血に混じって舌がでろっと無気力に出ている。
ところで、ドラゴンの生死確認ってどうすれば良いのだろうか……
試しにP90を潰れた眼球の残りに撃ち込んでみるが……
チュン!
かなり硬質な音を立てて弾かれ、眼球には命中した痕が付くだけだ。
「⁉︎……マジかよ……」
拳銃弾並みのサイズでありながらライフル弾並みの貫徹力を持つ5.7×28mm弾でも貫通不可能な眼球、良く当てられたな、16式機動戦闘車は……
しかし……これ位硬いとなれば、何か別の物に使えそうだ、ボディーアーマーとか、防弾ガラスとか、防弾ゴーグルとか……
俺はカールグスタフM3の砲口をピタリと眼球に添え、後方を確認、バックブラストが味方や自分に当たらないように気を付けて、引き金を引く。
ドォン!
爆音と共にカールグスタフM3を発射、距離を置かずに潰れた眼球にめり込んだHEAT751は頭部の反対側の鱗に命中して爆発、圧力によって右目が飛び出して血と共に砕けた脳が出て来る。
生臭いしだいぶグロい異様な光景だ……。
恐らく、流石のドラゴンもこれで完全に死んだだろう。
と言うか、魔物とは言えこの状況で生きていられる生物がいるとは思えない。
もし生きていたら追加でトドメを刺す必要があるが、どうやら大丈夫な様だ。
「……やった……」
隣でエリスが呟く様に言い、それを皮切りに歓声が溢れた。
今回作戦に参加した大多数は元騎士団のメンバーだ、この中にドラゴンに戦友を喰い殺された者も居るだろう。
図らずも仇を討った感じになるその興奮は、暫く冷めそうには無かった。
「さて……皆お疲れ様、基地に帰ろう」
「待ってくれ、エリス」
帰投を促したエリスに俺が待ったをかける。
何しろ、俺達が乗ってきたM2A3ブラッドレーが中破し、自走して帰るのは少々難しいだろう。
「エリス、本部に無線を繋いでくれ。"航空部隊、輸送ヘリの応援を要請する。ついでにスマホを持って来てくれ"とな」
「……あぁ、分かった」
エリスは俺の考えを読み取ったのか、ニヤリと笑って無線を本部に繋いだ。
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約45分後
今の所唯一のティルトローター輸送機であるMV-22Bオスプレイがロードマスターを乗せて到着した。
平原に着陸し、開けた後部ランプドアから降りてきたのは健吾だ。
「お待たせ、これで良いか?」
健吾はポケットから俺のスマホを取り出して手渡す、俺は礼を言って受け取った。
「サンキュー、良かった」
「気にするな。……しっかし、良くやったな……」
横たわるドラゴンの骸を見て健吾は呟くようにそう言う、健吾も偵察部隊と共にドラゴンと直接戦った身、ドラゴンの恐ろしさは身を以て知っている。
ぶっちゃけ、いくら現代兵器で武装しているとは言え、生身でドラゴンに挑むのは自殺行為だ。
16式機動戦闘車がなければ、勝つのはまず不可能だったであろう。
その点を考慮しつつ、今後の戦力構築をしていかなければならない。
「これから到着する輸送ヘリにドラゴンの死体を運ばせる。死体を解体してくれ」
「良いけど、何で死体を持って帰るんだ?」
健吾がそう問いかける、良い質問ですねぇ!と返したくなったが、そこは抑えて答える。
「この鱗、APFSDSが貫通しないんだ。もしかしたら、装甲車の増加装甲板として使えるかも」
「……なるほど、分かった」
そう言うと、健吾はロードマスター達の方に向かっていく。
さて、俺はこっちの仕事をしなきゃな。
ホームボタンを押してスマホの画面を起動させる。
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【レベルが上がりました】
Lv40
【戦車】M1A1エイブラムス
【戦車】90式戦車
【ロケット】M270 MLRS
【衛星】GPSナブスター衛星
【歩兵】大隊規模歩兵
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「ふむ……」
どうやら、ドラゴンを倒してレベルが上がったらしい。
ドラゴンクラスの強力な魔物を倒せば、レベルは一気に3も上がるのか……レベル上げにはぴったりだな。
だけど、ドラゴン級の魔物もそうそう居ないだろう。もし居たら俺のレベルの糧になって貰おう。
取り敢えず、俺が目的としてた第3世代主力戦車が召喚可能なレベルへと到達したので、事務科と人件費を相談した上で……って感じだな。
そんな事を思いながら、"召喚"をタップする。
今回召喚するのは特大型運搬車が2輌、自衛隊が持つ最大積載量を誇る超大型戦車輸送車両だ。
今回の作戦で損傷したM2A3は、来る時は自走でも来られたが、帰りにあの損傷で自走はかなり厳しい。
89式装甲戦闘車も、激しい戦闘を終えてここから自走して帰ると言うのは車輛が故障する原因になる。
元々、戦車やIFVの様な装軌式の車輛は陸路を長距離移動する場合、交通インフラが生きていればこう言った大型の輸送車輛や鉄道で運ばれるのだ。
いつもの様に特大型運搬車の召喚画面をタップ、目の前に光が集まり形になり、実体化して特大型運搬車になる。
そして運用にも人手が必要だ。
今回召喚したのは4人、4人共自衛官だ。
先頭の4人が敬礼し、右端の隊員が口を開く。
「初めまして、マスター。陸上自衛隊第7師団、第7後方支援連隊、第7輸送隊、田口 宏二等陸尉です。よろしくお願い致します」
「高岡大翔だ、よろしく頼む」
軽く自己紹介を交わし、早速で悪いが仕事を頼む。
「来て早々だが早速仕事で申し訳ない、89式装甲戦闘車とM2A3ブラッドレーを基地まで移送して欲しい。ブラッドレーは中破して自走は無理だろう、君達が頼りだ」
「了解、ですが……我々はM2A3ブラッドレーを輸送した事が無いので、積載に時間がかかるかもしれませんが……」
当然だ、自衛隊にM2A3ブラッドレーは配備されていない、その為、時間が掛かるのは当然だろう。
「あぁ、問題無い。頼んだ、作業に掛かってくれ」
「了解!」
田口二尉______ガーディアンの階級では中尉だが______は隊員を引き連れて特大型運搬車に走っていく。
通信を行いながら、89式装甲戦闘車とM2A3ブラッドレーを誘導し始めた。
一方の健吾達解体チーム、爆破解体を行なった形跡があるが、どうやら無理だったらしい。
炎魔術への耐性がある鱗だ、恐らく爆破解体はダメだったのだろう、ロードマスターや健吾、歩兵分隊の隊員達が鋸を使って解体を始めていた。
鋸の歯が浅くだが食い込み始めた所で、未だ解体が終わるのは時間がかかりそうだ……
俺はドラゴンの死体の解体を手伝うべく、健吾達と一緒に作業を始めた。
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結局機動部隊の半数を投入してドラゴンを解体、基地に配備されている輸送ヘリをフル活用して、ドラゴンの死体を全て搬入するまでに半日かかり、終わったのは日付が変わった午前4時ごろだった。
ドラゴンの血の匂いでゴブリンやコボルト等の魔物が引き寄せられ、銃撃するという一幕があったものの、負傷者も死者もなく作戦を終えられたのは良かったと言える。
損傷したM2A3ブラッドレーは外部電装系がやられ、直すより安上がりとして廃車になった。
廃車となったブラッドレーは、射撃訓練の標的になる。
愛車を喪ったランス達には、M2A3ブラッドレーの新車と、3輌の仲間をプレゼントした。
これでM2A3ブラッドレーは、4輌で1個小隊となる。
更に、89式装甲戦闘車も、3輌を足して小隊を編成、部隊の機械化が進んでいく。
ただ問題は……
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「載せる歩兵が居ない?」
そう相談して来たのは、89式装甲戦闘車1号車の車長、荻野 博之一等陸尉と、M2A3ブラッドレー1号車の車長、ランス・トンプソン中尉だ。
因みに階級は先も述べた様に、"一等陸尉"はガーディアンでは"大尉"となる。
「えぇ、自分は自衛隊でも、第11普通科連隊でした」
「IFVは乗せる歩兵が居なければ、戦車を援護する"歩戦共闘"が出来ません」
"歩戦共闘"とは、戦車戦闘の際に、歩兵と戦車が共に行動すると言う、現代戦車戦の教科書にも出ていそうな程重要なドクトリンである。
陸戦の王者たる戦車は装甲が厚く主砲による攻撃力が高いが、市街地では大きく重く、小回りも視界も効かない。
そこで歩兵戦闘車から降車した歩兵が、戦車の目となり、敵の対戦車兵器を潰していく。
このような歩兵の事を"機械化歩兵"と言う。
戦車に随伴して戦車の脅威となる存在を排除し、戦車は歩兵の盾となって進み、場合によっては歩兵の要請に応じて即砲撃を叩き込む矛となる。
それこそが"歩戦共闘"で、その"歩"となる機械化歩兵を運ぶのが、歩兵戦闘車となるのだ。
その機械化歩兵が居なければ、歩兵戦闘車は余り役には立たない。
89式装甲戦闘車もM2A3ブラッドレーも、改修によって8人の歩兵が搭乗可能となっている。
現在編成している歩兵は小隊、1個分隊は8人で、4個分隊と小隊本部で1個小隊を編成している。
配備している歩兵戦闘車は8輌、89式装甲戦闘車4輌と、M2A3ブラッドレー4輌だ。
歩兵全員が歩兵戦闘車に搭乗したとしても、4輌は余る。
折角ならフル活用したいところだが……いかんせん歩兵の数が足りない。
俺達は訓練されているので機械化歩兵の訓練を受ければ、歩兵戦闘車に乗る事が出来る機械化歩兵になれるが……
「……あっ」
「どうしましたか?」
何かを思い出し、上げた声に食いついてくるランス。
「歩兵の数なら、どうにかなるかもしれないぞ?」
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次の日
俺は今、講義室の教壇に立っている。
目の前には、クロウ・ラッツェルを始めとするかなりの人数が、男女問わず座っている。
時系列がおかしくなりそうだが、荻野とランスから相談を受ける前、ランス達数人が執務室に来た。
『あんな兵器初めて見た、あんなものがこの世界に存在するのか⁉︎
『ドラゴンとの戦い見事だった、ドラゴン相手にあの少数で挑んで死者が出ないのは驚いた』
『自分達もガーディアンの様に強くなりたい!』
『一緒に戦わせてくれ、ガーディアンに入隊したい』
……要約すると、あの村をドラゴンから救ったガーディアンに入隊したい、という事だった。
ドラゴンとの遭遇戦の際、ガーディアンの戦闘はほぼ全住民に目撃されている。
特に自警団は町を守っていた手前、守れなかったという後悔が強いらしい。
その意志をガーディアンで継ぎたい、そう思っている者が多いと言う。
「ガーディアンは任務によっては、町の人達とは全く関係の無い戦いをするかもしれない。それで命を落とすかもしれない。その覚悟はあるか?」
ガーディアンに志願した70人の若者を前に、俺はそう言い放つ。
年齢は下は15歳、1番上は28歳と様々だ。
実際、ガーディアンは"自衛の為の組織"という側面もある。
だが、先の麻薬カルテル殲滅戦やアーケロン殲滅戦など、直接自衛やベルム街の住民とは関係の無い戦いを行う事もある。
もしかしたら「町の人の為」と思って入隊しても、全く関係の無い戦いで戦死する可能性もあるのだ、彼らにはそれを自覚し、その覚悟を決めて貰わないといけない。
「ガーディアンは、正義の味方じゃ無いが、俺達が思う"正義"に則って行動し、時に戦う。その戦いで命を落とすかもしれない、その覚悟がある者は、入隊を許可する。入隊を希望する者は昼食を挟んで3時間後にここに再び集合せよ」
以上、と言って切り上げ、俺は講義室を出た。
そして3時間後、数えてみたら最初の人数から2人程減っていた。
「お前達のその覚悟は本物と見た。では、入隊の為に行う入隊訓練の説明を行う。この訓練を突破出来た者だけが、ガーディアンの"戦士"として戦う事が出来ると言う事を覚えておいてくれ」
そう前置きをして、俺は入隊訓練の内容を説明する。
俺がアレンジを加えた米国海兵隊式の13週間の訓練が、68人の隊員達を一人前に育てる為に始まった。