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第81話 ドラゴンとの死闘の果てに

「ブラッドレーが殺られた!」


誰かが叫んだ、誰が叫んだかは分からない。

M2A3ブラッドレーは、アメリカ軍が誇る最強のIFVだ。ドラゴンのブレス程度でやられる訳が無いと思っていたが、現実に今、ブラッドレーは炎に包まれている。


ここは現代世界では無く、異世界だ。そこを盛り込んでおくべきだったと後悔した。

不測の事態は、通常より多く設定しておくべきだった。


ドラゴンはブラッドレーに炎を吹きかけ続け、姿をハッキリと確認出来ない。


暫くブラッドレーにブレスを吹きかけていたドラゴンは、動かなくなったブラッドレーに飽きたのか、こちらに向き直る。

まるで、次は貴様らだとでも言いたげに迫ってくる、どうやら次の獲物は89式装甲戦闘車のようだ。


「マズっ……!89FVを援護しろ!」


『LAV隊、TOWの再装填に入ります!』


LAV-ATの部隊がミサイルの再装填中、16式機動戦闘車は丘を迂回している為、到着が遅れる。


89FVもやられる


そう思った直後、聞き慣れた射撃音が聞こえた。


2発のTOW2B対戦車ミサイルが、ドラゴンの持つ皮膜のような羽を突き破ったのだ。


一瞬混乱し、驚く。


「今のは誰が撃った⁉︎」


『こちらAT、各車装填完了まであと少し!』


『こちらタロン21、到着予定時刻(ETA)は2分後だ』


LAV-ATでもアパッチでもない、そもそもアパッチに搭載されているのはTOWでは無く、ヘルファイアだ。


となると……


『こちらブラッドレー!攻撃を受けた!射撃指揮装置一部破損!機関砲破損!通信系も一部破損!動力・駆動系は損傷なし!乗員は全員無事です!』


M2A3ブラッドレーが、生きていた。

やはり冷戦期、核兵器の使用状況下でも活動出来るように設計された戦闘車両だけはある。


では、さっきの爆発は何だったのか、少し考えたが、答えはすぐに出た。

炎の中から姿を現したM2A3ブラッドレーから、爆発反応装甲(リアクティブアーマー)が消え去ってしまっていたからだ。


爆発反応装甲(リアクティブアーマー)


要するに、爆薬で出来た装甲板である。砲弾が命中した際に、この爆発反応装甲(リアクティブアーマー)の中の爆薬が爆発して、砲弾の威力を減衰させると言うものだ。

実際にはExplosive(エクスプロッシブ) Reactive(リアクティブ) Armor(アーマー)と呼ばれ、ERAと略される。


リアクティブ・アーマーと言うのは、単純に反応装甲の事だが、一般にはリアクティブアーマー = 爆発反応装甲として浸透している。


ブレスで熱せられた爆発反応装甲(リアクティブアーマー)が爆発して、あの爆音を鳴らしていたと言う訳か。


俺は殺やれたと思った時、冷や汗をかいたが、乗員全員無事の知らせを聞いて安堵し、ブラッドレーに通信を繋ぐ。


「無事で良かった、こっちも助かったよ、後退しろ」


『了解、後退する!』


機関砲がひしゃげ、先程の攻撃でミサイルを撃ち尽くしたM2A3ブラッドレーが履帯を唸らせて後退する。


エンジンも相当無理をして動いているようで雑音が混ざる。


皮膜のような翼を突き破られて怒ったドラゴンがM2A3ブラッドレーを追撃しようとするが、そうはさせない。


「ブラッドレーの後退を援護する!撃ち方用意!」


全員がカールグスタフM3を構える、盛大にバックブラストが出る為、後方はしっかり確認。


狙うのは、頭、もしくは先程の攻撃で、HEAT弾で破れると知った翼だ。


「撃て!」


ドン!


HEAT751が、210m/sの速さで発射される。

この砲弾はロケットアシスト砲弾である為、途中でブースターに点火し、340m/sまで加速すると、ドラゴンの翼や顔面に命中した。

翼は砲弾の爆発や破片を受けて引き裂かれ、顔面は鱗にHEAT弾の効果は散らされてしまったものの、確実にダメージは入った。


特にクレイは、特異魔術を使って背負った4本のうち2本を肩へと回し、もう2本を脇腹の方から回し、更には気を引くためにP90をフルオートで撃ちながらカールグスタフM3を射撃していた。


うん、ねぇそれ何でハ○マットフルバースト?


もうそれで青い翼を展開してたら完全にフ○ーダムだよねって感じでカールグスタフM3を叩き込んでいた。


流石に4連続でカールグスタフを叩き込まれて、流石のドラゴンもたじろいだのか、こちらを見据えるが、ドラゴンも即座に反撃に出た。


尻尾を地面に叩きつけたり、爪で地面を引っ掻いたりで攻撃して来た。


しかし、事前情報でその攻撃を予測していたので、余裕を持って躱す。


バッ!バッ!バッ!


89式装甲戦闘車も援護して来た。

自衛官がオペレータとして乗り込んでいるので、車輌・人員共に実践は初めてだが、富士総合火力演習で見せてくれた練度は、異世界と言う実戦でも存分に発揮された。


そして、此処なら尚、狭い日本国内で射程の制約を受ける事なく、実弾を撃てるのだ。


「村田!撃ち続けろ!」


「了解!」


車長の荻野(おぎの) 博之(ひろゆき)が吼え、砲手の村田(むらた) 正隆(まさたか)が応える。


操縦手の楽間(らくま) 圭吾(けいご)はバイクの様な操縦装置で89式装甲戦闘車を走らせてブレスを右へ左へと躱してゆく。


「撃て!」


号令と共に、エリコン90口径35mm機関砲KDEから徹甲弾が撃ち出され、ドラゴンの皮膜の様な翼をズタボロに引き裂いていく。


羽であれば貫通する。


そう確信を得た俺達は、攻撃を更に劇化させる。


俺達歩兵がカールグスタフM3にHEAT751を再装填、再び発車する。次は頭に向けて集中砲火だ。

クレイが1人で4発撃てるから、火力は上がっている。


そして離脱する俺達を援護する様に今度は89式装甲戦闘車が射撃する。

しかも機関砲だけでなく、砲塔脇のランチャーから79式対舟艇対戦車誘導弾を発射した。


200m/sのミサイルは砲塔脇のランチャーを飛び出して、真っ直ぐにドラゴンの頭に突っ込んだ。


これは効いたのか、ドラゴンが呻き声を上げて後ずさる。


そこへ、追い立てる様にTOW2B対戦車ミサイルの再装填が終わったLAV-ATがミサイルを発射して牽制する。


対戦車ミサイルの連続攻撃に驚いたのか飛び上がろうとするが、無反動砲と機関砲、対戦車ミサイルの攻撃により皮膜の様な翼はボロボロにされている為、羽ばたいても上手く飛ぶことが出来なかった。


そして、ドラゴンの背後から新たな砂埃が舞い上がる。


『待たせて済まない!16MCV、攻撃進入する!』


『こちらタロン21、攻撃を開始する!』


「了解!これより歩兵部隊は退避、後退を開始する!」


今回の作戦の要が、ようやく到着した。


===========================


「こちら16(ヒトロク) 1号車!全車輌、徹甲装填!」


「了解!」


16式機動戦闘車の車長、大崎誠がそう叫ぶ。

応えたのは装填手の葉山(はやま) 大志(たいし)、バスル式弾薬庫から先端の尖ったAPFSDSを取り出し、装填、砲尾を閉鎖する。


「装填!」


目的は、ドラゴンの鱗にAPFSDSが通用するかを試す事だ。

作戦の要はHESH(粘着榴弾)だが、もしAPFSDSが通用したら、そちらも併用する腹づもりだ。


「しっかり狙えよ!」


「了解!」


砲手席に座る砲手の楠木(くすのき) 麻衣(まい)に声を掛ける、彼女は女性自衛官だ。


16式機動戦闘車のFCSは10式戦車とほぼ同じ物を使用している為、C4ISRを使ったネットワーク戦闘や、レーザー照準による高い精度での砲撃も可能になっている。


砲塔旋回、左手60度にドラゴンの背中が見える。

既にヒロトさん達歩兵部隊の退避も確認した。


『こちらタロン21、目標を確認、射撃を開始する』


上空ではローター音、ペリスコープで確認すると、AH-64Dが到着した。

確かパイロットは……モーガン・ディーレイだったか。


太鼓を連打する様な音を立てて、M230 30mmチェーンガンをドラゴンの関節部分を狙って射撃。


続いてAH-64D(アパッチ)は、AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルを発射、これもやはり狙うのは関節部分だ。

ドラゴンは関節に命中したミサイルが効いたのか、苦痛を訴えるかの様に吼える。


2機のAH-64D(アパッチ)が連携してドラゴンに射撃、休む暇を与えない。


ドラゴンも負けじとAH-64D(アパッチ)に火炎放射を吐くが、200km/h近い速度で常に飛行している攻撃ヘリなのだ、ドラゴンが照準して炎を吹くその射線には、既にヘリは存在しない。


炎を吐いたまま頭を振り回して何とか命中させようとするが、AH-64D(アパッチ)は持ち前の機動力を生かして軽々と躱す。


こちらも負けてはいられない、ヘリにばかり戦果を取られてたまるか。


「1小隊、弾種、徹甲!小隊集中行進射、てぃっ!」


号令を下す、楠木が引き金を引いた。


ズドン!


LAV-25の機関砲や対戦車ミサイル、無反動砲とは比べものにならない轟音。反動によって車体が大きく揺れる。


流石に強力な砲安定装置があるとは言え、約26tの重量でフル規格の105mmライフル砲の反動を受け止め切ると言うのはかなりの反動を伴う。


1600m/sの速さで砲身を飛び出したAPFSDSは装弾筒(サボット)を空中で分離させ、一直線にドラゴンの背中に向かっていった。


そして______ダーツの矢の様な砲弾が鱗に突き立てられる。






鈍い音を立ててAPFSDSは鱗にめり込んだが、貫通まではいかなかった。


グルルォォォァァアアアア!


ドラゴンが凄まじい雄叫びを上げて振り向く、こちらの存在に気付いた様だ。


「次弾、粘着!」


「了解!」


葉山はエキストラクターを作動させて105mm砲弾の巨大な薬莢を排出、16式機動戦闘車の使う砲弾は、第3世代MBT(主力戦車)で使われる様な焼尽(しょうじん)薬莢では無く、金属薬莢式だ。


空薬莢を薬莢受けに入れた葉山は、弾薬庫から先の丸まった砲弾を取り出して装填する。


本作戦のメインであるHESH(粘着榴弾)だ。


「装填!」


葉山がHESH(粘着榴弾)を装填して砲尾の閉鎖機を閉じる。

照準する楠木が狙うのは、ドラゴンの腹の部分、人間で言えば鳩尾だ。


「小隊集中、てぃっ!」


再び号令を下す。

C4ISRを活用し、1号車のトリガーにリンクさせた砲撃は一斉にドラゴンの腹部を叩いた。


HESH(粘着榴弾)は初速こそAPFSDSに劣るものの、正確に腹部に命中。

プラスチック製の外殻を押しのける様に柔らかい炸薬が腹部に広がり、信管が炸薬を炸裂させる。


粘着榴弾が爆発した衝撃はドラゴンの体内に確実にダメージを入れた。

APFSDSの貫通を防いだ鱗の体内側が剥離飛散し、ドラゴンの内臓を傷付けていく。


ドラゴンが初めて、苦しそうな呻き声を上げた。

人間で言えば、鳩尾を思い切り殴られた様なものだろう。


「次弾同じ!全車、左へ!」


葉山が再び弾薬庫からHESH(粘着榴弾)を取り出し、装填。

同時に操縦手______1号車の操縦手は森田(もりた) 啓介(けいすけ)だ______が、左へ車輌を回頭させ、ドラゴンに向かって突進していく。

勿論砲口はピタリとドラゴンに向けられているので、回頭と同時に砲塔も回転する。


次に狙うのは関節だ。


「小隊集中、てぃっ!」


再びあの反動と轟音、砲口からはHESH(粘着榴弾)と盛大な発砲炎(マズルフラッシュ)、一拍遅れて排煙逆流防止装置(エバキュエーター)に抑えられていた白い煙がぽっと出る。


再び命中した砲弾は、狙い通り脚の関節に命中、ドラゴンが崩れ落ちて地面に伏せかける。


「装填!」


既に葉山はエキストラクターで薬莢を排出し、新たなHESH(粘着榴弾)を装填している。


「頭を狙え!」


「了解!」


楠木に狙いを変更する様に命じる、今度は頭だ。

パネルを通して車長用のサイトから標的に狙いを定める楠木、戦車なら何度も想定した交戦をしていたが、ドラゴンは初めてだし、こちらの世界に呼び出されて早々にドラゴンというボスクラスの敵と対峙する事に戸惑いを覚えたが、ゴジラの時代から怪獣退治は自衛隊の特権だ。


「小隊右へ!続いて撃て!」


森田がハンドル切ると同時に、楠木が引き金を引く。


ドン!


大きな音と共に車体が反動で揺れ、105mmライフル砲からHESH(粘着榴弾)が飛び出した。


4発のHESH(粘着榴弾)がドラゴンの頭に当然の様に命中、爆発してドラゴンの頭を揺らす。


グルルル……ガァァ……


流石のドラゴンも脳震盪を起こしたのか、ふらりとよろめいて動きが止まる。

もう1発HESH(粘着榴弾)を装填しようと、葉山が弾薬庫に手を掛けた時、待ったが入った。


「待って!葉山!徹甲を!」


「は?」


止めたのは楠木だ、そこへ大崎が加わる。


「徹甲を装填してくれ、楠木がやってみる」


「眼球なら、鱗よりも柔らかいはずです」


どうやら、動きが止まっている今の内に、眼球を射抜いて仕留めるらしい。

眼球の直ぐ後ろには何がある?______そう、脳だ。


「……了解!」


考えを読み取った葉山は、翼安定装弾筒付徹甲弾(APFSDS)を装填。


走り続ける他の車輌から1度離脱、他の3輌は頭に向けて走りながらHESH(粘着榴弾)を撃ちまくり、当たり前の様に命中させていく。


「……停止!」


停止命令を受けた操縦手の森田がブレーキを踏み、16式機動戦闘車を停車させる。


車体が大きく揺れ、慣性の法則で弾き飛ばされそうになるのをなんとか堪えて持ち場を守る。

楠木が狙うのは、ドラゴンの眼球だ。


約26tの車体の揺れが止まる。______止まった。


「撃て!」


「っ!」


ズドァン!


砲声が今までよりも響いた気がした。

約1600m/sで砲身を飛び出したAPFSDS(翼安定装弾筒付徹甲弾)は、空中で装弾筒(サボット)を脱ぎ捨ててドラゴンに向かって直線を引いていく。


そして、ダーツの矢が中心に命中する様に、ドラゴンの左眼に突き刺さった。


グルァ⁉︎


短く悲鳴を上げたドラゴンは口から炎では無く赤黒い血を吹き出し、まるで人がヘッドショットを喰らったかの様に頭を揺らし、地面に倒れ伏した。

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